原作前日常編
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バンダナ視点
「……ということで航海は長いんだからさ、シャチだって医者になれるって!」
「ワカメっていっつもその話するよな……自分は医者になれたからって」
食堂のテーブルの一角で、赤ペンでの誤字修正が多い問題用紙を前に凹んでいるシャチの向かいで、ワカメが滔々と慰めている。その慰めの内容がワカメ自身のクルーになった時の話なのは、このハートの海賊団内では当たり前となっていた。
小休憩を兼ねて同じく食堂で珈琲を飲んでいたペンギンとバンダナは、どうにか再びやる気を出したシャチを応援しているワカメを眺めながら口を開く。
「そういえばワカメが最初に俺の事『ペンギン』って言ったんですよね」
「そうだねえ。そう考えるとその帽子も長いねえ」
「時々似たようなデザイン見つけたら買っておいてるんですよ。なんか今更他のデザイン被れねぇ雰囲気ですし」
「ああ、そうなんだ。……でもワカメも成長したねえ。昔は今のシャチみたいにうんうん唸って勉強してたのになあ。あー、こりゃ年寄りの発言かな?」
「元からワカメは勉強熱心なところがありましたから」
また間違えたのかワカメが用紙を指差して指摘していた。珈琲を行儀悪く啜ってそれを眺め、バンダナは小声で気になっていたことをペンギンへ尋ねる。
「……ワカメにはさ、妹さんみたいなことは起きないのかい?」
鳥の言葉が分かり鳥を操ることも多少ながら出来た娘。その兄であるワカメにも似たようなことが出来たとしてもおかしくは無い。
ペンギンは少し笑って首を横へ振った。
「兆候も無いですしね。そもそもワカメは妹がそんなことが出来るということすら知らなかったようですし、このまま知らねぇままでいて欲しいなと」
そう言ってワカメを見つめるペンギンの視線に、何か含むものを感じたけれどバンダナは黙って珈琲を飲み干す。
あの時一番妹と言葉を交わしていたのはペンギンだったし、彼女の特異能力について最初に知ったのもペンギンだった。それをすぐに船長や自分へ知らせなかったことに後からバンダナは気づいたが、今をもってそれについて問いただしたことは無い。
だから多分、あの時何も起こらなかったら、ペンギンはワカメを妹と引き離そうなんて思わなかったのではないかと思う。だって家族とは一緒にいるほうがいい。
船長に出会う前は一人で旅をしていたペンギンが、どんな過去を持っているのかバンダナは知らない。
聞くタイミングは遥か彼方だ。
「……ワカメは今、幸せなんですかね」
「幸せだといいねえ。でもペンちゃん。その責任はペンちゃんだけが負うものじゃないよ」
「船へ乗せたのは『俺達三人』だからですか?」
「いいや、ワカメの選択だからさ」
向こうでシャチがとうとう叫びだした。問題用紙は船長お手製なのでぐしゃぐしゃにする気は無いらしいが、インクを飛び散らせていることに気づいて今度は違う意味で騒ぎ始める。
「あーあー。シャチったら根気無いなー」
「うっせ! ワカメとは違うの! 人が苦しんでるのに幸せそうな顔してやがって!」
「幸せだからね!」
バンダナは思わずペンギンと顔を見合わせ、どちらからとも無く微笑んでインクの片づけを手伝う為に立ち上がった。
「……ということで航海は長いんだからさ、シャチだって医者になれるって!」
「ワカメっていっつもその話するよな……自分は医者になれたからって」
食堂のテーブルの一角で、赤ペンでの誤字修正が多い問題用紙を前に凹んでいるシャチの向かいで、ワカメが滔々と慰めている。その慰めの内容がワカメ自身のクルーになった時の話なのは、このハートの海賊団内では当たり前となっていた。
小休憩を兼ねて同じく食堂で珈琲を飲んでいたペンギンとバンダナは、どうにか再びやる気を出したシャチを応援しているワカメを眺めながら口を開く。
「そういえばワカメが最初に俺の事『ペンギン』って言ったんですよね」
「そうだねえ。そう考えるとその帽子も長いねえ」
「時々似たようなデザイン見つけたら買っておいてるんですよ。なんか今更他のデザイン被れねぇ雰囲気ですし」
「ああ、そうなんだ。……でもワカメも成長したねえ。昔は今のシャチみたいにうんうん唸って勉強してたのになあ。あー、こりゃ年寄りの発言かな?」
「元からワカメは勉強熱心なところがありましたから」
また間違えたのかワカメが用紙を指差して指摘していた。珈琲を行儀悪く啜ってそれを眺め、バンダナは小声で気になっていたことをペンギンへ尋ねる。
「……ワカメにはさ、妹さんみたいなことは起きないのかい?」
鳥の言葉が分かり鳥を操ることも多少ながら出来た娘。その兄であるワカメにも似たようなことが出来たとしてもおかしくは無い。
ペンギンは少し笑って首を横へ振った。
「兆候も無いですしね。そもそもワカメは妹がそんなことが出来るということすら知らなかったようですし、このまま知らねぇままでいて欲しいなと」
そう言ってワカメを見つめるペンギンの視線に、何か含むものを感じたけれどバンダナは黙って珈琲を飲み干す。
あの時一番妹と言葉を交わしていたのはペンギンだったし、彼女の特異能力について最初に知ったのもペンギンだった。それをすぐに船長や自分へ知らせなかったことに後からバンダナは気づいたが、今をもってそれについて問いただしたことは無い。
だから多分、あの時何も起こらなかったら、ペンギンはワカメを妹と引き離そうなんて思わなかったのではないかと思う。だって家族とは一緒にいるほうがいい。
船長に出会う前は一人で旅をしていたペンギンが、どんな過去を持っているのかバンダナは知らない。
聞くタイミングは遥か彼方だ。
「……ワカメは今、幸せなんですかね」
「幸せだといいねえ。でもペンちゃん。その責任はペンちゃんだけが負うものじゃないよ」
「船へ乗せたのは『俺達三人』だからですか?」
「いいや、ワカメの選択だからさ」
向こうでシャチがとうとう叫びだした。問題用紙は船長お手製なのでぐしゃぐしゃにする気は無いらしいが、インクを飛び散らせていることに気づいて今度は違う意味で騒ぎ始める。
「あーあー。シャチったら根気無いなー」
「うっせ! ワカメとは違うの! 人が苦しんでるのに幸せそうな顔してやがって!」
「幸せだからね!」
バンダナは思わずペンギンと顔を見合わせ、どちらからとも無く微笑んでインクの片づけを手伝う為に立ち上がった。