空白の二年間編2
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夢主視点
「船長と副船長が同時に船を降りるっていうのも、毎回どうかと思うんですがねぇ」
「ウチのクルーは優秀だ。問題ないだろ」
レッドラインの近くにある新海軍本部は、元々『海軍グランドライン第一支部』のあった場所だが、頂上戦争終結後の新元帥就任によって元の海軍本部と入れ替わる形で移籍したらしい。シャボンディ諸島と同じくシャボン玉が発生する土地だが、旧海軍本部と変わらず和風の建築様式が並んでいる。
とはいえそんなにマジマジと眺めている事は出来なかった。寄り道どころか僅かなりとも立ち止まる事は許さないぞとばかりに整列している海兵の壁が、シルビへ観光で来たのではないと実感させてくる。
七武海就任前の召喚へ赴くに辺り、船長のお供として選ばれたのは結局いつもの通りシルビだった。他のクルー達は海兵が見張る港で、船の中で留守番である。
それはそれで窮屈な思いをしているのではと考えるも、付いて行くことを拒んだのだから仕方が無い。後で何処かの島で気分転換でもさせればいいだろうと、この召喚の後の予定を立てていれば、肩に海軍のコートを羽織った男性が出迎えるように立っていた。
「おお~、わざわざ来てもらって悪いねえ~」
防寒帽を被っていて本気で良かったと船長の斜め後ろで思う。食えない笑みを浮かべる黄色いスーツ姿には見覚えがあった。
「わざわざ大将の出迎えとはな」
「う~ん。わっしもそう思うよ~。ところで後ろの彼はお連れかな~?」
大将『黄猿』がサングラス越しにシルビを見る。
頂上戦争直後にセンゴクの元へ行った時、彼の悪魔の実による攻撃を避けた覚えがあるのだが、その時シルビは『死告シャイタン』の格好ではあった。だから今の防寒帽とツナギの姿で同一人物と気付かれる可能性は低いと思いたい。
やはり仮面も付けてくれば良かったかなと思いつつ、最低限の礼儀を守るように頭を下げる。それを見た黄猿の視線が船長へ戻った。
「『ペンギン』だ。護衛みたいなもんだ」
「護衛が必要、ねぇ~」
「オレが、コイツの護衛だ。下手に船へ残しておけないんでな」
不敵に笑う船長になんて言い様だと思うものの、海軍の対応次第ではそれも間違いではないのかと納得する。船長の言葉をどう受け取ったのか黄猿はシルビを観察して僅かに目を眇めた後、どうでもよさを装って踵を返した。一瞬風を感じた気もする。
簡単に『海賊』へ背中を向けていいのかと思ったが、それだけ自信があるのだろう。シルビには攻撃を避けられたくせに。
それに周囲には海兵がいる。下手に動けばその途端七武海の称号は無かった事になるし、黄猿が倒せてもその海兵達による妨害があるだろう。
第八の炎を使えばそれら全てが無意味だが。
大将黄猿直々に案内された部屋にも海兵が配置されていた。まるで一挙一動を見張っているぞと思わせるそれは、シルビの予想で間違ってはいない。
間違ってはいないのだろうが、それはそれで今度は立ち振る舞いといった敵意ではないものが気になってくる。
椅子へ座った船長の斜め後ろへ立ったままでいても、予定になかった同行者であるシルビの分の椅子が用意される事はない。『死告シャイタン』として来ていたら構わず船長が座っている椅子の背もたれにでも昇って座っていただろう。
別に帰るまで立っていても構わないのだが、そうやって椅子を用意しないところなどに海軍の浅ましさが現れているようで。思わず苦笑を漏らせば船長が口角を上げながら振り返った。
「座りたいか?」
「貴方が座れと言うのなら」
冗談で言えば壁際へ立っている海兵が瞠目する。兵士の癖にそんな表情を露わにしてしまっていいのだろうかと疑問に思うが、少し考えれば分かるがここは“壁の中の世界”とは随分違っているので、あの世界のように厳格ではないのだろう。
その厳格な兵団においてもシルビはおかしかった訳だが、今はそれも懐かしいだけで思うところは無い。
当時の『飼い主』に声が似ている船長は、喉の奥で笑うと抱えていた鬼哭を渡してきた。受け取ったところで現元帥であるサカズキや黄猿、それに中将格だと思われる将校が部屋へ入ってくる。
「あ、お――」
つるちゃん、と言い掛けて慌てて口を噤んだ。聞こえたらしく先程瞠目した壁際の海兵が訝しげな顔をするが、無視して黙り込む。
サカズキよりも年のいった女性ではあるが、その足取りも姿勢もしっかりとしたものである彼女は、やはり約四十年前に『死告シャイタン』として会った事のある女性だ。
ガープやセンゴクと同期だった彼女を知ったのは確かコングの紹介だった。というかコングの執務室に行ったらたまたま遭遇してしまったのである。
懐かしいなと内心で思っているとつるがシルビを一瞥し、僅かに目を細めた。
「誰か。その子にも椅子を用意してあげな」
「構わない。気遣いは必要ない」
「海軍の礼儀がなってないって言われちゃ堪らないからねトラファルガー」
おお、船長を子ども扱いかとちょっと笑えたが、運良く誰にも気付かれなかったらしい。つるの今の年齢ならそれも当然か。
嫌々ながら運ばれてきた椅子へ座る前につるへ向けて頭を下げる。どうやら少し前に会ったばかりのサカズキも久しぶりに会うつるも、シルビには気付いていないらしい。
本気で業務的というべきか、義理だとばかりの質疑応答で話し合いはすぐに終わった。船長が七武海へ加入することに変更はない。
帰りの通路も海兵が壁を作っていて寄り道は許されなかった。シャチ達へ土産の一つでも買いたかったのだが、海賊が海軍本部で買い物というのもおかしな話かと諦める。しかし行きほど警戒されている様子が無いようで、少なくともゆっくり歩いても文句を言われたりはしなかった。
「和風建築だな」
「コートへ書かれている言語も漢字ですし、海軍は昔から和様形式を好んでいるのでしょう」
「ワノ国とどっちがいい?」
「俺がワノ国へ行った事がある前提で話していませんか?」
「無いのか?」
「ありますけれど」
「トラファルガー」
船長が呼ばれて来た道を振り返れば、つるが腕組みをして立っている。何か言い忘れでもあったのだろうかと近付いてくるのを立ち止まって待っていれば、つるは船長では無くシルビを見ながら歩み寄ってきた。
観察するようにシルビを上から下まで眺める様子に、シルビ達では無く海兵が怪訝そうにしている。そんな海兵達を気にもせずつるは顎へ手を当てるとふむと鼻を鳴らした。
「ちょっと、この子を借りてもいいかい?」
「何か問題でも?」
「聞きたい事があるだけさ」
船長の目配せを受けて一歩前へ出れば、つるはシルビが付き合うと分かったらしく先導するように歩き出す。しばらくつるの後を付いていった先の廊下には、海兵の姿は一人も無かった。
おそらく今回の召喚で通らない廊下には海兵を常駐させていなかったのだろう。普段から常駐させている筈も無いし、海兵なら海賊以上に仕事はある。
窓際で立ち止まって振り返ったつるは、周囲に人の気配が無い事を確かめてからシルビを見上げた。
「それで、アンタなにしてんだい」
「何の話でしょうか」
「しらばっくれるんじゃないよ。『シャイタン』」
何の証拠があってととぼける事も出来ただろうが、シルビはそれを選択せずにつるを見つめて笑みを浮かべる。途端に警戒心を露わにした彼女へ、今ここで何かをするつもりはないのだと示す為に肩を竦めた。
「どうして分かったんだぁ?」
「……アンタ、ボルサリーノの覇気を受けてもなんとも無かったらしいね」
「ボルサリーノ……『黄猿』?」
二つ名のほうが広まっているのだからそちらで統一して欲しい。思わず誰かが思い出すのに数秒とはいえ時間が掛かってしまった。
そういえば出迎えの際に風を受けた気がしたが、おそらくあれが覇気だったのだろう。実力差が有ると全く効かないから覇気も困りものである。
「船長と副船長が同時に船を降りるっていうのも、毎回どうかと思うんですがねぇ」
「ウチのクルーは優秀だ。問題ないだろ」
レッドラインの近くにある新海軍本部は、元々『海軍グランドライン第一支部』のあった場所だが、頂上戦争終結後の新元帥就任によって元の海軍本部と入れ替わる形で移籍したらしい。シャボンディ諸島と同じくシャボン玉が発生する土地だが、旧海軍本部と変わらず和風の建築様式が並んでいる。
とはいえそんなにマジマジと眺めている事は出来なかった。寄り道どころか僅かなりとも立ち止まる事は許さないぞとばかりに整列している海兵の壁が、シルビへ観光で来たのではないと実感させてくる。
七武海就任前の召喚へ赴くに辺り、船長のお供として選ばれたのは結局いつもの通りシルビだった。他のクルー達は海兵が見張る港で、船の中で留守番である。
それはそれで窮屈な思いをしているのではと考えるも、付いて行くことを拒んだのだから仕方が無い。後で何処かの島で気分転換でもさせればいいだろうと、この召喚の後の予定を立てていれば、肩に海軍のコートを羽織った男性が出迎えるように立っていた。
「おお~、わざわざ来てもらって悪いねえ~」
防寒帽を被っていて本気で良かったと船長の斜め後ろで思う。食えない笑みを浮かべる黄色いスーツ姿には見覚えがあった。
「わざわざ大将の出迎えとはな」
「う~ん。わっしもそう思うよ~。ところで後ろの彼はお連れかな~?」
大将『黄猿』がサングラス越しにシルビを見る。
頂上戦争直後にセンゴクの元へ行った時、彼の悪魔の実による攻撃を避けた覚えがあるのだが、その時シルビは『死告シャイタン』の格好ではあった。だから今の防寒帽とツナギの姿で同一人物と気付かれる可能性は低いと思いたい。
やはり仮面も付けてくれば良かったかなと思いつつ、最低限の礼儀を守るように頭を下げる。それを見た黄猿の視線が船長へ戻った。
「『ペンギン』だ。護衛みたいなもんだ」
「護衛が必要、ねぇ~」
「オレが、コイツの護衛だ。下手に船へ残しておけないんでな」
不敵に笑う船長になんて言い様だと思うものの、海軍の対応次第ではそれも間違いではないのかと納得する。船長の言葉をどう受け取ったのか黄猿はシルビを観察して僅かに目を眇めた後、どうでもよさを装って踵を返した。一瞬風を感じた気もする。
簡単に『海賊』へ背中を向けていいのかと思ったが、それだけ自信があるのだろう。シルビには攻撃を避けられたくせに。
それに周囲には海兵がいる。下手に動けばその途端七武海の称号は無かった事になるし、黄猿が倒せてもその海兵達による妨害があるだろう。
第八の炎を使えばそれら全てが無意味だが。
大将黄猿直々に案内された部屋にも海兵が配置されていた。まるで一挙一動を見張っているぞと思わせるそれは、シルビの予想で間違ってはいない。
間違ってはいないのだろうが、それはそれで今度は立ち振る舞いといった敵意ではないものが気になってくる。
椅子へ座った船長の斜め後ろへ立ったままでいても、予定になかった同行者であるシルビの分の椅子が用意される事はない。『死告シャイタン』として来ていたら構わず船長が座っている椅子の背もたれにでも昇って座っていただろう。
別に帰るまで立っていても構わないのだが、そうやって椅子を用意しないところなどに海軍の浅ましさが現れているようで。思わず苦笑を漏らせば船長が口角を上げながら振り返った。
「座りたいか?」
「貴方が座れと言うのなら」
冗談で言えば壁際へ立っている海兵が瞠目する。兵士の癖にそんな表情を露わにしてしまっていいのだろうかと疑問に思うが、少し考えれば分かるがここは“壁の中の世界”とは随分違っているので、あの世界のように厳格ではないのだろう。
その厳格な兵団においてもシルビはおかしかった訳だが、今はそれも懐かしいだけで思うところは無い。
当時の『飼い主』に声が似ている船長は、喉の奥で笑うと抱えていた鬼哭を渡してきた。受け取ったところで現元帥であるサカズキや黄猿、それに中将格だと思われる将校が部屋へ入ってくる。
「あ、お――」
つるちゃん、と言い掛けて慌てて口を噤んだ。聞こえたらしく先程瞠目した壁際の海兵が訝しげな顔をするが、無視して黙り込む。
サカズキよりも年のいった女性ではあるが、その足取りも姿勢もしっかりとしたものである彼女は、やはり約四十年前に『死告シャイタン』として会った事のある女性だ。
ガープやセンゴクと同期だった彼女を知ったのは確かコングの紹介だった。というかコングの執務室に行ったらたまたま遭遇してしまったのである。
懐かしいなと内心で思っているとつるがシルビを一瞥し、僅かに目を細めた。
「誰か。その子にも椅子を用意してあげな」
「構わない。気遣いは必要ない」
「海軍の礼儀がなってないって言われちゃ堪らないからねトラファルガー」
おお、船長を子ども扱いかとちょっと笑えたが、運良く誰にも気付かれなかったらしい。つるの今の年齢ならそれも当然か。
嫌々ながら運ばれてきた椅子へ座る前につるへ向けて頭を下げる。どうやら少し前に会ったばかりのサカズキも久しぶりに会うつるも、シルビには気付いていないらしい。
本気で業務的というべきか、義理だとばかりの質疑応答で話し合いはすぐに終わった。船長が七武海へ加入することに変更はない。
帰りの通路も海兵が壁を作っていて寄り道は許されなかった。シャチ達へ土産の一つでも買いたかったのだが、海賊が海軍本部で買い物というのもおかしな話かと諦める。しかし行きほど警戒されている様子が無いようで、少なくともゆっくり歩いても文句を言われたりはしなかった。
「和風建築だな」
「コートへ書かれている言語も漢字ですし、海軍は昔から和様形式を好んでいるのでしょう」
「ワノ国とどっちがいい?」
「俺がワノ国へ行った事がある前提で話していませんか?」
「無いのか?」
「ありますけれど」
「トラファルガー」
船長が呼ばれて来た道を振り返れば、つるが腕組みをして立っている。何か言い忘れでもあったのだろうかと近付いてくるのを立ち止まって待っていれば、つるは船長では無くシルビを見ながら歩み寄ってきた。
観察するようにシルビを上から下まで眺める様子に、シルビ達では無く海兵が怪訝そうにしている。そんな海兵達を気にもせずつるは顎へ手を当てるとふむと鼻を鳴らした。
「ちょっと、この子を借りてもいいかい?」
「何か問題でも?」
「聞きたい事があるだけさ」
船長の目配せを受けて一歩前へ出れば、つるはシルビが付き合うと分かったらしく先導するように歩き出す。しばらくつるの後を付いていった先の廊下には、海兵の姿は一人も無かった。
おそらく今回の召喚で通らない廊下には海兵を常駐させていなかったのだろう。普段から常駐させている筈も無いし、海兵なら海賊以上に仕事はある。
窓際で立ち止まって振り返ったつるは、周囲に人の気配が無い事を確かめてからシルビを見上げた。
「それで、アンタなにしてんだい」
「何の話でしょうか」
「しらばっくれるんじゃないよ。『シャイタン』」
何の証拠があってととぼける事も出来ただろうが、シルビはそれを選択せずにつるを見つめて笑みを浮かべる。途端に警戒心を露わにした彼女へ、今ここで何かをするつもりはないのだと示す為に肩を竦めた。
「どうして分かったんだぁ?」
「……アンタ、ボルサリーノの覇気を受けてもなんとも無かったらしいね」
「ボルサリーノ……『黄猿』?」
二つ名のほうが広まっているのだからそちらで統一して欲しい。思わず誰かが思い出すのに数秒とはいえ時間が掛かってしまった。
そういえば出迎えの際に風を受けた気がしたが、おそらくあれが覇気だったのだろう。実力差が有ると全く効かないから覇気も困りものである。