空白の二年間編
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ワカメ視点
ハートの船は医療知識を持つ者の集団で、その為清潔さにはおそらく他のどんな船よりも重きを置いている。当然クルーの清潔にも気を使うし血塗れになる手術などもするので、シャワールームは一度に数人は入れるように広めだし、狭いながらも湯船も設置されていた。
そんなシャワールームで時々、掃除をすると女のように長い黒髪が発見される事があって、クルーには誰も長髪の奴がいなかったから、これは船長にフラれて死んだ女の幽霊でもいるんじゃないかと、ハートの船の七不思議の一つとしてこっそり囁かれていた訳だが。
「ペンギンの髪だったんだな……」
「何がぁ?」
半月ほど前に判明した事実だが、アマゾン・リリーでペンギンが冥王レイリーへ飛びついて海へ落ちた。その拍子に外れた防寒帽から出てきた髪は長い黒髪で、ペンギンの髪が長かったことに驚いたのはワカメだけではなかっただろう。
あの冥王レイリーへ飛びついたのも、その後抱き上げられたまま崖を上がってきたのも、随分と親しげだったのも驚いたが、長いこと同じ船に乗っていながらそんな事も知らなかった。
「っていうか、なんでその帽子外さないの?」
「船長が面白がって『素顔を晒すな』って言ったんだぁ。でもワカメは俺の顔見たことある筈」
「え、オレ知らないんデスケド!?」
「いやいやお前が居た島じゃ普通に帽子脱いで町を歩いてたぜぇ」
航海日誌の書き直しをしているペンギンは何てことの無い様に言うが初耳だし、ワカメにはペンギンの素顔を見た覚えも無い。アマゾン・リリーでも冥王レイリーにしがみ付いていたから、実のところちゃんと顔は見れていないのだ。
ある意味最大のチャンスをふいにしてしまったのかも知れない。ペンギンの素顔を見られるかも知れない事が、今後あるかどうか。
ハートの七不思議の一つである『シャワールームの長い髪の毛』が解決したのだから、残りの七不思議の一つである『ペンギンの素顔』も解決出来る気がする。
「じゃあさ、今帽子とってみてよ。女ヶ島で取ったんだからいいだろ?」
「イヤぁ」
「なんで」
「恥ずかしいだろぉ」
居なかった数日分の日誌を書き直す手を止めて、ペンギンが真面目にふざけたことを言う。
男の癖に髪を伸ばしているのは恥ずかしくなくて、老人とはいえ同性に抱きつくのも恥ずかしくなくて、その正直ダサイ帽子を脱ぐのが恥ずかしいというのは、ワカメの感性ではちょっと理解出来なかった。
「脱がせたかったら船長から許可貰って来いぃ」
「ペンギンの顔なのに」
「それは俺もたまに思う。船長がなんで帽子取るなって命令してきたのか未だにちょっと分かんねぇし」
「それでも律儀に守るんだな……」
ハートの船は医療知識を持つ者の集団で、その為清潔さにはおそらく他のどんな船よりも重きを置いている。当然クルーの清潔にも気を使うし血塗れになる手術などもするので、シャワールームは一度に数人は入れるように広めだし、狭いながらも湯船も設置されていた。
そんなシャワールームで時々、掃除をすると女のように長い黒髪が発見される事があって、クルーには誰も長髪の奴がいなかったから、これは船長にフラれて死んだ女の幽霊でもいるんじゃないかと、ハートの船の七不思議の一つとしてこっそり囁かれていた訳だが。
「ペンギンの髪だったんだな……」
「何がぁ?」
半月ほど前に判明した事実だが、アマゾン・リリーでペンギンが冥王レイリーへ飛びついて海へ落ちた。その拍子に外れた防寒帽から出てきた髪は長い黒髪で、ペンギンの髪が長かったことに驚いたのはワカメだけではなかっただろう。
あの冥王レイリーへ飛びついたのも、その後抱き上げられたまま崖を上がってきたのも、随分と親しげだったのも驚いたが、長いこと同じ船に乗っていながらそんな事も知らなかった。
「っていうか、なんでその帽子外さないの?」
「船長が面白がって『素顔を晒すな』って言ったんだぁ。でもワカメは俺の顔見たことある筈」
「え、オレ知らないんデスケド!?」
「いやいやお前が居た島じゃ普通に帽子脱いで町を歩いてたぜぇ」
航海日誌の書き直しをしているペンギンは何てことの無い様に言うが初耳だし、ワカメにはペンギンの素顔を見た覚えも無い。アマゾン・リリーでも冥王レイリーにしがみ付いていたから、実のところちゃんと顔は見れていないのだ。
ある意味最大のチャンスをふいにしてしまったのかも知れない。ペンギンの素顔を見られるかも知れない事が、今後あるかどうか。
ハートの七不思議の一つである『シャワールームの長い髪の毛』が解決したのだから、残りの七不思議の一つである『ペンギンの素顔』も解決出来る気がする。
「じゃあさ、今帽子とってみてよ。女ヶ島で取ったんだからいいだろ?」
「イヤぁ」
「なんで」
「恥ずかしいだろぉ」
居なかった数日分の日誌を書き直す手を止めて、ペンギンが真面目にふざけたことを言う。
男の癖に髪を伸ばしているのは恥ずかしくなくて、老人とはいえ同性に抱きつくのも恥ずかしくなくて、その正直ダサイ帽子を脱ぐのが恥ずかしいというのは、ワカメの感性ではちょっと理解出来なかった。
「脱がせたかったら船長から許可貰って来いぃ」
「ペンギンの顔なのに」
「それは俺もたまに思う。船長がなんで帽子取るなって命令してきたのか未だにちょっと分かんねぇし」
「それでも律儀に守るんだな……」