空白の二年間編2
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ジャンバール視点
甲板から見える氷の大地を眺めつつベポやワカメが落ち込んでいる。少しずつ近付いてくるその島でトラファルガーが降りるからだ。
四皇の一人である“百獣のカイドウ”を潰す為の計画として、船長であるトラファルガーを降ろした後この船はゾウへと向かう予定である。船長だけがその降ろされる島であるパンクハザードで目的を達成した後に、ゾウで合流。
自分たちへもやることがあるとはいえ、クルー達は船長が居なくなるという事実にへこんでいた。
無論それはジャンバールだって違いは無いが、ただ付き合いが短いうえに大人でもあるからあまり表へ出さないだけだ。それに彼なら無事にやり遂げてこの船へ戻ってくるだろうという信頼もある。
そういった信頼を持っているのはジャンバールだけでは無く、バンダナやイルカ、料理番、それにペンギンもだった。シャチは多分ベポ達と一緒に落ち込みたいのだろうが、ペンギンを見ては気丈であろうとしているように見受けられる。それが少し頑張って兄貴分の真似をしているようにも思えなくも無いが、誰も何も言っていない。
「だが船長。ソレを見てニヤニヤしてるのは流石に趣味が悪いぞ」
「船長冥利につきるだろ」
ニヤニヤしていると指摘したせいかこっそり頬を擦るトラファルガーに、しかしジャンバールは同意出来てしまった。今でこそハートのクルーだが元はジャンバールだって海賊船の船長だった男である。クルーに慕われている事が実感できた時の高揚は分からないでもない。
トラファルガーとジャンバールは違う。一度は自分の船を殺され奴隷にまで堕ちた身と、未だに航海を続けている身で、きっとそれだけでもトラファルガーはジャンバールよりも格が上だ。
自分が酷い船長だったとは思わないが、悪い船長だったなとは時々、トラファルガーを見ると思う。
『航海は後悔と字面が違うだけで同じだろぉ? きっと今の大航海時代に海へいる人は、遍く何かを悔いた事があると俺は思うよ』
ハートのクルーになってから、ペンギンへ言われた言葉だ。一つの海賊船の船長だったくせに奴隷として生き延び、また海賊船へ乗っている自分を“許していいのか”を悩んだ時に相談した相手が、間違っていたのかどうかは今も尚分からない。
ただその意見を言えるという事は、ペンギン自身海へ出て悔いている事があるという事なのだろうとは思った。実質ハートの船を問題なく纏めているようなペンギンにも、そういった後悔があるのだという考えに安心してしまったのも事実だ。
『航海は後悔と字面が違うだけで同じだろぉ? きっと今の大航海時代に海へいる人は、遍く何かを悔いた事があると俺は思うよ』
『……ならオレがこうして悩むのは無駄という事か』
『そうじゃねぇ。若造に言われてもピンと来ねぇかも知れねぇけど、人ってのは必ず何かしらの後悔を抱えてるもんだって話かなぁ。その後悔があってこそ前へ進めるのだとしたら、ジャンバールは自分を許してはいけないけれど許していい』
『許していけないのに許していい?』
『あー……違うなぁ。許していけないけれど『誰かへ許される事は許していい』んだぁ』
ペンギンがジャンバールを指差す。
『俺は君を許そう。そうして自分の過去を悔やむ君を。――そう言われるだけで結構落ち着くところがあるだろぉ?』
『よく分からないな』
『ジャンバールはそうやって自分だけがいいのかと悩むけれど、そんな悩まなくていいと俺は思うぜぇ』
『ああ、それなら分かる』
『言葉の意味が分かるだけで納得はしねぇだろぉ? でも俺が言ってるのは『そう言ってくれる人が傍に居る事は許容しなさい』って事であって、聞き流せってんじゃねぇんだよ』
ジャンバールを指差していた手を降ろして、ペンギンは洗濯籠から洗濯物を持ち上げた。それを広げて物干しロープへ掛ける。
『広い海の上だとその気持ちは強くなる。でもその海へ浮く船ってのは狭ぇから人は自然と寄り合う事になる。だから自分の傍へ居る人は選びたくなる。……海賊団っていうのは要は同じ穴の狢達が集まってんだろうなぁ』
『この船もか』
『ハートは、結構寂しがり屋が乗ってる船だと俺は思ってるんだぁ。だからみんな誰かに必要とされることを求めてる。あの人はそういう奴を受け入れるのが得意なんだと俺は思う。無意識に受け入れ方を知ってんだろうなぁ』
広げられたシーツが風になびいてペンギンの全身へぶつかっていく。気にせずシーツを留めたペンギンはジャンバールを振り返って微笑んだ。
『だから“キャプテンジャンバール”。あなたはまだキャプテンであると同時にハートのクルーなのです。ですからどうぞ思う存分悔いてください。トラファルガーを筆頭に俺やクルー達はそんなあなたを受けいれ許すのです』
畏まって言ったペンギンに、ジャンバールは少しだけ心が軽くなった気がした。キャプテンだった頃のクルー達へ直接謝罪する事はもう無いだろうが、今も尚思い続けている。
その事をこの船の誰もが咎めない。トラファルガーを筆頭に。
洗濯物を干す作業を終わらせたペンギンが軽くなった洗濯籠を抱えて歩き出す。数歩歩いてからジャンバールが付いて来るのを立ち止まって待つのに追いかけた。
『ペンギン。その考えだとお前も寂しいのか?』
『俺もどころか船長だって寂しいんじゃねぇかなぁ。でもだからこそクルーを大事にしてるよ。まぁ『船長』って存在は殆どがそういう性質だけどなぁ』
過去の思考から現実に戻って、隣に立って動き回るクルー達を眺めているトラファルガーの目は、見張っているというよりは見守っているというべきか。きっとジャンバールだってキャプテンだった頃はそんな目をしていたのだろう。
深い傷を癒す目だ。トラファルガーが医者であり船長であることを納得させる。
「船長、もうすぐパンクハザードへ着きますが、ちゃんと支度出来てますかぁ?」
「出来てる。お前はオレの母親か」
「母親みてぇな事を言われたくなかったらしっかりしてください。暫くは貴方俺も傍に居ねぇんですから」
「母親同伴――ぶふっ」
イルカが謎のツボに嵌って吹き出した。そのまま腹を押さえて笑い出すイルカにすれ違い様ペンギンが頭をポンと叩いて船縁にいたバンダナ達の傍へ立つ。
目の上へ手でひさしを作って近付いてくるパンクハザードを眺め、ペンギンが振り返った。
「じゃあその母親として言いますが浮気しねぇでくださいね」
「浮気って――」
「アレから二年経ちましたし、ルフィ君達がもうすぐ再集結すると思いますよ。タイミングが合ったらパンクハザードへも来るかも知れませんねぇ」
そう言えばトラファルガーがペンギンを凝視する。
「彼はロジャー以上のタラシですよ。船長も危ねぇでしょうねぇ」
「はは、船長がオチちまう船長ってか。そりゃ怖いねえ!」
隣のバンダナが声を上げて笑うのにペンギンもトラファルガーを見たまま笑った。
「ああ、俺のほうがルフィ君へタラシ込まれるかもしんねぇかぁ」
「……ふざけんな」
「嫌だったら、無事に帰ってきてください」
「そうだよキャプテン! 早く帰ってきてね!」
ベポが勢いよく言ってトラファルガーへ駆け寄って飛びつく。それを驚きもせず抱き止めたトラファルガーを見下ろしていれば、視線に気づいたかトラファルガーがジャンバールを見上げてきた。
「羨ましいか?」
自分が船を降りてしまっても揺らがないと確信している物言いに、ジャンバールは肩を竦めるに留める。
「寂しくなるな」
「!……はは、いい子にして待ってろよ」
「キャプテンオレも! オレもいい子にして待ってる!」
「ペンギンの言うことちゃんと聞くんだぞ」
「おいやめろぉ。人を母親扱いすんじゃねぇ」
「おかーさん」
「おかあさん寒くね?」
「そういや寒くなってきたな。近付いてきたんだねえ」
パンクハザードも、『船長』との一時的な別れも、もうすぐだ。
甲板から見える氷の大地を眺めつつベポやワカメが落ち込んでいる。少しずつ近付いてくるその島でトラファルガーが降りるからだ。
四皇の一人である“百獣のカイドウ”を潰す為の計画として、船長であるトラファルガーを降ろした後この船はゾウへと向かう予定である。船長だけがその降ろされる島であるパンクハザードで目的を達成した後に、ゾウで合流。
自分たちへもやることがあるとはいえ、クルー達は船長が居なくなるという事実にへこんでいた。
無論それはジャンバールだって違いは無いが、ただ付き合いが短いうえに大人でもあるからあまり表へ出さないだけだ。それに彼なら無事にやり遂げてこの船へ戻ってくるだろうという信頼もある。
そういった信頼を持っているのはジャンバールだけでは無く、バンダナやイルカ、料理番、それにペンギンもだった。シャチは多分ベポ達と一緒に落ち込みたいのだろうが、ペンギンを見ては気丈であろうとしているように見受けられる。それが少し頑張って兄貴分の真似をしているようにも思えなくも無いが、誰も何も言っていない。
「だが船長。ソレを見てニヤニヤしてるのは流石に趣味が悪いぞ」
「船長冥利につきるだろ」
ニヤニヤしていると指摘したせいかこっそり頬を擦るトラファルガーに、しかしジャンバールは同意出来てしまった。今でこそハートのクルーだが元はジャンバールだって海賊船の船長だった男である。クルーに慕われている事が実感できた時の高揚は分からないでもない。
トラファルガーとジャンバールは違う。一度は自分の船を殺され奴隷にまで堕ちた身と、未だに航海を続けている身で、きっとそれだけでもトラファルガーはジャンバールよりも格が上だ。
自分が酷い船長だったとは思わないが、悪い船長だったなとは時々、トラファルガーを見ると思う。
『航海は後悔と字面が違うだけで同じだろぉ? きっと今の大航海時代に海へいる人は、遍く何かを悔いた事があると俺は思うよ』
ハートのクルーになってから、ペンギンへ言われた言葉だ。一つの海賊船の船長だったくせに奴隷として生き延び、また海賊船へ乗っている自分を“許していいのか”を悩んだ時に相談した相手が、間違っていたのかどうかは今も尚分からない。
ただその意見を言えるという事は、ペンギン自身海へ出て悔いている事があるという事なのだろうとは思った。実質ハートの船を問題なく纏めているようなペンギンにも、そういった後悔があるのだという考えに安心してしまったのも事実だ。
『航海は後悔と字面が違うだけで同じだろぉ? きっと今の大航海時代に海へいる人は、遍く何かを悔いた事があると俺は思うよ』
『……ならオレがこうして悩むのは無駄という事か』
『そうじゃねぇ。若造に言われてもピンと来ねぇかも知れねぇけど、人ってのは必ず何かしらの後悔を抱えてるもんだって話かなぁ。その後悔があってこそ前へ進めるのだとしたら、ジャンバールは自分を許してはいけないけれど許していい』
『許していけないのに許していい?』
『あー……違うなぁ。許していけないけれど『誰かへ許される事は許していい』んだぁ』
ペンギンがジャンバールを指差す。
『俺は君を許そう。そうして自分の過去を悔やむ君を。――そう言われるだけで結構落ち着くところがあるだろぉ?』
『よく分からないな』
『ジャンバールはそうやって自分だけがいいのかと悩むけれど、そんな悩まなくていいと俺は思うぜぇ』
『ああ、それなら分かる』
『言葉の意味が分かるだけで納得はしねぇだろぉ? でも俺が言ってるのは『そう言ってくれる人が傍に居る事は許容しなさい』って事であって、聞き流せってんじゃねぇんだよ』
ジャンバールを指差していた手を降ろして、ペンギンは洗濯籠から洗濯物を持ち上げた。それを広げて物干しロープへ掛ける。
『広い海の上だとその気持ちは強くなる。でもその海へ浮く船ってのは狭ぇから人は自然と寄り合う事になる。だから自分の傍へ居る人は選びたくなる。……海賊団っていうのは要は同じ穴の狢達が集まってんだろうなぁ』
『この船もか』
『ハートは、結構寂しがり屋が乗ってる船だと俺は思ってるんだぁ。だからみんな誰かに必要とされることを求めてる。あの人はそういう奴を受け入れるのが得意なんだと俺は思う。無意識に受け入れ方を知ってんだろうなぁ』
広げられたシーツが風になびいてペンギンの全身へぶつかっていく。気にせずシーツを留めたペンギンはジャンバールを振り返って微笑んだ。
『だから“キャプテンジャンバール”。あなたはまだキャプテンであると同時にハートのクルーなのです。ですからどうぞ思う存分悔いてください。トラファルガーを筆頭に俺やクルー達はそんなあなたを受けいれ許すのです』
畏まって言ったペンギンに、ジャンバールは少しだけ心が軽くなった気がした。キャプテンだった頃のクルー達へ直接謝罪する事はもう無いだろうが、今も尚思い続けている。
その事をこの船の誰もが咎めない。トラファルガーを筆頭に。
洗濯物を干す作業を終わらせたペンギンが軽くなった洗濯籠を抱えて歩き出す。数歩歩いてからジャンバールが付いて来るのを立ち止まって待つのに追いかけた。
『ペンギン。その考えだとお前も寂しいのか?』
『俺もどころか船長だって寂しいんじゃねぇかなぁ。でもだからこそクルーを大事にしてるよ。まぁ『船長』って存在は殆どがそういう性質だけどなぁ』
過去の思考から現実に戻って、隣に立って動き回るクルー達を眺めているトラファルガーの目は、見張っているというよりは見守っているというべきか。きっとジャンバールだってキャプテンだった頃はそんな目をしていたのだろう。
深い傷を癒す目だ。トラファルガーが医者であり船長であることを納得させる。
「船長、もうすぐパンクハザードへ着きますが、ちゃんと支度出来てますかぁ?」
「出来てる。お前はオレの母親か」
「母親みてぇな事を言われたくなかったらしっかりしてください。暫くは貴方俺も傍に居ねぇんですから」
「母親同伴――ぶふっ」
イルカが謎のツボに嵌って吹き出した。そのまま腹を押さえて笑い出すイルカにすれ違い様ペンギンが頭をポンと叩いて船縁にいたバンダナ達の傍へ立つ。
目の上へ手でひさしを作って近付いてくるパンクハザードを眺め、ペンギンが振り返った。
「じゃあその母親として言いますが浮気しねぇでくださいね」
「浮気って――」
「アレから二年経ちましたし、ルフィ君達がもうすぐ再集結すると思いますよ。タイミングが合ったらパンクハザードへも来るかも知れませんねぇ」
そう言えばトラファルガーがペンギンを凝視する。
「彼はロジャー以上のタラシですよ。船長も危ねぇでしょうねぇ」
「はは、船長がオチちまう船長ってか。そりゃ怖いねえ!」
隣のバンダナが声を上げて笑うのにペンギンもトラファルガーを見たまま笑った。
「ああ、俺のほうがルフィ君へタラシ込まれるかもしんねぇかぁ」
「……ふざけんな」
「嫌だったら、無事に帰ってきてください」
「そうだよキャプテン! 早く帰ってきてね!」
ベポが勢いよく言ってトラファルガーへ駆け寄って飛びつく。それを驚きもせず抱き止めたトラファルガーを見下ろしていれば、視線に気づいたかトラファルガーがジャンバールを見上げてきた。
「羨ましいか?」
自分が船を降りてしまっても揺らがないと確信している物言いに、ジャンバールは肩を竦めるに留める。
「寂しくなるな」
「!……はは、いい子にして待ってろよ」
「キャプテンオレも! オレもいい子にして待ってる!」
「ペンギンの言うことちゃんと聞くんだぞ」
「おいやめろぉ。人を母親扱いすんじゃねぇ」
「おかーさん」
「おかあさん寒くね?」
「そういや寒くなってきたな。近付いてきたんだねえ」
パンクハザードも、『船長』との一時的な別れも、もうすぐだ。