故郷の話
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シャチ視点
グランドラインも半分を超え、シャボンティ諸島とその後における頂上戦争という騒動も一段落終えた新世界の海上。
後に世間から『ロッキーポート事件』と呼ばれる一騒動を経験し、久しぶりに海面へと上がった潜水艦の甲板でシャチは大きく伸びをした。
「くぁー! やっぱり太陽はいいね! ペンギンもそう思わね?」
隣で手摺りに手を置いて海を眺めているペンギンへ、同意を求めて声を掛ける。けれどもペンギンは何の反応も返してくれなかった。
顔の殆どを隠している防寒帽のせいで分からないが、何か考え事でもしているのかと顔を覗き込もうとすると、気配を察してペンギンが振り返る。その顔へ少し疲れが見えた気がしたが、船長の賞金額さえも上がるような騒ぎの後である今、それは他のクルーも同じだ。
「ペンギン?」
「ごめん。聞いてなかったぁ」
「考え事?」
「いや……あー、まぁ、うん。考え事なのかもなぁ」
珍しく返事も曖昧な様子に、本当に大丈夫なのかとシャチは不安を覚えたものの、シャチの頭ではペンギンの悩みなど解決も出来やしない。何せ相手はこの船の副船長で、船長に次ぐ責任を一手に背負っている。
それ以外にも個人的な悩みだってあるだろうに、まだクルーの中では中堅にも満たないシャチでは悩みを聞かされることすら難しいだろう。
甲板のモップ掛けを終えたらしいベポとジャンバールが、バケツとモップを手に提げて船室へと入っていく。海を眺めているシャチ達に気付いていたようだから、掃除用具を片付けたら来るかもしれない。
「船長に相談したら? 多分そろそろ起きてくるだろうしさ」
「相談する事でも無ぇし、言ったら多分……怒るんじゃねぇかなぁ」
「船長じゃなくてペンギンが怒られるような事って少なくね?」
「……今の発言で悩みが増えた気分だぜぇ」
潮風に煽られてずれそうになった帽子を押さえて、ペンギンが苦笑する。身体を反転させて手摺りに寄り掛かったペンギンは、帽子を押さえたまま空を見上げた。
「ベポと進路の相談をしなくちゃ」
そう呟いたペンギンの声が聞こえたように、片付けを終えたベポが後ろにジャンバールと船長を伴って甲板へと出てくる。船長は欠伸を噛み殺していて、ベポが一直線に駆け寄ってくる。
「ペンギン、ペンギン! 掃除終わったよ!」
「お疲れ様ベポ。船長も随分と早いお目覚めでぇ」
「息をするように毒突くな」
「はいはい。ベポ、次の島のことなんだけど……」
船長へおざなりな返しをしてペンギンがベポへ進路の話を振った。
未熟とはいえこの船の航海士であるベポは、ポケットからログポースと折り畳まれた海図を取り出してしゃがみ、甲板へと広げた。つられる様にペンギンや船長もしゃがむ。
広げられた海図は現在船が進んでいる海域のモノらしいことは分かったが、シャチにはそれを見ても船が今どの辺りにあるのかは分からなかった。分からないのはシャチだけらしく、元海賊船船長の経験を持つジャンバールも理解しているらしい。
ベポの手がそんな海図の一角を指差した。
「あのね、ログポースの感じからしてこの辺りに島があるはずなんだけど、でもこの海図には島が無いんだ」
「島がない?」
「島が無いって、磁気だけがあるってこと?」
「年代が違う海図は確かめたのか?」
「真っ先に確かめたんだけど、載ってなかった」
一枚の海図には載っていなくとも、年代が違う同じ海域の海図には載っているというのはよくある話だ。二枚目が書かれるまでの間にその島が無くなっている事もある。
新世界では島自体が移動してしまう事も“よくある話”らしいが、今回はログホースの針の動きからしてそうでもないらしい。ログポースは示すのに何も無い海。
「他の島は?」
「距離的に備蓄と燃料がギリギリだと思う。こっちの島は絶対無理だよキャプテン」
ロッキーポート事件の余韻は当事者であるハートの船へも当然残っていた。完全に補充し切れなかった備蓄と燃料、まだ怪我や疲労が残っているクルーだって居る。
つまりそろそろ何処かへ停泊しておきたい。そしてそれはこの『見えない島』が一番近くて不安が無いのだ。
手摺りへ寄り掛かって腕組みをし、考え込んでいる様子で海図を見つめていたペンギンが、ベポからログホースを受け取って海図の上へ指を滑らせる。それから小さく唸ったかと思うと、指を鳴らして手の上にエターナルポースを出現させた。
「エターナルポース?」
「その『見えねぇ島』のヤツ……なんだけど、その島政府非加盟国で、鎖国状態なんだぁ。一応この船には俺が乗ってるし、船長も億越えとはいえ大丈夫だとは思うんだけど、どうだろうなぁ……」
歯切れ悪く『見えない島』について説明しながら、ペンギンがベポにエターナルポースを渡す。政府非加盟国なのは珍しいし、言い方からしてあまりいい島ではないのかと思ったが、ペンギンはそんなシャチの不安に気付いたのか何かを思い出す様に微笑んだ。
「柑橘系の果物と珈琲が美味い島ですよ。酒はビールよりワインが美味いですね。芸術や音楽への造詣も深い。……街並みも綺麗で」
進路の海を見つめて言い切ったペンギンに、不思議に思ったのはシャチだけではない。この場に居るペンギン以外、誰もその『見えない島』の事を知らなかったのだから。
「良く知ってるな」
船長の感想に、ペンギンは困ったように笑う。もっともその表情は帽子に隠れていて見えない上に、やはり少しダルそうだけれど。
「俺の故郷ですからね」
グランドラインも半分を超え、シャボンティ諸島とその後における頂上戦争という騒動も一段落終えた新世界の海上。
後に世間から『ロッキーポート事件』と呼ばれる一騒動を経験し、久しぶりに海面へと上がった潜水艦の甲板でシャチは大きく伸びをした。
「くぁー! やっぱり太陽はいいね! ペンギンもそう思わね?」
隣で手摺りに手を置いて海を眺めているペンギンへ、同意を求めて声を掛ける。けれどもペンギンは何の反応も返してくれなかった。
顔の殆どを隠している防寒帽のせいで分からないが、何か考え事でもしているのかと顔を覗き込もうとすると、気配を察してペンギンが振り返る。その顔へ少し疲れが見えた気がしたが、船長の賞金額さえも上がるような騒ぎの後である今、それは他のクルーも同じだ。
「ペンギン?」
「ごめん。聞いてなかったぁ」
「考え事?」
「いや……あー、まぁ、うん。考え事なのかもなぁ」
珍しく返事も曖昧な様子に、本当に大丈夫なのかとシャチは不安を覚えたものの、シャチの頭ではペンギンの悩みなど解決も出来やしない。何せ相手はこの船の副船長で、船長に次ぐ責任を一手に背負っている。
それ以外にも個人的な悩みだってあるだろうに、まだクルーの中では中堅にも満たないシャチでは悩みを聞かされることすら難しいだろう。
甲板のモップ掛けを終えたらしいベポとジャンバールが、バケツとモップを手に提げて船室へと入っていく。海を眺めているシャチ達に気付いていたようだから、掃除用具を片付けたら来るかもしれない。
「船長に相談したら? 多分そろそろ起きてくるだろうしさ」
「相談する事でも無ぇし、言ったら多分……怒るんじゃねぇかなぁ」
「船長じゃなくてペンギンが怒られるような事って少なくね?」
「……今の発言で悩みが増えた気分だぜぇ」
潮風に煽られてずれそうになった帽子を押さえて、ペンギンが苦笑する。身体を反転させて手摺りに寄り掛かったペンギンは、帽子を押さえたまま空を見上げた。
「ベポと進路の相談をしなくちゃ」
そう呟いたペンギンの声が聞こえたように、片付けを終えたベポが後ろにジャンバールと船長を伴って甲板へと出てくる。船長は欠伸を噛み殺していて、ベポが一直線に駆け寄ってくる。
「ペンギン、ペンギン! 掃除終わったよ!」
「お疲れ様ベポ。船長も随分と早いお目覚めでぇ」
「息をするように毒突くな」
「はいはい。ベポ、次の島のことなんだけど……」
船長へおざなりな返しをしてペンギンがベポへ進路の話を振った。
未熟とはいえこの船の航海士であるベポは、ポケットからログポースと折り畳まれた海図を取り出してしゃがみ、甲板へと広げた。つられる様にペンギンや船長もしゃがむ。
広げられた海図は現在船が進んでいる海域のモノらしいことは分かったが、シャチにはそれを見ても船が今どの辺りにあるのかは分からなかった。分からないのはシャチだけらしく、元海賊船船長の経験を持つジャンバールも理解しているらしい。
ベポの手がそんな海図の一角を指差した。
「あのね、ログポースの感じからしてこの辺りに島があるはずなんだけど、でもこの海図には島が無いんだ」
「島がない?」
「島が無いって、磁気だけがあるってこと?」
「年代が違う海図は確かめたのか?」
「真っ先に確かめたんだけど、載ってなかった」
一枚の海図には載っていなくとも、年代が違う同じ海域の海図には載っているというのはよくある話だ。二枚目が書かれるまでの間にその島が無くなっている事もある。
新世界では島自体が移動してしまう事も“よくある話”らしいが、今回はログホースの針の動きからしてそうでもないらしい。ログポースは示すのに何も無い海。
「他の島は?」
「距離的に備蓄と燃料がギリギリだと思う。こっちの島は絶対無理だよキャプテン」
ロッキーポート事件の余韻は当事者であるハートの船へも当然残っていた。完全に補充し切れなかった備蓄と燃料、まだ怪我や疲労が残っているクルーだって居る。
つまりそろそろ何処かへ停泊しておきたい。そしてそれはこの『見えない島』が一番近くて不安が無いのだ。
手摺りへ寄り掛かって腕組みをし、考え込んでいる様子で海図を見つめていたペンギンが、ベポからログホースを受け取って海図の上へ指を滑らせる。それから小さく唸ったかと思うと、指を鳴らして手の上にエターナルポースを出現させた。
「エターナルポース?」
「その『見えねぇ島』のヤツ……なんだけど、その島政府非加盟国で、鎖国状態なんだぁ。一応この船には俺が乗ってるし、船長も億越えとはいえ大丈夫だとは思うんだけど、どうだろうなぁ……」
歯切れ悪く『見えない島』について説明しながら、ペンギンがベポにエターナルポースを渡す。政府非加盟国なのは珍しいし、言い方からしてあまりいい島ではないのかと思ったが、ペンギンはそんなシャチの不安に気付いたのか何かを思い出す様に微笑んだ。
「柑橘系の果物と珈琲が美味い島ですよ。酒はビールよりワインが美味いですね。芸術や音楽への造詣も深い。……街並みも綺麗で」
進路の海を見つめて言い切ったペンギンに、不思議に思ったのはシャチだけではない。この場に居るペンギン以外、誰もその『見えない島』の事を知らなかったのだから。
「良く知ってるな」
船長の感想に、ペンギンは困ったように笑う。もっともその表情は帽子に隠れていて見えない上に、やはり少しダルそうだけれど。
「俺の故郷ですからね」