空白の二年間編
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キラー視点
閉店間際の酒場の前に立っていれば、仕事を終えたらしい彼女が出てくる。両手で口元を覆って空を見上げた彼女は、視線を地上へ戻してキラーに気付くと出せない声の代わりに驚いたような表情をした。
『キラーさん? どうかしましたか?』
「何、……夜の散歩だ」
もう少し適当な言葉があっただろうに、考えていた言い訳は一つも出てこずそんな言い訳をしてしまう。けれども彼女はそんなキラーを笑いはせず、緩やかに目を細めただけだった。
『では、私もつき合わせてくださいな。一人では寂しいでしょうから』
彼女ならそう言うと思っていた自分に、キラーは少し自己嫌悪する。
ビアガームの麻薬取引は明日の早朝に行なわれるらしい。そうなれば明日の昼には運が良ければこの島を出て行く事になる。
となれば今日の昼間の酒場へ行った時が、居なくなる事を言う最後のチャンスだったなと悔いていればキッドに船を追い出された。これがキッドの優しさなのかちょっとした苛めなのかは分からない。
目的地については何も言わずに並んで歩き出す。この島に住んでいて慣れているのは彼女の方だからか、自然と彼女の方が半歩分前を進んでいた。
女性にしては背が高い方だろうが、やはりキラーと比べると自分と小さい。自分がこんな背丈だったのはいつの頃かと思い出していれば、不意に彼女が立ち止まる。
「……どうした」
彼女は意を決したように肩に提げていたスケッチブックを持って何かを書き、キラーへと差し出してきた。暗い街並みではそれも読みにくかったが、近くの民家の明かりで辛うじて読める。
『キラーさん、もうすぐ居なくなってしまうのですか?』
分かっていたのかと思うと同時に、やはり早めに言っておけば良かったと後悔した。
「よく分かったな」
『分かりますよ。キラーさんは仮面を被ってらっしゃるので表情は分かりませんけれど、その分雰囲気や態度が雄弁です』
「そんなつもりは無いのだが」
『気付く人は気付けます。きっとキラーさんの船の船長だって』
まだ若さの残る船長を思い出す。
『寂しくなってしまいますね』
「……申し訳ない」
『何を謝るんです?』
「寂しくなると言っただろう」
『謝る必要なんてありません。私だって、いつかはこの島から旅立つ身ですもの』
スケッチブックを持つ手の袖口から、手首に巻かれている包帯が覗いていた。襟口からも覗くその白い包帯が隠す下には、女性にとっては屈辱でしかない火傷の痕があるのだろう。
彼女がこの島へいるのは、この島でキラーと出会ったのは、偶然だ。
「それでも……」
「っ!」
顔を上げた先で彼女がキラーの背後を見つめて驚いていた。出せない声を張り上げてキラーへ注意を促そうとしたようだったが、その声が届く事は無い。
最後に見た彼女の顔は泣きそうだった。
閉店間際の酒場の前に立っていれば、仕事を終えたらしい彼女が出てくる。両手で口元を覆って空を見上げた彼女は、視線を地上へ戻してキラーに気付くと出せない声の代わりに驚いたような表情をした。
『キラーさん? どうかしましたか?』
「何、……夜の散歩だ」
もう少し適当な言葉があっただろうに、考えていた言い訳は一つも出てこずそんな言い訳をしてしまう。けれども彼女はそんなキラーを笑いはせず、緩やかに目を細めただけだった。
『では、私もつき合わせてくださいな。一人では寂しいでしょうから』
彼女ならそう言うと思っていた自分に、キラーは少し自己嫌悪する。
ビアガームの麻薬取引は明日の早朝に行なわれるらしい。そうなれば明日の昼には運が良ければこの島を出て行く事になる。
となれば今日の昼間の酒場へ行った時が、居なくなる事を言う最後のチャンスだったなと悔いていればキッドに船を追い出された。これがキッドの優しさなのかちょっとした苛めなのかは分からない。
目的地については何も言わずに並んで歩き出す。この島に住んでいて慣れているのは彼女の方だからか、自然と彼女の方が半歩分前を進んでいた。
女性にしては背が高い方だろうが、やはりキラーと比べると自分と小さい。自分がこんな背丈だったのはいつの頃かと思い出していれば、不意に彼女が立ち止まる。
「……どうした」
彼女は意を決したように肩に提げていたスケッチブックを持って何かを書き、キラーへと差し出してきた。暗い街並みではそれも読みにくかったが、近くの民家の明かりで辛うじて読める。
『キラーさん、もうすぐ居なくなってしまうのですか?』
分かっていたのかと思うと同時に、やはり早めに言っておけば良かったと後悔した。
「よく分かったな」
『分かりますよ。キラーさんは仮面を被ってらっしゃるので表情は分かりませんけれど、その分雰囲気や態度が雄弁です』
「そんなつもりは無いのだが」
『気付く人は気付けます。きっとキラーさんの船の船長だって』
まだ若さの残る船長を思い出す。
『寂しくなってしまいますね』
「……申し訳ない」
『何を謝るんです?』
「寂しくなると言っただろう」
『謝る必要なんてありません。私だって、いつかはこの島から旅立つ身ですもの』
スケッチブックを持つ手の袖口から、手首に巻かれている包帯が覗いていた。襟口からも覗くその白い包帯が隠す下には、女性にとっては屈辱でしかない火傷の痕があるのだろう。
彼女がこの島へいるのは、この島でキラーと出会ったのは、偶然だ。
「それでも……」
「っ!」
顔を上げた先で彼女がキラーの背後を見つめて驚いていた。出せない声を張り上げてキラーへ注意を促そうとしたようだったが、その声が届く事は無い。
最後に見た彼女の顔は泣きそうだった。