空白の二年間編
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夢主視点
漁港の、シルビが突き止めた麻薬の倉庫へと連れて来られキラーと一緒に放置される。牢屋へ入れるわけでも無く鎖以外の拘束もされないのはシルビ達の捕獲が予定に無かったからだろう。
だからって取引現場も兼ねている倉庫に放り出すというのは、賞金首ではないシルビはともかく億越えしているキラーに関しては舐めているとしか思えない。
倉庫へ連れて来られて直ぐに目を覚ましたキラーへ、シルビはホッとする。頭を殴られたものだから、フルフェイスのマスクをつけていたとは言え内部で出血でもしていたらやばいとは思っていたのだ。起きられるという事は平気だろう。
起き上がったキラーが傍にシルビが居る事を確認した矢先に、離れた場所へ居たビアガームが口を開く。
「キッド海賊団の、『殺戮武人』だな?」
ビアガームに怯えるフリでキラーの背後へと回り込み、指を鳴らして赤い炎をキラーの腕を拘束している鎖と自分の手首を拘束している鎖へ押し当てた。だんだんと『分解』され脆くなっていく鎖と共に、キラーとビアガームの話も進んでいく。
あのビアガーム。シルビは本当にキラーを油断させる為だけの道具だったらしく眼中に無い。
「ここ最近、探りを入れてる鼠がいるとは思ってたが、こんなデカイ鼠を捕まえられるとは思ってなかったよ」
それはシルビのことだろうと思ったが、言ってやる義理も無いし優しさもなかった。
「……何故殺さない?」
「無論殺すさ。殺して海軍にその首を突き出してやる。でも、どうせならおれはもっと賞金が欲しいんだ」
キラーだけではなくキッドの首も狙っているのだろう。それならなるほどキラーを生かして連れて来た理由も分からなくもない。だがシルビだったらキラーを運んできたら殺して死体を置いておく形にしていただろうなと思う。助けに来たが死んでいるのを見てショックを受けているところを襲撃するくらいはしないと。
取引に関しては情報もあまり出回らせないほど慎重に動いていたくせに、キラーを捕獲できた事で気が大きくなったのだろう。大して苦労せずキラーを捕まえられたことがそれを助長している。
それはシルビのせいだから非常に申し訳ない。
「それにしても殺戮武人も奇特な男だ。そんな醜い肌をした女よりもっと上物だってこの島には居ただろう? その包帯の下を見たか? 赤黒く引き攣れて人間じゃないな」
そんなビアガームの言葉にキラーが肩越しに振り返る。キラーへは幻覚を掛けていないので火傷の痕が見える筈も無いので慌てて見られないように隠した。
「あいにく、人は見た目で判断しないタイプでな」
思わず顔も逸らしていればそんな声が聞こえる。シルビが普通の女性なら惚れていた場面かも知れない。普通のか弱い女性なら。
もういいかなと思った
シルビが大人しくしていたのはキラーが一緒に捕まってしまったからで、そのキラーも目を覚ましたし、ビアガームだって当初の予定よりは遠いが同じ空間へ居る。
そもそもシルビがわざわざ女装していたのはこの瞬間の為だ。最初からどういう形であれシルビはビアガームに捕まり奴の前へ『非力な女性』として出てくることが目的だった。
キラーやキッド海賊団の登場は想定外だったが『巻き込めれば面白いな』程度だったので大筋には支障が無かったし、現に今も言葉的な意味では成功している。
問題があるとすれば予想以上にキラーが食い込んできたことと、キラーがシルビを守ろうとしている事だ。
怪我までさせるつもりは無かった。あまつさえ庇ってもらうつもりも無かったが、それはキラーの性分だろう。
残るシルビの計画は『ビアガームの捕獲』と『キッド海賊団を出し抜く』ことだ。そして今ならもうその両方を遂行できる。なのに行動へ移せないのは、キラーにショックを与えたく無いなと思っているからだろう。
彼はその二つ名に相応しく無い程に優しかった。シルビなど、正確には『アマネ』なんて女など、これが終わってしまえば二度と会うことも無いだろう存在だ。
そんな一過性の存在を、今までに女子供を殺したことは無いなどと言うつもりも無いだろうに、助けようとしている。
「聞いているか? 君をどうにか逃がしたいと思うんだ。怖いだろうがもう少し我慢してくれ」
そんな必要は無いのだと首を横へ振って、声を出そうとした矢先にビアガームがユースタスの到着を待ち草臥れたのかキラー達へと近付いてきた。ビアガームの護衛達がキラーとシルビを囲み、銃を向ける。
「それにしても、殺戮武人キラーの素顔はどうなっているんだろうな」
キラーに睨まれたのかビアガームは怯んだものの、キラーの腕が拘束されている事と護衛達が銃口を向けていることでの優位を思い出したのか、キラーの仮面をマジマジと観察し始めた。
「あいにく、男に見つめられる趣味はないんだが」
「その口も今に叩けなくなるだろうさ。おい」
護衛の一人に指示が飛ばされ、男が近付いてきてキラーの仮面へと手を伸ばした。その男の足を、キラーは座った姿勢のまま振り払い転倒させ、転んだ男の腹部に踵落としを叩き込みながら立ち上がる。
突然の出来事に反応出来ないでいる護衛を数人蹴り飛ばし、後ろ手にキャッチした銃でキラーがビアガームの隣にいた護衛を撃った。小物感丸出しの悲鳴を上げたビアガームが次の指示を出せるまでに回復する間に、キラーがシルビを見るのにシルビも立ち上がる。
ユースタス達がやってきたのはその時だった。
状況をすぐさま理解してかユースタスがクルー達へ発破をかける。数人の船員がキラーとシルビの拘束に気付いて保護の為に駆け寄って来るのに、シルビはキラーに背を押されて船員の元へとよろけた。肩を支えられながら振り返れば、後ろを振り返っているキラーの姿の向こうでビアガームが銃を構えている。
シルビは脆くなっていた鎖を引き千切って足を踏みだした。
銃声。
「キラー!」
船員の誰かがキラーを呼ぶ。そのキラーの前へと踊り出て、シルビは先程まで自分の両手を拘束していた鎖で銃弾を振り払った。いつもであればナイフでやることだが、鎖でも出来ないことは無い。
鎖に払い落とされた銃弾が地面へ転がる。
流石にこれは、隠し切れないだろう。
「……アマネ?」
後ろからキラーにこの島で名乗っていた偽名を呼ばれて、シルビは鎖を地面へと落として振り返り、勢い良くキラーへと抱き付いた。
驚くキラーの背へ手を回して、脆くなっていた鎖を引き千切る。
「ゴメンなぁ。でも君はちょっと相手を信用し過ぎだぜぇ」
「おま……おとっ」
謝った理由は色々だ。更に告げた忠告は海賊の癖をして優しすぎる彼を懸念してのもので。
何かを言われる前にシルビはキラーから離れ、身を翻して駆け出し呆然としていたビアガームへと迫ると、その鳩尾へ握り拳を叩き込んだ。
うぇ、ともぶふぉ、ともつかない声を漏らして気を失ったビアガームを、シルビは肩へと担ぎ上げる。そしてそのまま再び走り出し、積まれている木箱を足場に天井近くの天窓へと飛び上がり、ガラスを突き破って外へと飛び出した。
倉庫のすぐ外が海に面している事は覚えている。だが海へ飛び込むつもりは無く、指を鳴らして第八の炎を灯して飛び込んだ。
空間を抜けて移動した先は、町から少し離れた人が寄り付かない海へ面した岩壁の上である。そこではあの倉庫どころか町の喧騒さえ届かない。
ビアガームを地面へと落とせば、落下した衝撃で目を覚ました。周囲が倉庫の中ではないことや、護衛が一人も居ない事に気付いてか驚いているビアガームを蹴飛ばして仰向けに転がし、腹部へと足を置く。
キラーやキッド海賊団のことは無視していい。というかもう忘れるべきだ。
シルビの目的は最初からこの男で、キラーはその過程で関わっただけの相手である。そう長い事引き摺って時間を取られるような相手ではない。そう思い切ってしまっていい相手だ。
「き、貴様っ……」
「俺の質問にだけ答えろぉ。……無視と返答以外の会話はペナルティだからなぁ」
「そ、そんなこガッ!」
「はいペナルティ一つ目ぇ」
しかしやっぱり、キラーへ対する申し訳なさは尋問中ずっと消えなかった。
漁港の、シルビが突き止めた麻薬の倉庫へと連れて来られキラーと一緒に放置される。牢屋へ入れるわけでも無く鎖以外の拘束もされないのはシルビ達の捕獲が予定に無かったからだろう。
だからって取引現場も兼ねている倉庫に放り出すというのは、賞金首ではないシルビはともかく億越えしているキラーに関しては舐めているとしか思えない。
倉庫へ連れて来られて直ぐに目を覚ましたキラーへ、シルビはホッとする。頭を殴られたものだから、フルフェイスのマスクをつけていたとは言え内部で出血でもしていたらやばいとは思っていたのだ。起きられるという事は平気だろう。
起き上がったキラーが傍にシルビが居る事を確認した矢先に、離れた場所へ居たビアガームが口を開く。
「キッド海賊団の、『殺戮武人』だな?」
ビアガームに怯えるフリでキラーの背後へと回り込み、指を鳴らして赤い炎をキラーの腕を拘束している鎖と自分の手首を拘束している鎖へ押し当てた。だんだんと『分解』され脆くなっていく鎖と共に、キラーとビアガームの話も進んでいく。
あのビアガーム。シルビは本当にキラーを油断させる為だけの道具だったらしく眼中に無い。
「ここ最近、探りを入れてる鼠がいるとは思ってたが、こんなデカイ鼠を捕まえられるとは思ってなかったよ」
それはシルビのことだろうと思ったが、言ってやる義理も無いし優しさもなかった。
「……何故殺さない?」
「無論殺すさ。殺して海軍にその首を突き出してやる。でも、どうせならおれはもっと賞金が欲しいんだ」
キラーだけではなくキッドの首も狙っているのだろう。それならなるほどキラーを生かして連れて来た理由も分からなくもない。だがシルビだったらキラーを運んできたら殺して死体を置いておく形にしていただろうなと思う。助けに来たが死んでいるのを見てショックを受けているところを襲撃するくらいはしないと。
取引に関しては情報もあまり出回らせないほど慎重に動いていたくせに、キラーを捕獲できた事で気が大きくなったのだろう。大して苦労せずキラーを捕まえられたことがそれを助長している。
それはシルビのせいだから非常に申し訳ない。
「それにしても殺戮武人も奇特な男だ。そんな醜い肌をした女よりもっと上物だってこの島には居ただろう? その包帯の下を見たか? 赤黒く引き攣れて人間じゃないな」
そんなビアガームの言葉にキラーが肩越しに振り返る。キラーへは幻覚を掛けていないので火傷の痕が見える筈も無いので慌てて見られないように隠した。
「あいにく、人は見た目で判断しないタイプでな」
思わず顔も逸らしていればそんな声が聞こえる。シルビが普通の女性なら惚れていた場面かも知れない。普通のか弱い女性なら。
もういいかなと思った
シルビが大人しくしていたのはキラーが一緒に捕まってしまったからで、そのキラーも目を覚ましたし、ビアガームだって当初の予定よりは遠いが同じ空間へ居る。
そもそもシルビがわざわざ女装していたのはこの瞬間の為だ。最初からどういう形であれシルビはビアガームに捕まり奴の前へ『非力な女性』として出てくることが目的だった。
キラーやキッド海賊団の登場は想定外だったが『巻き込めれば面白いな』程度だったので大筋には支障が無かったし、現に今も言葉的な意味では成功している。
問題があるとすれば予想以上にキラーが食い込んできたことと、キラーがシルビを守ろうとしている事だ。
怪我までさせるつもりは無かった。あまつさえ庇ってもらうつもりも無かったが、それはキラーの性分だろう。
残るシルビの計画は『ビアガームの捕獲』と『キッド海賊団を出し抜く』ことだ。そして今ならもうその両方を遂行できる。なのに行動へ移せないのは、キラーにショックを与えたく無いなと思っているからだろう。
彼はその二つ名に相応しく無い程に優しかった。シルビなど、正確には『アマネ』なんて女など、これが終わってしまえば二度と会うことも無いだろう存在だ。
そんな一過性の存在を、今までに女子供を殺したことは無いなどと言うつもりも無いだろうに、助けようとしている。
「聞いているか? 君をどうにか逃がしたいと思うんだ。怖いだろうがもう少し我慢してくれ」
そんな必要は無いのだと首を横へ振って、声を出そうとした矢先にビアガームがユースタスの到着を待ち草臥れたのかキラー達へと近付いてきた。ビアガームの護衛達がキラーとシルビを囲み、銃を向ける。
「それにしても、殺戮武人キラーの素顔はどうなっているんだろうな」
キラーに睨まれたのかビアガームは怯んだものの、キラーの腕が拘束されている事と護衛達が銃口を向けていることでの優位を思い出したのか、キラーの仮面をマジマジと観察し始めた。
「あいにく、男に見つめられる趣味はないんだが」
「その口も今に叩けなくなるだろうさ。おい」
護衛の一人に指示が飛ばされ、男が近付いてきてキラーの仮面へと手を伸ばした。その男の足を、キラーは座った姿勢のまま振り払い転倒させ、転んだ男の腹部に踵落としを叩き込みながら立ち上がる。
突然の出来事に反応出来ないでいる護衛を数人蹴り飛ばし、後ろ手にキャッチした銃でキラーがビアガームの隣にいた護衛を撃った。小物感丸出しの悲鳴を上げたビアガームが次の指示を出せるまでに回復する間に、キラーがシルビを見るのにシルビも立ち上がる。
ユースタス達がやってきたのはその時だった。
状況をすぐさま理解してかユースタスがクルー達へ発破をかける。数人の船員がキラーとシルビの拘束に気付いて保護の為に駆け寄って来るのに、シルビはキラーに背を押されて船員の元へとよろけた。肩を支えられながら振り返れば、後ろを振り返っているキラーの姿の向こうでビアガームが銃を構えている。
シルビは脆くなっていた鎖を引き千切って足を踏みだした。
銃声。
「キラー!」
船員の誰かがキラーを呼ぶ。そのキラーの前へと踊り出て、シルビは先程まで自分の両手を拘束していた鎖で銃弾を振り払った。いつもであればナイフでやることだが、鎖でも出来ないことは無い。
鎖に払い落とされた銃弾が地面へ転がる。
流石にこれは、隠し切れないだろう。
「……アマネ?」
後ろからキラーにこの島で名乗っていた偽名を呼ばれて、シルビは鎖を地面へと落として振り返り、勢い良くキラーへと抱き付いた。
驚くキラーの背へ手を回して、脆くなっていた鎖を引き千切る。
「ゴメンなぁ。でも君はちょっと相手を信用し過ぎだぜぇ」
「おま……おとっ」
謝った理由は色々だ。更に告げた忠告は海賊の癖をして優しすぎる彼を懸念してのもので。
何かを言われる前にシルビはキラーから離れ、身を翻して駆け出し呆然としていたビアガームへと迫ると、その鳩尾へ握り拳を叩き込んだ。
うぇ、ともぶふぉ、ともつかない声を漏らして気を失ったビアガームを、シルビは肩へと担ぎ上げる。そしてそのまま再び走り出し、積まれている木箱を足場に天井近くの天窓へと飛び上がり、ガラスを突き破って外へと飛び出した。
倉庫のすぐ外が海に面している事は覚えている。だが海へ飛び込むつもりは無く、指を鳴らして第八の炎を灯して飛び込んだ。
空間を抜けて移動した先は、町から少し離れた人が寄り付かない海へ面した岩壁の上である。そこではあの倉庫どころか町の喧騒さえ届かない。
ビアガームを地面へと落とせば、落下した衝撃で目を覚ました。周囲が倉庫の中ではないことや、護衛が一人も居ない事に気付いてか驚いているビアガームを蹴飛ばして仰向けに転がし、腹部へと足を置く。
キラーやキッド海賊団のことは無視していい。というかもう忘れるべきだ。
シルビの目的は最初からこの男で、キラーはその過程で関わっただけの相手である。そう長い事引き摺って時間を取られるような相手ではない。そう思い切ってしまっていい相手だ。
「き、貴様っ……」
「俺の質問にだけ答えろぉ。……無視と返答以外の会話はペナルティだからなぁ」
「そ、そんなこガッ!」
「はいペナルティ一つ目ぇ」
しかしやっぱり、キラーへ対する申し訳なさは尋問中ずっと消えなかった。