空白の二年間編
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キラー視点
身体を揺さぶられる感覚に目を覚ませば眼の前に彼女の顔があった。どうやらキラーの身体を揺さぶっていたのは彼女らしく、見れば彼女の両手やキラーの腕には鎖が巻かれて拘束されている。
キラーの背中に回されての拘束とは違い、彼女の拘束が身体の前であるのは彼女が非力で声も出せない女性であるからか。殴られたと思われる後頭部が痛かったが、起き上がるのには支障は無い。
何処かの倉庫だろうか。波の音が壁越しに聞こえ、頭上高くにある天窓から月明かりが入り込んでいるのでそう暗くは無い。周囲には雑多に木箱が積まれている。何が入っているのかまでは分からなかった。
「キッド海賊団の『殺戮武人』だな?」
離れた場所から聞こえた声に、アマネが怯えたようにキラーの背後へと隠れる。キラーが声のしたほうを見やれば、手配書で見た写真通りのビアガームが武器を持つ護衛に守られながら座っていた。
「ここ最近、探りを入れてる鼠がいるとは思ってたが、こんなデカイ鼠を捕まえられるとは思ってなかったよ」
「……何故殺さない?」
「無論殺すさ。殺して海軍にその首を突き出してやる。でも、どうせならおれはもっと賞金が欲しいんだ」
キラーだけではなくキッドの首も狙っているのだろう。取引に関しては情報もあまり出回らないほど慎重に動いていたくせに、ここにきて欲張るつもりなのか。
キラーを捕まえられて気が大きくなっているのだと思えば変でもないのだろうが、それにしては少し杜撰にも感じられる。とはいえキッドをおびき寄せる為の囮にさせられるのは業腹だ。
ましてや関係の無い彼女を巻き込んでしまった事が申し訳ない。キラーの後ろで怯えている彼女は、キラーの服を掴みながらもビアガームを睨んでいた。その視線に気付いたのかビアガームはにやりと笑う。
「それにしても殺戮武人も奇特な男だ。そんな醜い肌をした女よりもっと上物だってこの島には居ただろう? その包帯の下を見たか? 赤黒く引き攣れて人間じゃないな」
得意げに言うビアガームに彼女を振り返れば、彼女の右袖は破かれていた。キラーに見られている事に気付いて隠した彼女に、キラーはもうどうしようもなく罪悪感を覚える。
治したいと言っていたのだからそれはコンプレックスの筈だ。キラーが仮面を外さないのと同じ様に。
「あいにく、人は見た目で判断しないタイプでな」
彼女がハッとして顔を上げた。
ビアガームはそんなキラーの返答はお気に召さなかったらしい。鼻を鳴らして興味は無いとばかりに視線を逸らす。
さてキッドがクルーを引き連れて迎えに来る前に、キラーは状況を少しでも改善しておく、というのが普段であればキラーのすることだが、非力な女性がいるという事でこうにも動き辛くなるというのは初めてだった。
彼女へ怪我をさせずに、手の拘束を解き出来ればビアガームを動けなくしておきたい。最悪彼女を逃がす事を目的にすべきか。
当然だが武器は奪われている。あの曲刀は扱いが難しいのでビアガームやその周りに居る護衛へ使われるという事は無いだろうが、折られてしまう危険はあった。手入れも取り替えも面倒なので極力それも避けたい。
それではやはり、この場は彼女を逃すことを目標にしたほうがいいだろう。
「聞いているか?」
ビアガームへは聞こえないように彼女へ話し掛ける。こういう時唇の動きが読まれない仮面は便利だ。
「君をどうにか逃がしたいと思うんだ。怖いだろうがもう少し我慢してくれ」
彼女は気丈に首を横へ振った。それがどういう事か分からないでいるうちに、ビアガームがキッドの到着を待ち草臥れたのかキラー達へと近付いてくる。
無用心だと思われるそれに追従して、ビアガームの護衛達がキラーと彼女を囲み、銃を向けた。キラーの腕は拘束されているわけだから、それを防ぐ手立ては無い。
「それにしても、殺戮武人キラーの素顔はどうなっているんだろうな」
それは先程の意趣返しか。仮面の下から睨んで殺気を飛ばせばビアガームは怯んだものの、キラーの腕が拘束されている事と護衛達が銃口を向けていることでの優位を思い出したのか、キラーの仮面をマジマジと観察し始める。
「あいにく、男に見つめられる趣味はないんだが」
「その口も今に叩けなくなるだろうさ。おい」
護衛の一人に指示が飛ばされ、男が近付いてきてキラーの仮面へと手を伸ばした。その男の足を、キラーは座った姿勢のまま振り払い転倒させ、転んだ男の腹部に踵落としを叩き込みながら立ち上がる。
突然の出来事に反応出来ないでいる護衛を数人蹴り飛ばし、後ろ手にキャッチした銃でビアガームの隣にいた護衛を撃った。小物感丸出しの悲鳴を上げたビアガームが次の指示を出せるまでに回復する間に、彼女を連れて走り出す。
後ろ手に鎖で縛られている為に、彼女を抱え上げる事も手を引いて逃げる事も出来ない。彼女のペースに合わせて逃げていれば、確実に追いつかれるだろう。
宗教など信じていないが天啓か、キッド達がやってきたのはその時だった。
仮面越しにキッドと目が合い、キラーが何を言うまでも無くビアガームを捕まえようとキッドがクルー達へ発破をかける。数人のクルーがキラーと彼女の拘束に気付いて保護の為に駆け寄って来たのを確かめ、彼女をそちらへと先に行かせキラーは警戒の為に振り返った。
ビアガームが銃を構えている。
身体を揺さぶられる感覚に目を覚ませば眼の前に彼女の顔があった。どうやらキラーの身体を揺さぶっていたのは彼女らしく、見れば彼女の両手やキラーの腕には鎖が巻かれて拘束されている。
キラーの背中に回されての拘束とは違い、彼女の拘束が身体の前であるのは彼女が非力で声も出せない女性であるからか。殴られたと思われる後頭部が痛かったが、起き上がるのには支障は無い。
何処かの倉庫だろうか。波の音が壁越しに聞こえ、頭上高くにある天窓から月明かりが入り込んでいるのでそう暗くは無い。周囲には雑多に木箱が積まれている。何が入っているのかまでは分からなかった。
「キッド海賊団の『殺戮武人』だな?」
離れた場所から聞こえた声に、アマネが怯えたようにキラーの背後へと隠れる。キラーが声のしたほうを見やれば、手配書で見た写真通りのビアガームが武器を持つ護衛に守られながら座っていた。
「ここ最近、探りを入れてる鼠がいるとは思ってたが、こんなデカイ鼠を捕まえられるとは思ってなかったよ」
「……何故殺さない?」
「無論殺すさ。殺して海軍にその首を突き出してやる。でも、どうせならおれはもっと賞金が欲しいんだ」
キラーだけではなくキッドの首も狙っているのだろう。取引に関しては情報もあまり出回らないほど慎重に動いていたくせに、ここにきて欲張るつもりなのか。
キラーを捕まえられて気が大きくなっているのだと思えば変でもないのだろうが、それにしては少し杜撰にも感じられる。とはいえキッドをおびき寄せる為の囮にさせられるのは業腹だ。
ましてや関係の無い彼女を巻き込んでしまった事が申し訳ない。キラーの後ろで怯えている彼女は、キラーの服を掴みながらもビアガームを睨んでいた。その視線に気付いたのかビアガームはにやりと笑う。
「それにしても殺戮武人も奇特な男だ。そんな醜い肌をした女よりもっと上物だってこの島には居ただろう? その包帯の下を見たか? 赤黒く引き攣れて人間じゃないな」
得意げに言うビアガームに彼女を振り返れば、彼女の右袖は破かれていた。キラーに見られている事に気付いて隠した彼女に、キラーはもうどうしようもなく罪悪感を覚える。
治したいと言っていたのだからそれはコンプレックスの筈だ。キラーが仮面を外さないのと同じ様に。
「あいにく、人は見た目で判断しないタイプでな」
彼女がハッとして顔を上げた。
ビアガームはそんなキラーの返答はお気に召さなかったらしい。鼻を鳴らして興味は無いとばかりに視線を逸らす。
さてキッドがクルーを引き連れて迎えに来る前に、キラーは状況を少しでも改善しておく、というのが普段であればキラーのすることだが、非力な女性がいるという事でこうにも動き辛くなるというのは初めてだった。
彼女へ怪我をさせずに、手の拘束を解き出来ればビアガームを動けなくしておきたい。最悪彼女を逃がす事を目的にすべきか。
当然だが武器は奪われている。あの曲刀は扱いが難しいのでビアガームやその周りに居る護衛へ使われるという事は無いだろうが、折られてしまう危険はあった。手入れも取り替えも面倒なので極力それも避けたい。
それではやはり、この場は彼女を逃すことを目標にしたほうがいいだろう。
「聞いているか?」
ビアガームへは聞こえないように彼女へ話し掛ける。こういう時唇の動きが読まれない仮面は便利だ。
「君をどうにか逃がしたいと思うんだ。怖いだろうがもう少し我慢してくれ」
彼女は気丈に首を横へ振った。それがどういう事か分からないでいるうちに、ビアガームがキッドの到着を待ち草臥れたのかキラー達へと近付いてくる。
無用心だと思われるそれに追従して、ビアガームの護衛達がキラーと彼女を囲み、銃を向けた。キラーの腕は拘束されているわけだから、それを防ぐ手立ては無い。
「それにしても、殺戮武人キラーの素顔はどうなっているんだろうな」
それは先程の意趣返しか。仮面の下から睨んで殺気を飛ばせばビアガームは怯んだものの、キラーの腕が拘束されている事と護衛達が銃口を向けていることでの優位を思い出したのか、キラーの仮面をマジマジと観察し始める。
「あいにく、男に見つめられる趣味はないんだが」
「その口も今に叩けなくなるだろうさ。おい」
護衛の一人に指示が飛ばされ、男が近付いてきてキラーの仮面へと手を伸ばした。その男の足を、キラーは座った姿勢のまま振り払い転倒させ、転んだ男の腹部に踵落としを叩き込みながら立ち上がる。
突然の出来事に反応出来ないでいる護衛を数人蹴り飛ばし、後ろ手にキャッチした銃でビアガームの隣にいた護衛を撃った。小物感丸出しの悲鳴を上げたビアガームが次の指示を出せるまでに回復する間に、彼女を連れて走り出す。
後ろ手に鎖で縛られている為に、彼女を抱え上げる事も手を引いて逃げる事も出来ない。彼女のペースに合わせて逃げていれば、確実に追いつかれるだろう。
宗教など信じていないが天啓か、キッド達がやってきたのはその時だった。
仮面越しにキッドと目が合い、キラーが何を言うまでも無くビアガームを捕まえようとキッドがクルー達へ発破をかける。数人のクルーがキラーと彼女の拘束に気付いて保護の為に駆け寄って来たのを確かめ、彼女をそちらへと先に行かせキラーは警戒の為に振り返った。
ビアガームが銃を構えている。