空白の二年間編2
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夢主視点
酒場帰りの暗い路地の奥、覗き込んだそこで倒れているのは同じ海賊船へ乗っている仲間だった。低額とはいえ賞金首であるその仲間が倒されるとは並大抵の事ではない。
賞金稼ぎに襲われたのかと瞠目する自分を見つめ、倒れている仲間の直ぐ傍に立っていた“売春婦”が被ったストールの影で笑う。
直後、後ろから衝撃が。
七武海になろうと思う、と船長がシルビにだけでは無くハートのクルーへ宣言して数日。
なんだって七武海にという動揺と困惑をとりあえず収めたクルー全員で、次の課題である『どうやって七武海になるか』を話し合った。
七武海になるには二つの方法がある。一つは自ら何かしらの評価を示し海軍本部へ認めさせる方法と、誰かに推薦させる方法だ。
とはいえ推薦させるとなれば『誰に』という問題が発生する。シルビの伝手を使えば例えば、『冥王レイリー』とか『革命家ドラゴン』とかそれなりに有名どころを使えるだろう。最悪シルビ自身が『死告シャイタン』を名乗って推薦してもいい。
しかし船長は『自薦』でいくつもりらしかった。そこまでは故郷で既にシルビは聞いている。他のクルーはともかく。
そして自薦となると次に発生する問題が、海軍が七武海にしてもいいと認めるような知名度と実力を示さねばならないという事だ。
「ハートにしか出来ねえことがいいでしょうねえ……となるとやっぱり医学的なことかい?」
「伝染病を治すとか?」
「偉業だけど海賊っぽくはないな。むしろ伝染病を……駄目だ理性が無理」
「医者だもんねオレ等」
「海賊っぽくかつハートにしか出来ない事って、難しいな」
「いや別に『ハートにしか出来ねぇ』って限定する必要無ぇからなぁ?」
何故か海軍へ示す証明の条件として、『海賊らしい』と『ハートの海賊団にしか出来ない』という二つを前提に考えているクルー達にシルビは苦笑する。決してそんな事は無いのだが、どうせならハートの海賊団ごと有名になりたいのだろう。
だがそれは自分達がそう考えているだけで、証明の方法次第では海軍側がどう思うのかも分からない。
大体にして今までの、海軍が七武海にしようとしてきた海賊の基準がそもそも微妙なのだ。賞金が億越えと限られている訳でもなければ、かといって海軍へ従順だという訳でもなく。具体的な基準が『他の海賊への抑止力』だけなどというのは明確だとは思えない。
いや、基準としてはある意味正しいのだろう。『世界政府にとって手綱を握っておいた方が得をしそうだ』という基準が。
そもそもの大前提として、『死告シャイタン』は海賊ではない。
海賊として行動していた事は無いので、分類するのであれば『死告シャイタン』はドラゴンのような『反政府の者』なのだろう。なので海賊から選ばれるのであろう七武海にはなれないだろうし、ならない。
レイリーはロジャー海賊団が解散した今、賞金額や称号はそのままでも『元海賊』だ。そもそもシルビもレイリーも世界政府にとっては目の上のたんこぶだろうが、七武海になるには政府側が手綱を握っていられる相手ではない。
話を戻すが、では政府が手綱を握っておきたい存在とはどういうものか。
「とりあえずマリージョアから天竜人でも誘拐してみましょうかぁ」
「とりあえずで出来ることじゃねーよ!」
我ながら名案だと思ったのが叫んで否定された。
「あのなペンギン! それは七武海どころかインペルダウン行きになる所業だろ!?」
「えー、七武海にしねぇと天竜人を剥製にするとか言えば、インパクトはあるしハートが持つ技術も伝えられるし、一石二鳥じゃねぇ?」
「人間で剥製作れってか! あははー無理!」
「無理じゃねぇだろぉ。生き物の剥製作るのと同じでまず皮膚を……」
「説明いらない!」
「時々怖い事サラリと言うよねペンギンって」
エンバーミングは難易度が高すぎたのだろうか。ともあれ反対されてしまったので、最悪な最終的にはそれにしようと譲歩されてシルビの案は却下された。
それなら他に案があるのかといえば、そうでもない。変な条件を何故か付けているから思いつかないだけだとシルビは思うのだが、クルー達が真剣そうなので黙っておく。
他にも海軍の病人や怪我人を片っ端から治療するとか色々上げられたが、海賊のくせに海軍治してどうするんだなどと直ぐに反論が上がってなかなか決まらない。途中で飽きたシルビが、最終的には推薦でいいじゃないかともう一度船長へ進言しようとしたところで、同じく疲れてきたらしいバンダナが咥えていた煙草を灰皿へ押し付けた。
「もういいんじゃないかい? 適当に船長の能力で心臓奪うとかにしときましょうや」
「心臓奪ってどうすんの?」
「返して欲しけりゃ七武海にしろって脅迫すんのさ。天竜人を誘拐するよりは手間も掛からないだろう?」
確かに煩い上に面倒臭い性格が多い天竜人をそのまま攫うより、鼓動の音だけを響かせる心臓だけを奪った方が楽だろう。しかも船長のオペオペの実の能力だからこそ出来る事だ。
だがそれなら相手は天竜人でなくともいいかもしれない。例えば世界政府加盟国の要人だとか。その方がマリージョアへ行くより楽だ。自分の故郷が世界政府非加盟だからこそ言える訳だが。
バンダナの提案を元に最終的に決まった内容は、『海賊の心臓を集めて海軍へ献上する』という事になった。
別にマリージョアや海軍を襲撃して、天竜人や将校の心臓を奪うのでもいいのではとシルビは思ったのだが、これから海軍の犬になるというのにそんな禍根を残してどうすると窘められている。
世間へ配られている手配書を集め、それなりの額の海賊を選んでいく。潜伏場所などはターゲットを決めてから調べればいいので、とりあえずは海賊を選定していくのが先だ。手当たり次第でもいいのだが、低額で知名度も低く実力も無い海賊を捕まえたところで面白くも何とも無い。
そうして選んだ海賊の、一人目から試しに心臓を奪ってみるかということになって、船長とシルビが船を降りて奪いに来て、冒頭へ戻る。
足元へ転がる海賊は鼻血を出して昏倒していた。単純にシルビが売春婦の振りをして、路地裏へおびき寄せたのを気絶させただけなのだが。もう一人はただ巻き込まれただけで。
悪魔の実の能力で取り出した心臓を両手に、船長がつまらなそうに倒れている海賊を見下ろしている。久しぶりに履いたヒールでつま先が痛い。
「言いてぇことは分かりますけど、どうします?」
「……この心臓は戻す」
「ですよねぇ」
二人とも、まさかこんな簡単に引っかかるとは思っていなかったのだ。
酒に酔っている様だったとはいえもっと警戒心を持つべきだろうし、まともに反撃の一つも無いただのだまし討ちでは達成感も無かった。
「とりあえずこの方法は駄目ですねぇ。もうちょっと作戦考えましょう」
おびき寄せて回収、ではただの作業になってしまう。七武海になるのがそんな単純作業の結果では、なってからもあまりいい気はしない。
溜息を吐きながら足元の海賊を跨ぎ、船長の元へ近付く。船長はしゃがんで持っていた心臓を無造作に海賊の胸元へ戻していた。時々思うのだが、こっそり心臓を入れ替えていて片方が心臓を射抜かれて死んだ場合、死体へ自分の心臓が残されている方はどうなるのだろうか。
「船長ちょっと肩貸してください」
「どうした」
「爪先が、ヒールが痛ぇんですよ」
「……ずっと思ってたんだが、お前のせいじゃねえのか?」
「何がです?」
「……いや、何でもない。忘れろ」
肩を借りてヒールを脱ぐ。案の定赤くなっていた爪先を軽くさすってから、裸足のまま路地の入り口近くに倒れている海賊を路地の奥へと運んだ。発見を遅らせる為だが、一応売春婦にやられたと思わせる為に二人の懐から金目になりそうな物を奪っておく。
もう一人の海賊へ心臓を戻していた船長と一緒に路地を出る、前にもう一度ストールを被り『売春婦らしく』船長の腕に手を絡ませた。こうでもしないと宿へ戻る前に、客引き中の娼婦と間違えられて声を掛けられる。行きの面倒を繰り返したくない。
「まぁ、心臓集める度に女装しなくても良くなって、俺としては助かるんですけどねぇ」
思うことをしみじみと言ったら、船長が非常に何か言いたげにしていた。
酒場帰りの暗い路地の奥、覗き込んだそこで倒れているのは同じ海賊船へ乗っている仲間だった。低額とはいえ賞金首であるその仲間が倒されるとは並大抵の事ではない。
賞金稼ぎに襲われたのかと瞠目する自分を見つめ、倒れている仲間の直ぐ傍に立っていた“売春婦”が被ったストールの影で笑う。
直後、後ろから衝撃が。
七武海になろうと思う、と船長がシルビにだけでは無くハートのクルーへ宣言して数日。
なんだって七武海にという動揺と困惑をとりあえず収めたクルー全員で、次の課題である『どうやって七武海になるか』を話し合った。
七武海になるには二つの方法がある。一つは自ら何かしらの評価を示し海軍本部へ認めさせる方法と、誰かに推薦させる方法だ。
とはいえ推薦させるとなれば『誰に』という問題が発生する。シルビの伝手を使えば例えば、『冥王レイリー』とか『革命家ドラゴン』とかそれなりに有名どころを使えるだろう。最悪シルビ自身が『死告シャイタン』を名乗って推薦してもいい。
しかし船長は『自薦』でいくつもりらしかった。そこまでは故郷で既にシルビは聞いている。他のクルーはともかく。
そして自薦となると次に発生する問題が、海軍が七武海にしてもいいと認めるような知名度と実力を示さねばならないという事だ。
「ハートにしか出来ねえことがいいでしょうねえ……となるとやっぱり医学的なことかい?」
「伝染病を治すとか?」
「偉業だけど海賊っぽくはないな。むしろ伝染病を……駄目だ理性が無理」
「医者だもんねオレ等」
「海賊っぽくかつハートにしか出来ない事って、難しいな」
「いや別に『ハートにしか出来ねぇ』って限定する必要無ぇからなぁ?」
何故か海軍へ示す証明の条件として、『海賊らしい』と『ハートの海賊団にしか出来ない』という二つを前提に考えているクルー達にシルビは苦笑する。決してそんな事は無いのだが、どうせならハートの海賊団ごと有名になりたいのだろう。
だがそれは自分達がそう考えているだけで、証明の方法次第では海軍側がどう思うのかも分からない。
大体にして今までの、海軍が七武海にしようとしてきた海賊の基準がそもそも微妙なのだ。賞金が億越えと限られている訳でもなければ、かといって海軍へ従順だという訳でもなく。具体的な基準が『他の海賊への抑止力』だけなどというのは明確だとは思えない。
いや、基準としてはある意味正しいのだろう。『世界政府にとって手綱を握っておいた方が得をしそうだ』という基準が。
そもそもの大前提として、『死告シャイタン』は海賊ではない。
海賊として行動していた事は無いので、分類するのであれば『死告シャイタン』はドラゴンのような『反政府の者』なのだろう。なので海賊から選ばれるのであろう七武海にはなれないだろうし、ならない。
レイリーはロジャー海賊団が解散した今、賞金額や称号はそのままでも『元海賊』だ。そもそもシルビもレイリーも世界政府にとっては目の上のたんこぶだろうが、七武海になるには政府側が手綱を握っていられる相手ではない。
話を戻すが、では政府が手綱を握っておきたい存在とはどういうものか。
「とりあえずマリージョアから天竜人でも誘拐してみましょうかぁ」
「とりあえずで出来ることじゃねーよ!」
我ながら名案だと思ったのが叫んで否定された。
「あのなペンギン! それは七武海どころかインペルダウン行きになる所業だろ!?」
「えー、七武海にしねぇと天竜人を剥製にするとか言えば、インパクトはあるしハートが持つ技術も伝えられるし、一石二鳥じゃねぇ?」
「人間で剥製作れってか! あははー無理!」
「無理じゃねぇだろぉ。生き物の剥製作るのと同じでまず皮膚を……」
「説明いらない!」
「時々怖い事サラリと言うよねペンギンって」
エンバーミングは難易度が高すぎたのだろうか。ともあれ反対されてしまったので、最悪な最終的にはそれにしようと譲歩されてシルビの案は却下された。
それなら他に案があるのかといえば、そうでもない。変な条件を何故か付けているから思いつかないだけだとシルビは思うのだが、クルー達が真剣そうなので黙っておく。
他にも海軍の病人や怪我人を片っ端から治療するとか色々上げられたが、海賊のくせに海軍治してどうするんだなどと直ぐに反論が上がってなかなか決まらない。途中で飽きたシルビが、最終的には推薦でいいじゃないかともう一度船長へ進言しようとしたところで、同じく疲れてきたらしいバンダナが咥えていた煙草を灰皿へ押し付けた。
「もういいんじゃないかい? 適当に船長の能力で心臓奪うとかにしときましょうや」
「心臓奪ってどうすんの?」
「返して欲しけりゃ七武海にしろって脅迫すんのさ。天竜人を誘拐するよりは手間も掛からないだろう?」
確かに煩い上に面倒臭い性格が多い天竜人をそのまま攫うより、鼓動の音だけを響かせる心臓だけを奪った方が楽だろう。しかも船長のオペオペの実の能力だからこそ出来る事だ。
だがそれなら相手は天竜人でなくともいいかもしれない。例えば世界政府加盟国の要人だとか。その方がマリージョアへ行くより楽だ。自分の故郷が世界政府非加盟だからこそ言える訳だが。
バンダナの提案を元に最終的に決まった内容は、『海賊の心臓を集めて海軍へ献上する』という事になった。
別にマリージョアや海軍を襲撃して、天竜人や将校の心臓を奪うのでもいいのではとシルビは思ったのだが、これから海軍の犬になるというのにそんな禍根を残してどうすると窘められている。
世間へ配られている手配書を集め、それなりの額の海賊を選んでいく。潜伏場所などはターゲットを決めてから調べればいいので、とりあえずは海賊を選定していくのが先だ。手当たり次第でもいいのだが、低額で知名度も低く実力も無い海賊を捕まえたところで面白くも何とも無い。
そうして選んだ海賊の、一人目から試しに心臓を奪ってみるかということになって、船長とシルビが船を降りて奪いに来て、冒頭へ戻る。
足元へ転がる海賊は鼻血を出して昏倒していた。単純にシルビが売春婦の振りをして、路地裏へおびき寄せたのを気絶させただけなのだが。もう一人はただ巻き込まれただけで。
悪魔の実の能力で取り出した心臓を両手に、船長がつまらなそうに倒れている海賊を見下ろしている。久しぶりに履いたヒールでつま先が痛い。
「言いてぇことは分かりますけど、どうします?」
「……この心臓は戻す」
「ですよねぇ」
二人とも、まさかこんな簡単に引っかかるとは思っていなかったのだ。
酒に酔っている様だったとはいえもっと警戒心を持つべきだろうし、まともに反撃の一つも無いただのだまし討ちでは達成感も無かった。
「とりあえずこの方法は駄目ですねぇ。もうちょっと作戦考えましょう」
おびき寄せて回収、ではただの作業になってしまう。七武海になるのがそんな単純作業の結果では、なってからもあまりいい気はしない。
溜息を吐きながら足元の海賊を跨ぎ、船長の元へ近付く。船長はしゃがんで持っていた心臓を無造作に海賊の胸元へ戻していた。時々思うのだが、こっそり心臓を入れ替えていて片方が心臓を射抜かれて死んだ場合、死体へ自分の心臓が残されている方はどうなるのだろうか。
「船長ちょっと肩貸してください」
「どうした」
「爪先が、ヒールが痛ぇんですよ」
「……ずっと思ってたんだが、お前のせいじゃねえのか?」
「何がです?」
「……いや、何でもない。忘れろ」
肩を借りてヒールを脱ぐ。案の定赤くなっていた爪先を軽くさすってから、裸足のまま路地の入り口近くに倒れている海賊を路地の奥へと運んだ。発見を遅らせる為だが、一応売春婦にやられたと思わせる為に二人の懐から金目になりそうな物を奪っておく。
もう一人の海賊へ心臓を戻していた船長と一緒に路地を出る、前にもう一度ストールを被り『売春婦らしく』船長の腕に手を絡ませた。こうでもしないと宿へ戻る前に、客引き中の娼婦と間違えられて声を掛けられる。行きの面倒を繰り返したくない。
「まぁ、心臓集める度に女装しなくても良くなって、俺としては助かるんですけどねぇ」
思うことをしみじみと言ったら、船長が非常に何か言いたげにしていた。