頂上戦争編
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夢主視点
出港準備をしているクルー達に暫く別行動をすることを説明したら、シャチやワカメから盛大な不満を言われたがコレばかりは仕方ないと甘んじて聞いた。それから自室に行ってツナギから私服へ着替え、手早く船を降りている間の荷物を纏める。
一人旅だった頃の鞄を捨てないでおいてよかった。それに必要最低限の荷物だけ詰めて島へ戻ろうとすると船長がタラップの前に立っている。
「船長」
「一ヶ月だからな」
「麦藁少年の様子次第ではもっと早く戻ります」
肩を竦めて船長が船へと上がっていった。その姿が船内へ消えて、船が稼働を始め海中へと沈んでいく。
船が完全に見えなくなるまで見送ってから、荷物と一緒に持っていた外套を羽織った。被っていた防寒帽は第八の炎でハートの船の自室へ放り込み、フードを被って振り返ればレイリーが切り株から立ち上がってシルビの姿を感慨深げに眺めている。
最後に鞄の中から出したランタンを外套のベルト部分へ提げれば、かつての『世界政府の宿敵』である『死告シャイタン』の完成だ。
「よかったのか?」
レイリーの問いにシルビは海を見る。
「随分と昔の話だけど、俺には父と慕った船長と船がいて、二人は俺を『イブリス』と呼んでくれたんだぁ。『シルビ』って名前は多くの人が呼ぶし、生まれて最初に貰ったものだから俺の一番大切にすべきもの。でも『ペンギン』って呼んだのは、トラファルガーなんだぁ」
もう海にはハートの船の面影も見えやしない。とはいえまだそう遠くは行っていないであろう船に、シルビの居場所がある。
「『イブリス』はジャックとサブジェイの元に。『シルビ』は誰の元へも付かねぇ。それなら『ペンギン』はトラファルガー・ローのモノ。俺はそう決めた」
島の奥から音がして二人揃って振り返れば、ジンベエに背負われて麦藁少年が戻ってきた。自暴自棄に暴れていた時の興奮は完全に収まり、泣いた様子はあれど吹っ切れたようではある。
もしくは、前を向くことに気付いたか。
「レイリーのおっさん!? ……と、ダレだ?」
ジンベエに背負われたままレイリーとシルビへ気付き、シルビへ対して首を傾げる。ジンベエも同じくシルビの姿へ訝しげにしていた。
一応麦藁少年とはシャクヤクの店の前で会ったんだけどなぁ、と思いつつ、シルビは自己紹介をする。
「始めまして麦藁少年。俺は世界政府から『死告シャイタン』と呼ばれている。レイリーの友人だぁ」
「しこくぅ……?」
「し、死告じゃと!?」
ジンベエと麦藁少年の反応はまるきり逆だった。これが世代の差かと少し遠い目をしてしまったが、フードへ隠れていて気付かれてはいないだろう。四十年近く名乗っていなかったシルビが悪い。
ただ、ジンベエに関しては『ペンギン』として話してもいるのだから、気付いてもいいのではないだろうか。
「ここに海賊がおりゃあせんかったか?」
「彼らなら先程出航したぜぇ。麦藁少年が目を覚ましたのならヤマは超えたからなぁ。でもあと二週間は安静だぞぉ」
「救われたようだな」
ハートの海賊団のことを告げられ麦藁少年がその姿を捜すように海を見た。見たところでその姿は既に無いが、感謝の言葉くらいは頼まれたら届けてやろうと思う。
その二週間の安静も、シルビならどうにか出来る事は黙秘しておくことにした。彼にはまだ少し時間が必要だ。
話していると島の内地のほうから女帝ハンコックとグロリオーサ達が、おそらくその殆どが麦藁少年の為なのだろうが食事を持って来てくれた。ハンコックの姉妹らしい女性二人がレイリーに気付いて名を呼ぶのに対し、ハンコックだけ麦藁少年が目を覚ました事へ興奮している。
その傍らで、レイリーが来ていたことに驚いていたグロリオーサがやっとシルビが居る事に気付いて振り向き、信じられないとばかりに硬直した。
「グロリオーサ。……久しぶりぃ」
苦笑しつつ再会の挨拶をすればグロリオーサの眼が潤み、跳ねるように駆け寄ってくる。『ペンギン』の姿の時はこんな反応ではなかったというのにと思うが、きっと仕方が無い。
「うぉおおおシャイタンよぉおおおお! 久しいのう! 久しいのう! 何年振り、いや、何十年ぶりじゃ!?」
実のところ数十年どころか朝も会ったので数時間ぶりである。
「四十年かなぁ? ジーベックのとこに居たのを見たのが最後だろぉ」
「ロックスか……」
「なんだシルビ君。グロリオーサとも知り合いだったのか?」
「うん。若い頃の知り合い。まぁ今でもグロリオーサは可愛いなぁ」
「ニャッ、ニャにを言うんじゃ! シャイタンは!」
「懸命に生きている姿は変わらず美しいもんだぜぇ?」
「ふ、フンッ!」
顔を赤くしてそっぽを向いたグロリオーサの視線の先で、ハンコックが麦藁少年に背を向けて悶えるように身を捩じらせていた。ハンコックが麦藁少年を好きなのは知ってはいたが、麦藁少年を前にすると激しいものである。
しかも麦藁少年はそれに気付いていないという哀れ振り。
麦藁少年は勧められた食事を前に躊躇していた。その麦藁少年へ近付いて果物を一つ手に取る。
途端ハンコックが煩く喚いてきたが無視した。手に取った果物を麦藁少年へと差し出す。
「麦藁少年。これは女帝ハンコックが君の為に用意したもので、用意したのは君に生きて欲しいからだぁ。生きて欲しいと思っているのは彼女だけでは無ぇけど、君を生かすのは君自身しかいねぇ。生きると決めたのなら食べなさい」
ハンコックを立てながら説明するとハンコックは黙った。麦藁少年は暫く迷っていたようだが、やがてシルビの手から果物を取ると口へ運んだ。
医療食に比べれば断然に消化に悪そうなものが多かったが、ハンコック達の好意も無碍に出来ずそのまま麦藁少年へ食事をとらせる。船長が知ったら激怒しそうだなと思いつつシルビも少しだけ相伴に預かった後、レイリーが麦藁少年へ会いに来た本題を話した。
それはシルビが麦藁少年へ提案しようと思っていた事でもあったので誰が話してもいいだろうとレイリーへ説明を任せたのだが、少し早まったかも知れない。
曰く、もっと強くなる為に修行しないか。というレイリーの提案はシルビの目的より先に進んでいる。
「誰だよ目的一緒だとか言った奴ぅ……」
「? 何を言っておるんじゃ?」
独り言を呟いたら思いかけずジンベエに聞かれていた。それに笑って誤魔化して、シルビは欄干へ座ったまま追って来る海軍の軍艦へ向けてランタンを差し向ける――振りをして指を鳴らす。直後追ってきていた軍艦の上空から海水が降り掛かり、おそらく乗っていただろう悪魔の実の能力者達と火薬を使い物にならなくした。
今は海軍の軍艦を奪ってマリンフォードの周りを一周しているところだ。全ての踏ん切りを付ける為、世界へ散らばってしまった麦藁の一味へメッセージを伝える為である。
「よくこんな方法思いつくなぁ」
「君がそれを言うのか? 『世界政府の宿敵』」
「俺はこんなに派手じゃねぇ」
否定したつもりがレイリーには肩をすくめられてしまった。
軍艦の欄干は幅があって座りやすいが、如何せん広すぎて困る。飛び降りてレイリーを追いかければ、麦藁少年が伸ばしていた腕を元に戻しているところだった。
「ルフィ君。薬は効いてるかぁ?」
「おう。全然痛くねえ!」
この『儀式』をしている間だけという約束で渡した鎮痛剤は良く効いているようである。
もうすぐ一周し終わるなと追っ手の軍艦を振り返れば、その中の一隻に海軍専属カメラマンが居るのが見えた。
おそらくもう外套姿のシルビは撮影されてしまっているだろう。再び手配書が世間へ配られたとしてもシルビを捕まえることが出来る者がいるとも思えなかったが、配るだけならタダだ。
今後『ペンギン』の手配書が出てしまったら、シルビを捕まえた者は懸賞金の二重取りが出来るのだろうかと疑問に思う。いや、どちらの姿で捕まるかに依るのか。
一周を終えて停泊した船からルフィが花束を持って戦場の舞台だった広場へと歩いていく。シルビが数日前に来た時よりは片付けられているその場所は、しかしそれでも閑散と荒れていた。
ルフィを追おうとする海兵と、シルビ達を捕まえようとする海兵達を広場へ入れないようにせき止めながら、シルビはルフィが鳴らした鐘の音を聞く。
「……二年後、かぁ」
出港準備をしているクルー達に暫く別行動をすることを説明したら、シャチやワカメから盛大な不満を言われたがコレばかりは仕方ないと甘んじて聞いた。それから自室に行ってツナギから私服へ着替え、手早く船を降りている間の荷物を纏める。
一人旅だった頃の鞄を捨てないでおいてよかった。それに必要最低限の荷物だけ詰めて島へ戻ろうとすると船長がタラップの前に立っている。
「船長」
「一ヶ月だからな」
「麦藁少年の様子次第ではもっと早く戻ります」
肩を竦めて船長が船へと上がっていった。その姿が船内へ消えて、船が稼働を始め海中へと沈んでいく。
船が完全に見えなくなるまで見送ってから、荷物と一緒に持っていた外套を羽織った。被っていた防寒帽は第八の炎でハートの船の自室へ放り込み、フードを被って振り返ればレイリーが切り株から立ち上がってシルビの姿を感慨深げに眺めている。
最後に鞄の中から出したランタンを外套のベルト部分へ提げれば、かつての『世界政府の宿敵』である『死告シャイタン』の完成だ。
「よかったのか?」
レイリーの問いにシルビは海を見る。
「随分と昔の話だけど、俺には父と慕った船長と船がいて、二人は俺を『イブリス』と呼んでくれたんだぁ。『シルビ』って名前は多くの人が呼ぶし、生まれて最初に貰ったものだから俺の一番大切にすべきもの。でも『ペンギン』って呼んだのは、トラファルガーなんだぁ」
もう海にはハートの船の面影も見えやしない。とはいえまだそう遠くは行っていないであろう船に、シルビの居場所がある。
「『イブリス』はジャックとサブジェイの元に。『シルビ』は誰の元へも付かねぇ。それなら『ペンギン』はトラファルガー・ローのモノ。俺はそう決めた」
島の奥から音がして二人揃って振り返れば、ジンベエに背負われて麦藁少年が戻ってきた。自暴自棄に暴れていた時の興奮は完全に収まり、泣いた様子はあれど吹っ切れたようではある。
もしくは、前を向くことに気付いたか。
「レイリーのおっさん!? ……と、ダレだ?」
ジンベエに背負われたままレイリーとシルビへ気付き、シルビへ対して首を傾げる。ジンベエも同じくシルビの姿へ訝しげにしていた。
一応麦藁少年とはシャクヤクの店の前で会ったんだけどなぁ、と思いつつ、シルビは自己紹介をする。
「始めまして麦藁少年。俺は世界政府から『死告シャイタン』と呼ばれている。レイリーの友人だぁ」
「しこくぅ……?」
「し、死告じゃと!?」
ジンベエと麦藁少年の反応はまるきり逆だった。これが世代の差かと少し遠い目をしてしまったが、フードへ隠れていて気付かれてはいないだろう。四十年近く名乗っていなかったシルビが悪い。
ただ、ジンベエに関しては『ペンギン』として話してもいるのだから、気付いてもいいのではないだろうか。
「ここに海賊がおりゃあせんかったか?」
「彼らなら先程出航したぜぇ。麦藁少年が目を覚ましたのならヤマは超えたからなぁ。でもあと二週間は安静だぞぉ」
「救われたようだな」
ハートの海賊団のことを告げられ麦藁少年がその姿を捜すように海を見た。見たところでその姿は既に無いが、感謝の言葉くらいは頼まれたら届けてやろうと思う。
その二週間の安静も、シルビならどうにか出来る事は黙秘しておくことにした。彼にはまだ少し時間が必要だ。
話していると島の内地のほうから女帝ハンコックとグロリオーサ達が、おそらくその殆どが麦藁少年の為なのだろうが食事を持って来てくれた。ハンコックの姉妹らしい女性二人がレイリーに気付いて名を呼ぶのに対し、ハンコックだけ麦藁少年が目を覚ました事へ興奮している。
その傍らで、レイリーが来ていたことに驚いていたグロリオーサがやっとシルビが居る事に気付いて振り向き、信じられないとばかりに硬直した。
「グロリオーサ。……久しぶりぃ」
苦笑しつつ再会の挨拶をすればグロリオーサの眼が潤み、跳ねるように駆け寄ってくる。『ペンギン』の姿の時はこんな反応ではなかったというのにと思うが、きっと仕方が無い。
「うぉおおおシャイタンよぉおおおお! 久しいのう! 久しいのう! 何年振り、いや、何十年ぶりじゃ!?」
実のところ数十年どころか朝も会ったので数時間ぶりである。
「四十年かなぁ? ジーベックのとこに居たのを見たのが最後だろぉ」
「ロックスか……」
「なんだシルビ君。グロリオーサとも知り合いだったのか?」
「うん。若い頃の知り合い。まぁ今でもグロリオーサは可愛いなぁ」
「ニャッ、ニャにを言うんじゃ! シャイタンは!」
「懸命に生きている姿は変わらず美しいもんだぜぇ?」
「ふ、フンッ!」
顔を赤くしてそっぽを向いたグロリオーサの視線の先で、ハンコックが麦藁少年に背を向けて悶えるように身を捩じらせていた。ハンコックが麦藁少年を好きなのは知ってはいたが、麦藁少年を前にすると激しいものである。
しかも麦藁少年はそれに気付いていないという哀れ振り。
麦藁少年は勧められた食事を前に躊躇していた。その麦藁少年へ近付いて果物を一つ手に取る。
途端ハンコックが煩く喚いてきたが無視した。手に取った果物を麦藁少年へと差し出す。
「麦藁少年。これは女帝ハンコックが君の為に用意したもので、用意したのは君に生きて欲しいからだぁ。生きて欲しいと思っているのは彼女だけでは無ぇけど、君を生かすのは君自身しかいねぇ。生きると決めたのなら食べなさい」
ハンコックを立てながら説明するとハンコックは黙った。麦藁少年は暫く迷っていたようだが、やがてシルビの手から果物を取ると口へ運んだ。
医療食に比べれば断然に消化に悪そうなものが多かったが、ハンコック達の好意も無碍に出来ずそのまま麦藁少年へ食事をとらせる。船長が知ったら激怒しそうだなと思いつつシルビも少しだけ相伴に預かった後、レイリーが麦藁少年へ会いに来た本題を話した。
それはシルビが麦藁少年へ提案しようと思っていた事でもあったので誰が話してもいいだろうとレイリーへ説明を任せたのだが、少し早まったかも知れない。
曰く、もっと強くなる為に修行しないか。というレイリーの提案はシルビの目的より先に進んでいる。
「誰だよ目的一緒だとか言った奴ぅ……」
「? 何を言っておるんじゃ?」
独り言を呟いたら思いかけずジンベエに聞かれていた。それに笑って誤魔化して、シルビは欄干へ座ったまま追って来る海軍の軍艦へ向けてランタンを差し向ける――振りをして指を鳴らす。直後追ってきていた軍艦の上空から海水が降り掛かり、おそらく乗っていただろう悪魔の実の能力者達と火薬を使い物にならなくした。
今は海軍の軍艦を奪ってマリンフォードの周りを一周しているところだ。全ての踏ん切りを付ける為、世界へ散らばってしまった麦藁の一味へメッセージを伝える為である。
「よくこんな方法思いつくなぁ」
「君がそれを言うのか? 『世界政府の宿敵』」
「俺はこんなに派手じゃねぇ」
否定したつもりがレイリーには肩をすくめられてしまった。
軍艦の欄干は幅があって座りやすいが、如何せん広すぎて困る。飛び降りてレイリーを追いかければ、麦藁少年が伸ばしていた腕を元に戻しているところだった。
「ルフィ君。薬は効いてるかぁ?」
「おう。全然痛くねえ!」
この『儀式』をしている間だけという約束で渡した鎮痛剤は良く効いているようである。
もうすぐ一周し終わるなと追っ手の軍艦を振り返れば、その中の一隻に海軍専属カメラマンが居るのが見えた。
おそらくもう外套姿のシルビは撮影されてしまっているだろう。再び手配書が世間へ配られたとしてもシルビを捕まえることが出来る者がいるとも思えなかったが、配るだけならタダだ。
今後『ペンギン』の手配書が出てしまったら、シルビを捕まえた者は懸賞金の二重取りが出来るのだろうかと疑問に思う。いや、どちらの姿で捕まるかに依るのか。
一周を終えて停泊した船からルフィが花束を持って戦場の舞台だった広場へと歩いていく。シルビが数日前に来た時よりは片付けられているその場所は、しかしそれでも閑散と荒れていた。
ルフィを追おうとする海兵と、シルビ達を捕まえようとする海兵達を広場へ入れないようにせき止めながら、シルビはルフィが鳴らした鐘の音を聞く。
「……二年後、かぁ」