頂上戦争編
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
夢主視点
麦藁少年に用があって来たらしいレイリーは、その麦わら少年が重傷のまま島の奥へ入ってしまったと聞いて、その場所を探すように島の奥地へと視線を向けた。視線を向けこそすれその行動は切り株へ腰を降ろすというもので、どうやら服が乾くまで麦藁少年の元へ向かうつもりは無いらしい。
レイリーとシルビが海へ飛び込んだり話したりしている間に、船の応急的な修理は終ったらしかった。レイリーと一緒になってシルビも服を乾かしていると、船長がクルー達へ出航準備をしろと命じる。
まだ麦藁少年の術後看護の事もあるのに何を言い出すんだと思ったが、それ以前に自分の『少しの間船を降りていいか』という話も、ちゃんと解決していなかったと思い出した。
クルーに指示を出した船長がレイリーとシルビの居る場所へ近付いてくる。
「冥王、麦わら屋はあと二週間は安静が必要だ」
「そうかそうか。それで、シルビ君ももう行くのかね?」
二人の視線がシルビへ向けられた。ワカメが持って来てくれたタオルで口元を意味も無く拭って、シルビは船長を見やる。
「残ろうかと思ってましたけど、レイリーさんが来たのなら居なくてもいいかと」
「私は君が居た方が助かるな。その言い方だとどうも君と私の目的は一緒のようだし」
「でも、船を降りたくも無ぇんです。……我儘なのは分かってるけどぉ」
最後のほうはらしくもなく小声になってしまって思わず俯いた。レイリーは『死告シャイタン』だった頃のシルビを知っているから違和感があるかも知れないが、そんな事は知ったことではない。
いや、『シャイタンらしくないな』とか言われたら困るのだが。
溜息を吐く音が聞こえて顔を上げるが、どちらが溜息を吐いたのかは分からなかった。
「君は、ハートの船が好きなのだね」
膝へ頬杖を突いたレイリーの言葉に何も考えずに頷く。頷いてから船長と目が合って非常に恥ずかしくなった。
何の衒いも無く肯定してしまったと気付いたからだったのだが、それに気付いた理由は船長が目を見開いていたからだ。確かにいきなり自分の船が好きだと言われたら驚くだろう。
「別に恥ずかしがることでもあるまい。シルビ君は私以上の放浪癖があったから、故郷以外にも休める場所があるのはいいことだ」
「……レイリーにとってのシャクヤクのことかぁ?」
「そう返してくるか。まぁそうだな」
「笑顔で肯定されてもしてやった感が無ぇよ」
「お前らどういう関係なんだ?」
思って当然だろう船長の質問にシルビはレイリーを見る。
レイリーが人の悪い笑みを浮かべた。
「そうか君は知らないのか。シルビ君は私のムス……」
「嘘でもそういう事言うんじゃねぇよレイリー! 知り合いぃ! 昔の知り合いですぅ!」
「……ムスメ」
「よりによってそう間違えるかぁ! アンタ俺の性別知ってんだろうがぁああ!」
「そう叫ぶと血圧が上がるぞ」
「上げてんのはお前と船長だろぉおお!? 何俺が悪ぃみてぇになってんだぁ!?」
「で、結局どういう関係が正しいんだ?」
人を叫ばせておきながら冷静に聞いてくる船長に、流石にもう隠しきれないかと覚悟を決める。
世界政府の宿敵。数百年前からの傍観者。
「船長、その、俺は――」
「私の友人だ」
シルビの言葉を遮るようにレイリーが言った。
「そしてロジャーの友人でもあった。それだけのことだが、君は不満かね?」
ニコリと、船長へ向けてそれ以上聞くなという圧力をかけるレイリーに少しだけ申し訳なく思う。きっと今の世間ではまだ『死告シャイタン』の名が無いことを分かっていて、それで察して誤魔化してくれたのだ。
船長は当然だが何か言いだけにレイリーを見返し、それからシルビを見つめる。
「そうなのか」
そうだと言っても正しいし、そうではないと言っても正しくなる問い掛けに、船長は気付いていない。気付く筈がないのだ。彼は何も知らないのだから。
シルビが答えられずにいれば船長が見限ったようなタイミングで溜息を吐いた。とうとう本気で見限られたかと不安になって顔を上げると目の前に手。
「うぷ」
「友人かどうかくらいは答えてやれペンギン。可哀想だろ」
顔面を掴みながらそれを言うか。しかも年上相手に『可哀想だろ』とはなんだと顔を掴む指の間から船長を睨めば、船長が手を放しながら僅かにホッとしたのが分かった。何か心配させるような事をしただろうかと内心首を傾げる。
「さっきも聞いたが、その『ペンギン』というのは?」
「ああ、俺のことぉ。帽子に書いてあるから」
まだ湿っている帽子の唾の上を指差せば、レイリーが呆れたように笑った。
「それで君の名前は『幾つ』になるんだ? そんなにあっては困るだろう」
「全部俺のものだからぁ。――名前は、それがある限りその人にとっての俺が消える訳じゃなくなるものだから、全部大事にしてるつもりぃ?」
「なるほど。では彼は「ペンギン」の名付け親のようなものか」
「そ――、っか」
ストンと何か、胸に使えていたモノが何処かへ落ち着いた気がする。名前がたくさんあるという話に船長が訝しんでいるがそれは無視した。
きっと今までも無意識にそうしてはいたのだろうが、そういう考え方をすればいいのかと、長く生きてきて始めて理解したような、そんな気分だ。
船長を見ればシルビの様子に不思議そうにしている。きっとこの人はこの先もシルビのことを『ペンギン』と呼ぶ。
なら、それでいい。
麦藁少年に用があって来たらしいレイリーは、その麦わら少年が重傷のまま島の奥へ入ってしまったと聞いて、その場所を探すように島の奥地へと視線を向けた。視線を向けこそすれその行動は切り株へ腰を降ろすというもので、どうやら服が乾くまで麦藁少年の元へ向かうつもりは無いらしい。
レイリーとシルビが海へ飛び込んだり話したりしている間に、船の応急的な修理は終ったらしかった。レイリーと一緒になってシルビも服を乾かしていると、船長がクルー達へ出航準備をしろと命じる。
まだ麦藁少年の術後看護の事もあるのに何を言い出すんだと思ったが、それ以前に自分の『少しの間船を降りていいか』という話も、ちゃんと解決していなかったと思い出した。
クルーに指示を出した船長がレイリーとシルビの居る場所へ近付いてくる。
「冥王、麦わら屋はあと二週間は安静が必要だ」
「そうかそうか。それで、シルビ君ももう行くのかね?」
二人の視線がシルビへ向けられた。ワカメが持って来てくれたタオルで口元を意味も無く拭って、シルビは船長を見やる。
「残ろうかと思ってましたけど、レイリーさんが来たのなら居なくてもいいかと」
「私は君が居た方が助かるな。その言い方だとどうも君と私の目的は一緒のようだし」
「でも、船を降りたくも無ぇんです。……我儘なのは分かってるけどぉ」
最後のほうはらしくもなく小声になってしまって思わず俯いた。レイリーは『死告シャイタン』だった頃のシルビを知っているから違和感があるかも知れないが、そんな事は知ったことではない。
いや、『シャイタンらしくないな』とか言われたら困るのだが。
溜息を吐く音が聞こえて顔を上げるが、どちらが溜息を吐いたのかは分からなかった。
「君は、ハートの船が好きなのだね」
膝へ頬杖を突いたレイリーの言葉に何も考えずに頷く。頷いてから船長と目が合って非常に恥ずかしくなった。
何の衒いも無く肯定してしまったと気付いたからだったのだが、それに気付いた理由は船長が目を見開いていたからだ。確かにいきなり自分の船が好きだと言われたら驚くだろう。
「別に恥ずかしがることでもあるまい。シルビ君は私以上の放浪癖があったから、故郷以外にも休める場所があるのはいいことだ」
「……レイリーにとってのシャクヤクのことかぁ?」
「そう返してくるか。まぁそうだな」
「笑顔で肯定されてもしてやった感が無ぇよ」
「お前らどういう関係なんだ?」
思って当然だろう船長の質問にシルビはレイリーを見る。
レイリーが人の悪い笑みを浮かべた。
「そうか君は知らないのか。シルビ君は私のムス……」
「嘘でもそういう事言うんじゃねぇよレイリー! 知り合いぃ! 昔の知り合いですぅ!」
「……ムスメ」
「よりによってそう間違えるかぁ! アンタ俺の性別知ってんだろうがぁああ!」
「そう叫ぶと血圧が上がるぞ」
「上げてんのはお前と船長だろぉおお!? 何俺が悪ぃみてぇになってんだぁ!?」
「で、結局どういう関係が正しいんだ?」
人を叫ばせておきながら冷静に聞いてくる船長に、流石にもう隠しきれないかと覚悟を決める。
世界政府の宿敵。数百年前からの傍観者。
「船長、その、俺は――」
「私の友人だ」
シルビの言葉を遮るようにレイリーが言った。
「そしてロジャーの友人でもあった。それだけのことだが、君は不満かね?」
ニコリと、船長へ向けてそれ以上聞くなという圧力をかけるレイリーに少しだけ申し訳なく思う。きっと今の世間ではまだ『死告シャイタン』の名が無いことを分かっていて、それで察して誤魔化してくれたのだ。
船長は当然だが何か言いだけにレイリーを見返し、それからシルビを見つめる。
「そうなのか」
そうだと言っても正しいし、そうではないと言っても正しくなる問い掛けに、船長は気付いていない。気付く筈がないのだ。彼は何も知らないのだから。
シルビが答えられずにいれば船長が見限ったようなタイミングで溜息を吐いた。とうとう本気で見限られたかと不安になって顔を上げると目の前に手。
「うぷ」
「友人かどうかくらいは答えてやれペンギン。可哀想だろ」
顔面を掴みながらそれを言うか。しかも年上相手に『可哀想だろ』とはなんだと顔を掴む指の間から船長を睨めば、船長が手を放しながら僅かにホッとしたのが分かった。何か心配させるような事をしただろうかと内心首を傾げる。
「さっきも聞いたが、その『ペンギン』というのは?」
「ああ、俺のことぉ。帽子に書いてあるから」
まだ湿っている帽子の唾の上を指差せば、レイリーが呆れたように笑った。
「それで君の名前は『幾つ』になるんだ? そんなにあっては困るだろう」
「全部俺のものだからぁ。――名前は、それがある限りその人にとっての俺が消える訳じゃなくなるものだから、全部大事にしてるつもりぃ?」
「なるほど。では彼は「ペンギン」の名付け親のようなものか」
「そ――、っか」
ストンと何か、胸に使えていたモノが何処かへ落ち着いた気がする。名前がたくさんあるという話に船長が訝しんでいるがそれは無視した。
きっと今までも無意識にそうしてはいたのだろうが、そういう考え方をすればいいのかと、長く生きてきて始めて理解したような、そんな気分だ。
船長を見ればシルビの様子に不思議そうにしている。きっとこの人はこの先もシルビのことを『ペンギン』と呼ぶ。
なら、それでいい。