原作前日常編
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青年視点
上から垂らされたロープをスルスルと降りてきた防寒帽の男と合流し、潜水艦は島から離れていく。黒煙と空を飛び回る鳥の姿が遠目にも見えて、漁師の手伝いをしていた時以上に遠くなって小さくなった島に、こんなちっぽけな島だったのかと思った。
「どうだ? 戻りたくなってきたか?」
隣に立ったトラファルガーが酒瓶を渡してくる。こんな朝っぱらから酒かよ、とも思ったけれど、受け取ってラッパ飲みした。途中で苦しくなって咳き込めば、笑いながら背中を叩かれる。
戻りたいなんていったって、もう戻る家だって無いだろう。妹は領主と結婚するって言っていたし、この襲撃で妹がどうなったのかも分からない。ただ、あまり妹を心配する気持ちは無かった。
だってオレはその妹へ捨てられたんだ。
「……戻れって言ったら、どうせ船から蹴り落とされるんだろ?」
「海賊にどんなイメージ持ってるんだ。オレたちは海賊だが医者でもあるんだ。溺死させるような真似をクルーにさせてどうする」
「ほんとにオレのことクルーにすんの」
「満員一致だ。喜べ」
「その事ですがね船長」
いきなり聞こえた第三者の声に振り返れば、防寒帽の男が船内から出てくる。潮風に帽子を押さえてちょっと空を見上げたその男は、甲板に落ちていた鳥の羽を拾いながら近づいてきた。
「彼には医者になる為の勉強をしてもらいましょう。医者になれずとも多少の知識があれば、治療の際に手伝うことが出来ますから」
「足手まといはいらないってか?」
「いらない足手まといを増やさねぇ為です。それと『医者がいい』という貴方の拘りも、その条件ならちょっと苦しいですがクリアしますからね」
「ちょ、ちょっと! だからオレ読み書きも出来ないって……」
慌てて口を挟めば、防寒帽の男がオレを見て微笑んだ。地下牢で見たのと同じ、やさしげな笑み。
「大丈夫。航海は長げぇんだから、この船が沈没する前には医者にだって賞金首にだってなれるだろうぜぇ」
「おい、それは当て付けか?」
「まさか。彼が医者になったって沈没なんかさせやしませんよ」
トラファルガーと冗談の様な言い合いを始めてしまったけれど、防寒帽の男の言葉がじわじわと胸に来る。唯一の家族に捨てられたばかりだからかもしれないけれど、『この人たちはオレを見捨てない』と思った。
遠ざかる島の名前も、そういえばオレは知らない。ずっとあの島で貧しく暮らしていくんだと思っていたから。
でもそうじゃなかった。少なくともオレには、まだチャンスがあるらしい。
「……あの!」
「ん?」
「どうした?」
言い合っていた二人が振り返る。
「これから、よろしくお願いします。……せ、せんちょう。と……ペンギン? さん」
一拍置いて、船長が盛大に噴き出したのに、ペンギンさんがいつの間にか持っていたハリセンで頭を叩いていた。
上から垂らされたロープをスルスルと降りてきた防寒帽の男と合流し、潜水艦は島から離れていく。黒煙と空を飛び回る鳥の姿が遠目にも見えて、漁師の手伝いをしていた時以上に遠くなって小さくなった島に、こんなちっぽけな島だったのかと思った。
「どうだ? 戻りたくなってきたか?」
隣に立ったトラファルガーが酒瓶を渡してくる。こんな朝っぱらから酒かよ、とも思ったけれど、受け取ってラッパ飲みした。途中で苦しくなって咳き込めば、笑いながら背中を叩かれる。
戻りたいなんていったって、もう戻る家だって無いだろう。妹は領主と結婚するって言っていたし、この襲撃で妹がどうなったのかも分からない。ただ、あまり妹を心配する気持ちは無かった。
だってオレはその妹へ捨てられたんだ。
「……戻れって言ったら、どうせ船から蹴り落とされるんだろ?」
「海賊にどんなイメージ持ってるんだ。オレたちは海賊だが医者でもあるんだ。溺死させるような真似をクルーにさせてどうする」
「ほんとにオレのことクルーにすんの」
「満員一致だ。喜べ」
「その事ですがね船長」
いきなり聞こえた第三者の声に振り返れば、防寒帽の男が船内から出てくる。潮風に帽子を押さえてちょっと空を見上げたその男は、甲板に落ちていた鳥の羽を拾いながら近づいてきた。
「彼には医者になる為の勉強をしてもらいましょう。医者になれずとも多少の知識があれば、治療の際に手伝うことが出来ますから」
「足手まといはいらないってか?」
「いらない足手まといを増やさねぇ為です。それと『医者がいい』という貴方の拘りも、その条件ならちょっと苦しいですがクリアしますからね」
「ちょ、ちょっと! だからオレ読み書きも出来ないって……」
慌てて口を挟めば、防寒帽の男がオレを見て微笑んだ。地下牢で見たのと同じ、やさしげな笑み。
「大丈夫。航海は長げぇんだから、この船が沈没する前には医者にだって賞金首にだってなれるだろうぜぇ」
「おい、それは当て付けか?」
「まさか。彼が医者になったって沈没なんかさせやしませんよ」
トラファルガーと冗談の様な言い合いを始めてしまったけれど、防寒帽の男の言葉がじわじわと胸に来る。唯一の家族に捨てられたばかりだからかもしれないけれど、『この人たちはオレを見捨てない』と思った。
遠ざかる島の名前も、そういえばオレは知らない。ずっとあの島で貧しく暮らしていくんだと思っていたから。
でもそうじゃなかった。少なくともオレには、まだチャンスがあるらしい。
「……あの!」
「ん?」
「どうした?」
言い合っていた二人が振り返る。
「これから、よろしくお願いします。……せ、せんちょう。と……ペンギン? さん」
一拍置いて、船長が盛大に噴き出したのに、ペンギンさんがいつの間にか持っていたハリセンで頭を叩いていた。