空白の二年間編
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バンダナ視点
天敵というには仲が良く、仲が良いというにはライバル関係にあるハートの海賊団とキッド海賊団が鉢合わせたのは偶然だった。近辺へ他に補充の出来る島が無かったものだから、偶然というのもおかしいのかもしれないが、タイミングについては完全に偶然である。
先にハートの海賊団の潜水艦が停泊していた岸辺へキッド海賊団の船が停泊し、船長同士が軽口なのか喧嘩なのか分からない応酬をして、キラーやベポ達の尽力でこの場は争わないという事に決まった。互いに食料や備品の補充で寄ったものだから、無駄に争う必要性が無かったと言うのもある。
船長同士はともかく、船員とクルー達は以前一緒に酒盛りもした仲だから関係は悪くなく、戦わないのならばとシャチやベポは気軽にキッド海賊団の顔見知りへ話しかけ、そこから他の奴等も船長も和やかな雰囲気にはなったのだ。
キッド海賊団も買出しへと数人が向かい、ハートのクルーも既に買い出しへ出かけていたペンギン達の帰りを待って雑談の最中、ふと誰かが言ったのである。
「ハートって一人しか億越えいないけど、他の奴等の実力ってどうなの?」
言い方からしてキッド海賊団の誰かだろう。だがその問いかけに反応したのは我らが船長であるローだった。
「ウチは無駄な戦闘はしない主義なんだ」
「ハッ、んなの弱ぇから逃げてるだけだろ」
「馬鹿の一つ覚えみてェに喧嘩ばっかしてる奴等に言われたくねェな」
「んだとコラ!?」
「そうやってすぐに怒る船長だから船員も苦労してるんだろ」
「違いない」
「おいコラキラーてめぇ何処に同意してんだ。そっちこそ船長が弱いから逃げ足ばっかり速くなってんじゃねえのか。潜水艦なんて逃亡に特化したモンに乗りやがってよォ!」
「逃亡じゃなくて襲撃特化だ! ウチの船を馬鹿にすんな!」
互いに興奮し始めた船長二人に、船員達もどうしたものかと戸惑いだす。こんな時ペンギンが居たら少なくとも船長は黙らせてくれるのだが、そのペンギンはまだ買出しから帰ってきていない。
「キラー! キッド海賊団の実力を見せてやれ!」
「やれやれ」
「バンダナ! 解剖してやれ!」
「オレは麻酔科医ですぜぃ船長」
部下を使っての対決でどちらが上かを決めるつもりなのか、名指しで呼ばれたバンダナは仕方なく咥えていた煙草を消して立ち上がった。向こうで名指しされたキラーも仕方なさそうである。
そもそも相手が船長ではない上に能力者ではないとしても、船長と同じで億越えのルーキーの一人である時点で、バンダナに勝機は無い。むしろ非能力者であるにも関わらず億越えしている訳だから、その実力はごまかしの利かないものである。
指名されなかったからと気楽に周囲からクルー達が野次を飛ばしてきていて、バンダナはトンファーを構えて『殺戮武人』と対峙した。
既に斬撃武器と打撃武器とで勝ち目が見えない。キラー愛用の曲刀は、新しくしたばかりのバンダナのトンファーなど一刀両断にしてしまいそうな輝きを放っている。バンダナだってそれなりに戦闘経験はあると自負出来るが、流石に億越え相手では一撃入れることすら難しかろう。
最悪、潜水士としての仕事を休まずに出来るように目と指は怪我したくないなと思っていれば、キッド海賊団の船員の合図でキラーが動き出し
横から飛んできたペンギンの蹴りを喰らって吹っ飛んでいた。
「……は?」
誰の声だったか、もしかしたらバンダナ自身の声だったかもしれない。周囲からの野次が一瞬にして静まり、砂地を受身も取れずに吹き飛ばされていったキラーが転がっていって止まる。
あまりの出来事に、誰も状況を理解出来ていなかった。
飛んでいった。誰が。キラーが。キラーは億越え。億越えが吹き飛ぶ? 誰が吹き飛ばした? ツナギ着てるぞ。じゃあハートのクルーか。誰だよ。ペンギンじゃね? ペンギン?
ペンギンは買ってきた物なのか、片手に紙袋を抱えている。町への道を見れば一緒に買出しへ行っていた筈のクルーが息を切らせて走ってきていた。
その場所はずいぶんと離れていて、もしかしてあの場所から一気に駆けて来たのかとバンダナが考えた時、ペンギンから地を這うような声が聞こえる。
「ウチの潜水士に、馬鹿なことやらせようとした奴。名乗り出ろぉ」
ハートのクルーの顔色がザッと音を立てて変わった気がした。多分バンダナもそのうちの一人だ。
「せせせせ船長がそそそそそその……」
「あ、馬鹿っ!」
「……ほう?」
クルーの一人が正直に申し出て、ペンギンの顔が船長へ向けられる。船長の隣にはユースタスも居て、巻き添えを食らって睨まれていた。
ペンギンが怒っている事は理解しても、ユースタスはまだペンギンの恐ろしさを知らない。
「船長?」
「ユ、ユースタス屋がオレのクルーを馬鹿にしたんだ! だから」
「だから?」
「いや、その……」
「へ、ヘっ! 部下に怒られてりゃザマァねえな!」
口ごもる船長にユースタスがペンギンの視線に尻込みしながらも、虚勢を張って船長を馬鹿にする。
途端、ユースタスの頭へ振り下ろされたハリセンから『ッパァーン』と素晴しく小気味のいい音がした。
叩いた本人であるペンギンは、寸前まで絶対に持っていなかった巨大ハリセンを肩へ担ぎ、痛みにしゃがんで呻くユースタスを見下ろしている。バンダナの傍に立っていた筈なのに、一瞬で移動したことにも誰も突っ込めない。
バンダナは『あのハリセンでかいなあ』と明後日の方向を見ることにした。
「ユースタス・キッド。トラファルガー・ロー。正座」
「ッテメ……」
「正座」
「っ……」
「正座」
ペンギンの声に船長が逆らわずに正座する。ユースタスは叩かれた事へ怒鳴ろうとしていたが、ペンギンにもう一度正座を強要させられ、言葉を飲み込んで正座した。
二人が正座した事を確認すると、ペンギンは踵を返して先程蹴り飛ばしたキラーへと向かっていく。キラーは地面が砂地であったこともあってか大した衝撃では無かったようで、自力で立ち上がろうとしているところだった。
それに近付いたペンギンは、キラーの襟首を掴むと有無を言わさずに引き摺って船長達の元へと戻る。ペンギンも男とはいえその体型は然程筋肉があるという風でもないのに、自分よりガタイが良く背も高い男であるキラーを片手で軽々と引き摺っていく。
船長達の元へ到着すると、キラーを放して彼にも正座を強要させた。なんとなく逆らえないのかユースタスよりは素直に並んで正座したキラーへ、ペンギンはハリセンで自分の手を軽く叩く。
「さて。俺は怒っています」
見れば分かる。
「何故怒っているのか答えてください。一回間違える度にその無駄な脳細胞を死滅させます」
「……オレもっ」
顔を上げて、自分まで怒られる対象なのか確かめようとしたキラーの頭がハリセンで叩かれた。仮面をしているのだから痛くないのではと思うのだが、キラーは頭を抱えて痛がっている。
「……“RO」
船長が能力を使って逃げようとした瞬間、船長の頭上からバケツ一杯分の水が降り注いだ。帽子だけではなく着ている服までびしょ濡れになり、船長の隣で正座していたユースタスの顔が引き攣る。
「能力使ってんじゃねぇよ。んなに悪戯してぇなら俺が今すぐ海へ投げ込んでやるよぉ。どうするぅ?」
「……スミマセン」
「謝って済むなら海軍って必要無ぇよなぁ。……ユースタス。先に言っておくがテメェも海の藻屑になりてぇならその能力使っていいぜぇ」
話しかけられてユースタスの肩が大袈裟に揺れた。
その頃になるともう、キッド海賊団のクルーも怒ったペンギンの怖さを理解し始めている。小声でどういう事かとハートのクルーへ聞くなどしているものの、視線は億越え三人を正座させているペンギンへ釘付けだ。
「トラファルガー?」
「……ユースタス屋の口車に乗りました」
「おまっ……」
「乗ったのは口車じゃなくて興だよなぁ? ちょっと自分でも見たいと思いはしなかったって言えるかぁ?」
「……言えません」
「ユースタスはウチの船を馬鹿にしたそうでぇ。何て言ったか俺に言えますか」
天敵というには仲が良く、仲が良いというにはライバル関係にあるハートの海賊団とキッド海賊団が鉢合わせたのは偶然だった。近辺へ他に補充の出来る島が無かったものだから、偶然というのもおかしいのかもしれないが、タイミングについては完全に偶然である。
先にハートの海賊団の潜水艦が停泊していた岸辺へキッド海賊団の船が停泊し、船長同士が軽口なのか喧嘩なのか分からない応酬をして、キラーやベポ達の尽力でこの場は争わないという事に決まった。互いに食料や備品の補充で寄ったものだから、無駄に争う必要性が無かったと言うのもある。
船長同士はともかく、船員とクルー達は以前一緒に酒盛りもした仲だから関係は悪くなく、戦わないのならばとシャチやベポは気軽にキッド海賊団の顔見知りへ話しかけ、そこから他の奴等も船長も和やかな雰囲気にはなったのだ。
キッド海賊団も買出しへと数人が向かい、ハートのクルーも既に買い出しへ出かけていたペンギン達の帰りを待って雑談の最中、ふと誰かが言ったのである。
「ハートって一人しか億越えいないけど、他の奴等の実力ってどうなの?」
言い方からしてキッド海賊団の誰かだろう。だがその問いかけに反応したのは我らが船長であるローだった。
「ウチは無駄な戦闘はしない主義なんだ」
「ハッ、んなの弱ぇから逃げてるだけだろ」
「馬鹿の一つ覚えみてェに喧嘩ばっかしてる奴等に言われたくねェな」
「んだとコラ!?」
「そうやってすぐに怒る船長だから船員も苦労してるんだろ」
「違いない」
「おいコラキラーてめぇ何処に同意してんだ。そっちこそ船長が弱いから逃げ足ばっかり速くなってんじゃねえのか。潜水艦なんて逃亡に特化したモンに乗りやがってよォ!」
「逃亡じゃなくて襲撃特化だ! ウチの船を馬鹿にすんな!」
互いに興奮し始めた船長二人に、船員達もどうしたものかと戸惑いだす。こんな時ペンギンが居たら少なくとも船長は黙らせてくれるのだが、そのペンギンはまだ買出しから帰ってきていない。
「キラー! キッド海賊団の実力を見せてやれ!」
「やれやれ」
「バンダナ! 解剖してやれ!」
「オレは麻酔科医ですぜぃ船長」
部下を使っての対決でどちらが上かを決めるつもりなのか、名指しで呼ばれたバンダナは仕方なく咥えていた煙草を消して立ち上がった。向こうで名指しされたキラーも仕方なさそうである。
そもそも相手が船長ではない上に能力者ではないとしても、船長と同じで億越えのルーキーの一人である時点で、バンダナに勝機は無い。むしろ非能力者であるにも関わらず億越えしている訳だから、その実力はごまかしの利かないものである。
指名されなかったからと気楽に周囲からクルー達が野次を飛ばしてきていて、バンダナはトンファーを構えて『殺戮武人』と対峙した。
既に斬撃武器と打撃武器とで勝ち目が見えない。キラー愛用の曲刀は、新しくしたばかりのバンダナのトンファーなど一刀両断にしてしまいそうな輝きを放っている。バンダナだってそれなりに戦闘経験はあると自負出来るが、流石に億越え相手では一撃入れることすら難しかろう。
最悪、潜水士としての仕事を休まずに出来るように目と指は怪我したくないなと思っていれば、キッド海賊団の船員の合図でキラーが動き出し
横から飛んできたペンギンの蹴りを喰らって吹っ飛んでいた。
「……は?」
誰の声だったか、もしかしたらバンダナ自身の声だったかもしれない。周囲からの野次が一瞬にして静まり、砂地を受身も取れずに吹き飛ばされていったキラーが転がっていって止まる。
あまりの出来事に、誰も状況を理解出来ていなかった。
飛んでいった。誰が。キラーが。キラーは億越え。億越えが吹き飛ぶ? 誰が吹き飛ばした? ツナギ着てるぞ。じゃあハートのクルーか。誰だよ。ペンギンじゃね? ペンギン?
ペンギンは買ってきた物なのか、片手に紙袋を抱えている。町への道を見れば一緒に買出しへ行っていた筈のクルーが息を切らせて走ってきていた。
その場所はずいぶんと離れていて、もしかしてあの場所から一気に駆けて来たのかとバンダナが考えた時、ペンギンから地を這うような声が聞こえる。
「ウチの潜水士に、馬鹿なことやらせようとした奴。名乗り出ろぉ」
ハートのクルーの顔色がザッと音を立てて変わった気がした。多分バンダナもそのうちの一人だ。
「せせせせ船長がそそそそそその……」
「あ、馬鹿っ!」
「……ほう?」
クルーの一人が正直に申し出て、ペンギンの顔が船長へ向けられる。船長の隣にはユースタスも居て、巻き添えを食らって睨まれていた。
ペンギンが怒っている事は理解しても、ユースタスはまだペンギンの恐ろしさを知らない。
「船長?」
「ユ、ユースタス屋がオレのクルーを馬鹿にしたんだ! だから」
「だから?」
「いや、その……」
「へ、ヘっ! 部下に怒られてりゃザマァねえな!」
口ごもる船長にユースタスがペンギンの視線に尻込みしながらも、虚勢を張って船長を馬鹿にする。
途端、ユースタスの頭へ振り下ろされたハリセンから『ッパァーン』と素晴しく小気味のいい音がした。
叩いた本人であるペンギンは、寸前まで絶対に持っていなかった巨大ハリセンを肩へ担ぎ、痛みにしゃがんで呻くユースタスを見下ろしている。バンダナの傍に立っていた筈なのに、一瞬で移動したことにも誰も突っ込めない。
バンダナは『あのハリセンでかいなあ』と明後日の方向を見ることにした。
「ユースタス・キッド。トラファルガー・ロー。正座」
「ッテメ……」
「正座」
「っ……」
「正座」
ペンギンの声に船長が逆らわずに正座する。ユースタスは叩かれた事へ怒鳴ろうとしていたが、ペンギンにもう一度正座を強要させられ、言葉を飲み込んで正座した。
二人が正座した事を確認すると、ペンギンは踵を返して先程蹴り飛ばしたキラーへと向かっていく。キラーは地面が砂地であったこともあってか大した衝撃では無かったようで、自力で立ち上がろうとしているところだった。
それに近付いたペンギンは、キラーの襟首を掴むと有無を言わさずに引き摺って船長達の元へと戻る。ペンギンも男とはいえその体型は然程筋肉があるという風でもないのに、自分よりガタイが良く背も高い男であるキラーを片手で軽々と引き摺っていく。
船長達の元へ到着すると、キラーを放して彼にも正座を強要させた。なんとなく逆らえないのかユースタスよりは素直に並んで正座したキラーへ、ペンギンはハリセンで自分の手を軽く叩く。
「さて。俺は怒っています」
見れば分かる。
「何故怒っているのか答えてください。一回間違える度にその無駄な脳細胞を死滅させます」
「……オレもっ」
顔を上げて、自分まで怒られる対象なのか確かめようとしたキラーの頭がハリセンで叩かれた。仮面をしているのだから痛くないのではと思うのだが、キラーは頭を抱えて痛がっている。
「……“RO」
船長が能力を使って逃げようとした瞬間、船長の頭上からバケツ一杯分の水が降り注いだ。帽子だけではなく着ている服までびしょ濡れになり、船長の隣で正座していたユースタスの顔が引き攣る。
「能力使ってんじゃねぇよ。んなに悪戯してぇなら俺が今すぐ海へ投げ込んでやるよぉ。どうするぅ?」
「……スミマセン」
「謝って済むなら海軍って必要無ぇよなぁ。……ユースタス。先に言っておくがテメェも海の藻屑になりてぇならその能力使っていいぜぇ」
話しかけられてユースタスの肩が大袈裟に揺れた。
その頃になるともう、キッド海賊団のクルーも怒ったペンギンの怖さを理解し始めている。小声でどういう事かとハートのクルーへ聞くなどしているものの、視線は億越え三人を正座させているペンギンへ釘付けだ。
「トラファルガー?」
「……ユースタス屋の口車に乗りました」
「おまっ……」
「乗ったのは口車じゃなくて興だよなぁ? ちょっと自分でも見たいと思いはしなかったって言えるかぁ?」
「……言えません」
「ユースタスはウチの船を馬鹿にしたそうでぇ。何て言ったか俺に言えますか」