空白の二年間編
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夢主視点
食事を終えたキラーが店から出て行く。心なし後ろ姿がションボリとしているのは気のせいではないのだろう。彼は何か言いたいことがあった様だが、結局特別なことは何も言わずに去っていったから。
そんなに重大な内容で、シルビに言わねばならないことがあるのだろうかと考えて、一つだけ思い至るものがあった事を思い出した。というか自分の目的であり、キッド海賊団がこの島へ停泊している理由でもある。
ビアガームがとうとう動くのだ。
動くとは言え、単に麻薬取引が行われるだけである。そこを押さえ更にビアガームを捕まえて口を割らせる事が出来れば、ビアガームを軸に組み立てられていたであろうシンジケートが潰せるはずだ。
シルビの目的はビアガームの首よりはそのシンジケートの壊滅である。無論手に入りそうな物はありがたく手に入れるつもりなので、ビアガームだってキッド海賊団へ渡すつもりは無い。
だがキッド海賊団の目の前で得物を横取りしたら面白いだろうなとは思った。
シルビがキラーへ話しかけ、キラーと交流のあることを町へ知らしらめるような動きをしていたのはそれが理由だ。あの『殺戮武人』と親しげな女が居れば、捕まえてキラーを誘う為の囮にするだろう。そうして誘拐されたところで、もしくは策にまんまと引っ掛かってキラーが助けに来たタイミングで、ビアガームを捕獲。
シルビがハートの『ペンギン』であることをバラすつもりはないが、それでも『女に得物を横取りされた』となればあのユースタスも業腹だろう。船長へ話す土産話も出来るというものだ。
けれどもシルビのそんな計画を無駄にするように、今のところビアガームの注意がシルビへ向けられた様子は無い。取引が近いからそちらへ専念するつもりなのだろうか。
別に取引へ専念しようとその時にビアガームを捕まえれば支障はないので構わないが、そうすると何だかキラーへ悪い気もする。
閉店間際で後はいいからと店主に帰宅を促され、酒場を出ると既に暗くなっていて僅かに寒い。今日は曇っていない上に満月が近いのか明るいなと空を見上げ、視線を地上へ戻して物陰に半分隠れているキラーに視線を向ける。
お前は夜闇に紛れる殺人鬼か、と内心で思ったことは内緒だ。そして殺人『鬼』ではないが、殺している数では多分残念なことにシルビの方が多い。
『キラーさん? どうかしましたか?』
「何、……夜の散歩だ」
顔を逸らしながらそう言うキラーだが、思いっきり雰囲気に『キッドに追い出された』だの『ビアガームの取引……』だの漏れている。ああこれは明日の早朝に行なわれる予定であるビアガームの情報を得て、その前に何か言いに来たのだろうと当たりをつけた。
昼間来た時、何かを言いたげにしていたが結局キラーは何も言って行かなかったのだ。多分、ビアガームを捕まえるなりしたら島を離れるからもう会えないとかその程度だろう。
『では、私もつき合わせてくださいな。一人では寂しいでしょうから』
騙している罪悪感も僅かに手伝って、言うチャンスをあげようと『散歩』に付き合うと意思を示せば、キラーは少し申し訳無さそうにする。
目的地については何も言わずに並んで歩き出した。この島に住んでいて慣れているのがシルビの方だからか、自然とシルビの方が半歩分前を進んでいる。
背後に居るキラーの影が民家から漏れる灯りや月明かりに照らされてシルビを背中から覆う。殺意も敵愾心も相変わらず無いのだけれど、このまま歩いていると借家に着いてしまうなと足を止めた。
「……どうした」
お前が話し出すのを待っていたんだよ。と言えたらどんなにいいか。しかし言える訳もないので自分から話題を出す。
『キラーさん、もうすぐ居なくなってしまうのですか?』
「よく分かったな」
『分かりますよ。キラーさんは仮面を被ってらっしゃるので表情は分かりませんけれど、その分雰囲気や態度が雄弁です』
「そんなつもりは無いのだが」
『気付く人は気付けます。きっとキラーさんの船の船長だって』
まだ若さの残るキラーの慕う船長。ユースタスって自分より一つ下なんだよなとどうでもいい事を思った。
『寂しくなってしまいますね』
「……申し訳ない」
『何を謝るんです?』
本当に分からなくて尋ねればキラーは俯く。
「寂しくなると言っただろう」
ああやっぱり『殺戮武人』なんて似合わない、優しい奴だと思った。
けれどもその優しさは、シルビではない相手へ向けるべきだ。
『謝る必要なんてありません。私だって、いつかはこの島から旅立つ身ですもの』
気にすることではないのだという意を込めて、スケッチブックにそう書いた。
シルビがこの島へいるのは、この島でキラーと出会ったのは、偶然だ。こうして話しているのはシルビの作意によるものだけれど、こんな些細な他人との触れ合いを大切に扱うキラーへは好感が持てるけれど。
海に船を浮かべる者同士、こんな『偶然』に縋るのはどうなのだろうか。
「それでも……」
「っ!」
顔を上げたキラーの背後の暗闇で棍棒が振り上げられるのが見えた。喋る事に集中しているのか気付いていないキラーへ注意を促そうにも、声を出してはいけない。
今になって自分で作った『設定』を苦々しく思った。
油断して殴られ気を失ったキラーがシルビへ向けて倒れてくる。そのフルフェイスはちっとも頭を守らないな、と思わず思ったものの、キラーを殴るのに使われた棍棒はよく見れば、スタンガンの様な機能が付いていたらしい。
この悪魔の実とかが存在するファンタジーチックな世界観でそんな現実的な物を使うなと言いたいが、思わず抱き止めたキラーを抱えきれずに一緒に倒れこむ演技で忙しかった。
そうでなくとも声は出せない。
棍棒を持ち直す男の後ろでは、手配書で見たビアガームがニヤニヤと笑っている。このタイミングでシルビが張った罠に掛かってくるなよと思ったものの、キラーが油断している状況を探していれば、自ずとシルビと会っている時になるかと考え直す。油断していたシルビ達が悪い。
ビアガームと男に怯えながらも、キラーの頭を庇うように胸へ抱きかかえる。コレ今目を覚まされたら確実に男だとバレるなと考える余裕はあるので、大丈夫だ。
「ふっふっふ。叫んで助けを求めないところは褒めてやろう。まぁ、叫んだところで誰も来ないだろうがな」
台詞が三流だが、言っている事は正しい。麻薬に汚染されつつあるこの島で、助けを求められるとしたらキッド海賊団くらいか。
しかし困った。ここでビアガームを捕まえてもいいのだが、そうするとキラーをどうすればいいのかという問題が残る。ビアガームが逃げられないようにした後キラーをキッド海賊団の船へ運んでやる訳にもいかない。
ここは大人しく捕まるかと、拘束するための鎖を持ってくる男達に怯えるフリをしながら気付かれないように念の為指を鳴らしておく。キラーをシルビから引き離し、背中でその腕に鎖を巻きつけていく一方で、シルビの両手へも鎖を巻こうとするので変に思われない程度の抵抗をした。
その抵抗の最中に、案の定腕に巻いていた包帯に気付かれ袖口と共に引き剥がされる。男達の目には醜い火傷の痕が見えていることだろう。鎖を巻こうとしていた男の手が止まるものだから幻覚が酷すぎたかと思ったが、単に同情されただけだった。
そのお陰か、キラーと同じく背後で拘束されるはずだったのだろうシルビの両手は、身体の前で拘束される。
キラーが男数人で担がれ、シルビも無理やり立たされ歩かせられた。ビアガームがシルビの破れた袖口に覗く火傷の痕の幻覚を見て鼻で笑う。
「顔が良くても、その傷じゃなあ」
言ってろ。お前の顔は火傷痕が無くても酷でぇよ。
そう言ってやりたいが言えないジレンマ。船長に頼んで整形してもらうべきだ。
たまに思うが手配書へ載っている者達は整形して顔を隠そうとは思わないのだろうか。
思わないのだろう。
食事を終えたキラーが店から出て行く。心なし後ろ姿がションボリとしているのは気のせいではないのだろう。彼は何か言いたいことがあった様だが、結局特別なことは何も言わずに去っていったから。
そんなに重大な内容で、シルビに言わねばならないことがあるのだろうかと考えて、一つだけ思い至るものがあった事を思い出した。というか自分の目的であり、キッド海賊団がこの島へ停泊している理由でもある。
ビアガームがとうとう動くのだ。
動くとは言え、単に麻薬取引が行われるだけである。そこを押さえ更にビアガームを捕まえて口を割らせる事が出来れば、ビアガームを軸に組み立てられていたであろうシンジケートが潰せるはずだ。
シルビの目的はビアガームの首よりはそのシンジケートの壊滅である。無論手に入りそうな物はありがたく手に入れるつもりなので、ビアガームだってキッド海賊団へ渡すつもりは無い。
だがキッド海賊団の目の前で得物を横取りしたら面白いだろうなとは思った。
シルビがキラーへ話しかけ、キラーと交流のあることを町へ知らしらめるような動きをしていたのはそれが理由だ。あの『殺戮武人』と親しげな女が居れば、捕まえてキラーを誘う為の囮にするだろう。そうして誘拐されたところで、もしくは策にまんまと引っ掛かってキラーが助けに来たタイミングで、ビアガームを捕獲。
シルビがハートの『ペンギン』であることをバラすつもりはないが、それでも『女に得物を横取りされた』となればあのユースタスも業腹だろう。船長へ話す土産話も出来るというものだ。
けれどもシルビのそんな計画を無駄にするように、今のところビアガームの注意がシルビへ向けられた様子は無い。取引が近いからそちらへ専念するつもりなのだろうか。
別に取引へ専念しようとその時にビアガームを捕まえれば支障はないので構わないが、そうすると何だかキラーへ悪い気もする。
閉店間際で後はいいからと店主に帰宅を促され、酒場を出ると既に暗くなっていて僅かに寒い。今日は曇っていない上に満月が近いのか明るいなと空を見上げ、視線を地上へ戻して物陰に半分隠れているキラーに視線を向ける。
お前は夜闇に紛れる殺人鬼か、と内心で思ったことは内緒だ。そして殺人『鬼』ではないが、殺している数では多分残念なことにシルビの方が多い。
『キラーさん? どうかしましたか?』
「何、……夜の散歩だ」
顔を逸らしながらそう言うキラーだが、思いっきり雰囲気に『キッドに追い出された』だの『ビアガームの取引……』だの漏れている。ああこれは明日の早朝に行なわれる予定であるビアガームの情報を得て、その前に何か言いに来たのだろうと当たりをつけた。
昼間来た時、何かを言いたげにしていたが結局キラーは何も言って行かなかったのだ。多分、ビアガームを捕まえるなりしたら島を離れるからもう会えないとかその程度だろう。
『では、私もつき合わせてくださいな。一人では寂しいでしょうから』
騙している罪悪感も僅かに手伝って、言うチャンスをあげようと『散歩』に付き合うと意思を示せば、キラーは少し申し訳無さそうにする。
目的地については何も言わずに並んで歩き出した。この島に住んでいて慣れているのがシルビの方だからか、自然とシルビの方が半歩分前を進んでいる。
背後に居るキラーの影が民家から漏れる灯りや月明かりに照らされてシルビを背中から覆う。殺意も敵愾心も相変わらず無いのだけれど、このまま歩いていると借家に着いてしまうなと足を止めた。
「……どうした」
お前が話し出すのを待っていたんだよ。と言えたらどんなにいいか。しかし言える訳もないので自分から話題を出す。
『キラーさん、もうすぐ居なくなってしまうのですか?』
「よく分かったな」
『分かりますよ。キラーさんは仮面を被ってらっしゃるので表情は分かりませんけれど、その分雰囲気や態度が雄弁です』
「そんなつもりは無いのだが」
『気付く人は気付けます。きっとキラーさんの船の船長だって』
まだ若さの残るキラーの慕う船長。ユースタスって自分より一つ下なんだよなとどうでもいい事を思った。
『寂しくなってしまいますね』
「……申し訳ない」
『何を謝るんです?』
本当に分からなくて尋ねればキラーは俯く。
「寂しくなると言っただろう」
ああやっぱり『殺戮武人』なんて似合わない、優しい奴だと思った。
けれどもその優しさは、シルビではない相手へ向けるべきだ。
『謝る必要なんてありません。私だって、いつかはこの島から旅立つ身ですもの』
気にすることではないのだという意を込めて、スケッチブックにそう書いた。
シルビがこの島へいるのは、この島でキラーと出会ったのは、偶然だ。こうして話しているのはシルビの作意によるものだけれど、こんな些細な他人との触れ合いを大切に扱うキラーへは好感が持てるけれど。
海に船を浮かべる者同士、こんな『偶然』に縋るのはどうなのだろうか。
「それでも……」
「っ!」
顔を上げたキラーの背後の暗闇で棍棒が振り上げられるのが見えた。喋る事に集中しているのか気付いていないキラーへ注意を促そうにも、声を出してはいけない。
今になって自分で作った『設定』を苦々しく思った。
油断して殴られ気を失ったキラーがシルビへ向けて倒れてくる。そのフルフェイスはちっとも頭を守らないな、と思わず思ったものの、キラーを殴るのに使われた棍棒はよく見れば、スタンガンの様な機能が付いていたらしい。
この悪魔の実とかが存在するファンタジーチックな世界観でそんな現実的な物を使うなと言いたいが、思わず抱き止めたキラーを抱えきれずに一緒に倒れこむ演技で忙しかった。
そうでなくとも声は出せない。
棍棒を持ち直す男の後ろでは、手配書で見たビアガームがニヤニヤと笑っている。このタイミングでシルビが張った罠に掛かってくるなよと思ったものの、キラーが油断している状況を探していれば、自ずとシルビと会っている時になるかと考え直す。油断していたシルビ達が悪い。
ビアガームと男に怯えながらも、キラーの頭を庇うように胸へ抱きかかえる。コレ今目を覚まされたら確実に男だとバレるなと考える余裕はあるので、大丈夫だ。
「ふっふっふ。叫んで助けを求めないところは褒めてやろう。まぁ、叫んだところで誰も来ないだろうがな」
台詞が三流だが、言っている事は正しい。麻薬に汚染されつつあるこの島で、助けを求められるとしたらキッド海賊団くらいか。
しかし困った。ここでビアガームを捕まえてもいいのだが、そうするとキラーをどうすればいいのかという問題が残る。ビアガームが逃げられないようにした後キラーをキッド海賊団の船へ運んでやる訳にもいかない。
ここは大人しく捕まるかと、拘束するための鎖を持ってくる男達に怯えるフリをしながら気付かれないように念の為指を鳴らしておく。キラーをシルビから引き離し、背中でその腕に鎖を巻きつけていく一方で、シルビの両手へも鎖を巻こうとするので変に思われない程度の抵抗をした。
その抵抗の最中に、案の定腕に巻いていた包帯に気付かれ袖口と共に引き剥がされる。男達の目には醜い火傷の痕が見えていることだろう。鎖を巻こうとしていた男の手が止まるものだから幻覚が酷すぎたかと思ったが、単に同情されただけだった。
そのお陰か、キラーと同じく背後で拘束されるはずだったのだろうシルビの両手は、身体の前で拘束される。
キラーが男数人で担がれ、シルビも無理やり立たされ歩かせられた。ビアガームがシルビの破れた袖口に覗く火傷の痕の幻覚を見て鼻で笑う。
「顔が良くても、その傷じゃなあ」
言ってろ。お前の顔は火傷痕が無くても酷でぇよ。
そう言ってやりたいが言えないジレンマ。船長に頼んで整形してもらうべきだ。
たまに思うが手配書へ載っている者達は整形して顔を隠そうとは思わないのだろうか。
思わないのだろう。