原作前日常編
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夢主視点
「医学知識がある奴を集めてるんだ」
夕食を終えてシルビが妹と一緒に片付けをしていると、ローのそんな声が聞こえた。食器を洗う音で聞こえ辛いので、仕方なく『×××』を利用して向こうの会話を把握する。頭痛はこの程度なら痛みも小さいので困りはしない。
「医学知識? それって医者って事か?」
「そうだ」
「医者って金持ちしかなれないんじゃないのか? この町の医者は毎日肉を食えるんだぜ?」
食事の間は最初こそ怯えていたが、酒を貰って警戒心が解けたのか青年の口調も軽かった。話している内容は貧しい生活の弊害が出ているが。
ローとバンダナが医者のなり方などを懇切丁寧に説明している。興味があるのか熱心に聞いている青年の相槌も聞こえていた。
洗った皿を持って隣の妹を見れば、妹もロー達の会話を気にしている。
「……気になるなら行っても構わねぇよ? 皿の置き場所とかは覚えたし」
「あ、いえ……貴方もお医者さんなのですか?」
「俺は医者じゃなくて薬師。薬の調合とかをするんだぁ」
一応手足の接合手術も心臓移植も出来るが。
「動物の診察やお薬も作られるのですか?」
「やれば出来るけど基本は人間だなぁ。……昼間の事が気になる?」
昼間の事というのは来訪の折、小鳥を黙らせたアレだ。シルビにとっては既に当たり前の事だが、動植物へ好かれるのは本来ならあまり出来る事ではない。
妹は受け取った皿を布巾で拭いながら少し考え、それから皿を戸棚へ片付けると内緒話でもするかの様に近付いてきた。シルビより背の低い彼女の為に身体を屈めれば、本当に内緒話のように口元へ手を当てて耳打ちしてくる。
「わたし、鳥の言葉が分かるんです」
向こうではいつの間にか青年の苦労話になっていた。バンダナが少し酔っているのか聞きながら泣いている。
小さい頃から始まって事故で父親が死んだだの、領主の息子に妹が見初められただの、母親が病気で死んだだの。青年も酔っているのか時間軸がおかしい上に両親の死因へ疑問が残る。
皿を洗い終わりお茶を淹れた。この茶葉も夕食の食材もハートの海賊団の貯えからなのだが、いつもより安く済んだのは酒の量が少ないからか。
「……普通はそういう事を言うと、気が狂ったかって言われるから気を付けなさい」
「でも貴方は信じてくれますよね?」
「どうしてそう思う?」
「だって鳥が言ってましたし、わたしがそう思うんですもの」
多少の引っ掛かりを覚えたものの、向こうで喋っているロー達があの様子なら三人ともシルビ達には気付かないだろうと判断して、妹へ説明を促した。
「小さい頃わたしは病弱で、友達も居ませんでした」
病弱だった故に、家から出るどころか家の中を歩き回る事すら難しかった少女の唯一の慰めは、部屋の窓辺へ来る鳥だったという。
その鳥達へ少女は様々な事を教えられた。町の光景。遥か海の向こうの風景。働いている両親や兄の苦労。それらを聞くのが病気で苦しむ少女の生への糧だったという。
鳥と話せる事を両親へ話してみれば、母親は病気で苦しむ娘の妄想だと哀れんだものの、父親は信じてくれた。
「お父さんの血筋はに、時々そういう人が生まれるんだそうです。お父さんのお祖母さんもそういう人だったって」
その祖母が苦労していた事を知っていた父親は、その事を二度と誰かへ喋ってはいけないと忠告し、少女は外の世界のことは全て鳥から聞いて育ち、けれども今まで誰にも言わないようにしていたという。最後の家族である実の兄にも。
そうして年頃になった矢先、その父親が死んだ。
「領主様や皆は事故だったと言いました。けれども鳥たちは『殺したんだ』と言ってました」
父親が死んだ事で領主がお悔やみを言いに家へ来て、少女を息子の嫁にと見初めたという。
それはきっと喜ばしいことだと思った。相手は領主の息子で結婚すればその後は安泰だ。妻の家族として残っている母親と兄も今より安定した暮らしが出来る、そう思った。
しかし小さい頃からの相談相手だった鳥達は、それを反対したらしい。
「あの領主の息子は駄目だと、嫁げば不幸以外の何物もないと、そう言うんです」
理由は聞いたが教えてもらえなかった。女の子が聞くような内容ではないと口々に言って、どうしてもそれだけは言おうとしない。
散々悩んで少女は求婚を断った。母親と兄の今までとこれからの苦労を思えばそれはとても心苦しい事だったし、案の定母親もせっかくの申し出をと怒った。
次の日から母親と兄は仕事を干され、生活は今まで以上に貧しくなった。そうして暫くして母親が一人で出掛け、一晩経ってから帰ってきた日があった。
その日母親は妹へどうして領主の元へ嫁ぐのが嫌なのかと尋ねてきて、少女は素直に答えた。鳥の言葉が分かる事。鳥が駄目だと言った事。全て。母親はそれ以上何も言わなくなった。
そうして母親は病気に倒れ、亡くなった。
「それ以来ずっと兄さんと生きてきました。辛い、貧しい生活。でも、貴方が来て下さったことで少しだけ希望が生まれました」
「希望?」
「鳥たちが言ったんです。『亜種に請いなさい』『助けを求めなさい』……貴方は助けてくれるんですよね」
シルビは自分が墓穴を掘ったのだと舌打ちする。
此処へ来たのは偶然だか、海の上を渡る鳥も居るのであればその鳥から妹への情報が行くだろう。だからシルビが来る事は分かっていたはずだ。この家へまで来る事は青年がローを狙い、ローが青年へ興味を持たなければ無かっただろうが、その方法での来訪が無かったからと言って他の方法での接触が無かったとは思えない。
父親に『誰にも言うな』と言われていたくせに、鳥へ言われてシルビへ話してしまうような子だ。計画性の無い行動力を持っていそうである。
その辺りは兄妹かと思いながらシルビは腕組みをして流し台へ寄り掛かった。
「俺は今『ハートの海賊団の一員』なんだぁ。鳥達が何と言ったか分かんねぇけど、君達を助けられるような余裕は無ぇ」
「でも、鳥たちが」
「病弱だった幼少期も両親が居ねぇ事も同情はしてあげてもいいが、『助けてください』『ハイ助けましょう』って程俺も『お人好し』じゃねぇ。大体、君は助けてくれといいながら明確な助けを求めちゃいねぇ」
押し黙る妹は多分他人との会話に慣れていない。友達が鳥しか居なかったから仕方ないと言われればそれまでだが、全て会話だけで物事が収束してしまう。
そうでなくともこの妹、話を聞いて理解したがシルビの嫌いなタイプだ。
話は終わりだとばかりに寄り掛かっていた流し台から身を離し、シルビは台所を出た。いつの間にかテーブルに突っ伏しているバンダナと、熟睡しているらしい青年の向かいの席で、シルビに気付いて顔を上げるローの姿。眠そうだが酔ってはいない。
「そろそろ帰りましょう。海賊を長居させちゃ悪事の予定がなくとも共謀者だって疑われる」
「そうだな」
「待ってください!」
バンダナを背負おうとしている最中に掛けられた声へ顔を上げれば、至極不満そうな妹の顔。せっかくの美人が台無しになるようなそれに、しかし妹は気にせずシルビを睨んでいる。
「じゃあなんで貴方はここへ来たんですか!」
「船長が君のお兄さんを気に入ったからだぁ」
ローが自分を襲撃した青年を気に入らなければ、シルビは青年を殺していただろうしこのあばら家へ来る事も無かった。あばら家へ来る事がなければ彼女とも話すことは無く、鳥が何て言っていたかは知らないが彼女へ『助け』を求められる事も無かっただろう。
まかり間違っても、彼女の『為』に此処へ来たという事だけは無い。
背負ったバンダナが寝言で何か言うのを皮切りに、ローがシルビを促した。満足したのかと問えばまた明日も来たいとほざく。コレは暫く逗留のパターンだなと思っていれば背後から怒鳴り声が聞こえる。
「嘘吐き! わたしが困ってるのにどうして助けてくれないの!?」
嘘を吐いた覚えは無い。
「医学知識がある奴を集めてるんだ」
夕食を終えてシルビが妹と一緒に片付けをしていると、ローのそんな声が聞こえた。食器を洗う音で聞こえ辛いので、仕方なく『×××』を利用して向こうの会話を把握する。頭痛はこの程度なら痛みも小さいので困りはしない。
「医学知識? それって医者って事か?」
「そうだ」
「医者って金持ちしかなれないんじゃないのか? この町の医者は毎日肉を食えるんだぜ?」
食事の間は最初こそ怯えていたが、酒を貰って警戒心が解けたのか青年の口調も軽かった。話している内容は貧しい生活の弊害が出ているが。
ローとバンダナが医者のなり方などを懇切丁寧に説明している。興味があるのか熱心に聞いている青年の相槌も聞こえていた。
洗った皿を持って隣の妹を見れば、妹もロー達の会話を気にしている。
「……気になるなら行っても構わねぇよ? 皿の置き場所とかは覚えたし」
「あ、いえ……貴方もお医者さんなのですか?」
「俺は医者じゃなくて薬師。薬の調合とかをするんだぁ」
一応手足の接合手術も心臓移植も出来るが。
「動物の診察やお薬も作られるのですか?」
「やれば出来るけど基本は人間だなぁ。……昼間の事が気になる?」
昼間の事というのは来訪の折、小鳥を黙らせたアレだ。シルビにとっては既に当たり前の事だが、動植物へ好かれるのは本来ならあまり出来る事ではない。
妹は受け取った皿を布巾で拭いながら少し考え、それから皿を戸棚へ片付けると内緒話でもするかの様に近付いてきた。シルビより背の低い彼女の為に身体を屈めれば、本当に内緒話のように口元へ手を当てて耳打ちしてくる。
「わたし、鳥の言葉が分かるんです」
向こうではいつの間にか青年の苦労話になっていた。バンダナが少し酔っているのか聞きながら泣いている。
小さい頃から始まって事故で父親が死んだだの、領主の息子に妹が見初められただの、母親が病気で死んだだの。青年も酔っているのか時間軸がおかしい上に両親の死因へ疑問が残る。
皿を洗い終わりお茶を淹れた。この茶葉も夕食の食材もハートの海賊団の貯えからなのだが、いつもより安く済んだのは酒の量が少ないからか。
「……普通はそういう事を言うと、気が狂ったかって言われるから気を付けなさい」
「でも貴方は信じてくれますよね?」
「どうしてそう思う?」
「だって鳥が言ってましたし、わたしがそう思うんですもの」
多少の引っ掛かりを覚えたものの、向こうで喋っているロー達があの様子なら三人ともシルビ達には気付かないだろうと判断して、妹へ説明を促した。
「小さい頃わたしは病弱で、友達も居ませんでした」
病弱だった故に、家から出るどころか家の中を歩き回る事すら難しかった少女の唯一の慰めは、部屋の窓辺へ来る鳥だったという。
その鳥達へ少女は様々な事を教えられた。町の光景。遥か海の向こうの風景。働いている両親や兄の苦労。それらを聞くのが病気で苦しむ少女の生への糧だったという。
鳥と話せる事を両親へ話してみれば、母親は病気で苦しむ娘の妄想だと哀れんだものの、父親は信じてくれた。
「お父さんの血筋はに、時々そういう人が生まれるんだそうです。お父さんのお祖母さんもそういう人だったって」
その祖母が苦労していた事を知っていた父親は、その事を二度と誰かへ喋ってはいけないと忠告し、少女は外の世界のことは全て鳥から聞いて育ち、けれども今まで誰にも言わないようにしていたという。最後の家族である実の兄にも。
そうして年頃になった矢先、その父親が死んだ。
「領主様や皆は事故だったと言いました。けれども鳥たちは『殺したんだ』と言ってました」
父親が死んだ事で領主がお悔やみを言いに家へ来て、少女を息子の嫁にと見初めたという。
それはきっと喜ばしいことだと思った。相手は領主の息子で結婚すればその後は安泰だ。妻の家族として残っている母親と兄も今より安定した暮らしが出来る、そう思った。
しかし小さい頃からの相談相手だった鳥達は、それを反対したらしい。
「あの領主の息子は駄目だと、嫁げば不幸以外の何物もないと、そう言うんです」
理由は聞いたが教えてもらえなかった。女の子が聞くような内容ではないと口々に言って、どうしてもそれだけは言おうとしない。
散々悩んで少女は求婚を断った。母親と兄の今までとこれからの苦労を思えばそれはとても心苦しい事だったし、案の定母親もせっかくの申し出をと怒った。
次の日から母親と兄は仕事を干され、生活は今まで以上に貧しくなった。そうして暫くして母親が一人で出掛け、一晩経ってから帰ってきた日があった。
その日母親は妹へどうして領主の元へ嫁ぐのが嫌なのかと尋ねてきて、少女は素直に答えた。鳥の言葉が分かる事。鳥が駄目だと言った事。全て。母親はそれ以上何も言わなくなった。
そうして母親は病気に倒れ、亡くなった。
「それ以来ずっと兄さんと生きてきました。辛い、貧しい生活。でも、貴方が来て下さったことで少しだけ希望が生まれました」
「希望?」
「鳥たちが言ったんです。『亜種に請いなさい』『助けを求めなさい』……貴方は助けてくれるんですよね」
シルビは自分が墓穴を掘ったのだと舌打ちする。
此処へ来たのは偶然だか、海の上を渡る鳥も居るのであればその鳥から妹への情報が行くだろう。だからシルビが来る事は分かっていたはずだ。この家へまで来る事は青年がローを狙い、ローが青年へ興味を持たなければ無かっただろうが、その方法での来訪が無かったからと言って他の方法での接触が無かったとは思えない。
父親に『誰にも言うな』と言われていたくせに、鳥へ言われてシルビへ話してしまうような子だ。計画性の無い行動力を持っていそうである。
その辺りは兄妹かと思いながらシルビは腕組みをして流し台へ寄り掛かった。
「俺は今『ハートの海賊団の一員』なんだぁ。鳥達が何と言ったか分かんねぇけど、君達を助けられるような余裕は無ぇ」
「でも、鳥たちが」
「病弱だった幼少期も両親が居ねぇ事も同情はしてあげてもいいが、『助けてください』『ハイ助けましょう』って程俺も『お人好し』じゃねぇ。大体、君は助けてくれといいながら明確な助けを求めちゃいねぇ」
押し黙る妹は多分他人との会話に慣れていない。友達が鳥しか居なかったから仕方ないと言われればそれまでだが、全て会話だけで物事が収束してしまう。
そうでなくともこの妹、話を聞いて理解したがシルビの嫌いなタイプだ。
話は終わりだとばかりに寄り掛かっていた流し台から身を離し、シルビは台所を出た。いつの間にかテーブルに突っ伏しているバンダナと、熟睡しているらしい青年の向かいの席で、シルビに気付いて顔を上げるローの姿。眠そうだが酔ってはいない。
「そろそろ帰りましょう。海賊を長居させちゃ悪事の予定がなくとも共謀者だって疑われる」
「そうだな」
「待ってください!」
バンダナを背負おうとしている最中に掛けられた声へ顔を上げれば、至極不満そうな妹の顔。せっかくの美人が台無しになるようなそれに、しかし妹は気にせずシルビを睨んでいる。
「じゃあなんで貴方はここへ来たんですか!」
「船長が君のお兄さんを気に入ったからだぁ」
ローが自分を襲撃した青年を気に入らなければ、シルビは青年を殺していただろうしこのあばら家へ来る事も無かった。あばら家へ来る事がなければ彼女とも話すことは無く、鳥が何て言っていたかは知らないが彼女へ『助け』を求められる事も無かっただろう。
まかり間違っても、彼女の『為』に此処へ来たという事だけは無い。
背負ったバンダナが寝言で何か言うのを皮切りに、ローがシルビを促した。満足したのかと問えばまた明日も来たいとほざく。コレは暫く逗留のパターンだなと思っていれば背後から怒鳴り声が聞こえる。
「嘘吐き! わたしが困ってるのにどうして助けてくれないの!?」
嘘を吐いた覚えは無い。