空白の二年間編2
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バンダナ視点
停泊中の島に海軍から七武海就任決定の報告が来て、クルー達が祝いだ宴だと騒ぎ立てているというのにペンギンはあまり喜んでいる風ではなかった。
ペンギンは上手く隠していてシャチ達は特に変だとも思っていない。しかしこのハートの海賊団が出来てからの長い付き合いであるから、バンダナには何となく気付く事が出来た。
酒瓶を二本持って、食堂の端で大人しく酒を飲んでいるペンギンの隣へ腰を降ろす。テーブルへ肘を突いて周囲の騒がしさを眺めていたペンギンが横目でバンダナを見た。
「ツマミなら向こうにもありませんでしたか?」
「オレが欲しいツマミじゃなくてねえ」
「イカを焙ってもらってるんですけど」
「ちょっと貰おうかな。ついでに酒の肴になる話の一つでもして欲しいとこだよ」
樽からジョッキで酒を掬って飲む海賊のスタイルは、船内でやるものじゃない。バンダナやペンギンは酒瓶でいいというタイプだが、クルーの中には酒樽でなくちゃと言う者も居て、わざわざ酒樽を船内へ持ち込んでいる。
代わりに明日の食堂の掃除と換気は、それを言い出したクルー達だと決まっているので文句は無い。むしろ自分が掃除するのではないからと無礼講甚だしい奴まで居たりするので、むしろそういう意味で嫌だというところもあった。外か、せめて甲板ならその無礼講も許せるが。
飲んでいた酒瓶のラベルの縁を指先でなぞりながら、ペンギンが困ったように息を吐いた。
「……隠していた秘密が一つ、いや二つかなぁ。船長にばれてしまって」
「秘密?」
「詳しい事は何一つ言ってねぇままなんですけど、それを知った船長が変わってしまったら心苦しいなぁっていうか。七武海になろうと思った理由にそれが関わってたら、俺は酷く申し訳ねぇっていうか」
「一国の重鎮以上にヤバイ秘密なのかい? オレにも言えない?」
「……俺が本当は、『ペンギン』とも『シルビ』とも違う名前で賞金首だって話です」
ワカメがツマミの乗った皿を持ったままこけて床へばら撒いている。
ペンギンはハートの海賊団の認識じゃ『強いのに賞金が懸からない奴』だった。それを今まで何度も不思議に思って、ペンギンに気付かないなんて海軍は無能だななんて笑ったりもしていて。
真実はただ単に、既に賞金首だったという。
「まぁ、賞金首ってだけなら別に驚く事でも無いね。ペンちゃんは一人旅が長いんだし、偽名を使ったこともあるだろうさ」
現に今も『ペンギン』と名乗っているのだ。故郷でクルー達に素顔を見られて防寒帽を被る必要性も半分は無くなった今でも。
「で、もう一つの秘密ってのは何なんだい?」
クルーの手によって酒樽に突っ込まれたジョッキが、びしょ濡れになって引き上げられる。
「……船長の故郷を、滅ぼした。滅ぼしたってのはおかしいなぁ。滅ぶと知っていたのを止める努力をしなかったってのが正しいんでしょうねぇ。ふふふ、昔はオールドランドを救ったってのに今じゃ島一つ救えねぇとか」
ゴト、と底を鳴らして酒瓶が置かれる。いつの間にか空になっていたそれを机の端へ押しやって、ペンギンはバンダナとは反対側のスペースから封の切られていない酒瓶を取り上げた。押しやられた酒瓶の数は片手で数えられる量を超えている。
ああ既に少し酔っているのかと訳の分からない独り言に納得した。『オールドランド』なんて島にも国にも覚えは無かったし、救った救わないなんて話は更に分からない。
時々ペンギンは分からないことを言い出す。ペンギンが書き纏めている薬事ノートだって、個人的なやつだと一体何処の国のいつの時代の言語かも分からない文字で書かれているなど、ペンギンの知識と経験の量は計り知れない。
シャチがハートへ加わって自棄酒をした時だって、『チョウサヘイダン』だのと分からない単語を口にしていた。ペンギンが今まで経験してきたものやそれによって得たものなど、バンダナには分かる訳がないのだ。
だが、理解した振りをして話を聴いてやることは出来るし、それが重要な時もある。ただでさえペンギンは自分の内へ溜め込んでしまうようだから、ここは年の功だ。
「それで、船長がペンちゃんを憎んだのかい?」
「……いいえ。子供だから仕方が無かったって」
「ならそれでいいじゃないか。無駄な謝罪は被害者にとって苛立ちの元だよ?」
「分かってます。だから船長へは何も言ってねぇでしょう?」
「それは知らないけどさ。ペンちゃんが『沈んでる』だけで船長はあれだろうねえ」
「“あれ”?」
不思議そうにバンダナを見やるペンギンは、自分が周囲に及ぼす影響に気付かない。というより『自分を気にするモノなど存在しない』と思い込んでいるのかも知れなかった。
一線を引いているのではなく一線が無い事に気付いていない。だから船長がきっとペンギンの思っている以上にペンギンや、バンダナ達を気に掛けている事にも気付いていないのではないのか。
世間から冷酷非道だのと残虐だのと言われていようと、船長は本当はそんな人じゃない。バンダナがそれを分かっているというのに、副船長であるペンギンが気付かないというのもおかしな話だった。
知っている情報の限りでは父親に殺されかけて、幼い頃から一国の重鎮だったようだし、きっと甘えるとか出来ない子供だったのだろうとも思う。過剰気味なスキンシップだってそれの裏返しだと考えられる。
それなら。
「ペンちゃんもまだまだ子供だね」
「そりゃ今はバンダナさんよりは若けぇですけど。船長だって貴方より若けぇでしょう?」
「でも船長はペンちゃんが甘やかしてんじゃないか。たまには年下らしく甘えたってオレは許すよ。盛大に酔っ払って忘れちゃうってのも、一つの手だろ?」
「そっか……。そうします」
ふらりと立ち上がったペンギンが、周囲を酒浸しにしていた酒樽へと近付いていく。それに気付いたイルカが何か話しかけていたがペンギンはそれを無視し、酒樽の傍へ立つとおもむろに酒樽へと手を掛けた。
「は――!?」
まだ開けられたばかりの酒樽を持ち上げたことも驚きだが、その酒樽へ直接口を付けて傾けていく様に誰もが唖然とする。
頭を仰け反らせたせいでよく見える喉の動き。少しずつ傾きが高くなっていく酒樽にペンギンの口の端から酒が零れツナギの襟首を濡らしている。クルーの誰かの手から落ちたジョッキが転がって音を立てた。
パサリと防寒帽がずれて背後に落ちても気にした様子は無く、帽子から漏れ背中へ流れる黒髪さえ気にしない。
どれだけの間そうしていたのか、誰も声を掛けることも出来ないまま呆然としている視線の先でペンギンが酒樽をゆっくりと下ろす。タプンと聞こえる水音に、流石に飲み干しはしなかったのかと妙な安心してしまった。
「じゃないだろ! そんな一気飲みしちゃ――!」
バンダナが正気に戻って立ち上がると、違う方向でも船長がペンギンを見つめたまま立ち上がるところで。
そのままバンダナと船長が駆け寄るよりも早く、酒樽の縁に手を突いていたペンギンが俯いたまま口に反対の手を当てる。
「う……」
「吐くな! いやもういっそ吐け! 吐いて酒出せ!」
脳裏に浮かんだのは『急性アルコール中毒』の単語。駆け寄った船長やクルーの心配を他所に、ペンギンはゆっくり顔を上げて船長を見つけると、口を押さえていた手で防寒帽を拾いながらニッコリと笑みを浮かべた。
そうして体当たりの要領で船長に飛びついたペンギンに、船長が勢いを殺しきれずに倒れる。
「ペンギン!?」
「船長大丈夫ですか!?」
「今は吐くなよ! 頼むから吐くなよ!」
「離れろペンギン」
尻餅を突いた船長の腹に腕を回していたペンギンが薄目を開けて周囲のクルーを見回し、ベポの姿を見つけてまた笑みを浮かべている。船長に抱きつくのは止めたものの、船長の上で座りなおしてベポへ向けて両手を広げた。
「ベポ、ハグぅ」
「え、今は吐くかも知んないからヤダよー」
「いやかぁ? ベスターやエレボスやヘビモスは触らせてくれんのにぃ……」
「ご、ごめんね?」
「じゃあシャチでいいやぁ。シャチ、ハグ」
「イヤだよ!」
二人に断られてペンギンが両手を降ろし、無言で落ち込んでいく。
「ペンちゃん。オレでいいならハグしたげるからそろそろ船長から退いてやんなよ」
バンダナが溜息を隠して声を掛ければすぐにペンギンの両腕が伸びてきた。クルー達から何故か拍手を貰うが、酔っ払いには逆らわないのが一番だし、多分この状況はバンダナのせいでもある。
停泊中の島に海軍から七武海就任決定の報告が来て、クルー達が祝いだ宴だと騒ぎ立てているというのにペンギンはあまり喜んでいる風ではなかった。
ペンギンは上手く隠していてシャチ達は特に変だとも思っていない。しかしこのハートの海賊団が出来てからの長い付き合いであるから、バンダナには何となく気付く事が出来た。
酒瓶を二本持って、食堂の端で大人しく酒を飲んでいるペンギンの隣へ腰を降ろす。テーブルへ肘を突いて周囲の騒がしさを眺めていたペンギンが横目でバンダナを見た。
「ツマミなら向こうにもありませんでしたか?」
「オレが欲しいツマミじゃなくてねえ」
「イカを焙ってもらってるんですけど」
「ちょっと貰おうかな。ついでに酒の肴になる話の一つでもして欲しいとこだよ」
樽からジョッキで酒を掬って飲む海賊のスタイルは、船内でやるものじゃない。バンダナやペンギンは酒瓶でいいというタイプだが、クルーの中には酒樽でなくちゃと言う者も居て、わざわざ酒樽を船内へ持ち込んでいる。
代わりに明日の食堂の掃除と換気は、それを言い出したクルー達だと決まっているので文句は無い。むしろ自分が掃除するのではないからと無礼講甚だしい奴まで居たりするので、むしろそういう意味で嫌だというところもあった。外か、せめて甲板ならその無礼講も許せるが。
飲んでいた酒瓶のラベルの縁を指先でなぞりながら、ペンギンが困ったように息を吐いた。
「……隠していた秘密が一つ、いや二つかなぁ。船長にばれてしまって」
「秘密?」
「詳しい事は何一つ言ってねぇままなんですけど、それを知った船長が変わってしまったら心苦しいなぁっていうか。七武海になろうと思った理由にそれが関わってたら、俺は酷く申し訳ねぇっていうか」
「一国の重鎮以上にヤバイ秘密なのかい? オレにも言えない?」
「……俺が本当は、『ペンギン』とも『シルビ』とも違う名前で賞金首だって話です」
ワカメがツマミの乗った皿を持ったままこけて床へばら撒いている。
ペンギンはハートの海賊団の認識じゃ『強いのに賞金が懸からない奴』だった。それを今まで何度も不思議に思って、ペンギンに気付かないなんて海軍は無能だななんて笑ったりもしていて。
真実はただ単に、既に賞金首だったという。
「まぁ、賞金首ってだけなら別に驚く事でも無いね。ペンちゃんは一人旅が長いんだし、偽名を使ったこともあるだろうさ」
現に今も『ペンギン』と名乗っているのだ。故郷でクルー達に素顔を見られて防寒帽を被る必要性も半分は無くなった今でも。
「で、もう一つの秘密ってのは何なんだい?」
クルーの手によって酒樽に突っ込まれたジョッキが、びしょ濡れになって引き上げられる。
「……船長の故郷を、滅ぼした。滅ぼしたってのはおかしいなぁ。滅ぶと知っていたのを止める努力をしなかったってのが正しいんでしょうねぇ。ふふふ、昔はオールドランドを救ったってのに今じゃ島一つ救えねぇとか」
ゴト、と底を鳴らして酒瓶が置かれる。いつの間にか空になっていたそれを机の端へ押しやって、ペンギンはバンダナとは反対側のスペースから封の切られていない酒瓶を取り上げた。押しやられた酒瓶の数は片手で数えられる量を超えている。
ああ既に少し酔っているのかと訳の分からない独り言に納得した。『オールドランド』なんて島にも国にも覚えは無かったし、救った救わないなんて話は更に分からない。
時々ペンギンは分からないことを言い出す。ペンギンが書き纏めている薬事ノートだって、個人的なやつだと一体何処の国のいつの時代の言語かも分からない文字で書かれているなど、ペンギンの知識と経験の量は計り知れない。
シャチがハートへ加わって自棄酒をした時だって、『チョウサヘイダン』だのと分からない単語を口にしていた。ペンギンが今まで経験してきたものやそれによって得たものなど、バンダナには分かる訳がないのだ。
だが、理解した振りをして話を聴いてやることは出来るし、それが重要な時もある。ただでさえペンギンは自分の内へ溜め込んでしまうようだから、ここは年の功だ。
「それで、船長がペンちゃんを憎んだのかい?」
「……いいえ。子供だから仕方が無かったって」
「ならそれでいいじゃないか。無駄な謝罪は被害者にとって苛立ちの元だよ?」
「分かってます。だから船長へは何も言ってねぇでしょう?」
「それは知らないけどさ。ペンちゃんが『沈んでる』だけで船長はあれだろうねえ」
「“あれ”?」
不思議そうにバンダナを見やるペンギンは、自分が周囲に及ぼす影響に気付かない。というより『自分を気にするモノなど存在しない』と思い込んでいるのかも知れなかった。
一線を引いているのではなく一線が無い事に気付いていない。だから船長がきっとペンギンの思っている以上にペンギンや、バンダナ達を気に掛けている事にも気付いていないのではないのか。
世間から冷酷非道だのと残虐だのと言われていようと、船長は本当はそんな人じゃない。バンダナがそれを分かっているというのに、副船長であるペンギンが気付かないというのもおかしな話だった。
知っている情報の限りでは父親に殺されかけて、幼い頃から一国の重鎮だったようだし、きっと甘えるとか出来ない子供だったのだろうとも思う。過剰気味なスキンシップだってそれの裏返しだと考えられる。
それなら。
「ペンちゃんもまだまだ子供だね」
「そりゃ今はバンダナさんよりは若けぇですけど。船長だって貴方より若けぇでしょう?」
「でも船長はペンちゃんが甘やかしてんじゃないか。たまには年下らしく甘えたってオレは許すよ。盛大に酔っ払って忘れちゃうってのも、一つの手だろ?」
「そっか……。そうします」
ふらりと立ち上がったペンギンが、周囲を酒浸しにしていた酒樽へと近付いていく。それに気付いたイルカが何か話しかけていたがペンギンはそれを無視し、酒樽の傍へ立つとおもむろに酒樽へと手を掛けた。
「は――!?」
まだ開けられたばかりの酒樽を持ち上げたことも驚きだが、その酒樽へ直接口を付けて傾けていく様に誰もが唖然とする。
頭を仰け反らせたせいでよく見える喉の動き。少しずつ傾きが高くなっていく酒樽にペンギンの口の端から酒が零れツナギの襟首を濡らしている。クルーの誰かの手から落ちたジョッキが転がって音を立てた。
パサリと防寒帽がずれて背後に落ちても気にした様子は無く、帽子から漏れ背中へ流れる黒髪さえ気にしない。
どれだけの間そうしていたのか、誰も声を掛けることも出来ないまま呆然としている視線の先でペンギンが酒樽をゆっくりと下ろす。タプンと聞こえる水音に、流石に飲み干しはしなかったのかと妙な安心してしまった。
「じゃないだろ! そんな一気飲みしちゃ――!」
バンダナが正気に戻って立ち上がると、違う方向でも船長がペンギンを見つめたまま立ち上がるところで。
そのままバンダナと船長が駆け寄るよりも早く、酒樽の縁に手を突いていたペンギンが俯いたまま口に反対の手を当てる。
「う……」
「吐くな! いやもういっそ吐け! 吐いて酒出せ!」
脳裏に浮かんだのは『急性アルコール中毒』の単語。駆け寄った船長やクルーの心配を他所に、ペンギンはゆっくり顔を上げて船長を見つけると、口を押さえていた手で防寒帽を拾いながらニッコリと笑みを浮かべた。
そうして体当たりの要領で船長に飛びついたペンギンに、船長が勢いを殺しきれずに倒れる。
「ペンギン!?」
「船長大丈夫ですか!?」
「今は吐くなよ! 頼むから吐くなよ!」
「離れろペンギン」
尻餅を突いた船長の腹に腕を回していたペンギンが薄目を開けて周囲のクルーを見回し、ベポの姿を見つけてまた笑みを浮かべている。船長に抱きつくのは止めたものの、船長の上で座りなおしてベポへ向けて両手を広げた。
「ベポ、ハグぅ」
「え、今は吐くかも知んないからヤダよー」
「いやかぁ? ベスターやエレボスやヘビモスは触らせてくれんのにぃ……」
「ご、ごめんね?」
「じゃあシャチでいいやぁ。シャチ、ハグ」
「イヤだよ!」
二人に断られてペンギンが両手を降ろし、無言で落ち込んでいく。
「ペンちゃん。オレでいいならハグしたげるからそろそろ船長から退いてやんなよ」
バンダナが溜息を隠して声を掛ければすぐにペンギンの両腕が伸びてきた。クルー達から何故か拍手を貰うが、酔っ払いには逆らわないのが一番だし、多分この状況はバンダナのせいでもある。