頂上戦争編
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夢主視点
麦藁少年の怪我は酷いものだった。
船長を筆頭にクルーの医療技術総出でその治療に当たり、不眠不休で行なわれた手術がなんとか無事に終わっても、麦藁少年は余りの疲弊からか目を覚まさない。
疲弊だけでは無いのだろう事には気付いていたが、だからといって何かが出来る訳でも無かった。
多大な集中力を要する手術を終えて、何か考え込んでいるらしい船長に潜水中だけでも、と無理矢理仮眠を取るように懇願したのはまだ数十分前だ。シルビはもう一人の救出者である元七武海であるジンベエの様子を見に行く前に、点滴のストックを取りに戻った自室で私物を入れてあるチェストを見つめた。
使ったばかりだから外套は取り出しやすい位置にある。いつも持ち歩いているランタンも取り出すことは容易いだろう。
だからそれを羽織って戦場へ戻ることは可能だ。しかし戻って『何』が出来るというのか。
「……『死告シャイタン』も意味無ぇなぁ」
点滴のストックを持って廊下へ出れば、戦場を離れたことで気が抜けたのだろうベポ達が潜水中は暑いと騒いでいる。気楽でいいなぁと思いこそすれ、そこへ飛び込もうとは思わない。
船室の一つで寝台へ寝かされていた筈のジンベエは、既に意識だけは取り戻していた。部屋へ入ってきたシルビを軽く睨む様に見やり、それから天井を見つめる。
「……ルフィ君はどうなっておる?」
「意識不明の重体ですが医者が出来る事は全てやりました。あとは本人の気力次第かと」
「……気力、のう」
ジンベエが懸念している事はシルビにも理解できたが、その現場を目撃した訳ではない上に、親しくも無いシルビが何かを言っても仕方が無いだろう。
血の繋がりが無くても、大切な人が目の前で亡くなるのは辛い。その辛さは決して他人には分かりはしないのだから。
「俺達は医者の集団でもあるんですが、こういう時何も出来ねぇのはともても歯がゆいですね」
「いや、おぬし等はルフィ君を助けてくれた」
「俺はエースを助けたかった」
ジンベエの視線がシルビへ向けられる。
「ルージュの息子だとか、あの馬鹿の息子だとか、そういう事じゃなくて、助けてぇと思ってたけど、俺はそれより『ハート』をとったぁ」
「……おぬしは」
「『ハート』というより『保身』を取ったのかも知れねぇ。それはエースがあの馬鹿の息子だとかそんな事よりも傲慢で深い罪だと思う。あまつさえ助けに行く理由を、俺はトラファルガーへ作らせたようなモンだろぉ。……エースは俺を恨んでいい」
愚痴のように吐き出したそれらを、ジンベエは目を丸くして聞いていた。悪い事をしたなと小さく謝ると、彼は戸惑いを浮かべながらシルビを見る。
「おぬしはエース君と知り合いじゃったのか?」
「そう言っていいのか、分かりませんけど」
海面へ上がった船の甲板へ向かった筈のベポの叫び声が聞こえ、仮眠をしに行かせた筈の船長が通路を歩いているのを見かけて捕まえたところだったシルビは、思わず船長と顔を見合わせてから甲板へと向かった。まだ海軍の追っ手が来ていたのだろうかと思ったのだ。
しかし甲板へ飛び出したところで居たのは海軍ではない。いや、ある意味では“海軍側”か。直ぐ横にある船は海軍のものだし、乗っていたのも七武海の一人である『女帝ボア・ハンコック』だった。
追いかけてきたのかと一瞬警戒したが、先に対応していたベポやシャチ達の様子からしてそうでも無いらしいと判断する。口を開けば麦藁少年の安否を尋ねてくる彼女に、シルビの後ろから船長が進み出た。
「やれる事は全部やった。手術の範疇では現状命は繋いでいる。だがあり得ない程のダメージを蓄積している。まだ生きられる保障はない」
海賊では無く医者としての言葉に然もありなんと口を挟んできたのは、ハンコックと同じ船で来たらしい集団で、その代表とも言える顔の大きい男が降りてくるのにシルビは思わず微笑んでしまう。
「イワンコフ?」
「ヴァナタ、麦わらボーイとは友達……アラ、ヴァナタ」
「久しぶりぃ。なんで革命軍のお前さんがここにいるんだぁ?」
そう言ってシルビが軽く防寒帽のツバを上げると、顔が見えてシルビの事を思い出したのかイワンコフが目を見開いた。
「あらマー! マー! 宿敵ボーイ!」
「その呼び方止めてくんねぇ? 今の俺はまだそう呼ばれてねぇだろぉ?」
「おいペンギン、ソイツと知り合いか?」
船長の声に状況を思い出して振り返る。クルー達がイワンコフの見た目やその部下達の格好を見て引いている事に気付いて、慌てて説明した。
「あー、えっと、故郷に居た頃の知り合いなんです」
「故郷?」
「ヴァナタ達何にも知らないッチャブルか? その子は……」
「イワンコフ。黙っててくれぇ」
口では穏やかでも視線は睨むようにして頼めばイワンコフは押し黙った。『宿敵ボーイ』なんて呼び方でシルビの正体がバレるとは思わないが、『死告シャイタン』としての情報は出来るだけ船長達に知られたくない。
騒がしいことに気付いてか船内からジンベエが出てくる。それによって皆の意識がシルビからジンベエに向けられ、シルビは掘り返されるのを恐れてこっそりとイワンコフの視線から外れた場所へ移動した。
イワンコフが革命軍だった頃、もしくはシルビが故郷を出てくる前の話。革命軍とシルビの関係はそのまま革命軍と『死告シャイタン』の関係だと言える。しかし世間が再びシルビを『死告シャイタン』として認識する前に、シルビは船長と出会って『ペンギン』と名乗るようになってしまったから、現在『死告シャイタン』は行方不明だ。
麦藁少年の怪我は酷いものだった。
船長を筆頭にクルーの医療技術総出でその治療に当たり、不眠不休で行なわれた手術がなんとか無事に終わっても、麦藁少年は余りの疲弊からか目を覚まさない。
疲弊だけでは無いのだろう事には気付いていたが、だからといって何かが出来る訳でも無かった。
多大な集中力を要する手術を終えて、何か考え込んでいるらしい船長に潜水中だけでも、と無理矢理仮眠を取るように懇願したのはまだ数十分前だ。シルビはもう一人の救出者である元七武海であるジンベエの様子を見に行く前に、点滴のストックを取りに戻った自室で私物を入れてあるチェストを見つめた。
使ったばかりだから外套は取り出しやすい位置にある。いつも持ち歩いているランタンも取り出すことは容易いだろう。
だからそれを羽織って戦場へ戻ることは可能だ。しかし戻って『何』が出来るというのか。
「……『死告シャイタン』も意味無ぇなぁ」
点滴のストックを持って廊下へ出れば、戦場を離れたことで気が抜けたのだろうベポ達が潜水中は暑いと騒いでいる。気楽でいいなぁと思いこそすれ、そこへ飛び込もうとは思わない。
船室の一つで寝台へ寝かされていた筈のジンベエは、既に意識だけは取り戻していた。部屋へ入ってきたシルビを軽く睨む様に見やり、それから天井を見つめる。
「……ルフィ君はどうなっておる?」
「意識不明の重体ですが医者が出来る事は全てやりました。あとは本人の気力次第かと」
「……気力、のう」
ジンベエが懸念している事はシルビにも理解できたが、その現場を目撃した訳ではない上に、親しくも無いシルビが何かを言っても仕方が無いだろう。
血の繋がりが無くても、大切な人が目の前で亡くなるのは辛い。その辛さは決して他人には分かりはしないのだから。
「俺達は医者の集団でもあるんですが、こういう時何も出来ねぇのはともても歯がゆいですね」
「いや、おぬし等はルフィ君を助けてくれた」
「俺はエースを助けたかった」
ジンベエの視線がシルビへ向けられる。
「ルージュの息子だとか、あの馬鹿の息子だとか、そういう事じゃなくて、助けてぇと思ってたけど、俺はそれより『ハート』をとったぁ」
「……おぬしは」
「『ハート』というより『保身』を取ったのかも知れねぇ。それはエースがあの馬鹿の息子だとかそんな事よりも傲慢で深い罪だと思う。あまつさえ助けに行く理由を、俺はトラファルガーへ作らせたようなモンだろぉ。……エースは俺を恨んでいい」
愚痴のように吐き出したそれらを、ジンベエは目を丸くして聞いていた。悪い事をしたなと小さく謝ると、彼は戸惑いを浮かべながらシルビを見る。
「おぬしはエース君と知り合いじゃったのか?」
「そう言っていいのか、分かりませんけど」
海面へ上がった船の甲板へ向かった筈のベポの叫び声が聞こえ、仮眠をしに行かせた筈の船長が通路を歩いているのを見かけて捕まえたところだったシルビは、思わず船長と顔を見合わせてから甲板へと向かった。まだ海軍の追っ手が来ていたのだろうかと思ったのだ。
しかし甲板へ飛び出したところで居たのは海軍ではない。いや、ある意味では“海軍側”か。直ぐ横にある船は海軍のものだし、乗っていたのも七武海の一人である『女帝ボア・ハンコック』だった。
追いかけてきたのかと一瞬警戒したが、先に対応していたベポやシャチ達の様子からしてそうでも無いらしいと判断する。口を開けば麦藁少年の安否を尋ねてくる彼女に、シルビの後ろから船長が進み出た。
「やれる事は全部やった。手術の範疇では現状命は繋いでいる。だがあり得ない程のダメージを蓄積している。まだ生きられる保障はない」
海賊では無く医者としての言葉に然もありなんと口を挟んできたのは、ハンコックと同じ船で来たらしい集団で、その代表とも言える顔の大きい男が降りてくるのにシルビは思わず微笑んでしまう。
「イワンコフ?」
「ヴァナタ、麦わらボーイとは友達……アラ、ヴァナタ」
「久しぶりぃ。なんで革命軍のお前さんがここにいるんだぁ?」
そう言ってシルビが軽く防寒帽のツバを上げると、顔が見えてシルビの事を思い出したのかイワンコフが目を見開いた。
「あらマー! マー! 宿敵ボーイ!」
「その呼び方止めてくんねぇ? 今の俺はまだそう呼ばれてねぇだろぉ?」
「おいペンギン、ソイツと知り合いか?」
船長の声に状況を思い出して振り返る。クルー達がイワンコフの見た目やその部下達の格好を見て引いている事に気付いて、慌てて説明した。
「あー、えっと、故郷に居た頃の知り合いなんです」
「故郷?」
「ヴァナタ達何にも知らないッチャブルか? その子は……」
「イワンコフ。黙っててくれぇ」
口では穏やかでも視線は睨むようにして頼めばイワンコフは押し黙った。『宿敵ボーイ』なんて呼び方でシルビの正体がバレるとは思わないが、『死告シャイタン』としての情報は出来るだけ船長達に知られたくない。
騒がしいことに気付いてか船内からジンベエが出てくる。それによって皆の意識がシルビからジンベエに向けられ、シルビは掘り返されるのを恐れてこっそりとイワンコフの視線から外れた場所へ移動した。
イワンコフが革命軍だった頃、もしくはシルビが故郷を出てくる前の話。革命軍とシルビの関係はそのまま革命軍と『死告シャイタン』の関係だと言える。しかし世間が再びシルビを『死告シャイタン』として認識する前に、シルビは船長と出会って『ペンギン』と名乗るようになってしまったから、現在『死告シャイタン』は行方不明だ。