空白の二年間編2
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ワカメ視点
『船長が途中でいなくなったりしたら、どうする?』
見張りの交代の為に甲板へ出れば、今日は月が無いのか星が綺麗だった。寒さ対策の外套で首周りから冷気が入らないようにして見張り台へと昇れば、ワカメの前に当番だったペンギンが珍しく煙草を吸っている。
「煙草吸うんだ?」
【滅多には吸わない】
他にも誰かに聞かれたのか既にスケッチブックへ書かれていた言葉を示して、ペンギンは紫煙を吐き出した。
数時間前に、船長が四皇を倒す為に一人で船を降りて土台造りをしにいくと告げたのだ。詳しい説明も受けたけれど、ワカメには船長がいなくなるという衝撃の方が強くて殆ど覚えていない。確か四皇を倒す前にその兵力を壊滅させるんだとか言っていた気がする。
泣いて嫌がるベポやシャチを眺めながら、分からなくても後でペンギン辺りに聞けば説明してくれるだろうと思って、ワカメはそのペンギンがいないことに気付いた。食堂を見回しても姿が無い。
「ペンギンは?」
「ペンちゃんなら見張り当番だよ」
「聞かなくていいの?」
「ペンちゃんやオレは、先に聞かされてたからね」
頬杖を突いてつまらなさそうにしていたバンダナを覚えている。つまらなさそうと言うより、バンダナも船長の宣言に納得がいっていないという風だった。
バンダナがそうであるならペンギンなんてもっと反対しているんじゃないかと思ったが、バンダナによるとペンギンはバンダナより先に許可したらしい。むしろこの発表はペンギンが許可したからこそだとも言う。
文句を言いはしても船長の決定は絶対だ。だからシャチもベポも、未だに文句を言ったり船長を恨んだりしているが、既に決まった事として受け入れ始めている。ワカメだってその話の後にイルカやジャンバール達と話して、漠然と『ああもうこれは覆らないんだな』と受け入れ始めた。
それから気になったのがやはりペンギンの事だったのは、ワカメにとってペンギンがこの船で二番目に大事な者だからだろう。
ワカメを助けてくれたくれたのはペンギンだった。船長よりも早く、ワカメに手を差し伸べてくれたのは、ペンギンだ。
ギリギリまで燃え尽きた煙草を座っている傍に置いていた灰皿でもみ消す。それから見張りの交代をするでもなく箱から取り出して次の煙草へ火を点けたペンギンに、ワカメは隣に座って膝を抱えた。
【煙かったらごめん】
「平気だよ。バンダナより酷くないし」
スケッチブックを引っ張り寄せて書かれた言葉がランタンの灯りに照らされる。ペンギンが片手に持ったままの煙草の箱には、あと一本しかない。
「ペンギンも煙草吸うんだな」
【お供えみたいなものだから】
「お供え? 誰に?」
【十数年前に死んだ知り合い。愛用の煙草だったらしくて】
つまりその知り合いが愛用していた煙草を見つけて、久しぶりに偲ぶ為に吸っているのだろう。そういう気遣いについてはワカメには知識が無い。両親は死んでいるが貧乏だったので嗜好品も無かったからだ。
他に知り合いという知り合いもワカメにはまともにいないが、ハートの海賊団になる前は一人旅をしていたというペンギンは、きっとワカメよりも多くの知り合いが居る。なら船長一人が居なくなることくらい平気なのだろうか、とか。
「思ったりするワケデスヨペンギンさん」
【何故に片言?】
煙草を咥えて首をかしげたペンギンにワカメも真似して首を傾ける。ペンギンはそんなワカメを見たまま紫煙を吐き出し、スケッチブックへ文字を綴った。
【別に船長が降りることを、どうでもいいとか思ってないよ】
「なんで分かんの……」
【でもエースの処刑の時とルフィ君のことであの人には借りがあったし、一応船長だって一番良い方法を模索してああ言ったんだと思ったら、頭ごなしに否定は出来ない】
頂上戦争の後、麦わらのルフィの為にペンギンが一ヶ月近く船を降りた時のことを思い出す。実際は一ヶ月も掛けずに戻ってきたけれど、潜水していた船にどうやって戻ってきたのか今でも謎だ。
あの一ヶ月の間ペンギンが何をしていたのかは知らない。どうして船を降りたのかもワカメは知らなかった。だがごく『個人的な理由』だったとは聞いている。
その時のことを『借り』といって、今船長が船を降りることに付随して言うのなら、今回船長が降りるのもペンギンの時と同じ『個人的な理由』はあるんじゃないかとワカメには思えた。
四皇を倒すとか言っていたけれど、きっとそれ以外にも理由がある。
「ペンギンはさ、寂しくない?」
【何が】
「船長が船を降りちゃうことが」
オレは寂しいよ、と続ければペンギンは少し考えるように動きを止めてから、スケッチブックへ書いていく。
【前にワカメ、『船長が途中でいなくなったりしたら、どうする?』って聞いてきた事があったな】
「あ、うん」
【その『いなくなったら』ってのが、『どこから』なのかが分からなかったから、答えなかったんだけど】
どこから、だなんてワカメも特に想定していなかった。ただ漠然とワカメ達の前からいなくなったらという感じだったが、ペンギンはもっと細かく考えていたらしい。
言われてそれが『死んだら』という意味にも取れる事に気付いた。
【五体不満足でも、死なないで戻ってきてくれたらそれでいいかなって。どんな形であれ戻ってきてくれればいいと思う。俺はおいていかれるのが好きじゃないし誰かが迎えに来てくれた事も無いし、最悪戻ってきてくれないなら迎えに行く】
「……迎えに行くの」
【昔言われたことだけれど、俺は『寂しがりや』で一度親しくなった人との別れが怖い。一度受け入れた存在の喪失も怖い。その最たる『死別』が一番怖かった】
ペンギンでも怖いものがあるのかと思った。
【でも誰も俺を置いていってくれてないから、今じゃ死別さえ怖くなくなった】
「それもどうなの」
【死んでも忘れなければいいって、忘れ去られなけりゃいいって、知ってる】
そう書いて暗い海を眺めたペンギンが、更にスケッチブックへ書き足す。
【捨てる神あれば拾う神あり。でも俺は博愛主義で何も捨てられやしない。誰かが捨てたものだって好んで拾うし、俺が何かを捨てる事は無い】
言い切ったペンギンにゴミは捨てるだろと思いもしたが、そうして『拾われた』一人であるワカメにはそれを指摘出来なかった。多分今でもペンギンはワカメが捨てられていたら拾ってくれるのだろう。かつて妹に捨てられたワカメをそうしてくれたように。
捨てる、といったら言い過ぎだろうけれど、離れた場所へ行ってしまったとしてもペンギンは迎えにいくつもりらしい。だから船長が船を降りる事も認めた。
心配はするし最悪迎えに行くのだと決めていても、戻ってくると信頼してもいるから。
「ペンギンってさ、男前だよな」
【そう?】
「うん。いつもお母さんお母さん言うけど男前」
【言っておくけどソレ毎回結構傷付いてるからな?】
煙草を咥えてスケッチブックをワカメへ見せながらペンギンが軽く睨んできた。だがすぐに浮かべられた笑みに大して怒っていない事も分かる。
船内へ戻るのかスケッチブックを脇に挟み灰皿を持って立ち上がったペンギンに、おやすみと言って見張り台を降りやすい様に場所を空けた。片手で器用に梯子を降りていったペンギンが船内へ戻っていくのを眺めてから、ワカメは外套を羽織りなおす。
捨てる神あれば拾う神あり。そうして『拾われた』ワカメだから分かった事だろうが、ペンギンも船長が船を降りることを寂しいと思っている。しかしペンギンはハートの船のことも大事だから、船長と一緒に船を置いていったりはしない。出来ない。
捨てる事が出来ないというのは、置いていく事もできないと言うことではないけれど。
「……男前だけどやっぱりオカンだよなあ」
『船長が途中でいなくなったりしたら、どうする?』
見張りの交代の為に甲板へ出れば、今日は月が無いのか星が綺麗だった。寒さ対策の外套で首周りから冷気が入らないようにして見張り台へと昇れば、ワカメの前に当番だったペンギンが珍しく煙草を吸っている。
「煙草吸うんだ?」
【滅多には吸わない】
他にも誰かに聞かれたのか既にスケッチブックへ書かれていた言葉を示して、ペンギンは紫煙を吐き出した。
数時間前に、船長が四皇を倒す為に一人で船を降りて土台造りをしにいくと告げたのだ。詳しい説明も受けたけれど、ワカメには船長がいなくなるという衝撃の方が強くて殆ど覚えていない。確か四皇を倒す前にその兵力を壊滅させるんだとか言っていた気がする。
泣いて嫌がるベポやシャチを眺めながら、分からなくても後でペンギン辺りに聞けば説明してくれるだろうと思って、ワカメはそのペンギンがいないことに気付いた。食堂を見回しても姿が無い。
「ペンギンは?」
「ペンちゃんなら見張り当番だよ」
「聞かなくていいの?」
「ペンちゃんやオレは、先に聞かされてたからね」
頬杖を突いてつまらなさそうにしていたバンダナを覚えている。つまらなさそうと言うより、バンダナも船長の宣言に納得がいっていないという風だった。
バンダナがそうであるならペンギンなんてもっと反対しているんじゃないかと思ったが、バンダナによるとペンギンはバンダナより先に許可したらしい。むしろこの発表はペンギンが許可したからこそだとも言う。
文句を言いはしても船長の決定は絶対だ。だからシャチもベポも、未だに文句を言ったり船長を恨んだりしているが、既に決まった事として受け入れ始めている。ワカメだってその話の後にイルカやジャンバール達と話して、漠然と『ああもうこれは覆らないんだな』と受け入れ始めた。
それから気になったのがやはりペンギンの事だったのは、ワカメにとってペンギンがこの船で二番目に大事な者だからだろう。
ワカメを助けてくれたくれたのはペンギンだった。船長よりも早く、ワカメに手を差し伸べてくれたのは、ペンギンだ。
ギリギリまで燃え尽きた煙草を座っている傍に置いていた灰皿でもみ消す。それから見張りの交代をするでもなく箱から取り出して次の煙草へ火を点けたペンギンに、ワカメは隣に座って膝を抱えた。
【煙かったらごめん】
「平気だよ。バンダナより酷くないし」
スケッチブックを引っ張り寄せて書かれた言葉がランタンの灯りに照らされる。ペンギンが片手に持ったままの煙草の箱には、あと一本しかない。
「ペンギンも煙草吸うんだな」
【お供えみたいなものだから】
「お供え? 誰に?」
【十数年前に死んだ知り合い。愛用の煙草だったらしくて】
つまりその知り合いが愛用していた煙草を見つけて、久しぶりに偲ぶ為に吸っているのだろう。そういう気遣いについてはワカメには知識が無い。両親は死んでいるが貧乏だったので嗜好品も無かったからだ。
他に知り合いという知り合いもワカメにはまともにいないが、ハートの海賊団になる前は一人旅をしていたというペンギンは、きっとワカメよりも多くの知り合いが居る。なら船長一人が居なくなることくらい平気なのだろうか、とか。
「思ったりするワケデスヨペンギンさん」
【何故に片言?】
煙草を咥えて首をかしげたペンギンにワカメも真似して首を傾ける。ペンギンはそんなワカメを見たまま紫煙を吐き出し、スケッチブックへ文字を綴った。
【別に船長が降りることを、どうでもいいとか思ってないよ】
「なんで分かんの……」
【でもエースの処刑の時とルフィ君のことであの人には借りがあったし、一応船長だって一番良い方法を模索してああ言ったんだと思ったら、頭ごなしに否定は出来ない】
頂上戦争の後、麦わらのルフィの為にペンギンが一ヶ月近く船を降りた時のことを思い出す。実際は一ヶ月も掛けずに戻ってきたけれど、潜水していた船にどうやって戻ってきたのか今でも謎だ。
あの一ヶ月の間ペンギンが何をしていたのかは知らない。どうして船を降りたのかもワカメは知らなかった。だがごく『個人的な理由』だったとは聞いている。
その時のことを『借り』といって、今船長が船を降りることに付随して言うのなら、今回船長が降りるのもペンギンの時と同じ『個人的な理由』はあるんじゃないかとワカメには思えた。
四皇を倒すとか言っていたけれど、きっとそれ以外にも理由がある。
「ペンギンはさ、寂しくない?」
【何が】
「船長が船を降りちゃうことが」
オレは寂しいよ、と続ければペンギンは少し考えるように動きを止めてから、スケッチブックへ書いていく。
【前にワカメ、『船長が途中でいなくなったりしたら、どうする?』って聞いてきた事があったな】
「あ、うん」
【その『いなくなったら』ってのが、『どこから』なのかが分からなかったから、答えなかったんだけど】
どこから、だなんてワカメも特に想定していなかった。ただ漠然とワカメ達の前からいなくなったらという感じだったが、ペンギンはもっと細かく考えていたらしい。
言われてそれが『死んだら』という意味にも取れる事に気付いた。
【五体不満足でも、死なないで戻ってきてくれたらそれでいいかなって。どんな形であれ戻ってきてくれればいいと思う。俺はおいていかれるのが好きじゃないし誰かが迎えに来てくれた事も無いし、最悪戻ってきてくれないなら迎えに行く】
「……迎えに行くの」
【昔言われたことだけれど、俺は『寂しがりや』で一度親しくなった人との別れが怖い。一度受け入れた存在の喪失も怖い。その最たる『死別』が一番怖かった】
ペンギンでも怖いものがあるのかと思った。
【でも誰も俺を置いていってくれてないから、今じゃ死別さえ怖くなくなった】
「それもどうなの」
【死んでも忘れなければいいって、忘れ去られなけりゃいいって、知ってる】
そう書いて暗い海を眺めたペンギンが、更にスケッチブックへ書き足す。
【捨てる神あれば拾う神あり。でも俺は博愛主義で何も捨てられやしない。誰かが捨てたものだって好んで拾うし、俺が何かを捨てる事は無い】
言い切ったペンギンにゴミは捨てるだろと思いもしたが、そうして『拾われた』一人であるワカメにはそれを指摘出来なかった。多分今でもペンギンはワカメが捨てられていたら拾ってくれるのだろう。かつて妹に捨てられたワカメをそうしてくれたように。
捨てる、といったら言い過ぎだろうけれど、離れた場所へ行ってしまったとしてもペンギンは迎えにいくつもりらしい。だから船長が船を降りる事も認めた。
心配はするし最悪迎えに行くのだと決めていても、戻ってくると信頼してもいるから。
「ペンギンってさ、男前だよな」
【そう?】
「うん。いつもお母さんお母さん言うけど男前」
【言っておくけどソレ毎回結構傷付いてるからな?】
煙草を咥えてスケッチブックをワカメへ見せながらペンギンが軽く睨んできた。だがすぐに浮かべられた笑みに大して怒っていない事も分かる。
船内へ戻るのかスケッチブックを脇に挟み灰皿を持って立ち上がったペンギンに、おやすみと言って見張り台を降りやすい様に場所を空けた。片手で器用に梯子を降りていったペンギンが船内へ戻っていくのを眺めてから、ワカメは外套を羽織りなおす。
捨てる神あれば拾う神あり。そうして『拾われた』ワカメだから分かった事だろうが、ペンギンも船長が船を降りることを寂しいと思っている。しかしペンギンはハートの船のことも大事だから、船長と一緒に船を置いていったりはしない。出来ない。
捨てる事が出来ないというのは、置いていく事もできないと言うことではないけれど。
「……男前だけどやっぱりオカンだよなあ」