空白の二年間編
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バンダナ視点
ユースタスは答えなかった。気まずげに俯くユースタスにペンギンは溜め息を吐き、自分のこめかみへと手を当てる。
「……『んなの弱ぇから逃げてるだけだろ』『……馬鹿の一つ覚えみてえに喧嘩ばっかしてる奴等に言われたくねえな』『んだとコラ!?』『そうやってすぐに怒る船長だから船員も苦労してるんじゃねえの』『違いない』『おいコラキラーてめぇ何処に同意してんだ。そっちこそ船長が弱いから逃げ足ばっかり速くなってんじゃねえのか。潜水艦なんて逃亡に特化したモンに乗りやがってよォ!』『逃亡じゃなくて襲撃特化だ! ウチの船を馬鹿にすんな!』」
ペンギンがいないときに交された会話を間違いなく反復させたペンギンに、ユースタスが驚いて顔を上げた。だがハリセンを目にすると何も言わずに再び俯く。
下手に尋ねて叩かれるのを恐れたのだろう。賢明な判断だ。
「アンタも船長なんですから、海賊団もトップによって特色が違げぇことくぐらい理解出来るでしょう。ウチはトラファルガーの言う通り襲撃重視の海賊なんです。弱ぇ弱くねぇの話じゃなく、命優先なんですよ」
「……おう」
「おう、じゃねぇだろぉ。人がよそ様の船長だと思って敬ってんだから、テメェももう少し礼節を理解しろぉクソガキぃ」
「……スミマセン」
「あとキラー。テメェも船長止める立場なんだからそう易々と対決に持ち込ませねぇようにしろぉ。短絡的だなんて評価を付属させてぇのかアンタ等はぁ」
バシンバシンと自分の手をハリセンで叩き続けているペンギンは、手が痛くないのだろうか。お前も他所の船長を年下とはいえクソガキ呼ばわりは止めろと思わなくは無いが、今のペンギンを止められる者はいまい。
「居なくても大丈夫だって、問題起こさねぇからってんで買出しに出かけて、帰ってきたらウチの潜水士が刃物向けられてるし周りの奴等は止める気配無ぇし、船長は船長で事の発端になってやがるしソチラの副船長さんなんか自分から武器構えてるしよぉ、……それ見た時の俺の気持ちはアンタ等分かんねぇだろぉなぁ。血管千切れてねぇか不安だよ」
「み、診て……」
「結構だぁトラファルガー。もうお前に何の期待もしたくねぇから。ご機嫌伺いとかいらねぇから。つかそんなんやったら俺船降りるから」
船長が泣きそうである。
そんな感じで三十分ほど説教を続けているペンギンに、そろそろ宥めるべきかとバンダナはポケットから煙草を取り出して咥えた。紫煙を一度空へ向けて吐き出してから、未だにハリセンを鳴らしているペンギンへと歩み寄る。
「ペンちゃん。もう船長達も反省してるって。オレだって止められなかったんだし、そんな船長ばっかり責めちゃ可哀想だろ?」
肩越しに振り返ったペンギンに、わざとらしい程ヘラリとした笑みを見せた。自分は何とも思っていないと言う事を示す為だ。
そもそもペンギンが怒っている理由は、勝手に喧嘩をし対決を始めようとしたことであるが、船長が一人しか居ない潜水士であるバンダナを指名した事でもある。
この先も航海を続けるに当たって、潜水士であるバンダナの存在はハートの船では重要で、もしコレが他のクルーを指名していたならもう二割くらいはペンギンも落ち着いていた筈だ。
切っ掛けになった発言をしたユースタスと、実際に武器を向けたキラーも正座をさせられたのは、ハートの船の航海の存続が掛かっていたからである。
黙ってバンダナを見つめていたペンギンが、溜め息を吐いてハリセンを海へ向かって放り投げた。ハリセンは予想以上に盛大な水しぶきを上げて海へと沈んでいく。
「次は氷付けにして海軍に突き出しますから」
正座をさせられていた三人が揃って頷いた。それを見てペンギンは、買出ししてきて置きっ放しだった荷物を取りに歩き出す。向かう先の船員達が、怯えて道を作るのさえ気にしていない様子のペンギンから船長たちへと視線を戻せば、船長たちは痺れた足と格闘していた。
「ペンちゃんの琴線分かってんですから、駄目ですよ船長」
「帰ってくる前に終わると思ったんだよ」
「それでも怪我してたらバレるでしょうが」
「つか何者だよアイツ……鬼か」
「違いない……」
「鬼なんてモンじゃねえよ。悪魔だよ悪魔」
「聞こえてんだけどぉおお?」
「スイマセンッ!」
即答だ。
ペンギンはベポに何か話しかけられてすぐに意識をそちらへ逸らしていた。ベポの頭を撫でてやっとその口元へいつもの笑みが浮かんでいる。怒る相手以外にはちゃんと普段通りに接する事が出来るのはペンギンの美徳だ。
「ハリセンでかかったですねえ」
「あれ痛いんだよ……」
「というより何処から出したんだ」
「海水も降らせてただろ。アイツ能力者か?」
不思議がるキッド海賊団の船長副船長に、バンダナと船長は遠い目をするしかない。
それはハートの中で一番付き合いの長い二人でも知らないことなのだ。
「まぁアレだね。ペンちゃんはやっぱり怒らせちゃいけないよお三方。後で改めて謝っといたほうがいいよ」
「忠告として受け取っておこう」
最後に正座させられて一番時間が短かったからか、船長達よりも早くキラーがよろよろと立ち上がって歩き出す。宣言通りペンギンへ謝罪をしに行くのか向かう先にはペンギンがいた。
その足が、ふと立ち止まってバンダナを振り返る。
「アンタも申し訳なかったな」
「……ペンちゃんに謝るとき、オレにも謝った事を伝えれば早く許してくれると思うよ」
「そうか」
真面目なのか律儀なのか、キラーはやはりよろよろとペンギンの元へと向かっていく。それを見送って、億越えも怒っている人間には敵わないのだなと思った。
ハートの海賊団に所属する副船長ことペンギンと関わるにあたり、ハートのクルーだけが気をつけていた『怒らせてはいけない』が、どうやら所属海賊団に関わらずやってはいけないことになりそうだ。
「……バンダナ。タオル持ってきてくれ」
「そういや船長海水浴びてましたね」
「くそ……足が痺れて立てねぇ」
ユースタスは答えなかった。気まずげに俯くユースタスにペンギンは溜め息を吐き、自分のこめかみへと手を当てる。
「……『んなの弱ぇから逃げてるだけだろ』『……馬鹿の一つ覚えみてえに喧嘩ばっかしてる奴等に言われたくねえな』『んだとコラ!?』『そうやってすぐに怒る船長だから船員も苦労してるんじゃねえの』『違いない』『おいコラキラーてめぇ何処に同意してんだ。そっちこそ船長が弱いから逃げ足ばっかり速くなってんじゃねえのか。潜水艦なんて逃亡に特化したモンに乗りやがってよォ!』『逃亡じゃなくて襲撃特化だ! ウチの船を馬鹿にすんな!』」
ペンギンがいないときに交された会話を間違いなく反復させたペンギンに、ユースタスが驚いて顔を上げた。だがハリセンを目にすると何も言わずに再び俯く。
下手に尋ねて叩かれるのを恐れたのだろう。賢明な判断だ。
「アンタも船長なんですから、海賊団もトップによって特色が違げぇことくぐらい理解出来るでしょう。ウチはトラファルガーの言う通り襲撃重視の海賊なんです。弱ぇ弱くねぇの話じゃなく、命優先なんですよ」
「……おう」
「おう、じゃねぇだろぉ。人がよそ様の船長だと思って敬ってんだから、テメェももう少し礼節を理解しろぉクソガキぃ」
「……スミマセン」
「あとキラー。テメェも船長止める立場なんだからそう易々と対決に持ち込ませねぇようにしろぉ。短絡的だなんて評価を付属させてぇのかアンタ等はぁ」
バシンバシンと自分の手をハリセンで叩き続けているペンギンは、手が痛くないのだろうか。お前も他所の船長を年下とはいえクソガキ呼ばわりは止めろと思わなくは無いが、今のペンギンを止められる者はいまい。
「居なくても大丈夫だって、問題起こさねぇからってんで買出しに出かけて、帰ってきたらウチの潜水士が刃物向けられてるし周りの奴等は止める気配無ぇし、船長は船長で事の発端になってやがるしソチラの副船長さんなんか自分から武器構えてるしよぉ、……それ見た時の俺の気持ちはアンタ等分かんねぇだろぉなぁ。血管千切れてねぇか不安だよ」
「み、診て……」
「結構だぁトラファルガー。もうお前に何の期待もしたくねぇから。ご機嫌伺いとかいらねぇから。つかそんなんやったら俺船降りるから」
船長が泣きそうである。
そんな感じで三十分ほど説教を続けているペンギンに、そろそろ宥めるべきかとバンダナはポケットから煙草を取り出して咥えた。紫煙を一度空へ向けて吐き出してから、未だにハリセンを鳴らしているペンギンへと歩み寄る。
「ペンちゃん。もう船長達も反省してるって。オレだって止められなかったんだし、そんな船長ばっかり責めちゃ可哀想だろ?」
肩越しに振り返ったペンギンに、わざとらしい程ヘラリとした笑みを見せた。自分は何とも思っていないと言う事を示す為だ。
そもそもペンギンが怒っている理由は、勝手に喧嘩をし対決を始めようとしたことであるが、船長が一人しか居ない潜水士であるバンダナを指名した事でもある。
この先も航海を続けるに当たって、潜水士であるバンダナの存在はハートの船では重要で、もしコレが他のクルーを指名していたならもう二割くらいはペンギンも落ち着いていた筈だ。
切っ掛けになった発言をしたユースタスと、実際に武器を向けたキラーも正座をさせられたのは、ハートの船の航海の存続が掛かっていたからである。
黙ってバンダナを見つめていたペンギンが、溜め息を吐いてハリセンを海へ向かって放り投げた。ハリセンは予想以上に盛大な水しぶきを上げて海へと沈んでいく。
「次は氷付けにして海軍に突き出しますから」
正座をさせられていた三人が揃って頷いた。それを見てペンギンは、買出ししてきて置きっ放しだった荷物を取りに歩き出す。向かう先の船員達が、怯えて道を作るのさえ気にしていない様子のペンギンから船長たちへと視線を戻せば、船長たちは痺れた足と格闘していた。
「ペンちゃんの琴線分かってんですから、駄目ですよ船長」
「帰ってくる前に終わると思ったんだよ」
「それでも怪我してたらバレるでしょうが」
「つか何者だよアイツ……鬼か」
「違いない……」
「鬼なんてモンじゃねえよ。悪魔だよ悪魔」
「聞こえてんだけどぉおお?」
「スイマセンッ!」
即答だ。
ペンギンはベポに何か話しかけられてすぐに意識をそちらへ逸らしていた。ベポの頭を撫でてやっとその口元へいつもの笑みが浮かんでいる。怒る相手以外にはちゃんと普段通りに接する事が出来るのはペンギンの美徳だ。
「ハリセンでかかったですねえ」
「あれ痛いんだよ……」
「というより何処から出したんだ」
「海水も降らせてただろ。アイツ能力者か?」
不思議がるキッド海賊団の船長副船長に、バンダナと船長は遠い目をするしかない。
それはハートの中で一番付き合いの長い二人でも知らないことなのだ。
「まぁアレだね。ペンちゃんはやっぱり怒らせちゃいけないよお三方。後で改めて謝っといたほうがいいよ」
「忠告として受け取っておこう」
最後に正座させられて一番時間が短かったからか、船長達よりも早くキラーがよろよろと立ち上がって歩き出す。宣言通りペンギンへ謝罪をしに行くのか向かう先にはペンギンがいた。
その足が、ふと立ち止まってバンダナを振り返る。
「アンタも申し訳なかったな」
「……ペンちゃんに謝るとき、オレにも謝った事を伝えれば早く許してくれると思うよ」
「そうか」
真面目なのか律儀なのか、キラーはやはりよろよろとペンギンの元へと向かっていく。それを見送って、億越えも怒っている人間には敵わないのだなと思った。
ハートの海賊団に所属する副船長ことペンギンと関わるにあたり、ハートのクルーだけが気をつけていた『怒らせてはいけない』が、どうやら所属海賊団に関わらずやってはいけないことになりそうだ。
「……バンダナ。タオル持ってきてくれ」
「そういや船長海水浴びてましたね」
「くそ……足が痺れて立てねぇ」
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