ロー視点

「『シルビ』ってのは、この島じゃ一般的な名前なのか？」
「千年前に居た人の名前なの。この国では皆が知ってる」
「そうか……いや、知り合いにそんな名前の奴が居るんだ」

ペンギンの本名を思い出して聞いてみたが、この国では一般的に知られている名前だとすれば、親が過去の偉人に倣って付けることもあるだろうし、別にペンギンの本名でも変なことはない。領主の屋敷で見た古いイミテーションらしい墓石にも『シルビ』と彫られていたが、おそらくあの墓石の人物がクロームの言った千年前の人物なのだろう。子供へ偉人の名前を付けたりすることは良くあることだ。
ロー達が来る前に注文していたので先に来た料理を食べ始めるシャチ達を、バイザクがニコニコと眺めている。その目の前には料理どころか水のグラスさえ置かれていなかった。

「お前は食わないのか？」
「私は食事を必要としません。飲食は可能ではないし、消化器官もありません」
「どういう事？」

聞きとがめてベポが顔を上げる。それに答えたのはクロームだった。

「バイザクはシルビが造った『アンドロイド』なの。だから人と同じ様に食事は出来ない」
「……アンドロイド？」
「アンドロイドって、じゃあバイザクって『機械』なの！？」
「キャプテン、アンドロイドって何？」
「“ROOM”……“スキャン”」

ジャンバール達も知らなかったらしい話にローは能力を使いバイザクの内部を確かめる。いきなりローが悪魔の実の能力を使ったことで、バイザク以外の四人は驚いたようだったが、当のバイザクは悪魔の実の能力を知らないのか何をされているのか分かっておらず、一人首を傾げていた。
そして診たバイザクの中身は『人ではない』
臓器も筋肉も、骨さえなく、代わりに詰め込まれているのはコードや小さな機械のようなものばかりだ。しかしローが専門外である事を抜きにしても、バイザクの存在がこの世界に知れ渡れば科学者達が度肝を抜くであろう事は分かる。

「……造った奴はベガバンク以上の天才かよ」
「ベガバンクとは？」
「海軍の有名な研究者だよ。ってか、バイザクってこんなに人間っぽいのに、ロボットなのか」

シャチなんかはバイザクがロボットであるだけで驚いて感心しているが、そんな程度のものではないのだと絶句する事しかローには出来なかった。しかもそれを当人もこの島の住民達も当たり前として受け入れているのであれば、この国の技術水準は非常に高いという事だ。出来ればバイザクの『父親』に一度会って、話をしてみたいものである。
ペンギンに聞けばもう少しどういう人物か分かるだろうかと、ローは遅れて運ばれてきた料理に手を付け始めながら思った。