空白の二年間編
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
夢主視点
数週間後に到着した島の酒場で、船長は予定通り貸し切りにして宴会を開いた。この宴会の資金はシルビの出資だと船長が最初に言ったものだから、シャチを筆頭に数人のクルー達はどうやって稼いできたんだと詰め寄ってきたが、無理やり酒を飲ませて酔わせて意識を違うところへ向けさせる。
酒に弱いわけではないが、宴会の様子からして酔い潰れる者が出そうなのでセーブして殆ど酒を飲まないでいれば、騒がしい酒場の扉が開きキッド海賊団が現れた。貸し切りということを知らなかったのか、そもそもハートの海賊団が居ることすら知らなかったらしい先頭のユースタスは、船長の姿を視界へ入れると苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
店主が貸切りであることを言おうとするのを押し留め、船長がユースタスへ絡みに行く。
「これは珍しい顔じゃねえか。ユースタス屋のとこも景気が良さそうで何より」
思いっきりこの前話したことに当て付けた揶揄じゃねぇか、と思ったものの、まだ喧嘩に移行する気配は無い。
「そちらこそ何かあったのか?」
「ああ、臨時収入があってな。はした金だが五千三百万ベリーだ。麻薬シンジケートも一つ潰せて、ペンギンの奴も機嫌がいい」
「ペンギン?」
「ウチの副船長だ」
キラーと船長の会話を聞いて席を立てば、丁度二人がシルビを見ていた。そのまま近付いていけばキラーとユースタスは、なんとも言いがたい顔をしてシルビを見下ろす。
船長にも言える事だがこの世界の身長は簡単に二メートル超えをするので困る。自分は何の因果か何度転生しても、同じ身長で成長が止まってしまうというのに。
「ウチの船長が何か失礼でもぉ?」
ともあれ身長の事は気にせず、挨拶代わりに声を掛ければユースタスが見下すように口を開いた。
「ハッ! テメェの船長なんざ存在自体が失礼だ!」
「じゃあユースタスだけ奢らなくていいんじゃねぇですかぁ? キラーや他の皆は良けりゃ一緒に」
「バッ……」
「それもそうだな」
勝手に奢ることにしてしまったが船長に文句は無いらしい。文句があったとしてもシルビが稼いできた金だと黙らせる事は出来たが。
何か言いかけるユースタスとは違い、キラーは仮面の下で『これは言い返せない』と早々に諦めているようだった。相変わらず仮面を付けていても考えている事が雰囲気で分かってしまう。
「うわーキッド海賊団だ!」
ベポとシャチがそんな事を叫びながらシルビ達の元へと駆けてきた。既に少し酔っているらしい二人は、シルビと船長の後ろからキラー達を見て、不思議そうにしている。
「船長キッド海賊団だよ! ユースタス・キャプテン・キッドだよ!」
「殺戮武人もいるよ! すごーい!」
動物園の動物をみているような幼稚な感想だったが、ユースタスはまんざらではなかったようだった。
結局一緒に飲む事になり、ユースタスが自棄酒のように酒瓶を空にしていっている。ベポとシャチ以外のクルー達も、船長と同じ『億越えルーキー』だから興味があるらしく、そんなユースタスへ怖がる様子無く近づいていっては、色々と話しかけていた。
その内船長が機嫌を悪くしないかと思っていると、船長は船長で機嫌が良さそうである。おそらくユースタスに絡むクルー達が、それでも船長から離れていかないとでも思っているのだろう。楽観的だ。別にいいが。
店主を歩かせるのも悪かろうとカウンターへ行って注文したドライフルーツの皿を受け取り、振り返った先にストローで酒を飲んでいる姿があったので、そのテーブルへ近付いて腰を降ろす。
「酒をストローで飲むと早く酔わねぇ?」
「酔う」
「それでも仮面を外さねぇのは凄げぇよ」
酔うという割には飲むのが早い。ドライフルーツは勧めても食え無さそうだなと思った。
キラーがシルビのグラスを覗き込む。
「飲めないのか?」
「セーブしてんだぁ。酔っ払い運ぶ事になるのは分かってんだから」
「それで楽しいのかお前は」
呆れたような気遣うような言い方に、やっぱり彼は優しさで損をしているなと思った。
「仮面を付けてりゃ表情が読めねぇだろうって思うの、止めた方がいいと思うぜぇ」
「? どういう……」
意味だ、と続けようとしたキラーの仮面を指差す。『アマネ』の姿でも忠告した事だが、『敵船の副船長』としてももう一度忠告する。
「キッド海賊団で無くたって、君の言いてぇことは簡単に分かっちまうよって言う、心理戦の話」
「心理戦は得意じゃないな」
「だろうなぁ。君は『殺戮武人』だから」
指を下ろして椅子へ横向きに座り直した。テーブルへ頬杖を突いてキラーの視線を横顔で受ける。
シルビの視線の先ではバンダナが管を巻いていた。それをキッド海賊団のクルーがうんうんと頷きを返しているが、おそらくあれは互いの話を理解はしていない。
「お前のほうが年下だろう」
「悪ぃなぁ、癖なんだよ。長げぇこと一人旅だったから、舐められねぇように」
「一人旅」
笑い声が上がって船員達が飲み比べを始めている。給仕が仕方ないなと呆れたように笑いながらも空になった酒瓶を回収し、注文の酒を運んでいた。暴れだしたら怯えて逃げるのだろうが、今のところは安全だと分かっているらしい。
「舐めらねぇようにするには、心理戦に強くなっとかねぇと。簡単に人を信用しちゃ駄目だぜぇ?」
優しく話しかけた『女』も、こうして話し相手になっている『副船長』も、味方以外は信用してはいけないのだ。
ただ、ただの雑談相手なら、こうして酒を飲みあっても構わない。
「前にも言われた」
「そりゃ良かったなぁ。忠告してくれる人がいんのはいいことだぁ。ユースタス?」
「いや、違う。……失敗談なんだが聞いてくれるか?」
「よろこんでぇ」
数週間後に到着した島の酒場で、船長は予定通り貸し切りにして宴会を開いた。この宴会の資金はシルビの出資だと船長が最初に言ったものだから、シャチを筆頭に数人のクルー達はどうやって稼いできたんだと詰め寄ってきたが、無理やり酒を飲ませて酔わせて意識を違うところへ向けさせる。
酒に弱いわけではないが、宴会の様子からして酔い潰れる者が出そうなのでセーブして殆ど酒を飲まないでいれば、騒がしい酒場の扉が開きキッド海賊団が現れた。貸し切りということを知らなかったのか、そもそもハートの海賊団が居ることすら知らなかったらしい先頭のユースタスは、船長の姿を視界へ入れると苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
店主が貸切りであることを言おうとするのを押し留め、船長がユースタスへ絡みに行く。
「これは珍しい顔じゃねえか。ユースタス屋のとこも景気が良さそうで何より」
思いっきりこの前話したことに当て付けた揶揄じゃねぇか、と思ったものの、まだ喧嘩に移行する気配は無い。
「そちらこそ何かあったのか?」
「ああ、臨時収入があってな。はした金だが五千三百万ベリーだ。麻薬シンジケートも一つ潰せて、ペンギンの奴も機嫌がいい」
「ペンギン?」
「ウチの副船長だ」
キラーと船長の会話を聞いて席を立てば、丁度二人がシルビを見ていた。そのまま近付いていけばキラーとユースタスは、なんとも言いがたい顔をしてシルビを見下ろす。
船長にも言える事だがこの世界の身長は簡単に二メートル超えをするので困る。自分は何の因果か何度転生しても、同じ身長で成長が止まってしまうというのに。
「ウチの船長が何か失礼でもぉ?」
ともあれ身長の事は気にせず、挨拶代わりに声を掛ければユースタスが見下すように口を開いた。
「ハッ! テメェの船長なんざ存在自体が失礼だ!」
「じゃあユースタスだけ奢らなくていいんじゃねぇですかぁ? キラーや他の皆は良けりゃ一緒に」
「バッ……」
「それもそうだな」
勝手に奢ることにしてしまったが船長に文句は無いらしい。文句があったとしてもシルビが稼いできた金だと黙らせる事は出来たが。
何か言いかけるユースタスとは違い、キラーは仮面の下で『これは言い返せない』と早々に諦めているようだった。相変わらず仮面を付けていても考えている事が雰囲気で分かってしまう。
「うわーキッド海賊団だ!」
ベポとシャチがそんな事を叫びながらシルビ達の元へと駆けてきた。既に少し酔っているらしい二人は、シルビと船長の後ろからキラー達を見て、不思議そうにしている。
「船長キッド海賊団だよ! ユースタス・キャプテン・キッドだよ!」
「殺戮武人もいるよ! すごーい!」
動物園の動物をみているような幼稚な感想だったが、ユースタスはまんざらではなかったようだった。
結局一緒に飲む事になり、ユースタスが自棄酒のように酒瓶を空にしていっている。ベポとシャチ以外のクルー達も、船長と同じ『億越えルーキー』だから興味があるらしく、そんなユースタスへ怖がる様子無く近づいていっては、色々と話しかけていた。
その内船長が機嫌を悪くしないかと思っていると、船長は船長で機嫌が良さそうである。おそらくユースタスに絡むクルー達が、それでも船長から離れていかないとでも思っているのだろう。楽観的だ。別にいいが。
店主を歩かせるのも悪かろうとカウンターへ行って注文したドライフルーツの皿を受け取り、振り返った先にストローで酒を飲んでいる姿があったので、そのテーブルへ近付いて腰を降ろす。
「酒をストローで飲むと早く酔わねぇ?」
「酔う」
「それでも仮面を外さねぇのは凄げぇよ」
酔うという割には飲むのが早い。ドライフルーツは勧めても食え無さそうだなと思った。
キラーがシルビのグラスを覗き込む。
「飲めないのか?」
「セーブしてんだぁ。酔っ払い運ぶ事になるのは分かってんだから」
「それで楽しいのかお前は」
呆れたような気遣うような言い方に、やっぱり彼は優しさで損をしているなと思った。
「仮面を付けてりゃ表情が読めねぇだろうって思うの、止めた方がいいと思うぜぇ」
「? どういう……」
意味だ、と続けようとしたキラーの仮面を指差す。『アマネ』の姿でも忠告した事だが、『敵船の副船長』としてももう一度忠告する。
「キッド海賊団で無くたって、君の言いてぇことは簡単に分かっちまうよって言う、心理戦の話」
「心理戦は得意じゃないな」
「だろうなぁ。君は『殺戮武人』だから」
指を下ろして椅子へ横向きに座り直した。テーブルへ頬杖を突いてキラーの視線を横顔で受ける。
シルビの視線の先ではバンダナが管を巻いていた。それをキッド海賊団のクルーがうんうんと頷きを返しているが、おそらくあれは互いの話を理解はしていない。
「お前のほうが年下だろう」
「悪ぃなぁ、癖なんだよ。長げぇこと一人旅だったから、舐められねぇように」
「一人旅」
笑い声が上がって船員達が飲み比べを始めている。給仕が仕方ないなと呆れたように笑いながらも空になった酒瓶を回収し、注文の酒を運んでいた。暴れだしたら怯えて逃げるのだろうが、今のところは安全だと分かっているらしい。
「舐めらねぇようにするには、心理戦に強くなっとかねぇと。簡単に人を信用しちゃ駄目だぜぇ?」
優しく話しかけた『女』も、こうして話し相手になっている『副船長』も、味方以外は信用してはいけないのだ。
ただ、ただの雑談相手なら、こうして酒を飲みあっても構わない。
「前にも言われた」
「そりゃ良かったなぁ。忠告してくれる人がいんのはいいことだぁ。ユースタス?」
「いや、違う。……失敗談なんだが聞いてくれるか?」
「よろこんでぇ」