原作前日常編
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夢主視点
「この鳥の群れは俺がひきつけますので、後は計画通りにお願いします。この屋敷にあった財産は崖から下へ降ろしておきましたから」
走りながらこの後の計画に着いて確認をする。舌を噛んで涙目で走っている青年にはバンダナと一緒に行ってもらうことにした。
というより元からこの先はシルビ一人で行動する予定だったのだ。地下牢で捕まっていたのを助けた事が既に予想外だが、今のところ問題はない。
廊下を走っている途中で、シルビを除いたロー達三人だけが空いていた部屋へと飛び込んで扉を閉める。鳥の群れは最初からシルビしか見ていないようにその三人をスルーし、シルビは階段の踊り場から一階エントランスへと飛び込んだ。
そこには騒ぎを聞きつけたりロー達を追いかけてきたりしていた民衆が集まっていて、いきなり頭上から降ってきたシルビに驚き、更にシルビを追いかけてきた鳥の襲撃を受けて悲鳴を上げる。その民衆の足元で身を低くして蹴られないように逃げながら、シルビは扉の隙間から厨房へ逃げ、そこの窓から外へ出た。
ロー達はこの後、騒ぎによって混乱しているだろう民衆を無視して船へ戻り、最初にシルビを降ろした崖へと移動する。今度は出来るだけ民衆へ見つからないようにするのだが、予想以上の鳥の群れにそれは心配無さそうだった。
シルビは場所を移動して違う部屋の窓から再び屋敷へ侵入し、鳥に気をつけながら再び階段を昇り、ロー達と合流した扉の前へと向かう。
シルビのやる事は単に領主の暗殺だ。暗殺と言うべきかどうなのかは分からないが、ただ殺すのではなく『ハートの海賊団がやったようには思わせない』ように殺すので、暗殺とは少し違うかもしれない。
ロー達には民衆の混乱に乗じて妹へ更なる罪を被せるだけと言ってあるが、元よりシルビの計画は領主を妹が殺したように見せかけることにあった。こういう町では領主殺しは罪が重い。
けれどもきっと妹はそんな事知りやしないのだろうと思ってもいた。何せ実の兄を捨てられる妹だ。自分にとって邪魔だと思えば、誰だって殺せるのだろう。父親や母親のように。
「君のそういうところがやっぱり嫌いだよ俺は。自分の考えを盲信する奴ってのは昔から嫌いでしょうがねぇ」
開けた扉の向こうでは、頭から血を流して倒れている中年男性の死骸が床へ転がっていた。震える手で銃を構えている妹は、身体に巻きつけたシーツがずり落ちている事に気付いているのかいないのか。
苦労を知らない白い肌の到るところへ鬱血の後が付いている。年頃の息子が居た筈だが、どうやら領主はまだまだ現役だったらしい。
シルビにとってはどうでもいい事だが、青年がコレを見なくて良かったなとは思った。
「……どうしてっ」
「どうして? 妙な事を聞くなぁ」
「どうしてよっ! どうしてわたしばっかり! 私だって幸せになりたいのにっ!」
「君は充分幸せだっただろうよ。ただ選択肢とタイミングをいつも間違えてただけだろぉ」
鳥や人が入ってこないように背中で扉を閉める。
「幸せなんて無かった! 口煩い父親にわたしの事なんて考えない母親! 馬鹿で自分の不幸さにも気づけない兄! 私の味方は鳥たちしかいなかったのよ。選択肢が何よ、そんなの無かったじゃない。タイミングが何よ、普通はわたしが選んだタイミングが最良で“あるべき”よ」
「そう考えているうちは、俺はやっぱり君の味方になんざならねぇよ。君の両親もお兄さんも君の事を常に考えていた。彼らを貧しくしていたのは君だとは、分かってるかぁ?」
「そんな訳無いでしょう。わたしを幸せにするのがあの人たちの義務だったの。鳥の言葉が分かるのはその証拠。なのにあの父親は何度もそれを黙っていなさいって。証拠は示さなくちゃ意味が無いのに」
「異常な力は、隠しておくべきことでしかねぇよ。君の父親はそれをよく分かっていた。それだけだろぉ」
「隠すことなんかじゃない!」
「言い広める必要は無い事だって言えば、分かるのかぁ?」
言い広める必要がある異常な力なんて、存在しない。そんなことはシルビが一番分かっている。
妹が持っていた銃の銃口をシルビへと向けた。領主を撃ったそのままらしいあの銃では、弾も出ず何も撃てやしない。けれども妹はそういう事さえ知らないのだろう。
「……同情するよ」
「なら助けてよ」
「君には同情しねぇ。するのは君の家族にだぁ。だから君のお兄さんだけは『鳥使い』の小娘から奪ってく。君はここでこれからは一人で生きていきなさい。……鳥ももう君に話しかけることは無いだろうけどなぁ」
そのまま領主の死体の傍を抜けて、シルビは妹へと近づいていく。来るなとか撃つわよと叫んでいる妹の目の前へ立って、震えているその手から銃を奪った。それを領主の遺体から溢れている血溜まりへ投げ捨てる。
この妹はわざわざ汚い血で汚れた銃を拾うなんて事は考えない。自分の手は『きれいなままであるべき』という考えだからだ。
「本当は君も自殺に見せかけて殺しておこうかと思ったけど、『可哀想だから』止めとくぜぇ」
ただしこの場合、鳥の襲撃をかわしてここへ来るであろう発見者が、この現場を見てどう思うかまでの責任は取らない。情事の跡はあれど無傷な娘と、撃たれて死んでいる領主。
力が抜けたようにその場へへたり込んだ妹は、シルビが部屋を辞するために踵を返しても何も言わなかった。扉を開けて逃げる為のルートを考えながら、シルビは最後にと妹を振り返る。
「一つつまらねぇ冗談を言ってやろう。ペンギンは『人鳥』って書くんだぜぇ。俺に助けてほしかったら、『鳥』だけじゃなく『人』にも気を配っているべきだったんだろぉなぁ」
「この鳥の群れは俺がひきつけますので、後は計画通りにお願いします。この屋敷にあった財産は崖から下へ降ろしておきましたから」
走りながらこの後の計画に着いて確認をする。舌を噛んで涙目で走っている青年にはバンダナと一緒に行ってもらうことにした。
というより元からこの先はシルビ一人で行動する予定だったのだ。地下牢で捕まっていたのを助けた事が既に予想外だが、今のところ問題はない。
廊下を走っている途中で、シルビを除いたロー達三人だけが空いていた部屋へと飛び込んで扉を閉める。鳥の群れは最初からシルビしか見ていないようにその三人をスルーし、シルビは階段の踊り場から一階エントランスへと飛び込んだ。
そこには騒ぎを聞きつけたりロー達を追いかけてきたりしていた民衆が集まっていて、いきなり頭上から降ってきたシルビに驚き、更にシルビを追いかけてきた鳥の襲撃を受けて悲鳴を上げる。その民衆の足元で身を低くして蹴られないように逃げながら、シルビは扉の隙間から厨房へ逃げ、そこの窓から外へ出た。
ロー達はこの後、騒ぎによって混乱しているだろう民衆を無視して船へ戻り、最初にシルビを降ろした崖へと移動する。今度は出来るだけ民衆へ見つからないようにするのだが、予想以上の鳥の群れにそれは心配無さそうだった。
シルビは場所を移動して違う部屋の窓から再び屋敷へ侵入し、鳥に気をつけながら再び階段を昇り、ロー達と合流した扉の前へと向かう。
シルビのやる事は単に領主の暗殺だ。暗殺と言うべきかどうなのかは分からないが、ただ殺すのではなく『ハートの海賊団がやったようには思わせない』ように殺すので、暗殺とは少し違うかもしれない。
ロー達には民衆の混乱に乗じて妹へ更なる罪を被せるだけと言ってあるが、元よりシルビの計画は領主を妹が殺したように見せかけることにあった。こういう町では領主殺しは罪が重い。
けれどもきっと妹はそんな事知りやしないのだろうと思ってもいた。何せ実の兄を捨てられる妹だ。自分にとって邪魔だと思えば、誰だって殺せるのだろう。父親や母親のように。
「君のそういうところがやっぱり嫌いだよ俺は。自分の考えを盲信する奴ってのは昔から嫌いでしょうがねぇ」
開けた扉の向こうでは、頭から血を流して倒れている中年男性の死骸が床へ転がっていた。震える手で銃を構えている妹は、身体に巻きつけたシーツがずり落ちている事に気付いているのかいないのか。
苦労を知らない白い肌の到るところへ鬱血の後が付いている。年頃の息子が居た筈だが、どうやら領主はまだまだ現役だったらしい。
シルビにとってはどうでもいい事だが、青年がコレを見なくて良かったなとは思った。
「……どうしてっ」
「どうして? 妙な事を聞くなぁ」
「どうしてよっ! どうしてわたしばっかり! 私だって幸せになりたいのにっ!」
「君は充分幸せだっただろうよ。ただ選択肢とタイミングをいつも間違えてただけだろぉ」
鳥や人が入ってこないように背中で扉を閉める。
「幸せなんて無かった! 口煩い父親にわたしの事なんて考えない母親! 馬鹿で自分の不幸さにも気づけない兄! 私の味方は鳥たちしかいなかったのよ。選択肢が何よ、そんなの無かったじゃない。タイミングが何よ、普通はわたしが選んだタイミングが最良で“あるべき”よ」
「そう考えているうちは、俺はやっぱり君の味方になんざならねぇよ。君の両親もお兄さんも君の事を常に考えていた。彼らを貧しくしていたのは君だとは、分かってるかぁ?」
「そんな訳無いでしょう。わたしを幸せにするのがあの人たちの義務だったの。鳥の言葉が分かるのはその証拠。なのにあの父親は何度もそれを黙っていなさいって。証拠は示さなくちゃ意味が無いのに」
「異常な力は、隠しておくべきことでしかねぇよ。君の父親はそれをよく分かっていた。それだけだろぉ」
「隠すことなんかじゃない!」
「言い広める必要は無い事だって言えば、分かるのかぁ?」
言い広める必要がある異常な力なんて、存在しない。そんなことはシルビが一番分かっている。
妹が持っていた銃の銃口をシルビへと向けた。領主を撃ったそのままらしいあの銃では、弾も出ず何も撃てやしない。けれども妹はそういう事さえ知らないのだろう。
「……同情するよ」
「なら助けてよ」
「君には同情しねぇ。するのは君の家族にだぁ。だから君のお兄さんだけは『鳥使い』の小娘から奪ってく。君はここでこれからは一人で生きていきなさい。……鳥ももう君に話しかけることは無いだろうけどなぁ」
そのまま領主の死体の傍を抜けて、シルビは妹へと近づいていく。来るなとか撃つわよと叫んでいる妹の目の前へ立って、震えているその手から銃を奪った。それを領主の遺体から溢れている血溜まりへ投げ捨てる。
この妹はわざわざ汚い血で汚れた銃を拾うなんて事は考えない。自分の手は『きれいなままであるべき』という考えだからだ。
「本当は君も自殺に見せかけて殺しておこうかと思ったけど、『可哀想だから』止めとくぜぇ」
ただしこの場合、鳥の襲撃をかわしてここへ来るであろう発見者が、この現場を見てどう思うかまでの責任は取らない。情事の跡はあれど無傷な娘と、撃たれて死んでいる領主。
力が抜けたようにその場へへたり込んだ妹は、シルビが部屋を辞するために踵を返しても何も言わなかった。扉を開けて逃げる為のルートを考えながら、シルビは最後にと妹を振り返る。
「一つつまらねぇ冗談を言ってやろう。ペンギンは『人鳥』って書くんだぜぇ。俺に助けてほしかったら、『鳥』だけじゃなく『人』にも気を配っているべきだったんだろぉなぁ」