二年後編
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夢主視点
副船長室で薬事ノートを書いていたら掛かってきた電話に、この人は何の為に船を降りたのだったかと遠い目をしてしまった。ともかく誰もいなくて良かったと思う。
色んな奴に協力してもらって作成された特別製の電伝虫から聞こえてくる船長の声は、意気込んで一人で行ったくせに悲壮感が漂っていた。確かに食事というのは身体面にも精神面にも大きく響く要素だと思うが、そこまで辛い事はないだろうとも思う。
大体、いくら極寒と灼熱の島とはいえ人がいる以上それなりの文化と食事情は発達される。船での移動を主とするこの世界では、孤島であっても他の島への買い出しをして食事情を改善する方法は普通だ。
例えパンクハザードが非合法の隠された島だとしても、人がいる限りはそれなりの食料も用意されるはずである。
「人間でも食べさせられたんですかぁ」
『その発想はなかった!』
「じゃあ下から出したモンを料理として出されましたかぁ? 俺思うんですけどアレってだんだん栄養素が……」
『スカトロもされてない! その物騒な発想は一度止めろ!』
「じゃあ何です? まさか嫌いな食べ物が出た程度で連絡してきたんですか?」
『っ……』
「図星かよ」
黙り込んでしまった受話器の向こうの船長を真似してか、電伝虫が唇を噛みしめた。そんな程度で連絡をさせる為に電伝虫を持たせたのではないのだが。
船長の嫌いな食べ物と言えばパンと梅干しである。梅干しはともかくパンは米に並ぶ主食の一つだ。それを嫌う船長もどうかとは思う。
とりあえずパンクハザードでの食事でパンか梅干しが出されたのだろうなと推測して、出そうになったため息は飲み込んだ。
「でぇ? 我慢して食べたんですか」
『……食ってねえ』
飲み込んだ筈のため息を今度は出す。飲み込む必要など皆無だった。
「荷物の中にキャラメル入ってる筈ですよ。ベポとシャチが入れてましたから」
『……。あった』
「じゃあそれ食べてちょっと待っててください」
お菓子とはいえ甘いものなので空腹を抑えるには十分だろう。極寒の地であるのなら甘い物は必需品だし、最悪非常食代わりになるので隠し入れているのを黙認していたのだが、まさかこんな食わず嫌いが理由でそれに手を付けることになるとは思っていなかった。せいぜいオヤツか、口寂しい時のものだろうに。
まず船長の好き嫌いをもう少し矯正しておけば良かったのか。受話器を置いて後ろを振り返れば、相変わらずシルビに取り憑いている幽霊ことロシナンテが寝台に座ったまま目があって首を傾げていた。
部屋を出て、食堂へ向かえば料理番が夜番用の夜食の支度をしている。
「ごめん。悪ぃんだけど米炊いてあるかぁ?」
「あるよー。なに? 夜食?」
「おかかのおにぎりが無性に食いたくなってなぁ」
当然ながら嘘の言い訳をすれば料理番は微塵たりとも疑わず、いくら船長の為とはいえ少し心が痛い。そもそも連絡を取れること自体話していないのだから、バレたらクルー全員から恨まれる自信がある。
「あーペンギンも?」
「俺もってぇ?」
「皆船長が居なくなって気兼ねなくパン食える! って言ってたくせにさ、もう米食べたいって言ってて今日の夜食もおにぎりなんだよ。気持ちは分からなくもないんだけど、パン古くなっちゃったらどうしようか今から考えてんだよね」
「……古くなったらラスクでも作ろうかぁ」
「パン粉にしてコロッケかと思ってた」
日々の食生活は習慣だとしみじみ思った。船長に合わせて米を主食とした料理が多いハートの海賊団だったが、いつのまにか殆どのクルーがそれを当然だと体に染み込ませているらしい。
昔はパンも無理矢理食事に出していたのにと考えても仕方がないだろう。嫌いな物を矯正させなかったシルビが悪い。
スープを作っていた手を止め、わざわざ先におにぎりを造ってくれた料理番へ礼を言って副船長室に戻る。そうして指を鳴らして『第八の炎』でパンクハザードへ繋げて、おにぎりの乗った皿を机の上へ置いた。
薬事ノートを書きまとめる作業へ戻って暫くして、再び掛かってきた電話の受話器を取る。
『どうなってんだ』
第一声がそれかと文句を言いたい。
「一応俺『死告シャイタン』なんですよ。伝説級の賞金首なんですよぉ」
『ああ……便利、だな?』
「……昔ね、ロジャーの野郎がやっぱり貴方みてぇに酒を持って来いだの野菜が足りねぇだのと言ってきたのを思い出しました」
『それがどうした』
「っ――俺は配達員じゃねぇんだよぉおおお!」
座っていた椅子から立ち上がって怒鳴る。後ろでただ座っていただけの筈のロシナンテが、驚いて寝台から滑り落ちていたが構っていられない。
ロジャーのあの理不尽なわがままは今思い出しても納得がいかなかった。生死判定の為とはいえビブルカードを渡さなければ良かったとも思っているし、今の船長のように持ち歩いていた電伝虫の連絡先を教えなければ良かったとも思う。毎回律儀に持って行ってしまったシルビも悪いが、まさか同じ轍を船長で踏むと誰が予想しようか。
「言うに事欠いて『便利だな』とはどんな感想ですか貴方! 梅干しは妥協してあげますからせめてパンは主食の一つなんだし少しは食べなさい! 当たり前の様に俺を使うんじゃねぇよ!」
『飯持ってこいとは頼んでねえ』
「返事はぁ!?」
『……分かった』
副船長室で薬事ノートを書いていたら掛かってきた電話に、この人は何の為に船を降りたのだったかと遠い目をしてしまった。ともかく誰もいなくて良かったと思う。
色んな奴に協力してもらって作成された特別製の電伝虫から聞こえてくる船長の声は、意気込んで一人で行ったくせに悲壮感が漂っていた。確かに食事というのは身体面にも精神面にも大きく響く要素だと思うが、そこまで辛い事はないだろうとも思う。
大体、いくら極寒と灼熱の島とはいえ人がいる以上それなりの文化と食事情は発達される。船での移動を主とするこの世界では、孤島であっても他の島への買い出しをして食事情を改善する方法は普通だ。
例えパンクハザードが非合法の隠された島だとしても、人がいる限りはそれなりの食料も用意されるはずである。
「人間でも食べさせられたんですかぁ」
『その発想はなかった!』
「じゃあ下から出したモンを料理として出されましたかぁ? 俺思うんですけどアレってだんだん栄養素が……」
『スカトロもされてない! その物騒な発想は一度止めろ!』
「じゃあ何です? まさか嫌いな食べ物が出た程度で連絡してきたんですか?」
『っ……』
「図星かよ」
黙り込んでしまった受話器の向こうの船長を真似してか、電伝虫が唇を噛みしめた。そんな程度で連絡をさせる為に電伝虫を持たせたのではないのだが。
船長の嫌いな食べ物と言えばパンと梅干しである。梅干しはともかくパンは米に並ぶ主食の一つだ。それを嫌う船長もどうかとは思う。
とりあえずパンクハザードでの食事でパンか梅干しが出されたのだろうなと推測して、出そうになったため息は飲み込んだ。
「でぇ? 我慢して食べたんですか」
『……食ってねえ』
飲み込んだ筈のため息を今度は出す。飲み込む必要など皆無だった。
「荷物の中にキャラメル入ってる筈ですよ。ベポとシャチが入れてましたから」
『……。あった』
「じゃあそれ食べてちょっと待っててください」
お菓子とはいえ甘いものなので空腹を抑えるには十分だろう。極寒の地であるのなら甘い物は必需品だし、最悪非常食代わりになるので隠し入れているのを黙認していたのだが、まさかこんな食わず嫌いが理由でそれに手を付けることになるとは思っていなかった。せいぜいオヤツか、口寂しい時のものだろうに。
まず船長の好き嫌いをもう少し矯正しておけば良かったのか。受話器を置いて後ろを振り返れば、相変わらずシルビに取り憑いている幽霊ことロシナンテが寝台に座ったまま目があって首を傾げていた。
部屋を出て、食堂へ向かえば料理番が夜番用の夜食の支度をしている。
「ごめん。悪ぃんだけど米炊いてあるかぁ?」
「あるよー。なに? 夜食?」
「おかかのおにぎりが無性に食いたくなってなぁ」
当然ながら嘘の言い訳をすれば料理番は微塵たりとも疑わず、いくら船長の為とはいえ少し心が痛い。そもそも連絡を取れること自体話していないのだから、バレたらクルー全員から恨まれる自信がある。
「あーペンギンも?」
「俺もってぇ?」
「皆船長が居なくなって気兼ねなくパン食える! って言ってたくせにさ、もう米食べたいって言ってて今日の夜食もおにぎりなんだよ。気持ちは分からなくもないんだけど、パン古くなっちゃったらどうしようか今から考えてんだよね」
「……古くなったらラスクでも作ろうかぁ」
「パン粉にしてコロッケかと思ってた」
日々の食生活は習慣だとしみじみ思った。船長に合わせて米を主食とした料理が多いハートの海賊団だったが、いつのまにか殆どのクルーがそれを当然だと体に染み込ませているらしい。
昔はパンも無理矢理食事に出していたのにと考えても仕方がないだろう。嫌いな物を矯正させなかったシルビが悪い。
スープを作っていた手を止め、わざわざ先におにぎりを造ってくれた料理番へ礼を言って副船長室に戻る。そうして指を鳴らして『第八の炎』でパンクハザードへ繋げて、おにぎりの乗った皿を机の上へ置いた。
薬事ノートを書きまとめる作業へ戻って暫くして、再び掛かってきた電話の受話器を取る。
『どうなってんだ』
第一声がそれかと文句を言いたい。
「一応俺『死告シャイタン』なんですよ。伝説級の賞金首なんですよぉ」
『ああ……便利、だな?』
「……昔ね、ロジャーの野郎がやっぱり貴方みてぇに酒を持って来いだの野菜が足りねぇだのと言ってきたのを思い出しました」
『それがどうした』
「っ――俺は配達員じゃねぇんだよぉおおお!」
座っていた椅子から立ち上がって怒鳴る。後ろでただ座っていただけの筈のロシナンテが、驚いて寝台から滑り落ちていたが構っていられない。
ロジャーのあの理不尽なわがままは今思い出しても納得がいかなかった。生死判定の為とはいえビブルカードを渡さなければ良かったとも思っているし、今の船長のように持ち歩いていた電伝虫の連絡先を教えなければ良かったとも思う。毎回律儀に持って行ってしまったシルビも悪いが、まさか同じ轍を船長で踏むと誰が予想しようか。
「言うに事欠いて『便利だな』とはどんな感想ですか貴方! 梅干しは妥協してあげますからせめてパンは主食の一つなんだし少しは食べなさい! 当たり前の様に俺を使うんじゃねぇよ!」
『飯持ってこいとは頼んでねえ』
「返事はぁ!?」
『……分かった』