魚人島編
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夢主視点
竜宮城の中はこれでもかという程騒がしく、部外者どころか全く無関係であるシルビでさえも悠々と入り込めた。ここまで乗せてきてくれた魚に頼んで、現在の国王であるネプチューンを探しながら奥へと進んでいく。
宴会の間らしい広間に国王の姿は見あたらない。一応霧の炎で存在感を薄めてはいるが、こんな人目に付く場所で長居したくなかった。
すぐ脇をほろ酔い加減の人魚がすり抜けていく。その姿を何となく目で追いかけて、目的とは違うものの懐かしい顔を見つけて声が出た。
「あ、ルフィ君だぁ」
シルビを乗せていた魚がそれを聞き、気を利かせたつもりなのかルフィ達のいるシャボンへと近付いていく。ルフィとは一味の仲間と一緒に元七武海のジンベエも居て、何かを話しているようだった。
割り込んでいいものかと悩んでいる間にも魚はルフィ達のいるシャボンへ近付いていき、シャボンのある階段下でシルビを降ろす。そしてさも『自分は仕事をやり遂げた』とばかりに去っていくのに、せめてシャボンの中へ降りられるように降ろせと思った。
『選択』の能力で周囲の海水を拒絶し、仕方なく階段を上がっていく。
「ん? ……んん!?」
シルビに気付いたジンベエが、シルビに気付いて二度見した。それに足を止めて挨拶代わりに軽く手を挙げる。
「ご機嫌よう。ジンベエ」
「し……『死告シャイタン』!?」
驚きと動揺に立ち上がって警戒を露わにするジンベエに、不穏な雰囲気を感じてか傍にいた麦藁の一味の面々もくつろいでいた格好からそれぞれ身構えた。敵意が無いことを示すように両手を上げたところで、肉にがぶり付いていたルフィがにこやかにシルビを見る。
「お! シルビじゃねーか! 久しぶりだな!」
「ちょっとルフィ! 誰よあの人!」
「シルビだ!」
「あんまり本名で呼ばねぇでくれると嬉しいんだけどなぁ。久しぶりぃルフィ君。元気だったかぁ?」
「おう!」
「ふふ、元気がいいなぁ」
「だから誰だよアンタ!」
動揺しているのか警戒しているのかどうにも判断が付かない。ジンベエがむき出しの警戒心でシルビを睨んでくる。
「何をしに来たんじゃ」
「私用。『ノア』が壊されかけたって聞いて具合を見に来たんだぁ」
「おいジンベエ、こいつ知り合いか?」
金髪の青年がシルビから視線を逸らさないままにジンベエへ尋ねた。
見たことがある気がするその青年は、眉毛が何故かグルグルと特徴的である。見たことがある気がするかすぐには思い出せない。
ジンベエがゴクリと唾を飲んでそれに答えた。
「そやつは史上最高金額の賞金首……『死告シャイタン』じゃ」
声のない悲鳴が響いた気がする。
いい加減海水を拒絶しているのも疲れたので、階段を上がってルフィ達のいるシャボンの中へ足を踏み入れる。階段の傍にいたルフィの仲間達が数人怯えきって距離を取るのに、シルビは挨拶くらいさせてくれてもいいのにと思いつつジンベエを見た。
「世界政府が勝手に懸けた金額で怯えられても困るんだけどなぁ」
「懸けられるだけの理由があるとは思わんのか」
「力と比例してる訳でもなしぃ?」
賞金首に懸けられる金額は別にその者の戦力ではなく、世界政府にとってどれだけ危険であるかだ。単純に戦力でも物理的には危険視されて高額になることはあるが、かつて『悪魔の子』と称されたニコ・ロビンなどは、その戦力ではなく頭脳を危険視されている。
そういえばそのニコ・ロビンはルフィの仲間の一人だったなと思い出して周囲を見回した。すぐ傍で鼻の長い青年と怯えていたオレンジの髪の女性と目が合って、遠慮なく怯えられる。
「俺は別にルフィ君の仲間へ害を与えに来た訳じゃねぇんだけどぉ」
「じじじじゃあ何しに来たんだ!?」
「だから『ノア』が壊されかけたって言うから見に来たんだぁ。君はトナカイかなぁ?」
「ト、トニートニー・チョッパーだ」
「麦藁の一味の船医さんだったなぁ。よろしくぅドクター」
「ほ、褒めても何もねぇんだからなっ!」
「いや褒めてねえよ!」
クネクネと嬉しそうにしている二足歩行のトナカイを見ていると、ゾウにいるミンク族達を思い出した。ベポの様にミンク族という訳では無さそうだが、悪魔の実でも食べたのだろう。
立っているのも失礼かと思ってその場に腰を降ろせば、ジンベエもいまだ警戒したままではあるが座り直した。
「ノアが壊されかけたことはどうやって……いや、壊されかけたら何かあるのか?」
「壊れたら困る。海王類も動いたらしいし、魚人族の長である国王陛下に話しておくこともある」
「国王に?」
「お目通り叶わねぇかなぁ」
先に見つけていたらお目通りも何もなく用件だけを伝えようとしていたことは話さずに、出来るだけ真摯に訊ねる。元とはいえジンベエは王下七武海の一人だ。魚人でもあるしシルビよりは魚人の王へ近い。
ジンベエが考え込むように黙り込んだところで、ついでだからとシルビはルフィへも声をかけた。
「そういえばルフィ君。君の仲間にニコ・ロビンが居ただろぉ? 彼女にも挨拶しておきてぇんだけど」
「ロビンか? いいぞ!」
「おいこらテメェ! ロビンちゃんに何する気だ!?」
「挨拶だけどぉ?」
「つってもロビン今どこに居るのか分かんねェんだ。肉食って戻ってくるの待ってようぜ」
皿の上へ山積みにされていた肉を頬張りながら呑気なルフィに、シルビは無言でジンベエを見る。
「生憎国王も今は席を外しておる」
「宴の邪魔になると思うんだけど」
「敵意がないのなら一人増えたところで変わらんじゃろう。おぬしは別に攻め入りに来た訳でも無さそうじゃしな」
「おいおいいーのかよジンベエ」
「いいも何も、こやつに敵う者はおらん」
ジンベエの言葉にルフィ以外の一味達の視線がシルビへ向けられた。
「ぬし等も聞いたことはあるじゃろう。『史上最高金額の賞金首』『世界政府の宿敵』、伝説では千年以上生きておるという男じゃ」
「世界政府は勝手に俺を『死告シャイタン』と呼ぶ。二年前の『十六点鐘』でルフィ君と知り合ったんだぁ。ルフィ君の仲間なら俺が害を与える意味なんてねぇし、出来ればよろしくしてくれると嬉しいなぁ」
出来るだけ穏やかに微笑んでみるも、麦藁の一味の反応はそれぞれである。成り行きでバラしたとはいえ船長やバンダナとは随分反応が違うなとしみじみ思うのは、ここ暫く『死告シャイタン』の名前で活動していなかったからか。
一応大将赤犬が元帥になった後に海軍本部へ赴いてはいるが、あれはバラした訳ではなく知っている者のところへ行った形だ。
「だからその反応はちょっと寂しい」
絶句して硬直しているチョッパー達を見ないように声をかける。さっきから大げさに驚き過ぎだろう。
「仕方なかろう。おぬしの存在はそれだけで脅威じゃろうて」
苦笑を漏らすジンベエは警戒を解いたようである。脅威と言った直後に警戒を解くのはどうかと思わなくもないが、敵意はないと判断してもらえたのならもういい。
「別にいいけどなぁ。怯えられるのは今に始まった話じゃねぇし。敵意がねぇことだけ分かってもらえりゃいいよもう」
「……意外と普通なのね」
「高額賞金首は否応なしに怖ぇとお思いで? お嬢さん」
「怖いものは怖いわよ。でもアンタならアタシでも倒せるんじゃないかって思えてきたっていうか」
それはそう思えてきただけで、決してそんな事実は無いだろう。今更シルビもその辺の海賊の娘にやられるほど柔ではない。
「海軍元帥でも俺を倒せねぇのに面白れぇことを言うなぁお嬢さん」
「ああそうじゃ。海軍の話をしようと思っとったんじゃった」
ジンベエが思い出した様に手を打った。
「死告の、おぬしも知っておるじゃろう。新元帥のことは」
新しく海軍本部の元帥へと就任した元大将赤犬ことサカズキの話はシルビにとっては周知の事実だが、二年間ずっとレイリーと無人島で修行していたルフィにとっては寝耳に水だったらしい。
「レイリーも酷じゃのう」
「いやぁ、修行に集中させる為に教えなかっただけじゃねぇかなぁ。レイリーは結構そういうとこあるぜぇ?」
「レイリーとも知り合いかよっ」
長鼻の青年に突っ込まれたがスルーだ。
大将同士の抗争は最終的に青雉と赤犬の一騎打ちへと発展し、現在船長が潜伏しているパンクハザードでそれは行なわれた。ジンベエはその島の名前と所在までは知らないようだったが、パンクハザードは魚人島からはそう遠くない場所へある。
もう一つの重要な話としてジンベエが上げたのは『黒ひげ』の台頭だった。船長の七武海加入ではないのかと内心ガッカリする。だがよく考えれば七武海のメンバーは結構頻繁に入れ替わるのだから、あまり気にすることではないのかもしれない。
『死告シャイタン』としては黒ひげの台頭も彼が『Dの一族』であることからして気にかけた方がいいのかも知れなかったが、正直ハートのクルーとして動くのに忙しかった。『ペンギン』でなければ確実に動向を探っていただろう。
ましてや黒ひげは悪魔の実の能力を集めているのだ。
「死告の、おぬしは何か知らぬか?」
「サガズキ君には元帥就任後に会いに行ったけど、黒ひげの方は知らねぇなぁ」
「元帥に会いに行ったのかよ!?」
「? うん。でもサカズキ君イジメてきただけだから特に何も話は聞かなかったなぁ」
「普通は元帥を苛められんのじゃが……、ルフィ君に至っては“黒ひげ”ティーチとの因縁も深い。充分に……ルフィ~! 聞いとんのかワレァ!」
途中から完璧に話を聞いて居らず料理を食べることに専念していたルフィへ、ジンベエがやっと気付いたらしい。シルビとしては頂上戦争後のアマゾネスリリーでの暴れ振りを思い出して、食べるだけの元気があるのは良いことだとスルーしていた。
「いい食べっ振りだなぁルフィ君」
「おう! シルビも食うか?」
「俺はいいよ。それは君達への料理だぁ。君達が食べなさい」
「ん!」
ルフィは威勢だけはいい返事をして巨大な皿の上のお菓子を頬張っている。美味しそうに料理を食べる姿は誰のそれであってもいいものだ。
シルビがランタンを持って立ち上がるとルフィも気付いたのか、金髪の青年といびきを掻いて寝ていた緑髪の青年を呼ぶ。
「この城猛獣でもいんのかな」
「俺と同じで部外者だと思うぜぇ。それも敵意のある」
「アンタも分かんのか」
竜宮城の中はこれでもかという程騒がしく、部外者どころか全く無関係であるシルビでさえも悠々と入り込めた。ここまで乗せてきてくれた魚に頼んで、現在の国王であるネプチューンを探しながら奥へと進んでいく。
宴会の間らしい広間に国王の姿は見あたらない。一応霧の炎で存在感を薄めてはいるが、こんな人目に付く場所で長居したくなかった。
すぐ脇をほろ酔い加減の人魚がすり抜けていく。その姿を何となく目で追いかけて、目的とは違うものの懐かしい顔を見つけて声が出た。
「あ、ルフィ君だぁ」
シルビを乗せていた魚がそれを聞き、気を利かせたつもりなのかルフィ達のいるシャボンへと近付いていく。ルフィとは一味の仲間と一緒に元七武海のジンベエも居て、何かを話しているようだった。
割り込んでいいものかと悩んでいる間にも魚はルフィ達のいるシャボンへ近付いていき、シャボンのある階段下でシルビを降ろす。そしてさも『自分は仕事をやり遂げた』とばかりに去っていくのに、せめてシャボンの中へ降りられるように降ろせと思った。
『選択』の能力で周囲の海水を拒絶し、仕方なく階段を上がっていく。
「ん? ……んん!?」
シルビに気付いたジンベエが、シルビに気付いて二度見した。それに足を止めて挨拶代わりに軽く手を挙げる。
「ご機嫌よう。ジンベエ」
「し……『死告シャイタン』!?」
驚きと動揺に立ち上がって警戒を露わにするジンベエに、不穏な雰囲気を感じてか傍にいた麦藁の一味の面々もくつろいでいた格好からそれぞれ身構えた。敵意が無いことを示すように両手を上げたところで、肉にがぶり付いていたルフィがにこやかにシルビを見る。
「お! シルビじゃねーか! 久しぶりだな!」
「ちょっとルフィ! 誰よあの人!」
「シルビだ!」
「あんまり本名で呼ばねぇでくれると嬉しいんだけどなぁ。久しぶりぃルフィ君。元気だったかぁ?」
「おう!」
「ふふ、元気がいいなぁ」
「だから誰だよアンタ!」
動揺しているのか警戒しているのかどうにも判断が付かない。ジンベエがむき出しの警戒心でシルビを睨んでくる。
「何をしに来たんじゃ」
「私用。『ノア』が壊されかけたって聞いて具合を見に来たんだぁ」
「おいジンベエ、こいつ知り合いか?」
金髪の青年がシルビから視線を逸らさないままにジンベエへ尋ねた。
見たことがある気がするその青年は、眉毛が何故かグルグルと特徴的である。見たことがある気がするかすぐには思い出せない。
ジンベエがゴクリと唾を飲んでそれに答えた。
「そやつは史上最高金額の賞金首……『死告シャイタン』じゃ」
声のない悲鳴が響いた気がする。
いい加減海水を拒絶しているのも疲れたので、階段を上がってルフィ達のいるシャボンの中へ足を踏み入れる。階段の傍にいたルフィの仲間達が数人怯えきって距離を取るのに、シルビは挨拶くらいさせてくれてもいいのにと思いつつジンベエを見た。
「世界政府が勝手に懸けた金額で怯えられても困るんだけどなぁ」
「懸けられるだけの理由があるとは思わんのか」
「力と比例してる訳でもなしぃ?」
賞金首に懸けられる金額は別にその者の戦力ではなく、世界政府にとってどれだけ危険であるかだ。単純に戦力でも物理的には危険視されて高額になることはあるが、かつて『悪魔の子』と称されたニコ・ロビンなどは、その戦力ではなく頭脳を危険視されている。
そういえばそのニコ・ロビンはルフィの仲間の一人だったなと思い出して周囲を見回した。すぐ傍で鼻の長い青年と怯えていたオレンジの髪の女性と目が合って、遠慮なく怯えられる。
「俺は別にルフィ君の仲間へ害を与えに来た訳じゃねぇんだけどぉ」
「じじじじゃあ何しに来たんだ!?」
「だから『ノア』が壊されかけたって言うから見に来たんだぁ。君はトナカイかなぁ?」
「ト、トニートニー・チョッパーだ」
「麦藁の一味の船医さんだったなぁ。よろしくぅドクター」
「ほ、褒めても何もねぇんだからなっ!」
「いや褒めてねえよ!」
クネクネと嬉しそうにしている二足歩行のトナカイを見ていると、ゾウにいるミンク族達を思い出した。ベポの様にミンク族という訳では無さそうだが、悪魔の実でも食べたのだろう。
立っているのも失礼かと思ってその場に腰を降ろせば、ジンベエもいまだ警戒したままではあるが座り直した。
「ノアが壊されかけたことはどうやって……いや、壊されかけたら何かあるのか?」
「壊れたら困る。海王類も動いたらしいし、魚人族の長である国王陛下に話しておくこともある」
「国王に?」
「お目通り叶わねぇかなぁ」
先に見つけていたらお目通りも何もなく用件だけを伝えようとしていたことは話さずに、出来るだけ真摯に訊ねる。元とはいえジンベエは王下七武海の一人だ。魚人でもあるしシルビよりは魚人の王へ近い。
ジンベエが考え込むように黙り込んだところで、ついでだからとシルビはルフィへも声をかけた。
「そういえばルフィ君。君の仲間にニコ・ロビンが居ただろぉ? 彼女にも挨拶しておきてぇんだけど」
「ロビンか? いいぞ!」
「おいこらテメェ! ロビンちゃんに何する気だ!?」
「挨拶だけどぉ?」
「つってもロビン今どこに居るのか分かんねェんだ。肉食って戻ってくるの待ってようぜ」
皿の上へ山積みにされていた肉を頬張りながら呑気なルフィに、シルビは無言でジンベエを見る。
「生憎国王も今は席を外しておる」
「宴の邪魔になると思うんだけど」
「敵意がないのなら一人増えたところで変わらんじゃろう。おぬしは別に攻め入りに来た訳でも無さそうじゃしな」
「おいおいいーのかよジンベエ」
「いいも何も、こやつに敵う者はおらん」
ジンベエの言葉にルフィ以外の一味達の視線がシルビへ向けられた。
「ぬし等も聞いたことはあるじゃろう。『史上最高金額の賞金首』『世界政府の宿敵』、伝説では千年以上生きておるという男じゃ」
「世界政府は勝手に俺を『死告シャイタン』と呼ぶ。二年前の『十六点鐘』でルフィ君と知り合ったんだぁ。ルフィ君の仲間なら俺が害を与える意味なんてねぇし、出来ればよろしくしてくれると嬉しいなぁ」
出来るだけ穏やかに微笑んでみるも、麦藁の一味の反応はそれぞれである。成り行きでバラしたとはいえ船長やバンダナとは随分反応が違うなとしみじみ思うのは、ここ暫く『死告シャイタン』の名前で活動していなかったからか。
一応大将赤犬が元帥になった後に海軍本部へ赴いてはいるが、あれはバラした訳ではなく知っている者のところへ行った形だ。
「だからその反応はちょっと寂しい」
絶句して硬直しているチョッパー達を見ないように声をかける。さっきから大げさに驚き過ぎだろう。
「仕方なかろう。おぬしの存在はそれだけで脅威じゃろうて」
苦笑を漏らすジンベエは警戒を解いたようである。脅威と言った直後に警戒を解くのはどうかと思わなくもないが、敵意はないと判断してもらえたのならもういい。
「別にいいけどなぁ。怯えられるのは今に始まった話じゃねぇし。敵意がねぇことだけ分かってもらえりゃいいよもう」
「……意外と普通なのね」
「高額賞金首は否応なしに怖ぇとお思いで? お嬢さん」
「怖いものは怖いわよ。でもアンタならアタシでも倒せるんじゃないかって思えてきたっていうか」
それはそう思えてきただけで、決してそんな事実は無いだろう。今更シルビもその辺の海賊の娘にやられるほど柔ではない。
「海軍元帥でも俺を倒せねぇのに面白れぇことを言うなぁお嬢さん」
「ああそうじゃ。海軍の話をしようと思っとったんじゃった」
ジンベエが思い出した様に手を打った。
「死告の、おぬしも知っておるじゃろう。新元帥のことは」
新しく海軍本部の元帥へと就任した元大将赤犬ことサカズキの話はシルビにとっては周知の事実だが、二年間ずっとレイリーと無人島で修行していたルフィにとっては寝耳に水だったらしい。
「レイリーも酷じゃのう」
「いやぁ、修行に集中させる為に教えなかっただけじゃねぇかなぁ。レイリーは結構そういうとこあるぜぇ?」
「レイリーとも知り合いかよっ」
長鼻の青年に突っ込まれたがスルーだ。
大将同士の抗争は最終的に青雉と赤犬の一騎打ちへと発展し、現在船長が潜伏しているパンクハザードでそれは行なわれた。ジンベエはその島の名前と所在までは知らないようだったが、パンクハザードは魚人島からはそう遠くない場所へある。
もう一つの重要な話としてジンベエが上げたのは『黒ひげ』の台頭だった。船長の七武海加入ではないのかと内心ガッカリする。だがよく考えれば七武海のメンバーは結構頻繁に入れ替わるのだから、あまり気にすることではないのかもしれない。
『死告シャイタン』としては黒ひげの台頭も彼が『Dの一族』であることからして気にかけた方がいいのかも知れなかったが、正直ハートのクルーとして動くのに忙しかった。『ペンギン』でなければ確実に動向を探っていただろう。
ましてや黒ひげは悪魔の実の能力を集めているのだ。
「死告の、おぬしは何か知らぬか?」
「サガズキ君には元帥就任後に会いに行ったけど、黒ひげの方は知らねぇなぁ」
「元帥に会いに行ったのかよ!?」
「? うん。でもサカズキ君イジメてきただけだから特に何も話は聞かなかったなぁ」
「普通は元帥を苛められんのじゃが……、ルフィ君に至っては“黒ひげ”ティーチとの因縁も深い。充分に……ルフィ~! 聞いとんのかワレァ!」
途中から完璧に話を聞いて居らず料理を食べることに専念していたルフィへ、ジンベエがやっと気付いたらしい。シルビとしては頂上戦争後のアマゾネスリリーでの暴れ振りを思い出して、食べるだけの元気があるのは良いことだとスルーしていた。
「いい食べっ振りだなぁルフィ君」
「おう! シルビも食うか?」
「俺はいいよ。それは君達への料理だぁ。君達が食べなさい」
「ん!」
ルフィは威勢だけはいい返事をして巨大な皿の上のお菓子を頬張っている。美味しそうに料理を食べる姿は誰のそれであってもいいものだ。
シルビがランタンを持って立ち上がるとルフィも気付いたのか、金髪の青年といびきを掻いて寝ていた緑髪の青年を呼ぶ。
「この城猛獣でもいんのかな」
「俺と同じで部外者だと思うぜぇ。それも敵意のある」
「アンタも分かんのか」