シャボンディ諸島編
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ジャンバール視点
「いいかジャンバール。ハートで一番偉いのは船長だけど、逆らっちゃいけないのはペンギンだ」
「それ以外は序列も何も無いからあんまり気にしなくていいよ」
奴隷から解放されて勧誘されたハートの海賊団は、海の犯罪集団でありながらアットホームな雰囲気だった。シロクマが居るなどの不思議な事はあるが、奴隷だった頃の理不尽や境遇に比べればそんな事はどうでもいいくらい些細な事だ。
シャボンディ諸島で『麦藁のルフィ』とハートの船長であるトラファルガー・ローのお陰で得た自由は、今のところ海軍大将が出てくるような騒動に巻き込まれたお陰で潜伏せざるを得ない状態だが、ジャンバールを迎えてくれたクルー達は親切で牢屋に押し込められていた事に比べると随分と快適である。
元より口数は少ないが自由に話せること。自由に動かせる身体。何物にも拘束されない首。
ああ、自由だと思う。
「ペンギンは副船長だろう? なのに船長より偉いのか?」
「偉いって訳じゃないけど、怒ると怖い」
「怒るとハリセン出てくるから。船長だってそれで叩くんだぜ。怒らせなければ頼りになる奴だよ」
海底に潜む潜水艦の中で、まずはこの海賊団へ慣れろと最低限の役割以外は自由時間を与えられて、ジャンバールが行なったのはクルー達の名前や性格を覚える事だった。
後輩だからとシロクマのベポがよく面倒を見ようとしてくるし、他のクルーも親切なので名前を覚えるのはそう難しくない。ただ一人だけ忙しいらしくてあまり会話が出来ないクルーが居た。
それがペンギンである。
ハートの仲間としては船長の次に言葉を交わした相手ではあるが、潜水中の船の中ではまだ軽い挨拶以外は会話も出来ていない。副船長であるから他のクルー達に比べて忙しいらしかった。
その割に、更に忙しいだろう船長のトラファルガーがのんびりしているところは見かける。船長としてクルーへ不安を与えないように悠然としているのかと思ったが、クルーに尋ねればそうではないと返ってきた。
「船長はあれで通常運転だぜ?」
「船長の仕事もある程度ペンギンがやってんだよ。だからペンギンが忙しいんだよ」
「何故そんな事を? 船長の仕事だろう?」
「その辺は分からないけど、ペンギンと船長が『それでいい』と思ってるのならいんじゃね? そーいうのはバンダナに聞いたほうがいいよ。バンダナは古参のクルーだから」
ワカメというクルーは簡単に言ってくる。いいのだろうかと思いかけたが、今の自分は何をしても大丈夫なのだと思い出して頷いた。
巨人であるジャンバールでも入れる広さを持つ操舵室には、潜水士でもあるバンダナ。
「おージャンバール。オレの操舵技術でも見に来たかい?」
「いや、それは次の機会にさせてもらおう。……ペンギンについて聞きたいことがあってな」
「ペンちゃんがどうかしたかい?」
「ペンギンは影の船長なのか?」
どうしてそんな発想に至ったのかと、ジャンバールの問い掛けにバンダナは咄嗟に噴き出し笑った。正直に船長の仕事をもこなしているからだと答えれば、バンダナは笑い過ぎて出た涙を拭いながらジャンバールを見る。
「とりあえず、どうしてそんな考えに至ったんだい?」
「クルー達から、ペンギンに逆らうなとか船長の仕事をやっていると聞いたんだ。だが船長の仕事は船長がやるべきだし、船長を差し置いて彼に逆らうなというのも不思議に思ってな」
「ペンちゃんはねえ、『何でも出来る薬師』なんだよ」
「何でも?」
「この船に、船長に勧誘される前は旅の薬師だったんだけど、最初から航海術も戦闘能力も料理の腕もぶっちぎりだったよ。一人旅だったからって言うけどそれだけじゃないんだろうね」
素直に凄いと思えば、それが顔に出たのかバンダナが我が事のように鼻を高くした。
今の航海時代であっても一人旅の大変さは昔と変わらない。大変なものは大変なままだろう。
「だから船に乗る事になった時も、どの役割を頼むかで船長は悩んでたねえ。そんな『何でも出来る薬師さん』がどうしてこの船に乗ったと思う?」
「どうしてだ?」
「半分の理由としては、『あの人がどうしようも無いくらい未熟で見てなくちゃ駄目だと思った』らしいよ」
にやにやと子供を見守るような笑みを浮かべてバンダナは続ける。
「ペンちゃんにとってね、あの人は付き従う相手じゃなくて立てようと思うお人なんだろうさ。その為には船長の悪いところはしっかり注意するし良いところは褒めて伸ばす。オレが思うに船長はペンちゃんにとって子供とまでは言わないけど、そういうモンなんだろうね」
それはトラファルガー・ローが未熟だという事を公言しているようなものなのだがいいのだろうか。ジャンバールから聞いたこととはいえ、彼のクルーになったばかりの者が聞くには不安を覚える話だとも思った。
だが、その当の船長もペンギンもそれを受け入れている。そしてそれをバンダナは知っていて他のクルーも異を唱えない。
ならばハートの海賊団は『そういうモノ』なのだろう。
「全部が全部船長の指示が無けりゃ動けない船ってのは、そりゃきっと『海賊』じゃあないのさ」
「……そうか」
納得して理解をして受け入れた。この船はそういう船なのだ。
バンダナに礼を言って食堂へ戻ればペンギンがシャチ達と話していた。ジャンバールに気付いて微笑む姿は、七武海の姿をした機械を一人で倒しおおせた人物だとは到底思えない。
「やっと上陸の目処が付いたから探してたんだけど、何処へ行ってたんだぁ?」
「操舵室だ。何か用か?」
「ジャンバールのツナギを作るんでサイズを測らせて欲しいんだぁ」
「ペンギンが作るのか?」
「まさかぁ。サイズ測るだけ。作るのに時間が掛かるようだったら船の上で俺がやるけど、まぁ大丈夫そうだしぃ」
「オレのツナギはペンギンが作ってくれたんだよ!」
ベポが嬉しげにオレンジのツナギを自慢し、その頭をペンギンが撫でている。先ほどのバンダナの言葉を何となく思い出した。
「ペンギンは、母親のようだな」
「いいかジャンバール。ハートで一番偉いのは船長だけど、逆らっちゃいけないのはペンギンだ」
「それ以外は序列も何も無いからあんまり気にしなくていいよ」
奴隷から解放されて勧誘されたハートの海賊団は、海の犯罪集団でありながらアットホームな雰囲気だった。シロクマが居るなどの不思議な事はあるが、奴隷だった頃の理不尽や境遇に比べればそんな事はどうでもいいくらい些細な事だ。
シャボンディ諸島で『麦藁のルフィ』とハートの船長であるトラファルガー・ローのお陰で得た自由は、今のところ海軍大将が出てくるような騒動に巻き込まれたお陰で潜伏せざるを得ない状態だが、ジャンバールを迎えてくれたクルー達は親切で牢屋に押し込められていた事に比べると随分と快適である。
元より口数は少ないが自由に話せること。自由に動かせる身体。何物にも拘束されない首。
ああ、自由だと思う。
「ペンギンは副船長だろう? なのに船長より偉いのか?」
「偉いって訳じゃないけど、怒ると怖い」
「怒るとハリセン出てくるから。船長だってそれで叩くんだぜ。怒らせなければ頼りになる奴だよ」
海底に潜む潜水艦の中で、まずはこの海賊団へ慣れろと最低限の役割以外は自由時間を与えられて、ジャンバールが行なったのはクルー達の名前や性格を覚える事だった。
後輩だからとシロクマのベポがよく面倒を見ようとしてくるし、他のクルーも親切なので名前を覚えるのはそう難しくない。ただ一人だけ忙しいらしくてあまり会話が出来ないクルーが居た。
それがペンギンである。
ハートの仲間としては船長の次に言葉を交わした相手ではあるが、潜水中の船の中ではまだ軽い挨拶以外は会話も出来ていない。副船長であるから他のクルー達に比べて忙しいらしかった。
その割に、更に忙しいだろう船長のトラファルガーがのんびりしているところは見かける。船長としてクルーへ不安を与えないように悠然としているのかと思ったが、クルーに尋ねればそうではないと返ってきた。
「船長はあれで通常運転だぜ?」
「船長の仕事もある程度ペンギンがやってんだよ。だからペンギンが忙しいんだよ」
「何故そんな事を? 船長の仕事だろう?」
「その辺は分からないけど、ペンギンと船長が『それでいい』と思ってるのならいんじゃね? そーいうのはバンダナに聞いたほうがいいよ。バンダナは古参のクルーだから」
ワカメというクルーは簡単に言ってくる。いいのだろうかと思いかけたが、今の自分は何をしても大丈夫なのだと思い出して頷いた。
巨人であるジャンバールでも入れる広さを持つ操舵室には、潜水士でもあるバンダナ。
「おージャンバール。オレの操舵技術でも見に来たかい?」
「いや、それは次の機会にさせてもらおう。……ペンギンについて聞きたいことがあってな」
「ペンちゃんがどうかしたかい?」
「ペンギンは影の船長なのか?」
どうしてそんな発想に至ったのかと、ジャンバールの問い掛けにバンダナは咄嗟に噴き出し笑った。正直に船長の仕事をもこなしているからだと答えれば、バンダナは笑い過ぎて出た涙を拭いながらジャンバールを見る。
「とりあえず、どうしてそんな考えに至ったんだい?」
「クルー達から、ペンギンに逆らうなとか船長の仕事をやっていると聞いたんだ。だが船長の仕事は船長がやるべきだし、船長を差し置いて彼に逆らうなというのも不思議に思ってな」
「ペンちゃんはねえ、『何でも出来る薬師』なんだよ」
「何でも?」
「この船に、船長に勧誘される前は旅の薬師だったんだけど、最初から航海術も戦闘能力も料理の腕もぶっちぎりだったよ。一人旅だったからって言うけどそれだけじゃないんだろうね」
素直に凄いと思えば、それが顔に出たのかバンダナが我が事のように鼻を高くした。
今の航海時代であっても一人旅の大変さは昔と変わらない。大変なものは大変なままだろう。
「だから船に乗る事になった時も、どの役割を頼むかで船長は悩んでたねえ。そんな『何でも出来る薬師さん』がどうしてこの船に乗ったと思う?」
「どうしてだ?」
「半分の理由としては、『あの人がどうしようも無いくらい未熟で見てなくちゃ駄目だと思った』らしいよ」
にやにやと子供を見守るような笑みを浮かべてバンダナは続ける。
「ペンちゃんにとってね、あの人は付き従う相手じゃなくて立てようと思うお人なんだろうさ。その為には船長の悪いところはしっかり注意するし良いところは褒めて伸ばす。オレが思うに船長はペンちゃんにとって子供とまでは言わないけど、そういうモンなんだろうね」
それはトラファルガー・ローが未熟だという事を公言しているようなものなのだがいいのだろうか。ジャンバールから聞いたこととはいえ、彼のクルーになったばかりの者が聞くには不安を覚える話だとも思った。
だが、その当の船長もペンギンもそれを受け入れている。そしてそれをバンダナは知っていて他のクルーも異を唱えない。
ならばハートの海賊団は『そういうモノ』なのだろう。
「全部が全部船長の指示が無けりゃ動けない船ってのは、そりゃきっと『海賊』じゃあないのさ」
「……そうか」
納得して理解をして受け入れた。この船はそういう船なのだ。
バンダナに礼を言って食堂へ戻ればペンギンがシャチ達と話していた。ジャンバールに気付いて微笑む姿は、七武海の姿をした機械を一人で倒しおおせた人物だとは到底思えない。
「やっと上陸の目処が付いたから探してたんだけど、何処へ行ってたんだぁ?」
「操舵室だ。何か用か?」
「ジャンバールのツナギを作るんでサイズを測らせて欲しいんだぁ」
「ペンギンが作るのか?」
「まさかぁ。サイズ測るだけ。作るのに時間が掛かるようだったら船の上で俺がやるけど、まぁ大丈夫そうだしぃ」
「オレのツナギはペンギンが作ってくれたんだよ!」
ベポが嬉しげにオレンジのツナギを自慢し、その頭をペンギンが撫でている。先ほどのバンダナの言葉を何となく思い出した。
「ペンギンは、母親のようだな」