原作前日常編
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ロー視点
「ここに腕の立つ医者が居るって話だが、お前のことか?」
「……。眼の下の隈消してっから出直して来いぃ」
ローの問いへ無下にも無い言葉を返して、この島唯一の『医者』らしい男は棚へと視線を戻した。
村人から聞いた話では『男』だそうだが、背中へ流れる長い黒髪や先程見た顔からして、女だと言われていればそれを信じていたであろう。背もそう高くないし、身体のラインも着ている白衣のせいで隠されている。
「これは生まれつきだ」
「ここに医者は居ねぇよ」
今度は振り返ることすらせずに答えた。だが一応話をするつもりはあるらしいので、ローは勝手に屋内へと入り傍にあった椅子へ腰を降ろす。
「医者は居ねェってんなら、お前は何だ?」
「俺は『薬師』だぁ。医者の真似事をするだけの知識はあるかもしれねぇが、明確に『医者』を名乗るつもりは無ぇ」
男はそう言って棚の小瓶を幾つか選び出し、机を挟んで向かいの席へ座った。ローが居ても大して気にすることも無く作業を続けるその様子は、外科医であって薬についてはまだ知識不足なところのあるローでも惚れ惚れするほど手際がいい。
器に移した軟膏の表面に一筋の皺も無く、かといって側面に塗り斑が付くことも無く。この世界では滅多にお目にかかれない移し方をする。分配だって秤を使いはするものの、大抵一回で目的の分量を取っていた。
思わず熱中してその手の動きを眺めていれば、やがて男が手を止めて傍の羊皮紙へ何かを書き込んだ。それから立ち上がって隣の部屋へ消えたかと思えば、暫くしてお茶を二つ淹れて戻ってくる。
もしかせずともローの分らしいそれに、ローは此処へやって来た理由を思い出し、再び向かいへ座り羊皮紙を手に眺めている男を見た。
男は未だに何の用かとも聞いてこないが、お茶を出してきたからにはローの相手をするつもりはあるのだろう。
「名前は?」
「名前を聞く時は自分からだろぉ」
「トラファルガー・ロー」
男はそれを聞いて一瞬、何かを訝しむ様にローを見たがすぐにまた視線を戻してしまった。
「シルビ。姓はあるがあまり名乗ったことは無ぇ」
「なんでここで薬師をやってる?」
「俺がこの島に来た頃に、ここの医者が心臓発作で倒れて三つ隣の島へ運ばれたんだぁ。んで、医者が居なくなって困ってたから、薬の処方だけのつもりでここにいたらいつの間にか『医者』にされたんだぁ」
「『医者』と呼ばれんのは嫌か?」
「……『医者』はいいが『女医』扱いが気に食わねぇ」
「ふっ……」
噴き出しそうになって噛み殺せば、それでも分かったのか羊皮紙から目を上げて睨まれる。
シルビは濃い紫の目をしていた。朝焼けと夕焼けを混ぜ合わせたかのような不思議な色合いだ。
「さっきから妙な質問ばっかりしてくるが、薬に用が無ぇなら帰りなさい」
「薬はいらない」
「茶を出して損したなぁ。場所を借りてるだけで茶葉は俺の自腹だぞぉ」
「それは悪かったな」
「近辺住民の集会所にするつもりも無ぇ。用が無ぇならさっさと」
「用ならある」
訝しげにシルビが顔を上げた。
「お前、オレの船に乗らねェか?」
「……あ?」
「ここに腕の立つ医者が居るって話だが、お前のことか?」
「……。眼の下の隈消してっから出直して来いぃ」
ローの問いへ無下にも無い言葉を返して、この島唯一の『医者』らしい男は棚へと視線を戻した。
村人から聞いた話では『男』だそうだが、背中へ流れる長い黒髪や先程見た顔からして、女だと言われていればそれを信じていたであろう。背もそう高くないし、身体のラインも着ている白衣のせいで隠されている。
「これは生まれつきだ」
「ここに医者は居ねぇよ」
今度は振り返ることすらせずに答えた。だが一応話をするつもりはあるらしいので、ローは勝手に屋内へと入り傍にあった椅子へ腰を降ろす。
「医者は居ねェってんなら、お前は何だ?」
「俺は『薬師』だぁ。医者の真似事をするだけの知識はあるかもしれねぇが、明確に『医者』を名乗るつもりは無ぇ」
男はそう言って棚の小瓶を幾つか選び出し、机を挟んで向かいの席へ座った。ローが居ても大して気にすることも無く作業を続けるその様子は、外科医であって薬についてはまだ知識不足なところのあるローでも惚れ惚れするほど手際がいい。
器に移した軟膏の表面に一筋の皺も無く、かといって側面に塗り斑が付くことも無く。この世界では滅多にお目にかかれない移し方をする。分配だって秤を使いはするものの、大抵一回で目的の分量を取っていた。
思わず熱中してその手の動きを眺めていれば、やがて男が手を止めて傍の羊皮紙へ何かを書き込んだ。それから立ち上がって隣の部屋へ消えたかと思えば、暫くしてお茶を二つ淹れて戻ってくる。
もしかせずともローの分らしいそれに、ローは此処へやって来た理由を思い出し、再び向かいへ座り羊皮紙を手に眺めている男を見た。
男は未だに何の用かとも聞いてこないが、お茶を出してきたからにはローの相手をするつもりはあるのだろう。
「名前は?」
「名前を聞く時は自分からだろぉ」
「トラファルガー・ロー」
男はそれを聞いて一瞬、何かを訝しむ様にローを見たがすぐにまた視線を戻してしまった。
「シルビ。姓はあるがあまり名乗ったことは無ぇ」
「なんでここで薬師をやってる?」
「俺がこの島に来た頃に、ここの医者が心臓発作で倒れて三つ隣の島へ運ばれたんだぁ。んで、医者が居なくなって困ってたから、薬の処方だけのつもりでここにいたらいつの間にか『医者』にされたんだぁ」
「『医者』と呼ばれんのは嫌か?」
「……『医者』はいいが『女医』扱いが気に食わねぇ」
「ふっ……」
噴き出しそうになって噛み殺せば、それでも分かったのか羊皮紙から目を上げて睨まれる。
シルビは濃い紫の目をしていた。朝焼けと夕焼けを混ぜ合わせたかのような不思議な色合いだ。
「さっきから妙な質問ばっかりしてくるが、薬に用が無ぇなら帰りなさい」
「薬はいらない」
「茶を出して損したなぁ。場所を借りてるだけで茶葉は俺の自腹だぞぉ」
「それは悪かったな」
「近辺住民の集会所にするつもりも無ぇ。用が無ぇならさっさと」
「用ならある」
訝しげにシルビが顔を上げた。
「お前、オレの船に乗らねェか?」
「……あ?」