空白の二年間編2
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夢主視点
「修行、特訓……いい響きだと思いませんか? 密閉空間へ閉じ込めて、自力で出てこさせるっていう特訓をした奴を見たことあるんですけど、あの子はその中で先祖を見たという……」
「臨死体験だろそれ」
「ツナヨシの事なんですけどねぇ」
「あいつも苦労してるんだな」
特訓二日目。流石に『対連続バーソロミュー戦』はシルビが見ているのに飽きてしまったので、今日は自分も身体を動かすつもりで立っていたら船長に酷く警戒された。
酷い話なので船長へは絶対に言えないことだが、シルビはいわゆる修行や特訓と言えるものをした事が無い。今までの全てが実戦から得たものであったり、もしくは『大いなる全知の亜種』として最初から持っていたものだったりする。
筋力などはその後者で説明される最たるもので、他にも武器の扱い方などの知識も後者だ。
では前者の『実戦から得たもの』について言うと、咄嗟に思い付くのが【選択】である。
元はティキ・ミックという敵だった男が得意としていた能力で、シルビは主に海の上を歩いたり空中に立ったりする際に利用していた。海の場合は海水を、空中の場合は空気を『拒絶』選択することでその上へ立っているのである。
何回目かの転生の後に着想を得て、それから数ヶ月練習して殆どぶっつけ本番で成功させた。初めて使ったのが死者に引きずり込まれる湖の上だという辺り、今思うと他にも方法があった筈だ。
それはさておきこの【選択】能力。真髄は宙に立てることではない。
拾った木の棒で、船長を中心に砂の上へ巨大な丸を描く。流石に丸くらいはセンスも絵心もなく描けると思ったが、完成した丸は砂浜がデコボコであることを除いても歪だった。
「三角なんて描いてどうするんだ」
「……丸のつもりでした」
船長が何とも言えない顔をして砂浜へ描かれた丸を見る。
「この丸は船長が今作り出せる“ROOM”の範囲より一メートル大きく書いてあります。で、俺は今からこの丸の範囲内を真空状態にします」
「なっ――」
「どうしてそんな事が出来んだとか、そういう事は聞かねぇでくださいね? コレばっかりはそうですねぇ……『死告シャイタン』だからってことでぇ」
「不老不死の次は悪魔の実の能力者でもねえのに使える能力、か」
「そんなの『炎』の時点で分かってたでしょう?」
左手を前へ突き出すように伸ばした。ソレを見て船長が身構える。
真空状態になれば人は息が出来ないどころか、気圧の変化に耐え切れず潰れてしまう危険性もあった。だが船長のオペオペの実の能力である“ROOM”は、その囲んだ空間を自分の意思であるがままに出来るようにするものだ。当然その中でなら空間の主である船長は呼吸が出来る筈である。
つまり息が出来なくなる前に、自身を守るバリアを作る特訓とでもいうべきか。
「臨死体験はお勧めしません」
「勧められても困る」
真空状態の中で自分の意思であるがままに出来る“ROOM”を作り上げる。しかしそのままでは普通の大気と作り上げた空間の間に真空状態の隔たりが残っていた。
隔たりをそのままにしておけば、やがて“ROOM”内の空気が無くなったとしても真空状態の隔たりによって空気の供給が出来ず、窒息してしまうという結末は変わらない。それを打開する為には、真空状態になっている場を凌駕する程の空間を作り上げ、真空状態の場を消滅させる。
ギリギリといった様子で“ROOM”を発動させた船長が、一度窒息しかけた呼吸を整えてからシルビの足元へ引かれている線と自分が作り上げている空間との距離を測っていた。
三角かと言われてしまった歪な丸に沿って、砂浜の砂が消滅している。真空状態を作り上げた余波だ。
「……後で直さねぇとなぁ。面倒臭せぇ」
そう呟くシルビも辛い。普段は水の上や宙を歩くのにしか使っていない能力で、出来ると分かっていても真空状態を作り上げる事など慣れていなかった。
使い慣れていない能力は慣れるまで脳や身体に負担が掛かる。宙に立てるようになった時は確か激しい頭痛だったなと思い出した。
「失敗だなぁ。一日一回が限度……いや、俺も慣れりゃいいのかぁ」
大体にして今現在、声を出す為に『×××』の力も使っている。能力の重複は死ぬ気の炎でも疲れるのだが、長く生きてきた訳だしそろそろシルビ自身も慣れるべきなのかも知れない。
しかし今まで必要が無かったのも確かで、シルビは然程『強くなる』事へ執着していなかった。むしろ強くなんてならなくていい。
守れる程度の強さだけあればいいと思う。シルビが欲しいと思うものは、もっと違うものだ。
膜の内側で船長が試行錯誤している。それを眺めていると隣に立っていたロシナンテが不意に身を屈めて顔を覗きこんできた。
大丈夫だ、と言おうとして声が出ない事に気付く。同時に視界が霞んだ。
作り上げられていた真空状態の空間が霧散するように消滅するのに、その中心地へいた船長が訝しげにシルビを見た辺りで、ロシナンテが慌てて咄嗟にといった様子で手を差し出してくる。当然それは今シルビへ触れることが出来ないものだが、シルビもシルビで縋るように手を伸ばしてしまう。
よろけて膝を突いて、口を押さえて吐くのは堪えた。
「ペンギン!」
「……っ……」
頭の何処かでは、なるほど慣れない力を使い過ぎるとこうなるのかと思っている。スケッチブックは木陰の岩の上だ。仕方無しに砂へ指で文字を書いていく。
【力を使いすぎた】
船長が駆け寄ってくるのに、次はどんな方法が特訓に相応しいのか考えていた。
「修行、特訓……いい響きだと思いませんか? 密閉空間へ閉じ込めて、自力で出てこさせるっていう特訓をした奴を見たことあるんですけど、あの子はその中で先祖を見たという……」
「臨死体験だろそれ」
「ツナヨシの事なんですけどねぇ」
「あいつも苦労してるんだな」
特訓二日目。流石に『対連続バーソロミュー戦』はシルビが見ているのに飽きてしまったので、今日は自分も身体を動かすつもりで立っていたら船長に酷く警戒された。
酷い話なので船長へは絶対に言えないことだが、シルビはいわゆる修行や特訓と言えるものをした事が無い。今までの全てが実戦から得たものであったり、もしくは『大いなる全知の亜種』として最初から持っていたものだったりする。
筋力などはその後者で説明される最たるもので、他にも武器の扱い方などの知識も後者だ。
では前者の『実戦から得たもの』について言うと、咄嗟に思い付くのが【選択】である。
元はティキ・ミックという敵だった男が得意としていた能力で、シルビは主に海の上を歩いたり空中に立ったりする際に利用していた。海の場合は海水を、空中の場合は空気を『拒絶』選択することでその上へ立っているのである。
何回目かの転生の後に着想を得て、それから数ヶ月練習して殆どぶっつけ本番で成功させた。初めて使ったのが死者に引きずり込まれる湖の上だという辺り、今思うと他にも方法があった筈だ。
それはさておきこの【選択】能力。真髄は宙に立てることではない。
拾った木の棒で、船長を中心に砂の上へ巨大な丸を描く。流石に丸くらいはセンスも絵心もなく描けると思ったが、完成した丸は砂浜がデコボコであることを除いても歪だった。
「三角なんて描いてどうするんだ」
「……丸のつもりでした」
船長が何とも言えない顔をして砂浜へ描かれた丸を見る。
「この丸は船長が今作り出せる“ROOM”の範囲より一メートル大きく書いてあります。で、俺は今からこの丸の範囲内を真空状態にします」
「なっ――」
「どうしてそんな事が出来んだとか、そういう事は聞かねぇでくださいね? コレばっかりはそうですねぇ……『死告シャイタン』だからってことでぇ」
「不老不死の次は悪魔の実の能力者でもねえのに使える能力、か」
「そんなの『炎』の時点で分かってたでしょう?」
左手を前へ突き出すように伸ばした。ソレを見て船長が身構える。
真空状態になれば人は息が出来ないどころか、気圧の変化に耐え切れず潰れてしまう危険性もあった。だが船長のオペオペの実の能力である“ROOM”は、その囲んだ空間を自分の意思であるがままに出来るようにするものだ。当然その中でなら空間の主である船長は呼吸が出来る筈である。
つまり息が出来なくなる前に、自身を守るバリアを作る特訓とでもいうべきか。
「臨死体験はお勧めしません」
「勧められても困る」
真空状態の中で自分の意思であるがままに出来る“ROOM”を作り上げる。しかしそのままでは普通の大気と作り上げた空間の間に真空状態の隔たりが残っていた。
隔たりをそのままにしておけば、やがて“ROOM”内の空気が無くなったとしても真空状態の隔たりによって空気の供給が出来ず、窒息してしまうという結末は変わらない。それを打開する為には、真空状態になっている場を凌駕する程の空間を作り上げ、真空状態の場を消滅させる。
ギリギリといった様子で“ROOM”を発動させた船長が、一度窒息しかけた呼吸を整えてからシルビの足元へ引かれている線と自分が作り上げている空間との距離を測っていた。
三角かと言われてしまった歪な丸に沿って、砂浜の砂が消滅している。真空状態を作り上げた余波だ。
「……後で直さねぇとなぁ。面倒臭せぇ」
そう呟くシルビも辛い。普段は水の上や宙を歩くのにしか使っていない能力で、出来ると分かっていても真空状態を作り上げる事など慣れていなかった。
使い慣れていない能力は慣れるまで脳や身体に負担が掛かる。宙に立てるようになった時は確か激しい頭痛だったなと思い出した。
「失敗だなぁ。一日一回が限度……いや、俺も慣れりゃいいのかぁ」
大体にして今現在、声を出す為に『×××』の力も使っている。能力の重複は死ぬ気の炎でも疲れるのだが、長く生きてきた訳だしそろそろシルビ自身も慣れるべきなのかも知れない。
しかし今まで必要が無かったのも確かで、シルビは然程『強くなる』事へ執着していなかった。むしろ強くなんてならなくていい。
守れる程度の強さだけあればいいと思う。シルビが欲しいと思うものは、もっと違うものだ。
膜の内側で船長が試行錯誤している。それを眺めていると隣に立っていたロシナンテが不意に身を屈めて顔を覗きこんできた。
大丈夫だ、と言おうとして声が出ない事に気付く。同時に視界が霞んだ。
作り上げられていた真空状態の空間が霧散するように消滅するのに、その中心地へいた船長が訝しげにシルビを見た辺りで、ロシナンテが慌てて咄嗟にといった様子で手を差し出してくる。当然それは今シルビへ触れることが出来ないものだが、シルビもシルビで縋るように手を伸ばしてしまう。
よろけて膝を突いて、口を押さえて吐くのは堪えた。
「ペンギン!」
「……っ……」
頭の何処かでは、なるほど慣れない力を使い過ぎるとこうなるのかと思っている。スケッチブックは木陰の岩の上だ。仕方無しに砂へ指で文字を書いていく。
【力を使いすぎた】
船長が駆け寄ってくるのに、次はどんな方法が特訓に相応しいのか考えていた。