頂上戦争編
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夢主視点
『16点鐘』を行なった後、ジンベエと別れアマゾン・リリーの北西へある無人島『ルスカイナ』で修行を始めたルフィは、覇王色の覇気の素質もあるがまだまだ覇気自体を使いこなせていなかった。
新世界へ至る前に分かってよかったと思うべきかどうかは知らないが、元々食べた悪魔の実の能力に頼った戦い方を得意としている彼は、ある意味では今まで基礎体力だけで戦ってきたに等しいのだろう。
「それで新世界直前まで来れてんだし、一応ポテンシャルはあるんだろうなぁ」
「ちなみに誰と比べているんだ?」
「俺」
「……なるほど。なら比べる相手をトラファルガー辺りにしたらどうだ?」
「あの人多分まだ覇気覚えてねぇ」
だが実力差のある相手を、これも経験だからと何も教えないままシルビと戦わせたレイリーはもしかしたらサドなのかも知れない。
ルフィは怪我が完治とはいえないものの良くなったばかりだというのに、実力を測る為とシルビと手合わせさせられて今は完全に地面へ沈んでいた。ちなみにシルビは武器無し覇気無し手無しのハンデ状態で、である。つまり足しか使わなかった。
流石に暑かったので外套のフードを脱いで倒れているルフィへ近付き、傷が開いたりしていないかを確かめる為に手を伸ばす。途端意識を取り戻したルフィが起き上がって座りシルビを見た。
「シルビお前、強いな!」
「そりゃあ、年季が違げぇよルフィ君」
「オレもそれくらい強くなれるか?」
倒されたばかりだというのに真っ直ぐ負かした相手を見つめる視線。そういう真っ直ぐな視線は少し苦手だ。
「努力次第だろうが、シルビ君ほど強くなるのは難しいだろうな」
「なんでだ?」
「ふふ、何故だと思う?」
笑って座っていた樹木の根から立ち上がったレイリーは、答えさせる時間も考えさせる余裕も与えずにルフィを立ち上がらせた。
「君の今の実力は大体分かった。修行の目処もとりあえず考え付いたが、シルビ君。君はどうするかね?」
「俺はルフィ君に修行つけさせる為に残ったんじゃねぇんだけどぉ」
レイリーが来ていなかったとしても、最終的にシルビはハートの船を降りて暫くルフィの面倒を見ていただろうが、修行をつけてやるつもりは最初から無かった。結果的にはともかくだ。そしてシルビの目的はまだ達成されていない。
ルフィは完治こそしていないがほぼ元気に動き回れる程度には回復していた。『16点鐘』を行ったことで感情の切り替えも出来たのだろう。
であれば、本当はこのまま蒸し返さずに立ち去るのが正解なのかもしれないが。
「? じゃあなんで居るんだ?」
首を傾げたルフィへ、シルビはフードを被り直しながら重い口を開いた。
本当はあまり言いたくない。しかし言わなければならないだろう。
「ルフィ君。――エースのことなんだけどぉ」
「エースが、なんだ?」
「君の事を、君が、寂しくない様にってぇ」
エースの心残り。彼はルフィ達が彼を愛してくれたから寂しさを感じる事が無くなった。感謝を伝えはしたけれど、同時にエースは兄でもあったから残される弟が心配だったのだ。
弟が寂しくない様に。それがエースからの頼みだった。
「俺にも俺の用事や役割があるからずっと君の傍になんていられねぇし、君の船に乗るなんてことも難しい。それに今まで付き合いがあった訳でも無ぇ俺が傍に居てもあんまり意味は無ぇと思うけれど、これだけは伝えておこうと思う」
エースの代わりに、なんて大それたものでは絶対に無いけれど。
「エースが居たことを忘れない人は、君だけじゃなくてここにもいるから」
ルフィが寝ている間にも、意味もなく何度も話しかけていた。これだけはどうしても言っておこうと思ったことを口にすれば、ルフィは何も言わずまっすぐにシルビを見ている。
まだ『エース』の名前を出す事自体、良くなかったかもしれない。被ったフードを更に引っ張って視界からルフィを隠す。
「彼がまだスペードの海賊団だった頃、俺は少しの間彼の船に乗っていたんだぁ。そんなちっぽけな縁だけど、俺は彼が好きだった。好きなのに助けなかったことを君は恨むかもしれねぇけど、もしそうでも――」
「別に、恨まねえよ」
聞こえた返事に顔を上げるとルフィは困っているようだった。確かにいきなり『恨んでいい』と言われたって、困るだけに違いない。そしてエース同様『恨める訳がない』と言わざるを得ないだろう。
酷いタイミングと言い方だと、三度目だというのに全く何も学んでいない自分へ自嘲する。
「そ、っか。うん。とにかく、俺の話はそれだけぇ。じゃあ修行頑張ってぇ。レイリー、あんまり無茶させるなよぉ」
「それは彼の頑張り次第だな」
これ以上言葉を重ねても良い事なんて無いだろうと判断して海へ踵を返そうとした時、ルフィに腕を掴まれた。
「ルフィ君?」
「ありがとな」
「……?」
「エースの友達なんだろ?」
「……どうだろうなぁ。俺はエースの友達になれてたのかも分かんねぇから」
「シルビはいい奴だ! だよなレイリーのおっさん!」
同意を求められたレイリーは、微笑みながらルフィの味方をする。
「そうだな。シルビ君は良い奴だろうさ」
「ほらな! レイリーのおっさんもそう言ってんだろ?」
自信満々に言い切るルフィへレイリーがこっそり笑っていた。一体シルビの何処をとって『良い奴』だと思ったのか。分からないが言い返す言葉も無かった。
それでも『良い奴』だと言われて、勝手ながらに安心した自分も居て。
「……ルフィ君はタラシだなぁ」
「タラシって何だ?」
「海賊王になれるかもしれねぇってことだなぁ。まだ諦めてねぇだろぉ?」
「当たり前だ!」
「じゃあ修行頑張りなさい」
腕を離してもらって今度こそ海へと歩き出す。ハートの船が何処まで行ったのか、そもそも次の目的地を聞き忘れていることに気付いたが、ある程度勘で探して途中までは海王類に乗せてもらうことにした。
「それじゃレイリー、ルフィ君」
「ああ」
「またな!」
振り返って挨拶をすればルフィが手を振る。その顔がシルビの背後で海面へ跳ね上がった海王類を見て驚くのが、子供らしくて少し笑えた。
海王類の背へ飛び乗れば島から一人分の歓声が上がったが、海王類はそれを聞いて止まったりはしない。遠のいていくルスカイナ島を眺めて、その島影さえ水平線に見えなくなった頃、シルビはフードを脱いで目元を拭った。
『16点鐘』を行なった後、ジンベエと別れアマゾン・リリーの北西へある無人島『ルスカイナ』で修行を始めたルフィは、覇王色の覇気の素質もあるがまだまだ覇気自体を使いこなせていなかった。
新世界へ至る前に分かってよかったと思うべきかどうかは知らないが、元々食べた悪魔の実の能力に頼った戦い方を得意としている彼は、ある意味では今まで基礎体力だけで戦ってきたに等しいのだろう。
「それで新世界直前まで来れてんだし、一応ポテンシャルはあるんだろうなぁ」
「ちなみに誰と比べているんだ?」
「俺」
「……なるほど。なら比べる相手をトラファルガー辺りにしたらどうだ?」
「あの人多分まだ覇気覚えてねぇ」
だが実力差のある相手を、これも経験だからと何も教えないままシルビと戦わせたレイリーはもしかしたらサドなのかも知れない。
ルフィは怪我が完治とはいえないものの良くなったばかりだというのに、実力を測る為とシルビと手合わせさせられて今は完全に地面へ沈んでいた。ちなみにシルビは武器無し覇気無し手無しのハンデ状態で、である。つまり足しか使わなかった。
流石に暑かったので外套のフードを脱いで倒れているルフィへ近付き、傷が開いたりしていないかを確かめる為に手を伸ばす。途端意識を取り戻したルフィが起き上がって座りシルビを見た。
「シルビお前、強いな!」
「そりゃあ、年季が違げぇよルフィ君」
「オレもそれくらい強くなれるか?」
倒されたばかりだというのに真っ直ぐ負かした相手を見つめる視線。そういう真っ直ぐな視線は少し苦手だ。
「努力次第だろうが、シルビ君ほど強くなるのは難しいだろうな」
「なんでだ?」
「ふふ、何故だと思う?」
笑って座っていた樹木の根から立ち上がったレイリーは、答えさせる時間も考えさせる余裕も与えずにルフィを立ち上がらせた。
「君の今の実力は大体分かった。修行の目処もとりあえず考え付いたが、シルビ君。君はどうするかね?」
「俺はルフィ君に修行つけさせる為に残ったんじゃねぇんだけどぉ」
レイリーが来ていなかったとしても、最終的にシルビはハートの船を降りて暫くルフィの面倒を見ていただろうが、修行をつけてやるつもりは最初から無かった。結果的にはともかくだ。そしてシルビの目的はまだ達成されていない。
ルフィは完治こそしていないがほぼ元気に動き回れる程度には回復していた。『16点鐘』を行ったことで感情の切り替えも出来たのだろう。
であれば、本当はこのまま蒸し返さずに立ち去るのが正解なのかもしれないが。
「? じゃあなんで居るんだ?」
首を傾げたルフィへ、シルビはフードを被り直しながら重い口を開いた。
本当はあまり言いたくない。しかし言わなければならないだろう。
「ルフィ君。――エースのことなんだけどぉ」
「エースが、なんだ?」
「君の事を、君が、寂しくない様にってぇ」
エースの心残り。彼はルフィ達が彼を愛してくれたから寂しさを感じる事が無くなった。感謝を伝えはしたけれど、同時にエースは兄でもあったから残される弟が心配だったのだ。
弟が寂しくない様に。それがエースからの頼みだった。
「俺にも俺の用事や役割があるからずっと君の傍になんていられねぇし、君の船に乗るなんてことも難しい。それに今まで付き合いがあった訳でも無ぇ俺が傍に居てもあんまり意味は無ぇと思うけれど、これだけは伝えておこうと思う」
エースの代わりに、なんて大それたものでは絶対に無いけれど。
「エースが居たことを忘れない人は、君だけじゃなくてここにもいるから」
ルフィが寝ている間にも、意味もなく何度も話しかけていた。これだけはどうしても言っておこうと思ったことを口にすれば、ルフィは何も言わずまっすぐにシルビを見ている。
まだ『エース』の名前を出す事自体、良くなかったかもしれない。被ったフードを更に引っ張って視界からルフィを隠す。
「彼がまだスペードの海賊団だった頃、俺は少しの間彼の船に乗っていたんだぁ。そんなちっぽけな縁だけど、俺は彼が好きだった。好きなのに助けなかったことを君は恨むかもしれねぇけど、もしそうでも――」
「別に、恨まねえよ」
聞こえた返事に顔を上げるとルフィは困っているようだった。確かにいきなり『恨んでいい』と言われたって、困るだけに違いない。そしてエース同様『恨める訳がない』と言わざるを得ないだろう。
酷いタイミングと言い方だと、三度目だというのに全く何も学んでいない自分へ自嘲する。
「そ、っか。うん。とにかく、俺の話はそれだけぇ。じゃあ修行頑張ってぇ。レイリー、あんまり無茶させるなよぉ」
「それは彼の頑張り次第だな」
これ以上言葉を重ねても良い事なんて無いだろうと判断して海へ踵を返そうとした時、ルフィに腕を掴まれた。
「ルフィ君?」
「ありがとな」
「……?」
「エースの友達なんだろ?」
「……どうだろうなぁ。俺はエースの友達になれてたのかも分かんねぇから」
「シルビはいい奴だ! だよなレイリーのおっさん!」
同意を求められたレイリーは、微笑みながらルフィの味方をする。
「そうだな。シルビ君は良い奴だろうさ」
「ほらな! レイリーのおっさんもそう言ってんだろ?」
自信満々に言い切るルフィへレイリーがこっそり笑っていた。一体シルビの何処をとって『良い奴』だと思ったのか。分からないが言い返す言葉も無かった。
それでも『良い奴』だと言われて、勝手ながらに安心した自分も居て。
「……ルフィ君はタラシだなぁ」
「タラシって何だ?」
「海賊王になれるかもしれねぇってことだなぁ。まだ諦めてねぇだろぉ?」
「当たり前だ!」
「じゃあ修行頑張りなさい」
腕を離してもらって今度こそ海へと歩き出す。ハートの船が何処まで行ったのか、そもそも次の目的地を聞き忘れていることに気付いたが、ある程度勘で探して途中までは海王類に乗せてもらうことにした。
「それじゃレイリー、ルフィ君」
「ああ」
「またな!」
振り返って挨拶をすればルフィが手を振る。その顔がシルビの背後で海面へ跳ね上がった海王類を見て驚くのが、子供らしくて少し笑えた。
海王類の背へ飛び乗れば島から一人分の歓声が上がったが、海王類はそれを聞いて止まったりはしない。遠のいていくルスカイナ島を眺めて、その島影さえ水平線に見えなくなった頃、シルビはフードを脱いで目元を拭った。