空白の二年間編
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
シャチ視点
ペンギンがホーキンス海賊団の船長を連れて来たせいで、結局この黒い集団と同じ酒場で飲むことになった。ペンギンはペンギンで『迷子を連れて来てやった』だけの認識だろうから恨むわけにもいかないけれど、そのホーキンスがあっさりとするりと不意を突いてペンギンと同じテーブルへ着いたことには、何となく釈然としない。
オレだってペンギンと飲みたい、と独り占めをしたいわけじゃないけど、ペンギンはハートのクルーなんだとは言ってやりたくなる。
「何故断るんだ」
ペンギンがどういう態度をとるのかと気になって聞き耳を立てていれば、予想に反して先に口を開いたのはホーキンスだった。そっと窺えばホーキンスはテーブルに縦長のカードを並べている。
僅かに首を動かして酒場を見回したペンギンが溜め息を吐いていた。
「……そこまで慕われてるんだから、別に俺の一人くらいいらねぇと思うんだけどぉ」
「そんな事はない。あいつ等も大切だがお前も欲しい」
ホーキンスと対等に話していることにも驚いたが、その話の内容にも驚いた。シャチが思わずジョッキに口を付けたままペンギンとホーキンスを振り返れば、声が聞こえていた範囲に居る皆も所属の海賊団に関係なく振り返っている。
ペンギンはそれに気付いた様子も無く、テーブルへ頬杖を突いてホーキンスへ話しかけた。
「アンタが欲しいのは『何』なんだぁ? 手駒か部下か身代わりかぁ? それとも、生贄かぁ?」
「だと言ったら?」
「俺はアンタの手駒にはならねぇ。誰かの下に就いて跪くのも二度とゴメンだぁ。身代わりはホムンクルスかリバーズドールでも抱えてろぉ。生贄は、生贄はまぁ、なってもいいと思えるけど」
いいのかよっ、と内心で突っ込みを入れたせいで酒を噴き出しかけて噎せる。気管に酒が入ると痛い。隣に座っていたバンダナが背中を擦ってくれたが、その視線はペンギンに釘付けだった。
正面に座っていた船長もジョッキを持ったままペンギンたちをガン見しているし、ホーキンス海賊団の船員達も固唾を飲んで見守っている。もっと離れた場所に座っていたらこの会話も聞こえなくて、こんなハラハラさせられずに済んだんだろうと思った。
ペンギンの頬杖を突いていないほうの手が、テーブルへ広げられたカードへ伸ばされ、並べられていたそれをぐしゃぐしゃにかき混ぜる。
「“逆さまの悪魔”」
それはペンギンのことだろうか。
「俺のことをそう呼ぶんじゃ尚更アンタの下にはいけねぇよ。『イブリス』はジャックとサブジェイの元に。『シルビ』は誰の元へも付かねぇ」
二人の会話はシャチには良く分からない。『イブリス』とか『シルビ』とか、誰かの名前か何かの隠語かと思ったくらいだ。
船長はシャチよりは内容を理解したようで、ジョッキから手を放して僅かに腰を浮かせている。
「『ペンギン』はトラファルガー・ローのモノだぁ。アンタへ渡せるものは生憎残ってねぇ」
けれども続いたペンギンの言葉にその動きが止まった。
カードを引いて弄っているペンギンの口元が笑っているのが見える。裏返したカードの絵柄をホーキンスへ見せるようにしてニヤニヤと。
ホーキンスが手を伸ばしてカードを一枚引く。
「トラファルガーはいいのか」
「船長は俺を飼ってる訳じゃねぇ。従えようとしてる訳でもねぇ。だから俺は船長と呼ぶ。あの人は俺を『悪魔』に見ねぇ。それがいい」
すとん、と船長が再び椅子へ腰を落ち着ける。ただし全神経がペンギンとホーキンスの会話に向けられているようで、目が真剣だった。
「俺はもう『悪魔』と見られることにも呼ばれることにも慣れた。長いこと一人で居る事も好きにはなれねぇけど我慢は出来る。けど、受け入れられるのだけはどうにも慣れねぇ。受け入れてもらえるのかが怖い」
「『悪魔』なのにか」
「『悪魔』である前に『人』でありてぇんだよ」
そう言って自嘲気味に笑うペンギンの過去を、シャチは知らない。
ハートの海賊団結成初期に北の海で船長と出会ったとか、そういう事は知っているけれど、ハートのクルーになる前は何をしていたのかとか、防寒帽の下の素顔とかを、シャチは聞いた事もなかった。
だから自分の事を『悪魔』なんて言うペンギンが少し信じられなかったし、ああして自分の事を話しているペンギンが遠い人の様に思える。
「トラファルガーは俺がそんなんでも何も言わねぇ。他のクルー達も同じだぁ。だから傍にいても居心地がいい。一度居心地の良さを知ったら、そこから離れるのは難しいし遠ざけられるのも怖ぇ。この海にはジャックもサブジェイも居ねぇけど、あの人はどうしようもない程ダメダメな船長だけど、ありのままを受け入れてくれるから」
一転して自分の事ではなく船長をベタ褒めするような発言に、向かいに座っていた船長が片手で顔を覆った。関係の無いシャチでさえ恥ずかしくなりそうな台詞だったから、当事者である船長なんてたまったモンじゃないのだろう。
恥ずかしいのを誤魔化すようにジョッキへ伸ばされた船長の手が、目測を誤ってジョッキをテーブルから落としてしまっていた。バンダナとベポが慌てて立ち上がり割れたジョッキから避難している。
「っ、」
「あーあー船長! 危ねえですから退いてくだせぇ」
「キャプテン大丈夫? 怪我してない?」
「誰か布巾持ってきてー」
シャチも立ち上がってそう叫べば、クルーが急いでカウンターへ布巾を取りに行った。ふと見ればペンギンとホーキンスはコチラのそんな騒ぎに気付いていないかのように互いを見つめている。
あの様子だと、多分ペンギンは自分が盛大に船長を褒めた事にも気付いていないかもしれない。もしそうだとすれば、さっきの『アレ』はペンギンが普段から思っている本音かも知れないわけで。
シャチはニヤケそうになる顔を逸らして投げられた布巾をキャッチする。
「今日の占いでは『“悪魔”を手に入れる』とは出なかったな」
「『“世界”と“悪魔”に出会う』だっけぇ? よくあれが『世界』だって分かったよなぁアンタも」
「“悪魔”が“世界”を守るというのもおかしな話だ」
「唯一敬愛する兄上だぁ。俺にとっての『神』の一つだよ」
まだ訳の分からない会話をしているようだったけれど、そんな事はもうあまり気にならなかった。
ペンギンがホーキンス海賊団の船長を連れて来たせいで、結局この黒い集団と同じ酒場で飲むことになった。ペンギンはペンギンで『迷子を連れて来てやった』だけの認識だろうから恨むわけにもいかないけれど、そのホーキンスがあっさりとするりと不意を突いてペンギンと同じテーブルへ着いたことには、何となく釈然としない。
オレだってペンギンと飲みたい、と独り占めをしたいわけじゃないけど、ペンギンはハートのクルーなんだとは言ってやりたくなる。
「何故断るんだ」
ペンギンがどういう態度をとるのかと気になって聞き耳を立てていれば、予想に反して先に口を開いたのはホーキンスだった。そっと窺えばホーキンスはテーブルに縦長のカードを並べている。
僅かに首を動かして酒場を見回したペンギンが溜め息を吐いていた。
「……そこまで慕われてるんだから、別に俺の一人くらいいらねぇと思うんだけどぉ」
「そんな事はない。あいつ等も大切だがお前も欲しい」
ホーキンスと対等に話していることにも驚いたが、その話の内容にも驚いた。シャチが思わずジョッキに口を付けたままペンギンとホーキンスを振り返れば、声が聞こえていた範囲に居る皆も所属の海賊団に関係なく振り返っている。
ペンギンはそれに気付いた様子も無く、テーブルへ頬杖を突いてホーキンスへ話しかけた。
「アンタが欲しいのは『何』なんだぁ? 手駒か部下か身代わりかぁ? それとも、生贄かぁ?」
「だと言ったら?」
「俺はアンタの手駒にはならねぇ。誰かの下に就いて跪くのも二度とゴメンだぁ。身代わりはホムンクルスかリバーズドールでも抱えてろぉ。生贄は、生贄はまぁ、なってもいいと思えるけど」
いいのかよっ、と内心で突っ込みを入れたせいで酒を噴き出しかけて噎せる。気管に酒が入ると痛い。隣に座っていたバンダナが背中を擦ってくれたが、その視線はペンギンに釘付けだった。
正面に座っていた船長もジョッキを持ったままペンギンたちをガン見しているし、ホーキンス海賊団の船員達も固唾を飲んで見守っている。もっと離れた場所に座っていたらこの会話も聞こえなくて、こんなハラハラさせられずに済んだんだろうと思った。
ペンギンの頬杖を突いていないほうの手が、テーブルへ広げられたカードへ伸ばされ、並べられていたそれをぐしゃぐしゃにかき混ぜる。
「“逆さまの悪魔”」
それはペンギンのことだろうか。
「俺のことをそう呼ぶんじゃ尚更アンタの下にはいけねぇよ。『イブリス』はジャックとサブジェイの元に。『シルビ』は誰の元へも付かねぇ」
二人の会話はシャチには良く分からない。『イブリス』とか『シルビ』とか、誰かの名前か何かの隠語かと思ったくらいだ。
船長はシャチよりは内容を理解したようで、ジョッキから手を放して僅かに腰を浮かせている。
「『ペンギン』はトラファルガー・ローのモノだぁ。アンタへ渡せるものは生憎残ってねぇ」
けれども続いたペンギンの言葉にその動きが止まった。
カードを引いて弄っているペンギンの口元が笑っているのが見える。裏返したカードの絵柄をホーキンスへ見せるようにしてニヤニヤと。
ホーキンスが手を伸ばしてカードを一枚引く。
「トラファルガーはいいのか」
「船長は俺を飼ってる訳じゃねぇ。従えようとしてる訳でもねぇ。だから俺は船長と呼ぶ。あの人は俺を『悪魔』に見ねぇ。それがいい」
すとん、と船長が再び椅子へ腰を落ち着ける。ただし全神経がペンギンとホーキンスの会話に向けられているようで、目が真剣だった。
「俺はもう『悪魔』と見られることにも呼ばれることにも慣れた。長いこと一人で居る事も好きにはなれねぇけど我慢は出来る。けど、受け入れられるのだけはどうにも慣れねぇ。受け入れてもらえるのかが怖い」
「『悪魔』なのにか」
「『悪魔』である前に『人』でありてぇんだよ」
そう言って自嘲気味に笑うペンギンの過去を、シャチは知らない。
ハートの海賊団結成初期に北の海で船長と出会ったとか、そういう事は知っているけれど、ハートのクルーになる前は何をしていたのかとか、防寒帽の下の素顔とかを、シャチは聞いた事もなかった。
だから自分の事を『悪魔』なんて言うペンギンが少し信じられなかったし、ああして自分の事を話しているペンギンが遠い人の様に思える。
「トラファルガーは俺がそんなんでも何も言わねぇ。他のクルー達も同じだぁ。だから傍にいても居心地がいい。一度居心地の良さを知ったら、そこから離れるのは難しいし遠ざけられるのも怖ぇ。この海にはジャックもサブジェイも居ねぇけど、あの人はどうしようもない程ダメダメな船長だけど、ありのままを受け入れてくれるから」
一転して自分の事ではなく船長をベタ褒めするような発言に、向かいに座っていた船長が片手で顔を覆った。関係の無いシャチでさえ恥ずかしくなりそうな台詞だったから、当事者である船長なんてたまったモンじゃないのだろう。
恥ずかしいのを誤魔化すようにジョッキへ伸ばされた船長の手が、目測を誤ってジョッキをテーブルから落としてしまっていた。バンダナとベポが慌てて立ち上がり割れたジョッキから避難している。
「っ、」
「あーあー船長! 危ねえですから退いてくだせぇ」
「キャプテン大丈夫? 怪我してない?」
「誰か布巾持ってきてー」
シャチも立ち上がってそう叫べば、クルーが急いでカウンターへ布巾を取りに行った。ふと見ればペンギンとホーキンスはコチラのそんな騒ぎに気付いていないかのように互いを見つめている。
あの様子だと、多分ペンギンは自分が盛大に船長を褒めた事にも気付いていないかもしれない。もしそうだとすれば、さっきの『アレ』はペンギンが普段から思っている本音かも知れないわけで。
シャチはニヤケそうになる顔を逸らして投げられた布巾をキャッチする。
「今日の占いでは『“悪魔”を手に入れる』とは出なかったな」
「『“世界”と“悪魔”に出会う』だっけぇ? よくあれが『世界』だって分かったよなぁアンタも」
「“悪魔”が“世界”を守るというのもおかしな話だ」
「唯一敬愛する兄上だぁ。俺にとっての『神』の一つだよ」
まだ訳の分からない会話をしているようだったけれど、そんな事はもうあまり気にならなかった。