空白の二年間編2
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ロー視点
パンクハザードへ行く為に調べてまとめた書類を眺めながらローは思う。正確には誘惑されている。
ペンギンの『死告シャイタン』としての物なのかどうか分からないが、少し前に言っていた『人間一人の生い立ちを調べるくらい極々簡単』と言い切れる情報収集力を借りたら怒られるだろうか、と。
明言こそしていないがペンギンのことを『死告シャイタン』だと知っていても、それ故のネームバリューやペンギンが持つ『炎の力』などを、ローは命じて自分の意のままに利用させるつもりは無い。理由は色々あるが一番の理由として、それをやった場合ペンギンからの信頼が失われるだろうからだ。
ペンギンが宣言したわけでは無いが、ローとペンギンの関係というのはペンギンからの妥協や信頼で成り立っているように思う。
例えばペンギンは『船長命令には絶対に従う』と言うが、命令で無いものは自分で考えて時にはローを殴ってでも反論するのだ。しかし何かあれば命令以前に何も言わずともその能力や知識を惜しみなく使い行動をしてくれる。
その前提に、おそらく『悪魔の実でも無い能力を使ってもローは嫌悪しない』という信頼があるのだろう。いや、嫌悪に限った物ではないが。
要は物語によくある『超常的な魔法を悪人が使ったら悪い事しか起こらない』を未然に防いでいるのだろう。その判断が一人の感性に掛かっているというのと、その判断を統べる当人がその『魔法』を使えるという部分があるとはいえ、過ぎた力を使うには云々ということだ。
だがしかし、ペンギンはローのクルーである。多分今までにもペンギンは人知れず使っていたのだろうが、使っていると確信してもいるが、たまには頼んで使ってもらってもいいのでは無いか。
「……ペンギン」
「パンクハザードでシーザー・クラウンでしたっけぇ? マッドサイエンティストがやってる実験の詳細は教えませんよ」
まだ呼んでしかいないのに先手を打たれた。ペンギンは近くの席で航海日誌を書く手を止めず、更には視線をローへ向けることすらしない。
「何で分かるんだ」
「実は千里眼なんです」
「あー、ペンギンって自分が居ない場所での話とかも分かるよねそういや」
「いやワカメ。嘘だから信じねぇでくれぇ?」
珈琲を飲んでいたワカメにあっさりと嘘だとばらし、そこでやっとペンギンが顔を上げた。
「前に言いましたよねぇ俺。手出しも口出しもしねぇし情報収集も何もしねぇって」
「だが情報は大事だろ」
「情報と計画に縛られて突発的なことに対応出来ねぇってのも駄目でしょう。情報は活用してこそですが、臨機応変だって大事です」
「戦略戦とかってオレ分かんねーわ」
「ワカメは戦略とか気にしねぇもんなぁ」
航海日誌を書くのに使っていたペンを手の中で回しながら、ペンギンが指を鳴らして白紙をテーブルの上へ広げた。いきなり紙が現れたことにワカメが驚いていたが、すぐにいつものハリセンと同じ類だと理解して納得している。
『炎』による幻覚だろうが、これだって本来は隠すべき力だろうに。
「貴方ではなく『ハートの海賊団』へ関わる情報はちゃんと報告したでしょう? ジョーカーと呼ばれている男に依頼されて、ベガバンクが発見したらしい血統因子を利用しての『人造悪魔の実』の材料、通称“SAD”の量産をしてるって」
「実際それで悪魔の実を造ってるからアレなんだけどさ、それで作れるのか不思議だよな」
「『俺』としては正直もの凄く困るんだけどなぁ。悪魔の実の因子を調べられるの」
「なんで?」
ペンギンは答えなかった。
「オレが知りたいのはそれじゃねえ。ジョーカーに辿り着く為の証拠だ」
「パンクハザードに潜入してから通信記録でも漁ればいいでしょうがぁ。物証は流石に用意したら色々突っ込まれるでしょう?」
「まず用意しようって思わないんじゃね?」
「最悪でっちあげてもいいですが、その場合何か代価でも貰わねぇとやる気出ません」
やる気でどうこうなる問題なのだろうかと思ったが、そこは黙っておく。相手は嘘か本当か数百年間世界政府を敵に回している男だ。
紙へ落書きなのか角の生えた樹のようなものを描いたペンギンは、その絵の近くに『シーザー』と書いてからペンを置いた。コレがパンクハザードへ居るシーザーを描いたものだとしたら、ローは一体どんな化物へ会いに行く事になるというのか。
「じゃあさ、ペンギンがパンクハザードへ潜入したらどうやるの?」
ワカメが何気なくした質問はローも少し気になった。ペンギンは腕を組んで少し考えてから口を開く。
「とりあえずどういう形でもいいから内部へ潜入するだろぉ? そしたらまず悪魔の実の材料となっているブツの成分を無効化させる。表面上は何も起こってない様に見せかけて時間と信用を稼いで、その間にやっぱり通信記録とかを探して物的証拠を手に入れる――くらいかなぁ」
「うん。軽々しく言ってるけどフツー無理だわ」
「あとはとりあえずシーザーを拷問してから殺して、研究所を完全に破壊すればいいのかなぁ? そうすりゃSADの生産は出来なくなるし作り方を知ってる奴も居なくなる。それからジョーカーと『SADの作り方を訊いている』とでも言って取引をしてもいいけど」
「だったらシーザーを捕まえてそのまま取引材料にすればいいだろうが」
「いやそこはご自由にどうぞぉ? 単に俺が人質とかとるのあまり好きじゃねぇってだけですしぃ」
なるほど。
「そもそも中途半端でまどろっこしい潜入作業ってどうなんです? どうせなら潜入だって楽しみてぇでしょう?」
「だからお前は何者なんだ」
「この船の副船長ですよ」
堂々と言うがその割には潜入捜査もやったことがあるとばかりの口ぶりに、ワカメが呆れつつも笑っている。ペンギンの正体を知らない相手にまで既に呆れられつつあるが、ペンギンは気にした様子も無い。
一度今までの経歴を聞いてみたいようなみたくないような、恐ろしい相手だ。もしかしたら『ただやったことがあるだけ』という話かもしれないし。
そうであったらいいとは思うものの、一筋縄ではいかない相手だと既に理解しているのでローは聞くのを止めた。ワカメが食堂の外から呼ばれて席を立つのを見送ってから、ローは代わりに違う事を尋ねてみる。
「じゃあペンギン。お前だったら四皇をどうやって潰す?」
「暗殺」
即答だった。
「何か勘違いしてません? 俺結構物騒な考えの持ち主ですよ?」
「それは知ってる」
というか言われずとも分かる。ローも世間では冷酷非道だ何だと言われているようだがコイツには負けるだろう。
テーブルへ腕を伸ばして突っ伏したペンギンがローを見た。面倒臭がっているような雰囲気だが、多分これはやる事が無くて暇なだけだろう。暇なら情報収集を手伝ってくれればいいのに。
「まぁ今回のケースは戦力増強を防ぐという利点もあるのでいいと思いますよ。でも俺一人だったらやらねぇ手だろうなぁ。実のところ船長にも勧めません」
「何でだ?」
「だって貴方弱ぇしぃ?」
はっきりと言い切られて無言で睨めば、ペンギンはテーブルの上で重ねた手の上へ顎を乗せて見返してくる。
「弱ぇからこそ情報を集めて万全を期しようってのは当然でしょう。単騎潜入ってのはそうやってやるモンじゃねぇでしょうしねぇ」
「……もう決めたんだ」
「だから勧めてねぇだけで反対も諦めたでしょうがぁ。第一俺が集めたとしてもその情報を何処まで信じる気なんです?」
「それは全部に決まってる。お前が嘘だのガセを持ってくるとは思ってない」
「あまり甘やかすと後で痛てぇ目に遭いますよ?」
「お前のハリセンより痛くなければいいな」
何とも言えない顔をするペンギンを持っていた鬼哭でつつく。鬱陶しげに払いのけるが怒りはしない。
むしろ少し照れている様子だった。
身体を起こしたペンギンが面倒そうに指を鳴らす。落書きされた紙が消えた。
「仕方ねぇなぁ。その信頼を代価に何か一つだけ情報をあげましょう」
「何でもいいのか?」
「ええ、どうぞぉ」
パンクハザードへ行く為に調べてまとめた書類を眺めながらローは思う。正確には誘惑されている。
ペンギンの『死告シャイタン』としての物なのかどうか分からないが、少し前に言っていた『人間一人の生い立ちを調べるくらい極々簡単』と言い切れる情報収集力を借りたら怒られるだろうか、と。
明言こそしていないがペンギンのことを『死告シャイタン』だと知っていても、それ故のネームバリューやペンギンが持つ『炎の力』などを、ローは命じて自分の意のままに利用させるつもりは無い。理由は色々あるが一番の理由として、それをやった場合ペンギンからの信頼が失われるだろうからだ。
ペンギンが宣言したわけでは無いが、ローとペンギンの関係というのはペンギンからの妥協や信頼で成り立っているように思う。
例えばペンギンは『船長命令には絶対に従う』と言うが、命令で無いものは自分で考えて時にはローを殴ってでも反論するのだ。しかし何かあれば命令以前に何も言わずともその能力や知識を惜しみなく使い行動をしてくれる。
その前提に、おそらく『悪魔の実でも無い能力を使ってもローは嫌悪しない』という信頼があるのだろう。いや、嫌悪に限った物ではないが。
要は物語によくある『超常的な魔法を悪人が使ったら悪い事しか起こらない』を未然に防いでいるのだろう。その判断が一人の感性に掛かっているというのと、その判断を統べる当人がその『魔法』を使えるという部分があるとはいえ、過ぎた力を使うには云々ということだ。
だがしかし、ペンギンはローのクルーである。多分今までにもペンギンは人知れず使っていたのだろうが、使っていると確信してもいるが、たまには頼んで使ってもらってもいいのでは無いか。
「……ペンギン」
「パンクハザードでシーザー・クラウンでしたっけぇ? マッドサイエンティストがやってる実験の詳細は教えませんよ」
まだ呼んでしかいないのに先手を打たれた。ペンギンは近くの席で航海日誌を書く手を止めず、更には視線をローへ向けることすらしない。
「何で分かるんだ」
「実は千里眼なんです」
「あー、ペンギンって自分が居ない場所での話とかも分かるよねそういや」
「いやワカメ。嘘だから信じねぇでくれぇ?」
珈琲を飲んでいたワカメにあっさりと嘘だとばらし、そこでやっとペンギンが顔を上げた。
「前に言いましたよねぇ俺。手出しも口出しもしねぇし情報収集も何もしねぇって」
「だが情報は大事だろ」
「情報と計画に縛られて突発的なことに対応出来ねぇってのも駄目でしょう。情報は活用してこそですが、臨機応変だって大事です」
「戦略戦とかってオレ分かんねーわ」
「ワカメは戦略とか気にしねぇもんなぁ」
航海日誌を書くのに使っていたペンを手の中で回しながら、ペンギンが指を鳴らして白紙をテーブルの上へ広げた。いきなり紙が現れたことにワカメが驚いていたが、すぐにいつものハリセンと同じ類だと理解して納得している。
『炎』による幻覚だろうが、これだって本来は隠すべき力だろうに。
「貴方ではなく『ハートの海賊団』へ関わる情報はちゃんと報告したでしょう? ジョーカーと呼ばれている男に依頼されて、ベガバンクが発見したらしい血統因子を利用しての『人造悪魔の実』の材料、通称“SAD”の量産をしてるって」
「実際それで悪魔の実を造ってるからアレなんだけどさ、それで作れるのか不思議だよな」
「『俺』としては正直もの凄く困るんだけどなぁ。悪魔の実の因子を調べられるの」
「なんで?」
ペンギンは答えなかった。
「オレが知りたいのはそれじゃねえ。ジョーカーに辿り着く為の証拠だ」
「パンクハザードに潜入してから通信記録でも漁ればいいでしょうがぁ。物証は流石に用意したら色々突っ込まれるでしょう?」
「まず用意しようって思わないんじゃね?」
「最悪でっちあげてもいいですが、その場合何か代価でも貰わねぇとやる気出ません」
やる気でどうこうなる問題なのだろうかと思ったが、そこは黙っておく。相手は嘘か本当か数百年間世界政府を敵に回している男だ。
紙へ落書きなのか角の生えた樹のようなものを描いたペンギンは、その絵の近くに『シーザー』と書いてからペンを置いた。コレがパンクハザードへ居るシーザーを描いたものだとしたら、ローは一体どんな化物へ会いに行く事になるというのか。
「じゃあさ、ペンギンがパンクハザードへ潜入したらどうやるの?」
ワカメが何気なくした質問はローも少し気になった。ペンギンは腕を組んで少し考えてから口を開く。
「とりあえずどういう形でもいいから内部へ潜入するだろぉ? そしたらまず悪魔の実の材料となっているブツの成分を無効化させる。表面上は何も起こってない様に見せかけて時間と信用を稼いで、その間にやっぱり通信記録とかを探して物的証拠を手に入れる――くらいかなぁ」
「うん。軽々しく言ってるけどフツー無理だわ」
「あとはとりあえずシーザーを拷問してから殺して、研究所を完全に破壊すればいいのかなぁ? そうすりゃSADの生産は出来なくなるし作り方を知ってる奴も居なくなる。それからジョーカーと『SADの作り方を訊いている』とでも言って取引をしてもいいけど」
「だったらシーザーを捕まえてそのまま取引材料にすればいいだろうが」
「いやそこはご自由にどうぞぉ? 単に俺が人質とかとるのあまり好きじゃねぇってだけですしぃ」
なるほど。
「そもそも中途半端でまどろっこしい潜入作業ってどうなんです? どうせなら潜入だって楽しみてぇでしょう?」
「だからお前は何者なんだ」
「この船の副船長ですよ」
堂々と言うがその割には潜入捜査もやったことがあるとばかりの口ぶりに、ワカメが呆れつつも笑っている。ペンギンの正体を知らない相手にまで既に呆れられつつあるが、ペンギンは気にした様子も無い。
一度今までの経歴を聞いてみたいようなみたくないような、恐ろしい相手だ。もしかしたら『ただやったことがあるだけ』という話かもしれないし。
そうであったらいいとは思うものの、一筋縄ではいかない相手だと既に理解しているのでローは聞くのを止めた。ワカメが食堂の外から呼ばれて席を立つのを見送ってから、ローは代わりに違う事を尋ねてみる。
「じゃあペンギン。お前だったら四皇をどうやって潰す?」
「暗殺」
即答だった。
「何か勘違いしてません? 俺結構物騒な考えの持ち主ですよ?」
「それは知ってる」
というか言われずとも分かる。ローも世間では冷酷非道だ何だと言われているようだがコイツには負けるだろう。
テーブルへ腕を伸ばして突っ伏したペンギンがローを見た。面倒臭がっているような雰囲気だが、多分これはやる事が無くて暇なだけだろう。暇なら情報収集を手伝ってくれればいいのに。
「まぁ今回のケースは戦力増強を防ぐという利点もあるのでいいと思いますよ。でも俺一人だったらやらねぇ手だろうなぁ。実のところ船長にも勧めません」
「何でだ?」
「だって貴方弱ぇしぃ?」
はっきりと言い切られて無言で睨めば、ペンギンはテーブルの上で重ねた手の上へ顎を乗せて見返してくる。
「弱ぇからこそ情報を集めて万全を期しようってのは当然でしょう。単騎潜入ってのはそうやってやるモンじゃねぇでしょうしねぇ」
「……もう決めたんだ」
「だから勧めてねぇだけで反対も諦めたでしょうがぁ。第一俺が集めたとしてもその情報を何処まで信じる気なんです?」
「それは全部に決まってる。お前が嘘だのガセを持ってくるとは思ってない」
「あまり甘やかすと後で痛てぇ目に遭いますよ?」
「お前のハリセンより痛くなければいいな」
何とも言えない顔をするペンギンを持っていた鬼哭でつつく。鬱陶しげに払いのけるが怒りはしない。
むしろ少し照れている様子だった。
身体を起こしたペンギンが面倒そうに指を鳴らす。落書きされた紙が消えた。
「仕方ねぇなぁ。その信頼を代価に何か一つだけ情報をあげましょう」
「何でもいいのか?」
「ええ、どうぞぉ」