空白の二年間編2
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ロー視点
七武海になるのに実力を提示する為に、海賊の心臓を集めると決めた後。とりあえず近くに居る海賊でどうやって心臓を奪うかの作戦を考えようとなった。
第一の方法としてはやはり襲撃特化のハートの海賊団らしく、それなりの策を講じて奪おうとなったものの、その候補からして何かが間違っていたらしい。
安直に囮を用意しておびき寄せて油断させたところを奪おうという作戦に、ペンギンが囮役となったところまでは問題なかったのだが、『お試し』でペンギンが海賊をおびき寄せるのに使った手段が駄目だった。
まさか自分が女顔であることを利用するとは、ローだって想定していない。
聞けば今までにもそういった事は経験済みらしいし、女装自体目的や理由がちゃんとあるのならするのも吝かではないらしかったが、目的の海賊がいる島の宿で着々と準備していたペンギンの手際はいっそ清々しいほどに素晴らしかった。
あっという間にローの前へ支度をして出てきたペンギンは、どこからどう見ても立派な『売春婦』である。『立派な』売春婦というのもおかしな表現だが、それ以外に表現のしようが無い。
「……化けたな」
「暗殺に変装なんて常套手段でしょう?」
「お前は暗殺者じゃねえだろうが」
一国の相談役が何を言っているんだと呆れてしまう。
「化粧が濃いな」
「売春婦なので化粧は濃い目なんです」
「もっと落とせねえのか?」
「おぼこい娼婦をイメージすればまた違げぇますけど、今回はこれでぇ」
声は男の物なので喋れば気付いてしまうだろうが、それ以外に懸念材料が無かった。
「褒めるべきか?」
「褒めたら全力でカマバッカ王国へ連れて行ってあげましょう」
だが女装したペンギンは、その辺の下手な女性よりは美人の部類に入る。
実際、海賊を待ち伏せする為の路地へ向かうまでに何度か、何も知らない野郎共に声を掛けられている。囮だとばれない様にローは離れて後を追っていたのだが、途中でペンギンの方が嫌になって『ローが買った売春婦』という体を作って路地へ向かうことにしたくらいだ。
そうして路地で待ち伏せした賞金首は、ものの見事に引っかかった。
酒場から出てきた海賊の男がフラフラと通りを歩くのに、ペンギンが隠れていた路地から僅かに身を乗り出して男に存在を気付かせる。男が気付いたことを察してから視線に気付いたという様子で振り返り、男へ向けて微笑んで路地へと引っ込んでいった。
誘われたのだと気付いた男が千鳥足でペンギンの居る路地へ入っていくのを確認して、ローが隠れていた場所から路地へ向かえば重い物が落ちる音。路地の奥に居たペンギンの足元へ先ほどの男が倒れている。
「とりあえず気絶させましたけど……隠れてください」
ペンギンの視線はローの背後の路地の外へ向いていた。足音が近付いてくるのにペンギンの意を悟って隠れる。
どうやら同じ海賊団らしい船員が、路地で倒れている男とペンギンを見つけて驚いている隙に、背後から当て身を食らわせた。
「やっぱりこのやり方は止めましょう。簡単すぎるしハートの品位が疑われます」
「……そうだな」
海賊の心臓を片手に弄びつつ見れば、ペンギンは被っていたストールを降ろして足元の海賊を女物のヒールの爪先でつついていた。
簡単に引っかかりすぎて、これでは本来難しいと思っていた『心臓集め』が、一気に難易度の下がった様に思える。ペンギンもそう思ったらしく、『この方法は無し』という事で決まった。
だがその原因は、実のところペンギンなんじゃないかと思う。
女物のヒールで爪先が痛むのだと心臓を戻す為にしゃがんでいたローの肩へ手を置いて、ヒールを脱ぐ仕草さえ女のそれである。スカートが無造作に捲れない様に足を曲げ、当たって赤くなった小指と親指の端を擦る手にすら、男らしい仕草が出ていない。
経験があるとは言っていたが、それにしては手馴れた様子だ。
「……ずっと思ってたんだが、お前のせいじゃねえのか?」
この作戦がこんな簡単になってしまったのは、という意味を込めたのだが、ペンギンは分かっていないようだった。
昏倒している海賊を路地の奥へと引き摺っていき、ペンギンが顔を隠す為にストールを被りなおす。隠さずとも男だとはばれないだろうなと思ったが、ローは言わないでおいた。
行きで関係無い男達に声を掛けられたのが嫌だったのか、帰りは最初からローの腕に『売春婦らしく』手を絡ませてくる。
「まぁ、心臓集める度に女装しなくても良くなって、俺としては助かるんですけどねぇ」
この作戦は駄目だという結論に対し、感想を漏らすペンギンに言いたい事はローとしては色々ある。それが分かったのかペンギンが訝しげに見上げてきた。
「……言っておきますが、女装は必要に駆られなけりゃやろうとは思わねぇんですからね、本気で」
ヒールまで女物にするという程しっかりと女装をしておいて、よくもまぁ言えたものだ。振り向けばローより背の低いペンギンを見下ろす形になるが、パッと見はペンギンを見慣れているはずのローでも女だったかと疑う。
「必要に駆られたことがあんのか」
「油断させるのに女性の姿は有効ですし、変装する時も性別を偽るのが一番手軽ですからねぇ」
だから一国の相談役が何をやっているのかと。
宿に戻った直後、浴室へ向かったペンギンが化粧も落として服もツナギに戻して出てくる。髪も洗ったらしく、防寒帽を被っていないペンギンに近付いて顔をマジマジと見てみた。
特徴的な紫の瞳をした、化粧する必要があったとは思えない顔だ。
「……女顔だな」
「んなこたぁ昔から知ってんですよ」
七武海になるのに実力を提示する為に、海賊の心臓を集めると決めた後。とりあえず近くに居る海賊でどうやって心臓を奪うかの作戦を考えようとなった。
第一の方法としてはやはり襲撃特化のハートの海賊団らしく、それなりの策を講じて奪おうとなったものの、その候補からして何かが間違っていたらしい。
安直に囮を用意しておびき寄せて油断させたところを奪おうという作戦に、ペンギンが囮役となったところまでは問題なかったのだが、『お試し』でペンギンが海賊をおびき寄せるのに使った手段が駄目だった。
まさか自分が女顔であることを利用するとは、ローだって想定していない。
聞けば今までにもそういった事は経験済みらしいし、女装自体目的や理由がちゃんとあるのならするのも吝かではないらしかったが、目的の海賊がいる島の宿で着々と準備していたペンギンの手際はいっそ清々しいほどに素晴らしかった。
あっという間にローの前へ支度をして出てきたペンギンは、どこからどう見ても立派な『売春婦』である。『立派な』売春婦というのもおかしな表現だが、それ以外に表現のしようが無い。
「……化けたな」
「暗殺に変装なんて常套手段でしょう?」
「お前は暗殺者じゃねえだろうが」
一国の相談役が何を言っているんだと呆れてしまう。
「化粧が濃いな」
「売春婦なので化粧は濃い目なんです」
「もっと落とせねえのか?」
「おぼこい娼婦をイメージすればまた違げぇますけど、今回はこれでぇ」
声は男の物なので喋れば気付いてしまうだろうが、それ以外に懸念材料が無かった。
「褒めるべきか?」
「褒めたら全力でカマバッカ王国へ連れて行ってあげましょう」
だが女装したペンギンは、その辺の下手な女性よりは美人の部類に入る。
実際、海賊を待ち伏せする為の路地へ向かうまでに何度か、何も知らない野郎共に声を掛けられている。囮だとばれない様にローは離れて後を追っていたのだが、途中でペンギンの方が嫌になって『ローが買った売春婦』という体を作って路地へ向かうことにしたくらいだ。
そうして路地で待ち伏せした賞金首は、ものの見事に引っかかった。
酒場から出てきた海賊の男がフラフラと通りを歩くのに、ペンギンが隠れていた路地から僅かに身を乗り出して男に存在を気付かせる。男が気付いたことを察してから視線に気付いたという様子で振り返り、男へ向けて微笑んで路地へと引っ込んでいった。
誘われたのだと気付いた男が千鳥足でペンギンの居る路地へ入っていくのを確認して、ローが隠れていた場所から路地へ向かえば重い物が落ちる音。路地の奥に居たペンギンの足元へ先ほどの男が倒れている。
「とりあえず気絶させましたけど……隠れてください」
ペンギンの視線はローの背後の路地の外へ向いていた。足音が近付いてくるのにペンギンの意を悟って隠れる。
どうやら同じ海賊団らしい船員が、路地で倒れている男とペンギンを見つけて驚いている隙に、背後から当て身を食らわせた。
「やっぱりこのやり方は止めましょう。簡単すぎるしハートの品位が疑われます」
「……そうだな」
海賊の心臓を片手に弄びつつ見れば、ペンギンは被っていたストールを降ろして足元の海賊を女物のヒールの爪先でつついていた。
簡単に引っかかりすぎて、これでは本来難しいと思っていた『心臓集め』が、一気に難易度の下がった様に思える。ペンギンもそう思ったらしく、『この方法は無し』という事で決まった。
だがその原因は、実のところペンギンなんじゃないかと思う。
女物のヒールで爪先が痛むのだと心臓を戻す為にしゃがんでいたローの肩へ手を置いて、ヒールを脱ぐ仕草さえ女のそれである。スカートが無造作に捲れない様に足を曲げ、当たって赤くなった小指と親指の端を擦る手にすら、男らしい仕草が出ていない。
経験があるとは言っていたが、それにしては手馴れた様子だ。
「……ずっと思ってたんだが、お前のせいじゃねえのか?」
この作戦がこんな簡単になってしまったのは、という意味を込めたのだが、ペンギンは分かっていないようだった。
昏倒している海賊を路地の奥へと引き摺っていき、ペンギンが顔を隠す為にストールを被りなおす。隠さずとも男だとはばれないだろうなと思ったが、ローは言わないでおいた。
行きで関係無い男達に声を掛けられたのが嫌だったのか、帰りは最初からローの腕に『売春婦らしく』手を絡ませてくる。
「まぁ、心臓集める度に女装しなくても良くなって、俺としては助かるんですけどねぇ」
この作戦は駄目だという結論に対し、感想を漏らすペンギンに言いたい事はローとしては色々ある。それが分かったのかペンギンが訝しげに見上げてきた。
「……言っておきますが、女装は必要に駆られなけりゃやろうとは思わねぇんですからね、本気で」
ヒールまで女物にするという程しっかりと女装をしておいて、よくもまぁ言えたものだ。振り向けばローより背の低いペンギンを見下ろす形になるが、パッと見はペンギンを見慣れているはずのローでも女だったかと疑う。
「必要に駆られたことがあんのか」
「油断させるのに女性の姿は有効ですし、変装する時も性別を偽るのが一番手軽ですからねぇ」
だから一国の相談役が何をやっているのかと。
宿に戻った直後、浴室へ向かったペンギンが化粧も落として服もツナギに戻して出てくる。髪も洗ったらしく、防寒帽を被っていないペンギンに近付いて顔をマジマジと見てみた。
特徴的な紫の瞳をした、化粧する必要があったとは思えない顔だ。
「……女顔だな」
「んなこたぁ昔から知ってんですよ」