故郷の話
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バンダナ視点
バンダナが風邪を引いて寝ている筈のペンギンの様子を見にいけば、ペンギンは私服に着替えている途中でどう見ても脱走しようとしているところだった。珍しく防寒帽を被っていなかったが、シャツのボタンを留める作業を中断してまで顔を隠している。
入ってきたのが古参で船長以外に唯一素顔を知っているバンダナだと分かると、ペンギンは顔を隠していた手を降ろしてへらりと笑った。年単位で素顔を見た気がする。
その素顔だって、風邪が治りきっていない事を自覚しているからかマスクをしていた。
「ペンちゃん」
「はい」
「今すぐ着替えてベッドに戻らねえと、船長呼んでくるわ」
「……ごめんなさい」
男同士だとはいえ着替えているのを見られるのは嫌だろうが、ここで見張るのを止めて脱走されたら、怒られるのはペンギンだけではなくなる。もそもそと着替えている間も咳き込んでいるペンギンに、バンダナは壁に寄りかかって話しかけた。
「風邪治んないねえ」
「咳は出なくなってきたんですけど、まだ喉が痛てぇんですよ」
「船長は何て言ってんだい?」
「内科はイルカなんでイルカに診てもらってます。早いうちに安静にしてればここまで酷くはならなかっただろうって」
「島の医者に掛かるのは? 故郷なんだろ?」
「この島の医者は、女好きなんです。しかも対極にある病気に掛からせて相殺させる方法を取るから、下手すると二倍苦しいっていうか」
「どんな医者だいそりゃ」
着替えを終えたペンギンが、机の上にあった小袋から飴を取り出して口に入れる。あれは確かベポがペンギンへの土産にと買ってきたものだ。
寝台へ潜り込むペンギンの腕に、ペンギンが常に身に着けている腕輪を見つけてバンダナは昨夜のことをふと思い出した。
「昨日さ、夕食食った食堂でこの国の人たちが使える『炎』の話を聞いたんだよ」
「ジャンバールからも聞きましたね。それがぁ?」
「ペンちゃんも使えんのかい? なんか属性とかあるって聞いたけど」
「使えますよ」
そう言うと、ペンギンは左手を伸ばして指を鳴らす。直後部屋の真ん中へ現れた巨大ハリセンに、バンダナは近付いて拾い上げる。
船長やクルーを叱る時に使っている、いつも何処から現れているのか謎だったハリセンだ。しかし今になってもこれが、いったいどうやって現れたのかが分からない。
「どうなってんだい?」
「『構築』の属性を持つ藍色の炎を使いました。要はそれ、幻覚なんです」
「……はぁ?」
「持っているように感じているでしょうけれど、幻です。まぁ、それは『有幻覚』なんですけど」
ペンギンの説明に手の中にあるハリセンを見下ろす。重さも感触もあるというのに、実際には何も無いというのは、どうにも信じられない話だった。
バンダナが風邪を引いて寝ている筈のペンギンの様子を見にいけば、ペンギンは私服に着替えている途中でどう見ても脱走しようとしているところだった。珍しく防寒帽を被っていなかったが、シャツのボタンを留める作業を中断してまで顔を隠している。
入ってきたのが古参で船長以外に唯一素顔を知っているバンダナだと分かると、ペンギンは顔を隠していた手を降ろしてへらりと笑った。年単位で素顔を見た気がする。
その素顔だって、風邪が治りきっていない事を自覚しているからかマスクをしていた。
「ペンちゃん」
「はい」
「今すぐ着替えてベッドに戻らねえと、船長呼んでくるわ」
「……ごめんなさい」
男同士だとはいえ着替えているのを見られるのは嫌だろうが、ここで見張るのを止めて脱走されたら、怒られるのはペンギンだけではなくなる。もそもそと着替えている間も咳き込んでいるペンギンに、バンダナは壁に寄りかかって話しかけた。
「風邪治んないねえ」
「咳は出なくなってきたんですけど、まだ喉が痛てぇんですよ」
「船長は何て言ってんだい?」
「内科はイルカなんでイルカに診てもらってます。早いうちに安静にしてればここまで酷くはならなかっただろうって」
「島の医者に掛かるのは? 故郷なんだろ?」
「この島の医者は、女好きなんです。しかも対極にある病気に掛からせて相殺させる方法を取るから、下手すると二倍苦しいっていうか」
「どんな医者だいそりゃ」
着替えを終えたペンギンが、机の上にあった小袋から飴を取り出して口に入れる。あれは確かベポがペンギンへの土産にと買ってきたものだ。
寝台へ潜り込むペンギンの腕に、ペンギンが常に身に着けている腕輪を見つけてバンダナは昨夜のことをふと思い出した。
「昨日さ、夕食食った食堂でこの国の人たちが使える『炎』の話を聞いたんだよ」
「ジャンバールからも聞きましたね。それがぁ?」
「ペンちゃんも使えんのかい? なんか属性とかあるって聞いたけど」
「使えますよ」
そう言うと、ペンギンは左手を伸ばして指を鳴らす。直後部屋の真ん中へ現れた巨大ハリセンに、バンダナは近付いて拾い上げる。
船長やクルーを叱る時に使っている、いつも何処から現れているのか謎だったハリセンだ。しかし今になってもこれが、いったいどうやって現れたのかが分からない。
「どうなってんだい?」
「『構築』の属性を持つ藍色の炎を使いました。要はそれ、幻覚なんです」
「……はぁ?」
「持っているように感じているでしょうけれど、幻です。まぁ、それは『有幻覚』なんですけど」
ペンギンの説明に手の中にあるハリセンを見下ろす。重さも感触もあるというのに、実際には何も無いというのは、どうにも信じられない話だった。