頂上戦争編
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
センゴク視点
多くの若者を殺した。多くの悪を排除した。『けれども』、と思ってしまう時点で、きっと自分の『正義』は揺らいでいる。
怪我の治療を終え、壊滅状態と言っても過言ではない海軍本部の建て直しの為にやるべき事は山積みだ。元帥であるセンゴクからして休んでいる暇など無い。
医者は休めと勧めてくるが無視する。歩く廊下の窓からは廃墟も同然の処刑場が見えた。あの地にはまだ多くの遺体が放置されている事だろう。
海賊共はともかく海兵のそれは、自分が殺してしまったも同然だ。白ひげは倒したし海賊王の息子も死んでその血は絶えた。
だというのに。
「白ひげとエースの墓参りに行ってきたよ」
不意に聞こえた声にハッとして顔を上げると、廊下の先の窓枠に足を組んで座っている黒衣の人影。センゴクが立ち止まると廊下へ降り立つその姿は、雰囲気だけは数十年前に見たものより若く思えたものの、それ以外は全て『同じ』だった。
「何故殺した?」
何の感情も篭っておらず、まるで今日の天気を尋ねてきたような気軽さで、しかし『彼』の紫眼は真っ直ぐにセンゴクを見つめている。
「……海賊王の、息子だったからだ」
搾り出すようにそう答えて、しかしそれは『彼』が望む答えではなかったのだろうと思った。『彼』は小さく息を吐いて窓の外の廃墟を振り返る。
「千年経っても俺を殺せねぇお前達の、それは暴挙というものだと思うぜぇ。犯罪者の子は犯罪者だというのなら、何故天竜人は滅ばねぇ? お前達が掲げる正義の大本はそんなに偉いのかぁ? 正義の定義を君はちゃんと分かっているかぁ?」
「――うるさい! 貴様に何が分かる!」
「何も分からねぇよ。君と俺は違う」
片手に青い火を灯すランタンを提げたまま、『彼』が腕を組んだ。
「でもセンゴク君。英雄と犯罪者は紙一重だろぉ。君が英雄になりたいと言ったところで俺は今の君を英雄だとは思わねぇ。思えねぇ」
先ほどのセンゴクの怒鳴り声を聞きつけてか、海兵達が集まってくる。しかし『彼』はそれすら気にせずただただセンゴクを見つめていた。
大将であるボルサリーノが来ても、サカズキが来ても『彼』は動じない。
「君が英雄になりたくて“そこ”にいる訳じゃない事だけは、分かってるつもりだぁ。でも――」
言葉は『彼』の背後から放たれた光線に遮られて途切れる。その光線を発したであろうボルサリーノは、避けられた事へ僅かに目を見開いていた。
『彼』は困ったように警戒心を露わにする周囲の海兵達を振り返り、組んでいた腕を解いて指を鳴らす。直後海兵達の頭上から全身を濡らすほどの海水が降り注いだ。悪魔の実の能力者達がこぞって脱力するのを確認してから再びセンゴクを見やり、センゴクの背後を見て動きを止める。
「何をしておるんじゃ。『シャイタン』」
「ガープ君」
遅れてやってきたガープの放った名前は、センゴク自身ももう数十年は耳にしていない賞金首の名前だ。ボルサリーノやサカズキは当然知っているだろうが、今の若い海兵でその名前を知る者は殆ど居ないだろう。
それだけ古くて、しかし畏れられている名前だった。
「君の孫が“殺され”たんだぁ。それに俺が来て何が悪ぃ?」
「……そうか。お前はエースの事を知っておったんか?」
「数年前にちょっと話しただけ。君の血の繋がらねぇ孫だとは一応聞いてたけどぉ」
「あやつはお前の事を」
「エースは俺の事を何一つ知らなかった。ロジャーとの関係とか、全部。なぁガープ君。どうしてあの馬鹿の息子ってだけでエースは死ななけりゃならなかったんだぁ? あの子が俺みてぇに世界を揺るがす『何か』をしでかしたかぁ?」
ガープは答えない。
「あの子がしでかしたのは、家族より先に死ぬっていう親不孝だけだろぉ? 祖父を残して義弟を残して、それを『させた』のはお前達海軍で、世界政府だぁ」
「っシャイタン……」
「ごめん。孫を失ったばかりの君には酷い言い方だったなぁ。でもガープ君。俺だって八つ当たりしてぇ時はある
シャイタンが自嘲気味に笑う。
「俺だってあの子を助けられるなら助けたかった。でも俺は保身に走ったよ。その分だけ君は俺を恨んでいい。『死告シャイタン』だなんて名前をお前等から貰っておきながらも、結局俺も矮小だったんだなぁ」
「シャイタン……」
「そんな縋るように名前を呼んじゃ駄目だろぉ? 俺達は敵同士で、敵同士だからこそ憎んでも文句は言わねぇから」
シャイタンは子供へ言い聞かせるように言う。数十年の時を経ても彼はセンゴクやガープを、恨みもしなければ憎みもしない。
それがきっとあの数十年前の初めて会った時の、助けられた時の名残だとしても。
「時間がねぇからもう帰る。海賊も海兵も隔て無く、亡くなった全ての者の冥福を祈ってる」
『彼』がフードを深く被り直し、先程座っていた窓枠へと足を掛ける。びしょ濡れの海兵が慌てて逃がしまいとするが、今まで誰にも捕まらなかった彼がここで捕まるとは思えない。
案の定誰の手も届くことなく彼は窓の外へと“歩き出し”、宙の上で燃え尽きるように姿を消した。残されたセンゴクが膝を突こうと、ガープが涙を零そうとも彼が戻ってくることは無い。
戻ってきて欲しいのかすら、分からなかった。
やがて海軍本部が立て直され、元大将サカズキが新しい海軍元帥に腰を据えるに至った後、世界へ配布された手配書には数十年振りに『死告シャイタン』の物が追加された。
多くの若者を殺した。多くの悪を排除した。『けれども』、と思ってしまう時点で、きっと自分の『正義』は揺らいでいる。
怪我の治療を終え、壊滅状態と言っても過言ではない海軍本部の建て直しの為にやるべき事は山積みだ。元帥であるセンゴクからして休んでいる暇など無い。
医者は休めと勧めてくるが無視する。歩く廊下の窓からは廃墟も同然の処刑場が見えた。あの地にはまだ多くの遺体が放置されている事だろう。
海賊共はともかく海兵のそれは、自分が殺してしまったも同然だ。白ひげは倒したし海賊王の息子も死んでその血は絶えた。
だというのに。
「白ひげとエースの墓参りに行ってきたよ」
不意に聞こえた声にハッとして顔を上げると、廊下の先の窓枠に足を組んで座っている黒衣の人影。センゴクが立ち止まると廊下へ降り立つその姿は、雰囲気だけは数十年前に見たものより若く思えたものの、それ以外は全て『同じ』だった。
「何故殺した?」
何の感情も篭っておらず、まるで今日の天気を尋ねてきたような気軽さで、しかし『彼』の紫眼は真っ直ぐにセンゴクを見つめている。
「……海賊王の、息子だったからだ」
搾り出すようにそう答えて、しかしそれは『彼』が望む答えではなかったのだろうと思った。『彼』は小さく息を吐いて窓の外の廃墟を振り返る。
「千年経っても俺を殺せねぇお前達の、それは暴挙というものだと思うぜぇ。犯罪者の子は犯罪者だというのなら、何故天竜人は滅ばねぇ? お前達が掲げる正義の大本はそんなに偉いのかぁ? 正義の定義を君はちゃんと分かっているかぁ?」
「――うるさい! 貴様に何が分かる!」
「何も分からねぇよ。君と俺は違う」
片手に青い火を灯すランタンを提げたまま、『彼』が腕を組んだ。
「でもセンゴク君。英雄と犯罪者は紙一重だろぉ。君が英雄になりたいと言ったところで俺は今の君を英雄だとは思わねぇ。思えねぇ」
先ほどのセンゴクの怒鳴り声を聞きつけてか、海兵達が集まってくる。しかし『彼』はそれすら気にせずただただセンゴクを見つめていた。
大将であるボルサリーノが来ても、サカズキが来ても『彼』は動じない。
「君が英雄になりたくて“そこ”にいる訳じゃない事だけは、分かってるつもりだぁ。でも――」
言葉は『彼』の背後から放たれた光線に遮られて途切れる。その光線を発したであろうボルサリーノは、避けられた事へ僅かに目を見開いていた。
『彼』は困ったように警戒心を露わにする周囲の海兵達を振り返り、組んでいた腕を解いて指を鳴らす。直後海兵達の頭上から全身を濡らすほどの海水が降り注いだ。悪魔の実の能力者達がこぞって脱力するのを確認してから再びセンゴクを見やり、センゴクの背後を見て動きを止める。
「何をしておるんじゃ。『シャイタン』」
「ガープ君」
遅れてやってきたガープの放った名前は、センゴク自身ももう数十年は耳にしていない賞金首の名前だ。ボルサリーノやサカズキは当然知っているだろうが、今の若い海兵でその名前を知る者は殆ど居ないだろう。
それだけ古くて、しかし畏れられている名前だった。
「君の孫が“殺され”たんだぁ。それに俺が来て何が悪ぃ?」
「……そうか。お前はエースの事を知っておったんか?」
「数年前にちょっと話しただけ。君の血の繋がらねぇ孫だとは一応聞いてたけどぉ」
「あやつはお前の事を」
「エースは俺の事を何一つ知らなかった。ロジャーとの関係とか、全部。なぁガープ君。どうしてあの馬鹿の息子ってだけでエースは死ななけりゃならなかったんだぁ? あの子が俺みてぇに世界を揺るがす『何か』をしでかしたかぁ?」
ガープは答えない。
「あの子がしでかしたのは、家族より先に死ぬっていう親不孝だけだろぉ? 祖父を残して義弟を残して、それを『させた』のはお前達海軍で、世界政府だぁ」
「っシャイタン……」
「ごめん。孫を失ったばかりの君には酷い言い方だったなぁ。でもガープ君。俺だって八つ当たりしてぇ時はある
シャイタンが自嘲気味に笑う。
「俺だってあの子を助けられるなら助けたかった。でも俺は保身に走ったよ。その分だけ君は俺を恨んでいい。『死告シャイタン』だなんて名前をお前等から貰っておきながらも、結局俺も矮小だったんだなぁ」
「シャイタン……」
「そんな縋るように名前を呼んじゃ駄目だろぉ? 俺達は敵同士で、敵同士だからこそ憎んでも文句は言わねぇから」
シャイタンは子供へ言い聞かせるように言う。数十年の時を経ても彼はセンゴクやガープを、恨みもしなければ憎みもしない。
それがきっとあの数十年前の初めて会った時の、助けられた時の名残だとしても。
「時間がねぇからもう帰る。海賊も海兵も隔て無く、亡くなった全ての者の冥福を祈ってる」
『彼』がフードを深く被り直し、先程座っていた窓枠へと足を掛ける。びしょ濡れの海兵が慌てて逃がしまいとするが、今まで誰にも捕まらなかった彼がここで捕まるとは思えない。
案の定誰の手も届くことなく彼は窓の外へと“歩き出し”、宙の上で燃え尽きるように姿を消した。残されたセンゴクが膝を突こうと、ガープが涙を零そうとも彼が戻ってくることは無い。
戻ってきて欲しいのかすら、分からなかった。
やがて海軍本部が立て直され、元大将サカズキが新しい海軍元帥に腰を据えるに至った後、世界へ配布された手配書には数十年振りに『死告シャイタン』の物が追加された。