頂上戦争編
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夢主視点
いつものように青い部屋で青い蝶が飛んでいて、シルビへ背を向けるように置かれた客用の椅子へ座る人物は見えない。
その傍らに膝を突いた、エレベーターボーイの格好をしたテオドアは、その椅子へ座っているだろう人物を覗き込んではおろおろとしていた。シルビに気付いてあからさまに助けがきたと安堵するところは、何度見ても彼の姉達による性格矯正なのだろうなと思う。
「シルビ様」
「相手は俺がするから、俺の分の飲み物お願いしていいかぁ?」
「すぐにお持ちいたします」
一礼して消えたテオドアにテーブルを回り込んで、客用椅子の正面へある本来この部屋の主の席へ座った。向かいの『客』はテオドアが出したスコーンを食べている途中で寝てしまったらしい。食べかけのスコーンが片手に握られたままだ。
それを取り上げようと手を伸ばして彼の手に触れたところで、彼がガバリと顔を上げる。
「……あー、寝てた」
「だろうなぁ。おはよう“エース”」
そばかすの青年は欠伸を噛み殺して皿へ食べかけのスコーンを戻し、それからやっとシルビの言葉が脳へ到達したのか、音がしそうな勢いでシルビを見た。
「お、おま、シルビ!?」
「そうだぜぇエース」
シルビが無理をして笑った事に気付かないまま、エースは朗らかに笑みを浮かべて椅子の背もたれへ寄り掛かる。
「なんかスゲー久しぶりだな! あ、そういやお前『死告シャイタン』なんだってな! オヤジから聞いたぜ」
「白ひげから?」
「そうそう昔オヤジが、ロ、ロジャーと会った時に見たって」
「ああ、俺もその時に白ひげを見たぜぇ。まだ若かったなぁ」
「オヤジは若くてもカッコ良かっただろ?」
「そうだなぁ」
「オレも見てみたかったなぁ。……もっと早く生まれてれば」
テーブルへいつの間にかシルビの分の紅茶とスコーンが置かれていた。
「……もっと、早く生まれてたら、オレは」
「それは俺には分からねぇことだけど、ルージュが君を守ってなかったら、きっと俺は君に出会えなかっただろうなぁ」
「っ……」
俯いたエースの肩が震える。
「生まれてなかったら、君は俺どころか白ひげにも麦藁少年――ルフィ君にも、ガープ君にも会えなかったなぁ」
「――っオレは! オレは……」
「俺は君が好きだった」
エースが瞠目してシルビを見るのに、シルビは言葉を止めない。
「俺は君が好きだった。君と数ヶ月とはいえ一緒に居て、話が出来て、笑顔が見れて、誰かにとっては呆れるくらいのそんな些細な事で、でも君を助けに行きてぇと思うくらいには、君が好きだった」
「シルビ……」
「でも俺は君を助けなかった。……俺を恨んでいい。ガープ君にも言ったんだぁ。麦藁少年、じゃねぇ、ルフィ君にも言おうと思ってる。エースには俺を恨む権利がある」
「……そう言われて、恨めると思うのかよ」
不貞腐れたように言うのに思わずシルビが笑えば、エースは視線を逸らしてスコーンを睨む。本当はそんなモノより肉とかが食べたいだろうに、ここには肉など多分無い。
「……ジジィ、泣いてたか?」
「泣いてたよ」
「ルフィは……泣いてたな」
まだ目を覚ましていない麦藁少年を思い出したがシルビは言わなかった。エースは小さく微笑みながら俯いて、そうして目元に溢れる涙が零れる前に両手で顔を覆う。
堪えるような嗚咽と鼻を啜る音。紅茶へ口を付けて、目元が潤むのはカップから上がる湯気のせいにする。シルビがここで泣くのは違う気がした。
青い蝶が部屋の中を二週もした頃、空になってしまったカップを置いて、シルビはエースを見ないままに話しかける。
「――君が、思い残す事は?」
エースはすぐには答えなかった。反応すらのろのろとしたもので、涙に汚れた顔を上げ、充血した赤い目で真っ直ぐにシルビを見返す。
思い残す事なんて、誰にだって何個もあるだろう。もっと何かを食べたかった、もっと酒を飲みたかった、恋人が欲しかった、家族が欲しかった、旅がしたかった。死にたくなかった。
もっと、生きていたかった。だとか。
「……一つだけ、いいか?」
「いいよ」
エースが泣きすぎてしゃがれた声を発する。
いつものように青い部屋で青い蝶が飛んでいて、シルビへ背を向けるように置かれた客用の椅子へ座る人物は見えない。
その傍らに膝を突いた、エレベーターボーイの格好をしたテオドアは、その椅子へ座っているだろう人物を覗き込んではおろおろとしていた。シルビに気付いてあからさまに助けがきたと安堵するところは、何度見ても彼の姉達による性格矯正なのだろうなと思う。
「シルビ様」
「相手は俺がするから、俺の分の飲み物お願いしていいかぁ?」
「すぐにお持ちいたします」
一礼して消えたテオドアにテーブルを回り込んで、客用椅子の正面へある本来この部屋の主の席へ座った。向かいの『客』はテオドアが出したスコーンを食べている途中で寝てしまったらしい。食べかけのスコーンが片手に握られたままだ。
それを取り上げようと手を伸ばして彼の手に触れたところで、彼がガバリと顔を上げる。
「……あー、寝てた」
「だろうなぁ。おはよう“エース”」
そばかすの青年は欠伸を噛み殺して皿へ食べかけのスコーンを戻し、それからやっとシルビの言葉が脳へ到達したのか、音がしそうな勢いでシルビを見た。
「お、おま、シルビ!?」
「そうだぜぇエース」
シルビが無理をして笑った事に気付かないまま、エースは朗らかに笑みを浮かべて椅子の背もたれへ寄り掛かる。
「なんかスゲー久しぶりだな! あ、そういやお前『死告シャイタン』なんだってな! オヤジから聞いたぜ」
「白ひげから?」
「そうそう昔オヤジが、ロ、ロジャーと会った時に見たって」
「ああ、俺もその時に白ひげを見たぜぇ。まだ若かったなぁ」
「オヤジは若くてもカッコ良かっただろ?」
「そうだなぁ」
「オレも見てみたかったなぁ。……もっと早く生まれてれば」
テーブルへいつの間にかシルビの分の紅茶とスコーンが置かれていた。
「……もっと、早く生まれてたら、オレは」
「それは俺には分からねぇことだけど、ルージュが君を守ってなかったら、きっと俺は君に出会えなかっただろうなぁ」
「っ……」
俯いたエースの肩が震える。
「生まれてなかったら、君は俺どころか白ひげにも麦藁少年――ルフィ君にも、ガープ君にも会えなかったなぁ」
「――っオレは! オレは……」
「俺は君が好きだった」
エースが瞠目してシルビを見るのに、シルビは言葉を止めない。
「俺は君が好きだった。君と数ヶ月とはいえ一緒に居て、話が出来て、笑顔が見れて、誰かにとっては呆れるくらいのそんな些細な事で、でも君を助けに行きてぇと思うくらいには、君が好きだった」
「シルビ……」
「でも俺は君を助けなかった。……俺を恨んでいい。ガープ君にも言ったんだぁ。麦藁少年、じゃねぇ、ルフィ君にも言おうと思ってる。エースには俺を恨む権利がある」
「……そう言われて、恨めると思うのかよ」
不貞腐れたように言うのに思わずシルビが笑えば、エースは視線を逸らしてスコーンを睨む。本当はそんなモノより肉とかが食べたいだろうに、ここには肉など多分無い。
「……ジジィ、泣いてたか?」
「泣いてたよ」
「ルフィは……泣いてたな」
まだ目を覚ましていない麦藁少年を思い出したがシルビは言わなかった。エースは小さく微笑みながら俯いて、そうして目元に溢れる涙が零れる前に両手で顔を覆う。
堪えるような嗚咽と鼻を啜る音。紅茶へ口を付けて、目元が潤むのはカップから上がる湯気のせいにする。シルビがここで泣くのは違う気がした。
青い蝶が部屋の中を二週もした頃、空になってしまったカップを置いて、シルビはエースを見ないままに話しかける。
「――君が、思い残す事は?」
エースはすぐには答えなかった。反応すらのろのろとしたもので、涙に汚れた顔を上げ、充血した赤い目で真っ直ぐにシルビを見返す。
思い残す事なんて、誰にだって何個もあるだろう。もっと何かを食べたかった、もっと酒を飲みたかった、恋人が欲しかった、家族が欲しかった、旅がしたかった。死にたくなかった。
もっと、生きていたかった。だとか。
「……一つだけ、いいか?」
「いいよ」
エースが泣きすぎてしゃがれた声を発する。