故郷の話
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ロー視点
領主の屋敷の一般開放されている部分を歩いている途中で犬を見つけ、人懐っこい犬だったので充分毛並みを堪能してからローは立ち上がった。やはりベポのほうがローの好みである。
周囲ではこの屋敷で働いているらしい使用人や、一般開放部を利用しにきた住民が歩き回っており、犬が徘徊していても気にしている様子は無い。
此処へ来れば領主かその部下に会える可能性が高いと言われて来てみたものの、ローの視界にそういった幹部格の者の姿は無かった。もう少し奥へ行くか、一般開放されていない場所へ忍び込むかを考えていると、足元で座っていた犬が立ち上がり歩き出す。
首輪はしていないが毛並みもいいし躾もされているので、この屋敷で飼われている犬なのだろう。知らないフリをして奥へ入ってみるかとローは犬の後を追うように歩き出して、関係者以外立ち入り禁止の廊下を進み始めた。
一般開放されている場所を離れると、人の気配も物音も極端に少なくなる。中庭に面した回廊は心地よい風がすり抜けていた。潮風とは違う、強い緑の匂い。
ふと立ち止まったのは、中庭に石碑のようなものが見えたからだ。茂みが風に揺れなければ見えないような場所へあるそれに、ローは回廊から中庭へと出て芝生を踏み締める。
「……墓、か?」
茂みの向こうへポツリと存在している、長年の雨や風によって浸食されたのか角が取れ、荒い丸みを帯びた大理石。元は深く刻み込まれていたのであろう亡者の名前も、ずいぶんと薄くなっている。
それを読んで、ローは思わず顔を顰めた。
「迷子の方ですか?」
背後から聞こえた声にローが振り返ると、回廊からまだ若そうな茶髪の青年がローを見つめている。
「ここは関係者以外立ち入り禁止なんです」
「……犬が」
「ああ、ジローですか? あれは主人がここで働いているので自由に歩き回っている子なんです」
「知らなかったんだ。悪かったな」
「旅行者の方ですか?」
「ああ」
芝生を踏んで中庭へと降りてきた青年は、ローが海賊であることも億越えの賞金首であることすら知らないとばかりに隣へと並び、寂れた墓石を眺めた。青年は随分と小柄で、もしかしたらクルーの中では小柄な方であるイルカより背が低いかもしれない。
「何故こんなところに墓が?」
「彼のお気に入りの場所なんです。目印みたいなものですね」
「死人に目印なんて必要無いだろ」
「目印っていうか枕かな。石の枕なんて硬いだろうに、ちょうど良いからっていつも枕にして寝てたし」
「死人が生きてる様な言い方をするんだな」
ローがそう言えば青年が顔を上げる。何度見ても童顔なその顔で、はにかむ様に微笑んだ。
「これはイミテーションですから」
領主の屋敷の一般開放されている部分を歩いている途中で犬を見つけ、人懐っこい犬だったので充分毛並みを堪能してからローは立ち上がった。やはりベポのほうがローの好みである。
周囲ではこの屋敷で働いているらしい使用人や、一般開放部を利用しにきた住民が歩き回っており、犬が徘徊していても気にしている様子は無い。
此処へ来れば領主かその部下に会える可能性が高いと言われて来てみたものの、ローの視界にそういった幹部格の者の姿は無かった。もう少し奥へ行くか、一般開放されていない場所へ忍び込むかを考えていると、足元で座っていた犬が立ち上がり歩き出す。
首輪はしていないが毛並みもいいし躾もされているので、この屋敷で飼われている犬なのだろう。知らないフリをして奥へ入ってみるかとローは犬の後を追うように歩き出して、関係者以外立ち入り禁止の廊下を進み始めた。
一般開放されている場所を離れると、人の気配も物音も極端に少なくなる。中庭に面した回廊は心地よい風がすり抜けていた。潮風とは違う、強い緑の匂い。
ふと立ち止まったのは、中庭に石碑のようなものが見えたからだ。茂みが風に揺れなければ見えないような場所へあるそれに、ローは回廊から中庭へと出て芝生を踏み締める。
「……墓、か?」
茂みの向こうへポツリと存在している、長年の雨や風によって浸食されたのか角が取れ、荒い丸みを帯びた大理石。元は深く刻み込まれていたのであろう亡者の名前も、ずいぶんと薄くなっている。
それを読んで、ローは思わず顔を顰めた。
「迷子の方ですか?」
背後から聞こえた声にローが振り返ると、回廊からまだ若そうな茶髪の青年がローを見つめている。
「ここは関係者以外立ち入り禁止なんです」
「……犬が」
「ああ、ジローですか? あれは主人がここで働いているので自由に歩き回っている子なんです」
「知らなかったんだ。悪かったな」
「旅行者の方ですか?」
「ああ」
芝生を踏んで中庭へと降りてきた青年は、ローが海賊であることも億越えの賞金首であることすら知らないとばかりに隣へと並び、寂れた墓石を眺めた。青年は随分と小柄で、もしかしたらクルーの中では小柄な方であるイルカより背が低いかもしれない。
「何故こんなところに墓が?」
「彼のお気に入りの場所なんです。目印みたいなものですね」
「死人に目印なんて必要無いだろ」
「目印っていうか枕かな。石の枕なんて硬いだろうに、ちょうど良いからっていつも枕にして寝てたし」
「死人が生きてる様な言い方をするんだな」
ローがそう言えば青年が顔を上げる。何度見ても童顔なその顔で、はにかむ様に微笑んだ。
「これはイミテーションですから」