シャボンディ諸島編
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夢主視点
シャチとベポが出店で買ってきた物で腹を満たし、そのまま人間オークションの会場へと向かう。二人は一応船長が飽きるまではシャボンディパークで遊べたらしい。
他のクルー達はまだシャボンディパークで遊んでいるか自由散策をしている様である。今のところ変な騒ぎが起こりはしても、問題は起こっていないので気にしない事にした。
「ペンギンは知り合いに会えたの?」
「家はあったけど本人は不在だったんだぁ。一応言伝は頼んできたし、元々あんまり期待してなかったしなぁ」
それにしたって半年も家へ帰らないのは、と思いかけて自分は半年どころか数年は確実に帰っていないことを思い出す。つくづく人の事は言えないらしい。
ヒューマンオークションの行なわれる建物は、奴隷売買だけが目的な為かあまり綺麗だとは言えなかった。それでも『下界の空気は汚いから気密ヘルメットを被る!』なんてことをする天竜人が来るのだから、その線引きが分からない。彼らを護衛する為か、海兵もこっそりと集まっている。
大体にしてシルビは天竜人が好きではなかった。『死告シャイタン』だからと言うだけではなく、生理的に彼らの思想も受け付けない。
彼らの妄信的な選民思想は有り体に言えばシルビが尤も嫌う考え方だ。親友のいたマフィアだって元はその選民思想が嫌だったことによる自警団が発端だし、人が人を見下す理由が分からない。
八百年前からずっと選民思想の塊のような天竜人が、シルビは嫌いだと明言出来た。
「出来るだけ高けぇ場所に逃げるしか出来ねぇ馬鹿どものくせによぉ……」
「何の話?」
「何でも無ぇ」
そうしている間にも次々に客が観客席へ入ってくる。その中には船長と同じく億越えルーキーと評されている一人である『ユースタス・キャプテン・キッド』も居た。よく栄える赤毛だなと思って眺めていれば、また船長が挑発している。
「トラファルガー?」
「……いや、ほら、同じ億越えとして第一印象で負けたら駄目だろ」
声を低くして苗字で呼んだからシルビが本気で怒っている事を悟ったらしい船長が、小声で弁解をしてきた。もしそれがユースタスとか他の客に聞こえていたら、第一印象も何も今まで培われた『残虐冷酷』なイメージまで払拭されてしまう事には気付いているのだろうか。
オークションが始まったので溜息を吐いて黙る事にする。だがさりげなく船長の隣へ座り、お仕置き代わりにわき腹を突いてやった。
「っ……お前、さっきから攻撃が地味だ」
「ハリセンがお好みですか。安心してください。船に帰ったら覚えてろよぉこの馬鹿船長」
「ぺ、ペンギン、お手柔らかに、その……」
「安心しろぉシャチ。お前は何もしてねぇ」
「う、うん……」
人身売買において、シルビは実は今まで遭遇した事が無い。人体実験や人とは少し異なる者を奴隷扱いする環境を見たことがあるが、実際に人へ値段が付けられる様は初めて見る。
それを許容するつもりはないが、自分から関わるつもりも無い。第一に、人に値段を付ける行為はシルビの首へ賞金首が懸けられるのと何処が違うのか分からなかった。
商品の一人だった男が舌を噛んで倒れる。舌を噛むと出血多量で死ぬと思われがちだが、実際は切断されたショックで縮んだ舌が気道を塞ぐ事による窒息死だ。当然死ぬまでは息が出来ずに苦しい思いをする。処置が早ければ一命は取り留めるので自殺の方法としてお勧めは出来ない。
それで、彼は自分の誇りを守れたのだろうか。
引き摺られていく男の周囲を、シルビにしか見えない青い蝶がはためいて消えた。男が残した痕跡が片付けられて、オークションはつつがなく続けられていく。
次に出された“商品”は人魚だった。まだ若い少女であろうその人魚の姿に、客席から歓声や拍手まで上がる。
「……胸糞悪ぃ」
「人魚は嫌いか? それなりの顔だぜ?」
「生憎年上好みです。そうじゃなくて……ほら」
視線で見た先に居た天竜人が、舞台の人魚へ五億の金を懸けた。その値段と声を発したのが天竜人だという事に静まり返る観客席。
睨んだ先で新しい奴隷を手に入れられるとマヌケな顔をしている天竜人を、今すぐこの場でその首を分断出来たらシルビの精神はどんなに楽になるか。
司会者が気を取り直して売買成立の声を発しかけたところで、ふと建物の外から聞こえてくる声にシルビは天井を見上げた。
直後、天井へ穴を開けて飛び込んできた乗り物用に改造された巨大トビウオと、それに乗っていたのであろう麦藁帽子の少年。
「麦藁君?」
「知り合いか?」
「いや、彼とは知り合いじゃねぇんですけど……」
船長に尋ねられても曖昧にしか返せない。彼の家族や知り合いとは知人関係にあるが、彼本人とは数時間前に初めて言葉を交わしたくらいだ。しかもそれだって挨拶の一言だけで。
少年はこの会場で起こっていた事も状況も立場も全てを気にせず、ただ彼の目的だったらしいステージ上の水槽に入れられている人魚へと駆け寄ろうとする。
その麦藁少年を止めたのは、シャクヤクの店ですれ違ったタコの魚人だった。魚人の存在に恐慌へ陥り、騒ぎ出す観客達の悲鳴の中で、銃声が一つ。
「むふふふ。むふーん、むふーん。当たったえ~!魚人を仕留めたえ~!」
「――“シルビ”」
静かに船長へ本名で呼びながら腕を捕まれる。ナイフを抜きながら立ち上がろうとしていた事に気付いて、誰にも気付かれないようにナイフの柄から手を放した。
シャチとベポが出店で買ってきた物で腹を満たし、そのまま人間オークションの会場へと向かう。二人は一応船長が飽きるまではシャボンディパークで遊べたらしい。
他のクルー達はまだシャボンディパークで遊んでいるか自由散策をしている様である。今のところ変な騒ぎが起こりはしても、問題は起こっていないので気にしない事にした。
「ペンギンは知り合いに会えたの?」
「家はあったけど本人は不在だったんだぁ。一応言伝は頼んできたし、元々あんまり期待してなかったしなぁ」
それにしたって半年も家へ帰らないのは、と思いかけて自分は半年どころか数年は確実に帰っていないことを思い出す。つくづく人の事は言えないらしい。
ヒューマンオークションの行なわれる建物は、奴隷売買だけが目的な為かあまり綺麗だとは言えなかった。それでも『下界の空気は汚いから気密ヘルメットを被る!』なんてことをする天竜人が来るのだから、その線引きが分からない。彼らを護衛する為か、海兵もこっそりと集まっている。
大体にしてシルビは天竜人が好きではなかった。『死告シャイタン』だからと言うだけではなく、生理的に彼らの思想も受け付けない。
彼らの妄信的な選民思想は有り体に言えばシルビが尤も嫌う考え方だ。親友のいたマフィアだって元はその選民思想が嫌だったことによる自警団が発端だし、人が人を見下す理由が分からない。
八百年前からずっと選民思想の塊のような天竜人が、シルビは嫌いだと明言出来た。
「出来るだけ高けぇ場所に逃げるしか出来ねぇ馬鹿どものくせによぉ……」
「何の話?」
「何でも無ぇ」
そうしている間にも次々に客が観客席へ入ってくる。その中には船長と同じく億越えルーキーと評されている一人である『ユースタス・キャプテン・キッド』も居た。よく栄える赤毛だなと思って眺めていれば、また船長が挑発している。
「トラファルガー?」
「……いや、ほら、同じ億越えとして第一印象で負けたら駄目だろ」
声を低くして苗字で呼んだからシルビが本気で怒っている事を悟ったらしい船長が、小声で弁解をしてきた。もしそれがユースタスとか他の客に聞こえていたら、第一印象も何も今まで培われた『残虐冷酷』なイメージまで払拭されてしまう事には気付いているのだろうか。
オークションが始まったので溜息を吐いて黙る事にする。だがさりげなく船長の隣へ座り、お仕置き代わりにわき腹を突いてやった。
「っ……お前、さっきから攻撃が地味だ」
「ハリセンがお好みですか。安心してください。船に帰ったら覚えてろよぉこの馬鹿船長」
「ぺ、ペンギン、お手柔らかに、その……」
「安心しろぉシャチ。お前は何もしてねぇ」
「う、うん……」
人身売買において、シルビは実は今まで遭遇した事が無い。人体実験や人とは少し異なる者を奴隷扱いする環境を見たことがあるが、実際に人へ値段が付けられる様は初めて見る。
それを許容するつもりはないが、自分から関わるつもりも無い。第一に、人に値段を付ける行為はシルビの首へ賞金首が懸けられるのと何処が違うのか分からなかった。
商品の一人だった男が舌を噛んで倒れる。舌を噛むと出血多量で死ぬと思われがちだが、実際は切断されたショックで縮んだ舌が気道を塞ぐ事による窒息死だ。当然死ぬまでは息が出来ずに苦しい思いをする。処置が早ければ一命は取り留めるので自殺の方法としてお勧めは出来ない。
それで、彼は自分の誇りを守れたのだろうか。
引き摺られていく男の周囲を、シルビにしか見えない青い蝶がはためいて消えた。男が残した痕跡が片付けられて、オークションはつつがなく続けられていく。
次に出された“商品”は人魚だった。まだ若い少女であろうその人魚の姿に、客席から歓声や拍手まで上がる。
「……胸糞悪ぃ」
「人魚は嫌いか? それなりの顔だぜ?」
「生憎年上好みです。そうじゃなくて……ほら」
視線で見た先に居た天竜人が、舞台の人魚へ五億の金を懸けた。その値段と声を発したのが天竜人だという事に静まり返る観客席。
睨んだ先で新しい奴隷を手に入れられるとマヌケな顔をしている天竜人を、今すぐこの場でその首を分断出来たらシルビの精神はどんなに楽になるか。
司会者が気を取り直して売買成立の声を発しかけたところで、ふと建物の外から聞こえてくる声にシルビは天井を見上げた。
直後、天井へ穴を開けて飛び込んできた乗り物用に改造された巨大トビウオと、それに乗っていたのであろう麦藁帽子の少年。
「麦藁君?」
「知り合いか?」
「いや、彼とは知り合いじゃねぇんですけど……」
船長に尋ねられても曖昧にしか返せない。彼の家族や知り合いとは知人関係にあるが、彼本人とは数時間前に初めて言葉を交わしたくらいだ。しかもそれだって挨拶の一言だけで。
少年はこの会場で起こっていた事も状況も立場も全てを気にせず、ただ彼の目的だったらしいステージ上の水槽に入れられている人魚へと駆け寄ろうとする。
その麦藁少年を止めたのは、シャクヤクの店ですれ違ったタコの魚人だった。魚人の存在に恐慌へ陥り、騒ぎ出す観客達の悲鳴の中で、銃声が一つ。
「むふふふ。むふーん、むふーん。当たったえ~!魚人を仕留めたえ~!」
「――“シルビ”」
静かに船長へ本名で呼びながら腕を捕まれる。ナイフを抜きながら立ち上がろうとしていた事に気付いて、誰にも気付かれないようにナイフの柄から手を放した。