原作前日常編2
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バンダナ視点
「にゃー」
バンダナが煙草を買って帰ってくると、船の近くの積荷置き場でシャチとベポが木箱の隙間を覗き込んで猫の鳴き真似をしていた。
ベポはともかくシャチの奴はフラれた(本人は決して『失恋じゃない!』と主張する)ショックでとうとうおかしくなったのかと冗談半分に思う。買ったばかりの箱の封を切って煙草を咥えながら近付いていけば、シャチともベポとも違うちゃんとした猫の声がした。
「何してんだい?」
「あ、バンダナ。猫がいるんだよ」
「怪我してるみたいでさ、びっこ引きながら入ってって出てこねえの」
しゃがんでいる二人の頭上越しに隙間を見れば確かに猫が居る。野良の割にはつややかな毛並みをした黒猫で、威嚇してくる目の色が少し船長に似ていた。
黒猫はシャチが言う通り前足を少し浮かせて立っている。地面にも少し血が落ちていて、肉球かどこかを怪我して足を突く事も出来ないらしい。
せめて木箱の間から出てきてくれれば捕まえて治療してやる事も出来るだろうが、黒猫に出てくる様子は無かった。手を伸ばせば逆に奥へ奥へと入り込んでしまう始末で、なるほどだからシャチとベポは鳴き真似をして警戒を解こうとしていたのだろう。
試しにバンダナも鳴き真似をしながら指を揺らしてみたが、黒猫は威嚇するだけ。
「ニャー」
「にゃー」
「にゃあ」
「……何してんだぁ?」
聞こえた声に三人揃って振り返れば、買物をしてきた帰りらしいペンギンと船長が不思議そうにこちらを見ていた。ペンギンの手には新しい服か何か作るのかオレンジの布地が入った紙袋が抱えられている。
バンダナが黒猫のことを言おうとした時、件の黒猫が鳴く。その声に気付いた二人も猫が居るのだと理解して寄ってきた。
「黒猫だな」
「怪我してるのかぁ?」
「そうみたい。血が出てんだよ」
「ふうん……ちょっと持ってろぉ」
紙袋をシャチへ渡したペンギンが、しゃがんで黒猫へ向けて手を差し出す。黒猫がその手を見つめて威嚇するのを止めた。
「おいでぇ」
ペンギンのその声に反応して、バンダナ達が呼んでいた時はあれだけ動こうとしなかった黒猫が一歩、また一歩と怪我をしている前足を気にしながら木箱の隙間から出てくる。ベポとシャチが小声で驚くのに、黒猫はペンギンの手へと到達すると人に慣れきった猫のように甘えて擦り寄った。
両手でその身体を抱えたペンギンが、黒猫の前足の怪我を確認する。横から船長が黒猫に触ろうとして威嚇されていた。
「ああコラ、威嚇しねぇの」
「いやいや猫だよ相手。言って分かりはしないでしょ」
だが予想に反して、猫は不服そうながらも船長の伸ばした手に威嚇するのを止める。
「にゃー」
「ねこー。怪我平気?」
「尖った石でも踏んで肉球を切っちゃっただけみてぇだし、自然治癒でも問題は無ぇかなぁ。一応消毒くらいはしてあげるかぁ」
「にゃあ」
「ふーん。よかったねー」
「にー」
「触っても平気かい?」
「ニャー」
「ちょっと嫌がるかも……っていうかさっきから煩せぇんですけど」
「オレにも抱かせろ」
船長が嬉々としてペンギンの抱いている黒猫へ向けて手を差し出す。ペンギンは呆れながらもそっと黒猫を船長へ渡した。が、抱き手が船長に変わった途端黒猫は逃げようと暴れだし、船長の手の甲を引っかいて黒猫が落下する。器用に怪我をしていない三本の足で上手く着地し、黒猫は素早く逃げていった。
逃げていった黒猫に残念がるシャチやベポとは違い、ペンギンだけが船長の手に出来た傷を心配する。
「大丈夫ですか?」
「逃げられた」
「あの子の怪我は平気でしょう。それより船長の傷を消毒……」
「なんでお前には懐くんだ?」
心底羨ましくてならないとばかりにペンギンを見る船長に対し、ペンギンは防寒帽の下で憮然とした表情を作っていた。
船長はベポを拾ってきた前科があるし、普段からモコモコした帽子を被っているしで実は動物が好きなのかもしれない。対してペンギンは特にそんな様子は見られないが、そういえば今までに立ち寄った島でも、よく野良犬や野良猫や野良熊といった野生動物に群がられていた事がある。
「昔からそういう体質なんです。ベポだって初対面でも俺に懐いてたでしょう?」
「うん。ペンギンの傍は安心するよねー」
「そういや前に海王類を呼んでたけど、まさかそれも?」
「そうですね。話しかけたら大体聞いてもらえます」
それはそれで凄い事だと思うのだが、ペンギン本人はそれを特別だとも何とも思っていないらしい。向こうは動物で普通人語を理解するとも思えないのに、ペンギンにとっては話しかけたらそれだけで済む相手のようだった。
「だから逆に、鳴き真似をするとかそういうほうが俺にとっては不思議でならねぇんですけど」
「へー、じゃあニャーとか言ったこと無いの?」
「無ぇ、と思う?」
「言ってみろよ」
「はい?」
ペンギンだけでは無くバンダナ達もその言葉には船長を見てしまう。船長はニヤニヤと面白げにペンギンを見ていて、その思惑が読めてしまったバンダナからすると、怒られても知らないぞと呆れてしまった。
「ペンギン、『にゃー』」
「え、何? 何ですか?」
「普通に喋るだけで言う事聞くなら、鳴き真似したら寄ってくるかもしれねェだろ。ほらニャー」
「いや、それ恥ずか……」
「シャチやベポだって言ってるぜ」
意識して言うとなると誰だって流石に恥ずかしいだろう。
「にゃー」
バンダナが煙草を買って帰ってくると、船の近くの積荷置き場でシャチとベポが木箱の隙間を覗き込んで猫の鳴き真似をしていた。
ベポはともかくシャチの奴はフラれた(本人は決して『失恋じゃない!』と主張する)ショックでとうとうおかしくなったのかと冗談半分に思う。買ったばかりの箱の封を切って煙草を咥えながら近付いていけば、シャチともベポとも違うちゃんとした猫の声がした。
「何してんだい?」
「あ、バンダナ。猫がいるんだよ」
「怪我してるみたいでさ、びっこ引きながら入ってって出てこねえの」
しゃがんでいる二人の頭上越しに隙間を見れば確かに猫が居る。野良の割にはつややかな毛並みをした黒猫で、威嚇してくる目の色が少し船長に似ていた。
黒猫はシャチが言う通り前足を少し浮かせて立っている。地面にも少し血が落ちていて、肉球かどこかを怪我して足を突く事も出来ないらしい。
せめて木箱の間から出てきてくれれば捕まえて治療してやる事も出来るだろうが、黒猫に出てくる様子は無かった。手を伸ばせば逆に奥へ奥へと入り込んでしまう始末で、なるほどだからシャチとベポは鳴き真似をして警戒を解こうとしていたのだろう。
試しにバンダナも鳴き真似をしながら指を揺らしてみたが、黒猫は威嚇するだけ。
「ニャー」
「にゃー」
「にゃあ」
「……何してんだぁ?」
聞こえた声に三人揃って振り返れば、買物をしてきた帰りらしいペンギンと船長が不思議そうにこちらを見ていた。ペンギンの手には新しい服か何か作るのかオレンジの布地が入った紙袋が抱えられている。
バンダナが黒猫のことを言おうとした時、件の黒猫が鳴く。その声に気付いた二人も猫が居るのだと理解して寄ってきた。
「黒猫だな」
「怪我してるのかぁ?」
「そうみたい。血が出てんだよ」
「ふうん……ちょっと持ってろぉ」
紙袋をシャチへ渡したペンギンが、しゃがんで黒猫へ向けて手を差し出す。黒猫がその手を見つめて威嚇するのを止めた。
「おいでぇ」
ペンギンのその声に反応して、バンダナ達が呼んでいた時はあれだけ動こうとしなかった黒猫が一歩、また一歩と怪我をしている前足を気にしながら木箱の隙間から出てくる。ベポとシャチが小声で驚くのに、黒猫はペンギンの手へと到達すると人に慣れきった猫のように甘えて擦り寄った。
両手でその身体を抱えたペンギンが、黒猫の前足の怪我を確認する。横から船長が黒猫に触ろうとして威嚇されていた。
「ああコラ、威嚇しねぇの」
「いやいや猫だよ相手。言って分かりはしないでしょ」
だが予想に反して、猫は不服そうながらも船長の伸ばした手に威嚇するのを止める。
「にゃー」
「ねこー。怪我平気?」
「尖った石でも踏んで肉球を切っちゃっただけみてぇだし、自然治癒でも問題は無ぇかなぁ。一応消毒くらいはしてあげるかぁ」
「にゃあ」
「ふーん。よかったねー」
「にー」
「触っても平気かい?」
「ニャー」
「ちょっと嫌がるかも……っていうかさっきから煩せぇんですけど」
「オレにも抱かせろ」
船長が嬉々としてペンギンの抱いている黒猫へ向けて手を差し出す。ペンギンは呆れながらもそっと黒猫を船長へ渡した。が、抱き手が船長に変わった途端黒猫は逃げようと暴れだし、船長の手の甲を引っかいて黒猫が落下する。器用に怪我をしていない三本の足で上手く着地し、黒猫は素早く逃げていった。
逃げていった黒猫に残念がるシャチやベポとは違い、ペンギンだけが船長の手に出来た傷を心配する。
「大丈夫ですか?」
「逃げられた」
「あの子の怪我は平気でしょう。それより船長の傷を消毒……」
「なんでお前には懐くんだ?」
心底羨ましくてならないとばかりにペンギンを見る船長に対し、ペンギンは防寒帽の下で憮然とした表情を作っていた。
船長はベポを拾ってきた前科があるし、普段からモコモコした帽子を被っているしで実は動物が好きなのかもしれない。対してペンギンは特にそんな様子は見られないが、そういえば今までに立ち寄った島でも、よく野良犬や野良猫や野良熊といった野生動物に群がられていた事がある。
「昔からそういう体質なんです。ベポだって初対面でも俺に懐いてたでしょう?」
「うん。ペンギンの傍は安心するよねー」
「そういや前に海王類を呼んでたけど、まさかそれも?」
「そうですね。話しかけたら大体聞いてもらえます」
それはそれで凄い事だと思うのだが、ペンギン本人はそれを特別だとも何とも思っていないらしい。向こうは動物で普通人語を理解するとも思えないのに、ペンギンにとっては話しかけたらそれだけで済む相手のようだった。
「だから逆に、鳴き真似をするとかそういうほうが俺にとっては不思議でならねぇんですけど」
「へー、じゃあニャーとか言ったこと無いの?」
「無ぇ、と思う?」
「言ってみろよ」
「はい?」
ペンギンだけでは無くバンダナ達もその言葉には船長を見てしまう。船長はニヤニヤと面白げにペンギンを見ていて、その思惑が読めてしまったバンダナからすると、怒られても知らないぞと呆れてしまった。
「ペンギン、『にゃー』」
「え、何? 何ですか?」
「普通に喋るだけで言う事聞くなら、鳴き真似したら寄ってくるかもしれねェだろ。ほらニャー」
「いや、それ恥ずか……」
「シャチやベポだって言ってるぜ」
意識して言うとなると誰だって流石に恥ずかしいだろう。