空白の二年間編2
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ロー視点
「はぁ、『ゾウ』ですか」
ローが船を降りた後、ハートの海賊団が潜伏してローが戻ってくるのを待つ場所として提案したのは、動く島『ゾウ』だった。
一説によれば千年前から海を歩き続けている巨大な象の背中らしいその島なら、ローが戻って来られずドフラミンゴがクルー達も始末しようとしても、そう簡単に手を出せないだろうと思ったからである。
『死告シャイタン』という正体を持つペンギンがいる時点でハートの皆はロー単独より安全な気もしなくもないが、保険は多い方がいいしペンギンがいくら強くとも全員を守れるとは限らない。ローの私情に巻き込んで無駄死にはさせたくなかった。
だから少しでも安全性の高そうな場所として提案したのである。
「あそこ嫌なんですよねぇ」
一応重要な話し合いということで現在船尾にはローを含め三人しか居なかった。欄干に寄りかかって座り、ココアを飲んでいた副船長のペンギンがどうでも良さげに呟くのに、その隣で欄干に寄りかかって煙草を吸っていた古参であるバンダナがペンギンを見下ろす。
まじめな話をする時は大抵この三人だ。
「なんで嫌なんだい?」
「ズニーシャの背中でしょう? あの子大きくなり過ぎて痛みをあんまり感じねぇとはいえ、出来るだけ踏みたくねぇんですよ」
「やさしいねえ」
「昔から可愛がってましたからねぇ」
「……昔から?」
ごく自然に言われたので流しそうになったが、聞き捨てならない表現が混じっていた。ペンギンは両手で抱えたマグカップを傾けながらローを見上げる。
「昔からですけど何かぁ?」
「それはないだろうが……千年前だろ?」
「大体千年前ですねぇ。俺と同じでぇ」
あっけらかんと何でもないことのように言い放ったペンギンに、バンダナの手から煙草が落ちた。
「……ペンちゃん。トシいくつだっけ?」
「今は二十四才です。でも『死告シャイタン』だって千年前から存在しているとされる賞金首でしょう?」
「いや、いやいやいや。計算が合わないとかそういう問題ですらないよね!?」
「まさか、不老不死、とか」
恐る恐る尋ねればペンギンの視線がローとバンダナへ向けられる。もし不老不死だなどと言い出したら、ローはそれこそペンギンを弾劾したい。
だがペンギンはロー達の緊張している雰囲気を感じても大して気にすることなく、マグカップを揺すって底へ残ったココアをかき混ぜていた。
「今は一応不老でも不死でもありませんよ。現に貴方達と出会ってから俺はちゃんと老けてるでしょう?」
「……不死かどうかは」
「試しに殺してみますか? 全力で反撃しますけど」
「……やめておく」
本当に死んだら困るし、そもそも反撃されて勝てると思えない。
「俺の事はどうでもいいんですよ。ゾウで待ち合わせるって話でしょう?」
「……うん。まぁペンちゃんの事は後で聞かせてもらうよ。で、えーとそれでいいんですかい船長?」
「……ああ」
なんだか締まりのない話し合いになってしまった。
「あ、でもペンちゃんがいればミンク族に襲われなくて済む感じかい?」
「ミンク族も知り合いが生きてれば話は通せると思いますけど、そもそもベポが居るし襲われることは無ぇんじゃねぇかなぁ」
話を変えようとバンダナがゾウへ住む者のことを話題にさせば、ペンギンが首を傾げる。自分より色々知っている二人だなとローは思ったが、もしかしたらローが知らなかっただけで意外と有名な話なのかも知れない。
だがバンダナも、その二人が口にしたミンク族とベポの関係は分からなかったらしく、ココアをまだ揺さぶっているペンギンを不思議そうに見た。
「動物だからかい?」
「ミンク族だからですけど?」
一瞬の沈黙。やっと最後の一口を飲むことにしたらしいペンギンがマグカップを傾け、ローとバンダナの様子に気付いて飲むのを中断する。
「どうしたんですか?」
「え、ベポがミンク族って、え?」
「あれ? 言ってませんでしたっけぇ?」
「アイツを拾ったのは違う島だろ」
「多分ゾウを出たミンク族の子供なんでしょう。その先で開発の虐殺にあってあの子だけが生き残った。そもそもただのシロクマが、人語発したり二足歩行したり拳法覚えると思ってたんですか?」
まるでこちらが悪いとばかりに聞き返してくるが、ペンギンなら教え込みかねないと思ったのは内緒だ。ローが思わず視線を逸らした先でバンダナも同じように視線を逸らしていた。
だがよく思い起こしてみれば疑問に思う為のヒントはあったのかもしれない。初めてベポを拾ってきた時、ペンギンは“人間の赤ん坊と同じに”ゲップを出させたほうがいいと注意していた。
ペンギンが自分の喉を押さえる。
「声帯も動物のそれより発達していますし、背骨や股関節の骨格も動物より人間のそれに近しいんです。知能は言わずもがな。でなけりゃ流石に俺だって航海術は教えません」
「……つまり、ベポははぐれミンク族ってことか?」
「はい」
「……ベポって、十年近くこの船に乗ってるんだけど?」
「まさか気付いて無かったんですか?」
「気付くかっ!」
怒鳴ったローはきっと悪くない。拾ったのはローなのに気付きもしなかったという事実はどうでも良かった。だが気付いていたなら言えよとかそういう事は思う訳で。
「ベポを見る目が変わりそうだよ、まったく……」
「ベポは知ってるのか?」
「どうでしょう。昔教えた気はするんですけど、小せぇ頃ですしぃ」
多分ベポは覚えていない。
「はぁ、『ゾウ』ですか」
ローが船を降りた後、ハートの海賊団が潜伏してローが戻ってくるのを待つ場所として提案したのは、動く島『ゾウ』だった。
一説によれば千年前から海を歩き続けている巨大な象の背中らしいその島なら、ローが戻って来られずドフラミンゴがクルー達も始末しようとしても、そう簡単に手を出せないだろうと思ったからである。
『死告シャイタン』という正体を持つペンギンがいる時点でハートの皆はロー単独より安全な気もしなくもないが、保険は多い方がいいしペンギンがいくら強くとも全員を守れるとは限らない。ローの私情に巻き込んで無駄死にはさせたくなかった。
だから少しでも安全性の高そうな場所として提案したのである。
「あそこ嫌なんですよねぇ」
一応重要な話し合いということで現在船尾にはローを含め三人しか居なかった。欄干に寄りかかって座り、ココアを飲んでいた副船長のペンギンがどうでも良さげに呟くのに、その隣で欄干に寄りかかって煙草を吸っていた古参であるバンダナがペンギンを見下ろす。
まじめな話をする時は大抵この三人だ。
「なんで嫌なんだい?」
「ズニーシャの背中でしょう? あの子大きくなり過ぎて痛みをあんまり感じねぇとはいえ、出来るだけ踏みたくねぇんですよ」
「やさしいねえ」
「昔から可愛がってましたからねぇ」
「……昔から?」
ごく自然に言われたので流しそうになったが、聞き捨てならない表現が混じっていた。ペンギンは両手で抱えたマグカップを傾けながらローを見上げる。
「昔からですけど何かぁ?」
「それはないだろうが……千年前だろ?」
「大体千年前ですねぇ。俺と同じでぇ」
あっけらかんと何でもないことのように言い放ったペンギンに、バンダナの手から煙草が落ちた。
「……ペンちゃん。トシいくつだっけ?」
「今は二十四才です。でも『死告シャイタン』だって千年前から存在しているとされる賞金首でしょう?」
「いや、いやいやいや。計算が合わないとかそういう問題ですらないよね!?」
「まさか、不老不死、とか」
恐る恐る尋ねればペンギンの視線がローとバンダナへ向けられる。もし不老不死だなどと言い出したら、ローはそれこそペンギンを弾劾したい。
だがペンギンはロー達の緊張している雰囲気を感じても大して気にすることなく、マグカップを揺すって底へ残ったココアをかき混ぜていた。
「今は一応不老でも不死でもありませんよ。現に貴方達と出会ってから俺はちゃんと老けてるでしょう?」
「……不死かどうかは」
「試しに殺してみますか? 全力で反撃しますけど」
「……やめておく」
本当に死んだら困るし、そもそも反撃されて勝てると思えない。
「俺の事はどうでもいいんですよ。ゾウで待ち合わせるって話でしょう?」
「……うん。まぁペンちゃんの事は後で聞かせてもらうよ。で、えーとそれでいいんですかい船長?」
「……ああ」
なんだか締まりのない話し合いになってしまった。
「あ、でもペンちゃんがいればミンク族に襲われなくて済む感じかい?」
「ミンク族も知り合いが生きてれば話は通せると思いますけど、そもそもベポが居るし襲われることは無ぇんじゃねぇかなぁ」
話を変えようとバンダナがゾウへ住む者のことを話題にさせば、ペンギンが首を傾げる。自分より色々知っている二人だなとローは思ったが、もしかしたらローが知らなかっただけで意外と有名な話なのかも知れない。
だがバンダナも、その二人が口にしたミンク族とベポの関係は分からなかったらしく、ココアをまだ揺さぶっているペンギンを不思議そうに見た。
「動物だからかい?」
「ミンク族だからですけど?」
一瞬の沈黙。やっと最後の一口を飲むことにしたらしいペンギンがマグカップを傾け、ローとバンダナの様子に気付いて飲むのを中断する。
「どうしたんですか?」
「え、ベポがミンク族って、え?」
「あれ? 言ってませんでしたっけぇ?」
「アイツを拾ったのは違う島だろ」
「多分ゾウを出たミンク族の子供なんでしょう。その先で開発の虐殺にあってあの子だけが生き残った。そもそもただのシロクマが、人語発したり二足歩行したり拳法覚えると思ってたんですか?」
まるでこちらが悪いとばかりに聞き返してくるが、ペンギンなら教え込みかねないと思ったのは内緒だ。ローが思わず視線を逸らした先でバンダナも同じように視線を逸らしていた。
だがよく思い起こしてみれば疑問に思う為のヒントはあったのかもしれない。初めてベポを拾ってきた時、ペンギンは“人間の赤ん坊と同じに”ゲップを出させたほうがいいと注意していた。
ペンギンが自分の喉を押さえる。
「声帯も動物のそれより発達していますし、背骨や股関節の骨格も動物より人間のそれに近しいんです。知能は言わずもがな。でなけりゃ流石に俺だって航海術は教えません」
「……つまり、ベポははぐれミンク族ってことか?」
「はい」
「……ベポって、十年近くこの船に乗ってるんだけど?」
「まさか気付いて無かったんですか?」
「気付くかっ!」
怒鳴ったローはきっと悪くない。拾ったのはローなのに気付きもしなかったという事実はどうでも良かった。だが気付いていたなら言えよとかそういう事は思う訳で。
「ベポを見る目が変わりそうだよ、まったく……」
「ベポは知ってるのか?」
「どうでしょう。昔教えた気はするんですけど、小せぇ頃ですしぃ」
多分ベポは覚えていない。