原作前日常編
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青年視点
いったい目の前のコイツは何を言っているんだと思った。防寒帽に隠れて見えない目元が笑っているように思えるのだが、まるでそれが物語に出てくる悪魔の様でもある。
その笑みでコイツはオレを『欲しい』と言うのだ。妹にさえ捨てられたオレを。
「今ならまだ選ばせてあげよう。この地下牢で自分を捨てた妹の今後の幸せを案じて死ぬか。この地下牢を出て海賊になり、海の上で君を必要としている俺達とそれなりの幸せを掴むか。無論幸せになれる保障なんかしねぇよ。でも可能性ならいくらでもくれてあげよう。どうする?」
物心ついたとき、オレの家は既に貧乏だった。
病弱な妹の診察代と薬代に稼いだ金の殆どは消え、美味しい物だってまともに食ったことが無い。
親父とお袋は何度もオレに謝っていた。妹が病弱でお金が掛かるから仕方ないと諦めていたのだ。
二人が死んでからその苦労は一気にオレにきた。まともな職にも就けずに毎日子供の小遣い程度の金しか稼げなくて、何度妹へ謝っただろう。でも、そういえば、妹に謝られたことは一度も無かった。
本当はオレだって、色々とやりたいことはあったのに。
「……オレさ、読み書きも出来ないんだ。読むのはまだ出来るんだけど、書けるのは自分の名前だけで、スペルも間違って覚えてるかもしれない」
「うん」
「……海賊になっても、そういう勉強って出来るかな」
防寒帽の男は笑う。あくどい笑みじゃなく、口元しか見えないが優しげな微笑みだった。
「俺が教えられることなら何でも教えてあげよう。船長とバンダナさんだってきっと教えてくれる」
「はは、海賊のほうが家族より優しいなんて……オレって不幸『だった』んだな」
空腹で鳴りそうな腹を押さえながら立ち上がれば、鉄格子の向こうで防寒帽の男も立ち上がった。周囲を見回してこの地下牢の鍵を見つけて取って来ると、躊躇無く鍵を開けてオレを外へ出す。
今の時間はここが地下である事もあって分からない。防寒帽の男は更に奥へ行って何かしていたと思うと、小さめの樽を三つ抱えて戻ってくる。導火線が付いているので樽爆弾であることはオレでも分かった。
それなりに重いだろうに軽々と持つ防寒帽の男は、気遣うようにオレを見る。
「俺はまだここでやる事があるんだけど、君はどうするぅ? 家へ帰るのは申し訳ねぇけどお勧めしねぇなぁ。妹さんもこの屋敷にいるし」
「アンタは何するんだ?」
「爆弾を仕掛けるんだよ。……先に言っておくけど君の妹さん、陥れるからなぁ」
防寒帽の男から樽を一つ受け取って抱えた。
「手伝うよ。それから――オレにもう妹はいない」
いったい目の前のコイツは何を言っているんだと思った。防寒帽に隠れて見えない目元が笑っているように思えるのだが、まるでそれが物語に出てくる悪魔の様でもある。
その笑みでコイツはオレを『欲しい』と言うのだ。妹にさえ捨てられたオレを。
「今ならまだ選ばせてあげよう。この地下牢で自分を捨てた妹の今後の幸せを案じて死ぬか。この地下牢を出て海賊になり、海の上で君を必要としている俺達とそれなりの幸せを掴むか。無論幸せになれる保障なんかしねぇよ。でも可能性ならいくらでもくれてあげよう。どうする?」
物心ついたとき、オレの家は既に貧乏だった。
病弱な妹の診察代と薬代に稼いだ金の殆どは消え、美味しい物だってまともに食ったことが無い。
親父とお袋は何度もオレに謝っていた。妹が病弱でお金が掛かるから仕方ないと諦めていたのだ。
二人が死んでからその苦労は一気にオレにきた。まともな職にも就けずに毎日子供の小遣い程度の金しか稼げなくて、何度妹へ謝っただろう。でも、そういえば、妹に謝られたことは一度も無かった。
本当はオレだって、色々とやりたいことはあったのに。
「……オレさ、読み書きも出来ないんだ。読むのはまだ出来るんだけど、書けるのは自分の名前だけで、スペルも間違って覚えてるかもしれない」
「うん」
「……海賊になっても、そういう勉強って出来るかな」
防寒帽の男は笑う。あくどい笑みじゃなく、口元しか見えないが優しげな微笑みだった。
「俺が教えられることなら何でも教えてあげよう。船長とバンダナさんだってきっと教えてくれる」
「はは、海賊のほうが家族より優しいなんて……オレって不幸『だった』んだな」
空腹で鳴りそうな腹を押さえながら立ち上がれば、鉄格子の向こうで防寒帽の男も立ち上がった。周囲を見回してこの地下牢の鍵を見つけて取って来ると、躊躇無く鍵を開けてオレを外へ出す。
今の時間はここが地下である事もあって分からない。防寒帽の男は更に奥へ行って何かしていたと思うと、小さめの樽を三つ抱えて戻ってくる。導火線が付いているので樽爆弾であることはオレでも分かった。
それなりに重いだろうに軽々と持つ防寒帽の男は、気遣うようにオレを見る。
「俺はまだここでやる事があるんだけど、君はどうするぅ? 家へ帰るのは申し訳ねぇけどお勧めしねぇなぁ。妹さんもこの屋敷にいるし」
「アンタは何するんだ?」
「爆弾を仕掛けるんだよ。……先に言っておくけど君の妹さん、陥れるからなぁ」
防寒帽の男から樽を一つ受け取って抱えた。
「手伝うよ。それから――オレにもう妹はいない」