原作前日常編
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夢主視点
手に銛や農具を持ってこちらを睨みつける男達の視線に、昨日の今日で何があったのかと少し状況を把握出来なかった。
男達の中には昨日の買出しで見た店主の顔もあったから、賞金稼ぎなどではなく町の住民である事は間違いない。ハートの海賊団であることを隠しているつもりは無かったが、こちらから襲撃するようなつもりも無く、どちらも手を出さないことが暗黙の了解になっていたように思えたのに、何が起こってこうも状況が変わったのか。
バンダナへローを起こしに行ってもらい、シルビは男達と対峙するように甲板へと出た。シルビが出てきたことで僅かにどよめいた男達はしかし、勇気を振り絞るようにそれぞれの武器を握り締める。
「何か用でしょうか」
「こ、この島はオレたちが守るんだ!」
それは言うタイミングが違いやしないかと思った。普通海賊船が見えた段階で騒ぎ出し、浜へ着いた段階で身構えるものだろう。ハートの潜水艦が来てからは既に一日以上経っているので、今更身構えられても随分とのんびりとした警戒ですねとしか言い様が無い。
「俺達は糧食の補充にこの島へ立ち寄っただけ。この島へ害を為すのであれば着いて早々そうしているはずです。今更そうして武器を構えられても」
「うううううう煩いっ! 領主様を襲おうとしてることは知ってるんだぞ!」
「領主を襲うって……」
「変われ」
後ろから肩に手を置かれてローがシルビよりも前に出る。やはり徹夜に近い状態なのかローの眼の下は隈が濃くなっていた。町民の視線と意識がローへ向けられたことを確認し、シルビはそろそろと下がって操舵室へ繋がる伝声管へと寄る。
案の定操舵室ではバンダナが待機していた。
「その領主を襲うって情報は誰から得たんだ?」
「海賊風情に言うか!」
「それもそうだな。じゃあ質問を変えよう。どうやって此処を知った?」
「領主様が教えてくださったんだ! お前たちがこの浜辺に停泊してるってな!」
それはおかしい。この浜辺は森の中の道を途中で外れなければ辿り着けない場所へある。森の中の道は別の入江へと繋がっており、最後までシルビ達を尾行でもしない限りそちらの入江へ停泊していると判断する筈だ。
そして尾行されていた気配や監視されている気配は、シルビの知る限りでは青年の素人丸出しなそれしかなかった。
それで潜水艦の位置が分かる訳もない。むしろ青年の証言から推測したとすれば尚更森の奥の入江へと向かう筈だ。
ばれるとしても探し始めるのも遅かったはずで、何故こうも早くこの場所が分かったのだと不思議に思ったところで、鳥の鳴き声がした。
「――船長、潜りましょう」
鳥の鳴き声が聞こえた方角を見やって町民と話していたローへ声を掛ける。振り返ったローに視線を戻せばシルビの思惑を理解したのかしていないのか、不敵な笑みを浮かべると帽子を押さえて船室へ出入り口へと戻ってきた。
もちろん町民は無視である。話を無視されて怒る者とローが何か行動を始めるのではと怯える者の騒ぐ声を背後に、ローが伝声管でバンダナへ指示を出す。
「バンダナ、潜れ!」
『了解』
動き出した潜水艦に町民の騒ぐ声が高まり、シルビとローはそれを無視して船内へと避難した。バルブを閉めて浸水を防ぎ、島から出港すると同時に海底へ沿うように潜っていく。
そうなるともう町民の声どころか鳥の声さえ聞こえやしない。下手な海賊船へ襲われることも無く、ある意味無敵状態だ。時々巨大魚や海王類に襲われかけるがそれはそれで。
ローが何よりも先にバンダナという潜水士を手に入れたことは賞賛に値する。潜水士が居なければ折角の潜水艦も通常より頑丈なだけの船だ。
操舵室へと向かえば深度調整をしたところらしいそのバンダナが振り返った。
「何だったんですかい?」
「分からん。だが町民の話じゃオレ達が領主を襲撃する予定だったらしい」
「普通そういう事は停泊したその日に騒ぐもんじゃ?」
やはり変に思うだろう。いきなり敵意を向けられた事に不審がる二人とは逆に、シルビははめ込み式の窓から遊泳する魚を眺めてから口を開いた。
「売られたんでしょうね」
「売られた?」
「多分あの妹です。原因は俺の態度が気に食わなかったから……だとしたらこの状況は俺のせいですが、それで領主に俺達を売ったのでしょう」
自分の意にそぐわない事があれば、直ぐ排除という考えなのか。それともシルビ達が『海賊』だからいいとでも思ったのか。その辺りは本人でなければ分からない。
ただ恐らくは前者なのだろうとシルビは思う。
『助けて欲しい』と願った。しかしシルビは『助けない』と言った。ならば必要が無い。
彼女は昔から鳥しか友達が居なかった。その鳥たちが話すことが、彼女へとって世界であり全てであり、絶対的な真実だったのかもしれない。そしてその鳥達の言葉が分かる自分もまた、『絶対的』だと思ってしまったのか。
自分の言う事は間違っていない。だから自分の言うことは叶えられるべき。それが当然。
叶わないのであれば排除する。
「……だから父親も排除したってのか」
「気付いて?」
「事故で死んだと言っていたが、アイツが話していた通りならそんな事故は起こらない筈だ。実際に起きたから町民や保証金を持ってきた領主は信じざるを得なかったんだろうがな、普通『巣を壊したら鳥に襲われて転落死』なんて無理がある」
「母親の方もおかしかったね。病気で死んだとは言ってたけど、鳥の羽根を吐き出す病気なんて聞いたことがないよ」
「オレ達のことも妹から聞いたって言ってたな」
ローとバンダナが青年から聞いていたのは、『妹は何故か家から出ても居ないのに外の世界を知ることが出来る』という話だった。青年は妹が『鳥の声を理解出来る』とは知らない。
妹だって兄には話していないと言っていた。
「彼女、鳥と話が出来るらしいですよ」
「鳥と話?」
「何かの能力者か?」
「いえ、悪魔の実の能力者である可能性は無さそうでした。家から出た事が無いのに海の向こうの話を知っていたのは、鳥の話を聞いたからだと俺は聞きました」
「妄想……って事はないのか。本当に見ていない筈の事を知ってたんだし。でもそんなのが本当にありえるのかい?」
「時々そういうのはいるんですよ。遺伝なのかそれこそ奇跡なのかは分かりませんけど、病気のように医者にも、実験のように科学者にも解明出来ない何かを持って生まれる存在は。もしかしたら俺達だって今後人語を喋るクマとかに出会ったりするかもしれねぇ。世界は広いんですから」
鳥と話すことが人として良いことかどうかはまた別だが。シルビだって過去に蛇と話せる魔法使いと会っている。
「だがそれが真実なら幾つかは説明が付くな。あの妹、話してもいねェのに自分の兄貴がオレを襲ったことを知ってただろ。それに船の場所も、鳥が報せたのなら簡単に見つかるな」
先程聞こえた鳥の声を思い出してシルビは頷く。
青年が襲ってきた時、シルビ達が歩いていた森にはフクロウがいた。上空から見れば船の場所なんて殆ど丸見え状態だ。
残る問題は、このままやられっぱなしでいいのか、である。
シルビが断ったのが原因とは言え、コチラの意思も都合も関係無しにただ自分の願いを求め、それが拒否されれば用無しだとばかりに排除。
『海賊』たる者、そんな扱いを受けて怒らずにいられようか。
「何もしてねえのに期待されたのなら、その期待に応えるべきだよな?」
「そうですねぇ。期待されたら応えなくちゃ可哀想ってモンでしょう」
「たった一人の小娘にしてやられるってのも、『死の外科医』の名が泣きますよ」
本来なら今日一日はまだのんびり出来るはずだった。そんな思惑もあって、このまま逃げるという選択肢だけは無い。
「作戦立てろ『副船長』。どうせなら不幸のどん底へ落とすようなヤツだ」
「了解、船長」
ローの『船長命令』に、シルビはニヤリと笑って答えた。
手に銛や農具を持ってこちらを睨みつける男達の視線に、昨日の今日で何があったのかと少し状況を把握出来なかった。
男達の中には昨日の買出しで見た店主の顔もあったから、賞金稼ぎなどではなく町の住民である事は間違いない。ハートの海賊団であることを隠しているつもりは無かったが、こちらから襲撃するようなつもりも無く、どちらも手を出さないことが暗黙の了解になっていたように思えたのに、何が起こってこうも状況が変わったのか。
バンダナへローを起こしに行ってもらい、シルビは男達と対峙するように甲板へと出た。シルビが出てきたことで僅かにどよめいた男達はしかし、勇気を振り絞るようにそれぞれの武器を握り締める。
「何か用でしょうか」
「こ、この島はオレたちが守るんだ!」
それは言うタイミングが違いやしないかと思った。普通海賊船が見えた段階で騒ぎ出し、浜へ着いた段階で身構えるものだろう。ハートの潜水艦が来てからは既に一日以上経っているので、今更身構えられても随分とのんびりとした警戒ですねとしか言い様が無い。
「俺達は糧食の補充にこの島へ立ち寄っただけ。この島へ害を為すのであれば着いて早々そうしているはずです。今更そうして武器を構えられても」
「うううううう煩いっ! 領主様を襲おうとしてることは知ってるんだぞ!」
「領主を襲うって……」
「変われ」
後ろから肩に手を置かれてローがシルビよりも前に出る。やはり徹夜に近い状態なのかローの眼の下は隈が濃くなっていた。町民の視線と意識がローへ向けられたことを確認し、シルビはそろそろと下がって操舵室へ繋がる伝声管へと寄る。
案の定操舵室ではバンダナが待機していた。
「その領主を襲うって情報は誰から得たんだ?」
「海賊風情に言うか!」
「それもそうだな。じゃあ質問を変えよう。どうやって此処を知った?」
「領主様が教えてくださったんだ! お前たちがこの浜辺に停泊してるってな!」
それはおかしい。この浜辺は森の中の道を途中で外れなければ辿り着けない場所へある。森の中の道は別の入江へと繋がっており、最後までシルビ達を尾行でもしない限りそちらの入江へ停泊していると判断する筈だ。
そして尾行されていた気配や監視されている気配は、シルビの知る限りでは青年の素人丸出しなそれしかなかった。
それで潜水艦の位置が分かる訳もない。むしろ青年の証言から推測したとすれば尚更森の奥の入江へと向かう筈だ。
ばれるとしても探し始めるのも遅かったはずで、何故こうも早くこの場所が分かったのだと不思議に思ったところで、鳥の鳴き声がした。
「――船長、潜りましょう」
鳥の鳴き声が聞こえた方角を見やって町民と話していたローへ声を掛ける。振り返ったローに視線を戻せばシルビの思惑を理解したのかしていないのか、不敵な笑みを浮かべると帽子を押さえて船室へ出入り口へと戻ってきた。
もちろん町民は無視である。話を無視されて怒る者とローが何か行動を始めるのではと怯える者の騒ぐ声を背後に、ローが伝声管でバンダナへ指示を出す。
「バンダナ、潜れ!」
『了解』
動き出した潜水艦に町民の騒ぐ声が高まり、シルビとローはそれを無視して船内へと避難した。バルブを閉めて浸水を防ぎ、島から出港すると同時に海底へ沿うように潜っていく。
そうなるともう町民の声どころか鳥の声さえ聞こえやしない。下手な海賊船へ襲われることも無く、ある意味無敵状態だ。時々巨大魚や海王類に襲われかけるがそれはそれで。
ローが何よりも先にバンダナという潜水士を手に入れたことは賞賛に値する。潜水士が居なければ折角の潜水艦も通常より頑丈なだけの船だ。
操舵室へと向かえば深度調整をしたところらしいそのバンダナが振り返った。
「何だったんですかい?」
「分からん。だが町民の話じゃオレ達が領主を襲撃する予定だったらしい」
「普通そういう事は停泊したその日に騒ぐもんじゃ?」
やはり変に思うだろう。いきなり敵意を向けられた事に不審がる二人とは逆に、シルビははめ込み式の窓から遊泳する魚を眺めてから口を開いた。
「売られたんでしょうね」
「売られた?」
「多分あの妹です。原因は俺の態度が気に食わなかったから……だとしたらこの状況は俺のせいですが、それで領主に俺達を売ったのでしょう」
自分の意にそぐわない事があれば、直ぐ排除という考えなのか。それともシルビ達が『海賊』だからいいとでも思ったのか。その辺りは本人でなければ分からない。
ただ恐らくは前者なのだろうとシルビは思う。
『助けて欲しい』と願った。しかしシルビは『助けない』と言った。ならば必要が無い。
彼女は昔から鳥しか友達が居なかった。その鳥たちが話すことが、彼女へとって世界であり全てであり、絶対的な真実だったのかもしれない。そしてその鳥達の言葉が分かる自分もまた、『絶対的』だと思ってしまったのか。
自分の言う事は間違っていない。だから自分の言うことは叶えられるべき。それが当然。
叶わないのであれば排除する。
「……だから父親も排除したってのか」
「気付いて?」
「事故で死んだと言っていたが、アイツが話していた通りならそんな事故は起こらない筈だ。実際に起きたから町民や保証金を持ってきた領主は信じざるを得なかったんだろうがな、普通『巣を壊したら鳥に襲われて転落死』なんて無理がある」
「母親の方もおかしかったね。病気で死んだとは言ってたけど、鳥の羽根を吐き出す病気なんて聞いたことがないよ」
「オレ達のことも妹から聞いたって言ってたな」
ローとバンダナが青年から聞いていたのは、『妹は何故か家から出ても居ないのに外の世界を知ることが出来る』という話だった。青年は妹が『鳥の声を理解出来る』とは知らない。
妹だって兄には話していないと言っていた。
「彼女、鳥と話が出来るらしいですよ」
「鳥と話?」
「何かの能力者か?」
「いえ、悪魔の実の能力者である可能性は無さそうでした。家から出た事が無いのに海の向こうの話を知っていたのは、鳥の話を聞いたからだと俺は聞きました」
「妄想……って事はないのか。本当に見ていない筈の事を知ってたんだし。でもそんなのが本当にありえるのかい?」
「時々そういうのはいるんですよ。遺伝なのかそれこそ奇跡なのかは分かりませんけど、病気のように医者にも、実験のように科学者にも解明出来ない何かを持って生まれる存在は。もしかしたら俺達だって今後人語を喋るクマとかに出会ったりするかもしれねぇ。世界は広いんですから」
鳥と話すことが人として良いことかどうかはまた別だが。シルビだって過去に蛇と話せる魔法使いと会っている。
「だがそれが真実なら幾つかは説明が付くな。あの妹、話してもいねェのに自分の兄貴がオレを襲ったことを知ってただろ。それに船の場所も、鳥が報せたのなら簡単に見つかるな」
先程聞こえた鳥の声を思い出してシルビは頷く。
青年が襲ってきた時、シルビ達が歩いていた森にはフクロウがいた。上空から見れば船の場所なんて殆ど丸見え状態だ。
残る問題は、このままやられっぱなしでいいのか、である。
シルビが断ったのが原因とは言え、コチラの意思も都合も関係無しにただ自分の願いを求め、それが拒否されれば用無しだとばかりに排除。
『海賊』たる者、そんな扱いを受けて怒らずにいられようか。
「何もしてねえのに期待されたのなら、その期待に応えるべきだよな?」
「そうですねぇ。期待されたら応えなくちゃ可哀想ってモンでしょう」
「たった一人の小娘にしてやられるってのも、『死の外科医』の名が泣きますよ」
本来なら今日一日はまだのんびり出来るはずだった。そんな思惑もあって、このまま逃げるという選択肢だけは無い。
「作戦立てろ『副船長』。どうせなら不幸のどん底へ落とすようなヤツだ」
「了解、船長」
ローの『船長命令』に、シルビはニヤリと笑って答えた。