魚人島編
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夢主視点
「で?」
「苦労して遠出してきて帰ってきたのに、『ただいま』の一言も貰えねぇのは辛いです」
「ペンちゃんが好き勝手に出て行ったんだからあんまり言う気にはなれないねえ」
煙草へ火を点け、紫煙を吐き出したバンダナの前へ正座させられ数分。
第八の炎でゾウへ戻ってきて、外套とランタンを隠してバンダナ達の元へ姿を見せた矢先の正座というのは、自分のせいだと分かっていても何とも言い難い気分になる。
「オレは『死告シャイタン』がどんなのか噂しか知らねえんだけどさ。魚人島にわざわざ行くような理由があったのかい?」
「……魚人島でちょっと騒動があって、あそこへ昔から保存されている船が壊されかけたんです。あの船が修理不可能になったらちょっと困るので、具合を見に行ってきたんです」
「で?」
「全壊ではなかったので、魚人島の国王に注意喚起だけしてきました」
「何処から突っ込めばいいんだい?」
「突っ込むとこ無ぇです」
シルビとしては不在を誤魔化してもらっていたこと以外に文句を言われる筋合いはないと思う。『死告シャイタン』としての行動はハートのクルーである『ペンギン』とは違うものだし、言い方は悪いがバンダナは『ペンギン』の仲間であって『死告シャイタン』の仲間ではない。
数分とはいえ正座しているのも疲れたので立ち上がる。説教しても無駄だと悟ったのかため息を吐いたバンダナが、煙草を指で摘んで頭のヘアバンドの位置を直した。
「止める理由も止める方法も無いから何も言わないでおくがね、船長が戻ってきたら話すよ」
「怒られると思いますぅ?」
「怒るだろうね」
それはそれで嫌だ。
「ペンちゃんがいないのを誤魔化すのも大変だったよ」
「何かありましたか?」
「……ベポやミンク族の奴さん達が、何もない方向をじっと見つめてた」
「はいぃ?」
思わず変な声が出てしまう程度には、突拍子のない話だった。バンダナは煙草をくわえて遠い眼をしている。
「猫や犬とかがさ、時々何もない場所を見つめてたり吠えたりするだろ? そんな感じだったよ」
訳が分からない。訳が分からないがとりあえずそれ以外の懸念事項は無かったと思っていいのだろう。
バンダナは犬や猫のようにと例えたが、動物が何もない場所を見つめるなどの行動を取るのは別に珍しいことではない。大抵が人間には聞こえない音域の音に耳を澄ましているとか、人間なら気にしないものを気にして見つめているとかそういう理由がある。
端から、それも種族の違いもある状況でそれを目撃すれば、なるほど確かに不気味かも知れないが。
「別にベポは幽霊見えるなんてことは無かったと思いますけど」
「同族にあって野生の勘が蘇ったとか」
「とりあえず会いに行っていいですかぁ?」
煙草を吸い終えたバンダナと一緒に、くじらの森内にあるハートの海賊団の野営地へ戻ると、来ていたらしいミンク族達やベポが確かに一点を見つめていた。その視線の先を追って確かめて、シルビは頭を抱えたくなる。
「な? ペンちゃんが出掛けてからずっとあんな感じなんだよ」
「……あー、えーと。分かりました」
バンダナが傍にいなかったら、というか誰にも見られていなかったら確実に頭を抱えていた。
ベポ達の視線の先には、ロシナンテが座っている。
ロシナンテは船長と関わりのある、十三年ほど前に死んだと思われる幽霊だ。シルビとも浅くはあるが縁があるので、船長が船を降りて別行動する前からシルビの周りをうろちょろしており、ゾウへ来てからもシルビ達と一緒に行動していたのである。
とはいえ船の上にいた頃にはシルビ以外には見えなかったし、ベポだって彼のことを今のように関知していなかった。シルビにだけ視認出来る上、シルビ以外の者がいる場所ではシルビへ触れることも出来なかった幽霊はしかし、何故か今はミンク族へその気配を感じられているようである。
関知されているといっても、シルビ以外にはやはり見えている訳ではなく、ミンク族も何か違和感を覚えているだけのようだった。
シルビが戻ってきたことに気付いたらしいワカメとイルカが駆け寄ってくるのに、出来るだけ平常心を装って軽く手を挙げる。
「何処行ってたんだよペンギン」
「ちょっとなぁ。……ベポ達のあれは」
「もうずっとだよ。なんかちょっと怖いよね」
「怖ぇって言うか……うん。どうにかしてくる」
動物が一斉に同じ方向を見やる動作とかじっと同じ方向を見つめているのが怖いのか、その方向が何もないということが怖いのか。シルビとしては前者だがハートの皆は後者だろう。しかもその動物の中に自分達の仲間が居れば尚更か。
ベポ達ではなくロシナンテへ近付いていきながら、魚人島へ行く前はこれほどではなかったのにと考える。もしかしたら長いことこの世へ留まりすぎて、そろそろ悪霊化でもしてきているのか。
悪霊になる前にシルビの背後霊になる方が早い気もする。
地面から張り出した樹の根へ寄りかかるように座って、幽霊のくせに呑気に寝ているロシナンテを見下ろす。それから地面の土をぶつけるように蹴り飛ばすと、ロシナンテが驚いて目を覚まし不思議そうにシルビを見た。
立ち上がったロシナンテに、ミンク族達の視線が一斉に外される。
「あれ、ペンギンいつ戻ってきたの?」
「さっきだぁ。ベポ、何見てたんだぁ?」
「見てた訳じゃないけど、何か気になってただけだよ」
「……オレさっきまでベポ達が怖かったけど、今はペンギンの方が怖いわ」
ワカメの発言は釈然としないが、もし次に遠出することがあったらロシナンテも連れて行った方がいいかも知れない。
「で?」
「苦労して遠出してきて帰ってきたのに、『ただいま』の一言も貰えねぇのは辛いです」
「ペンちゃんが好き勝手に出て行ったんだからあんまり言う気にはなれないねえ」
煙草へ火を点け、紫煙を吐き出したバンダナの前へ正座させられ数分。
第八の炎でゾウへ戻ってきて、外套とランタンを隠してバンダナ達の元へ姿を見せた矢先の正座というのは、自分のせいだと分かっていても何とも言い難い気分になる。
「オレは『死告シャイタン』がどんなのか噂しか知らねえんだけどさ。魚人島にわざわざ行くような理由があったのかい?」
「……魚人島でちょっと騒動があって、あそこへ昔から保存されている船が壊されかけたんです。あの船が修理不可能になったらちょっと困るので、具合を見に行ってきたんです」
「で?」
「全壊ではなかったので、魚人島の国王に注意喚起だけしてきました」
「何処から突っ込めばいいんだい?」
「突っ込むとこ無ぇです」
シルビとしては不在を誤魔化してもらっていたこと以外に文句を言われる筋合いはないと思う。『死告シャイタン』としての行動はハートのクルーである『ペンギン』とは違うものだし、言い方は悪いがバンダナは『ペンギン』の仲間であって『死告シャイタン』の仲間ではない。
数分とはいえ正座しているのも疲れたので立ち上がる。説教しても無駄だと悟ったのかため息を吐いたバンダナが、煙草を指で摘んで頭のヘアバンドの位置を直した。
「止める理由も止める方法も無いから何も言わないでおくがね、船長が戻ってきたら話すよ」
「怒られると思いますぅ?」
「怒るだろうね」
それはそれで嫌だ。
「ペンちゃんがいないのを誤魔化すのも大変だったよ」
「何かありましたか?」
「……ベポやミンク族の奴さん達が、何もない方向をじっと見つめてた」
「はいぃ?」
思わず変な声が出てしまう程度には、突拍子のない話だった。バンダナは煙草をくわえて遠い眼をしている。
「猫や犬とかがさ、時々何もない場所を見つめてたり吠えたりするだろ? そんな感じだったよ」
訳が分からない。訳が分からないがとりあえずそれ以外の懸念事項は無かったと思っていいのだろう。
バンダナは犬や猫のようにと例えたが、動物が何もない場所を見つめるなどの行動を取るのは別に珍しいことではない。大抵が人間には聞こえない音域の音に耳を澄ましているとか、人間なら気にしないものを気にして見つめているとかそういう理由がある。
端から、それも種族の違いもある状況でそれを目撃すれば、なるほど確かに不気味かも知れないが。
「別にベポは幽霊見えるなんてことは無かったと思いますけど」
「同族にあって野生の勘が蘇ったとか」
「とりあえず会いに行っていいですかぁ?」
煙草を吸い終えたバンダナと一緒に、くじらの森内にあるハートの海賊団の野営地へ戻ると、来ていたらしいミンク族達やベポが確かに一点を見つめていた。その視線の先を追って確かめて、シルビは頭を抱えたくなる。
「な? ペンちゃんが出掛けてからずっとあんな感じなんだよ」
「……あー、えーと。分かりました」
バンダナが傍にいなかったら、というか誰にも見られていなかったら確実に頭を抱えていた。
ベポ達の視線の先には、ロシナンテが座っている。
ロシナンテは船長と関わりのある、十三年ほど前に死んだと思われる幽霊だ。シルビとも浅くはあるが縁があるので、船長が船を降りて別行動する前からシルビの周りをうろちょろしており、ゾウへ来てからもシルビ達と一緒に行動していたのである。
とはいえ船の上にいた頃にはシルビ以外には見えなかったし、ベポだって彼のことを今のように関知していなかった。シルビにだけ視認出来る上、シルビ以外の者がいる場所ではシルビへ触れることも出来なかった幽霊はしかし、何故か今はミンク族へその気配を感じられているようである。
関知されているといっても、シルビ以外にはやはり見えている訳ではなく、ミンク族も何か違和感を覚えているだけのようだった。
シルビが戻ってきたことに気付いたらしいワカメとイルカが駆け寄ってくるのに、出来るだけ平常心を装って軽く手を挙げる。
「何処行ってたんだよペンギン」
「ちょっとなぁ。……ベポ達のあれは」
「もうずっとだよ。なんかちょっと怖いよね」
「怖ぇって言うか……うん。どうにかしてくる」
動物が一斉に同じ方向を見やる動作とかじっと同じ方向を見つめているのが怖いのか、その方向が何もないということが怖いのか。シルビとしては前者だがハートの皆は後者だろう。しかもその動物の中に自分達の仲間が居れば尚更か。
ベポ達ではなくロシナンテへ近付いていきながら、魚人島へ行く前はこれほどではなかったのにと考える。もしかしたら長いことこの世へ留まりすぎて、そろそろ悪霊化でもしてきているのか。
悪霊になる前にシルビの背後霊になる方が早い気もする。
地面から張り出した樹の根へ寄りかかるように座って、幽霊のくせに呑気に寝ているロシナンテを見下ろす。それから地面の土をぶつけるように蹴り飛ばすと、ロシナンテが驚いて目を覚まし不思議そうにシルビを見た。
立ち上がったロシナンテに、ミンク族達の視線が一斉に外される。
「あれ、ペンギンいつ戻ってきたの?」
「さっきだぁ。ベポ、何見てたんだぁ?」
「見てた訳じゃないけど、何か気になってただけだよ」
「……オレさっきまでベポ達が怖かったけど、今はペンギンの方が怖いわ」
ワカメの発言は釈然としないが、もし次に遠出することがあったらロシナンテも連れて行った方がいいかも知れない。