空白の二年間編
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キラー視点
数週間後、あの島を出港したものの獲物を狩ることも出来なかった鬱憤が溜まって仕方がないからと、船員達の気分転換の為にもと錨を降ろした島の酒場で、キッド海賊団は天敵に近い相手であるハートの海賊団と遭遇した。
キッド達とは逆に何か良いことでもあったのか、すっかり宴会気分で酒を飲んでいる彼等に、キッドが苦虫を噛み潰したような顔をする。店を変えるかと出ようとしたところで、『死の外科医』の二つ名を持つトラファルガー・ローがジョッキ片手に嬉々として絡んできた。
「これは珍しい顔じゃねえか。ユースタス屋のとこも景気が良さそうで何より」
人を食ったようなニヤニヤとした笑みを浮かべるトラファルガーは酔っているのか。あまりキッドを刺激しないでくれと思うものの、それを口にすれば更にトラファルガーは図に乗るだろうしキッドの機嫌も悪くなるだろうからキラーは口にしなかった。
代わりに違う事を口にする。
「そちらこそ何かあったのか?」
「ああ、臨時収入があってな。はした金だが五千三百万ベリーだ。麻薬シンジケートも一つ潰せて、ペンギンの奴も機嫌がいい」
「ペンギン?」
「ウチの副船長だ」
トラファルガーが振り返った先に視線を向ければ、顔の殆どを覆う防寒帽を被ったツナギのクルーが壁際で酒を飲んでいた。こちらに気付いて立ち上がって寄ってくる姿は確かシャボンディ諸島から逃げる際、たった一人でバーソロミュー・クマの偽物を倒した男である。
目の前に立たれてみればその姿は思った以上に小さく、一応平均身長はあるようだがキラーは首を傾けなければならない。こんな男が偽物とはいえキッドやトラファルガーが苦労していた相手を倒したのだから、世界は不思議だ。
「ウチの船長が何か失礼でもぉ?」
「ハッ! テメェの船長なんざ存在自体が失礼だ!」
「じゃあユースタスだけ奢らなくていいんじゃねぇですかぁ? キラーや他の皆は良けりゃ一緒に」
「バッ……」
「それもそうだな」
飄々とキッドだけを蔑ろにしたペンギンの態度にキッドが何かを言いかけたが、多分この流れでは一緒に酒盛りをする事になるだろう。何となくペンギンには口で勝てない気がする。
「うわーキッド海賊団だ!」
シロクマとキャスケットを被ったハートのクルーが、そんな事を叫びながらペンギンとトラファルガーのほうへと駆けてきた。二人の後ろからキラー達を見て、不思議そうにしている。
「船長キッド海賊団だよ! ユースタス・キャプテン・キッドだよ!」
「殺戮武人もいるよ! すごーい!」
見せ物を見ている時のような感想だったが、キッドはまんざらではなかったようだった。
結局なし崩しに一緒に飲む事になり、キッドが自棄酒のように酒瓶を空にしていっている。シロクマとキャスケット以外のハートのクルーも、そんなキッドを怖がる様子無く近づいていっては、今までの冒険譚をせがんでいた。
あの調子ならそのうち機嫌も元に戻るだろうと、注文した酒をストローで飲んでいると向かいへペンギンが腰を降ろす。
「酒をストローで飲むと早く酔わねぇ?」
「酔う」
「それでも仮面を外さねぇのは凄げぇなぁ」
呆れたように笑いつつ、ペンギンが持参したらしいつまみを摘む。ドライフルーツの盛り合わせらしいそれは酒に合うとは思わなかったが、良く見ればペンギンが飲んでいるのは酒ではなかった。
「飲めないのか?」
「セーブしてんだぁ。酔っ払い運ぶ事になるのは分かってんだから」
「それで楽しいのかお前は」
宴会で酒を飲まない男へ尋ねれば、何かのナッツを噛み砕いたペンギンが防寒帽の影から視線を寄越す。
「仮面を付けてりゃ表情が読めねぇだろうって思うの、止めた方がいいと思うぜぇ」
「? どういう……」
意味だ、と続けようとしてペンギンがキラーの仮面を指差した。その手は偶然かどうか分からないが、『彼』のようにインクが付いている。
「キッド海賊団で無くたって、君の言いてぇことは簡単に分かっちまうよって言う、心理戦の話」
「心理戦は得意じゃないな」
「だろうなぁ。君は『殺戮武人』だから」
指を下ろしてペンギンは椅子へ横向きに座り直した。テーブルへ頬杖を突いてキラーの視線を横顔で受けている。
いきなり心理戦の話をされても困るもので、ペンギンが何を言いたいのかも全く分からなかった。ともかく『君』と呼ばれるのは少し嫌だったので、それだけ訂正させてもらう。
「お前のほうが年下だろう」
「悪ぃなぁ、癖なんだよ。長げぇこと一人旅だったから、舐められねぇように」
「一人旅」
笑い声が上がって船員達が飲み比べを始めている。給仕が仕方ないなと呆れたように笑いながらも空になった酒瓶を回収し、注文の酒を運んでいた。暴れだしたら怯えて逃げるのだろうが、今のところは安全だと分かっているらしい。
テーブルを挟んだ向かいの男は、ふ、と笑って酒ではない液体の満たされていたグラスを傾けた。
「舐めらねぇようにするには、心理戦に強くなっとかねぇと。簡単に人を信用しちゃ駄目だぜぇ?」
「前にも言われた」
「そりゃ良かったなぁ。忠告してくれる人がいんのはいいことだぁ。ユースタス?」
「いや、違う。……失敗談なんだが聞いてくれるか?」
「よろこんでぇ」
誰かが酔い潰れたのか倒れる音がして笑い声が響く。気付けばキッドも笑いながら酒を飲んでいた。これなら当分は機嫌がいいままで居られるかもしれない。
数週間後、あの島を出港したものの獲物を狩ることも出来なかった鬱憤が溜まって仕方がないからと、船員達の気分転換の為にもと錨を降ろした島の酒場で、キッド海賊団は天敵に近い相手であるハートの海賊団と遭遇した。
キッド達とは逆に何か良いことでもあったのか、すっかり宴会気分で酒を飲んでいる彼等に、キッドが苦虫を噛み潰したような顔をする。店を変えるかと出ようとしたところで、『死の外科医』の二つ名を持つトラファルガー・ローがジョッキ片手に嬉々として絡んできた。
「これは珍しい顔じゃねえか。ユースタス屋のとこも景気が良さそうで何より」
人を食ったようなニヤニヤとした笑みを浮かべるトラファルガーは酔っているのか。あまりキッドを刺激しないでくれと思うものの、それを口にすれば更にトラファルガーは図に乗るだろうしキッドの機嫌も悪くなるだろうからキラーは口にしなかった。
代わりに違う事を口にする。
「そちらこそ何かあったのか?」
「ああ、臨時収入があってな。はした金だが五千三百万ベリーだ。麻薬シンジケートも一つ潰せて、ペンギンの奴も機嫌がいい」
「ペンギン?」
「ウチの副船長だ」
トラファルガーが振り返った先に視線を向ければ、顔の殆どを覆う防寒帽を被ったツナギのクルーが壁際で酒を飲んでいた。こちらに気付いて立ち上がって寄ってくる姿は確かシャボンディ諸島から逃げる際、たった一人でバーソロミュー・クマの偽物を倒した男である。
目の前に立たれてみればその姿は思った以上に小さく、一応平均身長はあるようだがキラーは首を傾けなければならない。こんな男が偽物とはいえキッドやトラファルガーが苦労していた相手を倒したのだから、世界は不思議だ。
「ウチの船長が何か失礼でもぉ?」
「ハッ! テメェの船長なんざ存在自体が失礼だ!」
「じゃあユースタスだけ奢らなくていいんじゃねぇですかぁ? キラーや他の皆は良けりゃ一緒に」
「バッ……」
「それもそうだな」
飄々とキッドだけを蔑ろにしたペンギンの態度にキッドが何かを言いかけたが、多分この流れでは一緒に酒盛りをする事になるだろう。何となくペンギンには口で勝てない気がする。
「うわーキッド海賊団だ!」
シロクマとキャスケットを被ったハートのクルーが、そんな事を叫びながらペンギンとトラファルガーのほうへと駆けてきた。二人の後ろからキラー達を見て、不思議そうにしている。
「船長キッド海賊団だよ! ユースタス・キャプテン・キッドだよ!」
「殺戮武人もいるよ! すごーい!」
見せ物を見ている時のような感想だったが、キッドはまんざらではなかったようだった。
結局なし崩しに一緒に飲む事になり、キッドが自棄酒のように酒瓶を空にしていっている。シロクマとキャスケット以外のハートのクルーも、そんなキッドを怖がる様子無く近づいていっては、今までの冒険譚をせがんでいた。
あの調子ならそのうち機嫌も元に戻るだろうと、注文した酒をストローで飲んでいると向かいへペンギンが腰を降ろす。
「酒をストローで飲むと早く酔わねぇ?」
「酔う」
「それでも仮面を外さねぇのは凄げぇなぁ」
呆れたように笑いつつ、ペンギンが持参したらしいつまみを摘む。ドライフルーツの盛り合わせらしいそれは酒に合うとは思わなかったが、良く見ればペンギンが飲んでいるのは酒ではなかった。
「飲めないのか?」
「セーブしてんだぁ。酔っ払い運ぶ事になるのは分かってんだから」
「それで楽しいのかお前は」
宴会で酒を飲まない男へ尋ねれば、何かのナッツを噛み砕いたペンギンが防寒帽の影から視線を寄越す。
「仮面を付けてりゃ表情が読めねぇだろうって思うの、止めた方がいいと思うぜぇ」
「? どういう……」
意味だ、と続けようとしてペンギンがキラーの仮面を指差した。その手は偶然かどうか分からないが、『彼』のようにインクが付いている。
「キッド海賊団で無くたって、君の言いてぇことは簡単に分かっちまうよって言う、心理戦の話」
「心理戦は得意じゃないな」
「だろうなぁ。君は『殺戮武人』だから」
指を下ろしてペンギンは椅子へ横向きに座り直した。テーブルへ頬杖を突いてキラーの視線を横顔で受けている。
いきなり心理戦の話をされても困るもので、ペンギンが何を言いたいのかも全く分からなかった。ともかく『君』と呼ばれるのは少し嫌だったので、それだけ訂正させてもらう。
「お前のほうが年下だろう」
「悪ぃなぁ、癖なんだよ。長げぇこと一人旅だったから、舐められねぇように」
「一人旅」
笑い声が上がって船員達が飲み比べを始めている。給仕が仕方ないなと呆れたように笑いながらも空になった酒瓶を回収し、注文の酒を運んでいた。暴れだしたら怯えて逃げるのだろうが、今のところは安全だと分かっているらしい。
テーブルを挟んだ向かいの男は、ふ、と笑って酒ではない液体の満たされていたグラスを傾けた。
「舐めらねぇようにするには、心理戦に強くなっとかねぇと。簡単に人を信用しちゃ駄目だぜぇ?」
「前にも言われた」
「そりゃ良かったなぁ。忠告してくれる人がいんのはいいことだぁ。ユースタス?」
「いや、違う。……失敗談なんだが聞いてくれるか?」
「よろこんでぇ」
誰かが酔い潰れたのか倒れる音がして笑い声が響く。気付けばキッドも笑いながら酒を飲んでいた。これなら当分は機嫌がいいままで居られるかもしれない。