原作前日常編2
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夢主視点
シルビが船長と一緒に甲板へ出ると、船の直ぐ脇の港で乱闘が既に始まっていた。襲撃してきた集団は昼間換金所で絡んできた集団だ。
船を襲いにきたという事はジョリーロジャーを見てコチラが『死の外科医』率いるハートの海賊団とも分かっているだろうに、実は思っていたより小物ではないのかもしれない。だが実力は案の定無いようで、シルビや船長が動かずとも返り討ちは直ぐに済みそうだった。
それより叫んでシルビを呼んだ筈のレミの姿を捜す。よく連れ攫われる子なのでまた誘拐されたなどという事があったら面倒だ。
そのレミの姿はタラップの近くにあり、一応木の棒で身構えつつ、船の上へ逃げてこようとしている。
レミへ声を掛けようとした瞬間、レミが叫んだ。
「あー! 服泥棒!」
「レミ少女っ……何?」
「人の買った服盗んだ泥棒! おっさんの癖に女物の服盗んでどうするつもり!? あの中には下着も入ってたんだけど! まさか着るつもりだったの!? ねぇ!?」
レミの怒鳴り声に乱闘していたはずのゴロツキやクルー達が、思わずといった様子で動きを止めてしまっていた。小船に乗って樽爆弾を潜水艦へ仕掛けようとしていたらしい男は、レミに指差された上に変態扱いされて固まっている。
「若い女の子の服盗んで着るとか変態だよ! 試着した服だって入ってたし下着だって入ってたのに! 可愛いけど一点物で買い直しした時は無かったのに! そんなもの盗んで喜ぶなんて変態! ヒゲのごついオッサンがスカートとか履いてるの想像するだけでも気持ち悪い! 変態泥棒! 返さなくていいから燃やして捨ててよ! 絶対履いたり嗅いだりしないでよこの変態!」
そこまで叫んだところでやっと、レミが周囲の静寂に気付いて辺りをキョロキョロと不思議そうに見回した。
けれども流石にシルビも何も言えず、隣で船長があまりの言い様に必死で笑いを堪えている。
確かに女物の服を盗んだのはその男なのだろう。しかし別に着る為に盗んだ訳ではない筈だ。
そもそも盗んだ袋が女性服の店のロゴが入ったものだったとしても、服以外が入っていると思って盗む場合だってある。可能性は低いが。
そうでなかったとしても古着として服を売れば金になる。買ったばかりの物なら状態もいいだろうし。
だから決して、着る為に盗んだのでは無い筈だ。多分。
「レミ少女……」
「あっ、人を指差したらダメですよね!」
「ブッ……ふ、腹筋痛てえ……」
船長が笑ってしまうのも仕方が無いが、この空気をどうしてくれよう。
とりあえず爆弾を仕掛けるのは阻止するかと、レミによって変態の称号を与えられた男が乗る小船の船底を撃って穴を開ける。火薬を濡らさないようにと慌てて樽爆弾を持ち上げる男に、隣で笑っている船長を小突く。
「“ROOM”」
笑いを堪えながらも船長の手を中心に薄い膜が広がっていった。横目で視線を向けられ次の瞬間にはタラップの下にいたレミが目の前に移動している。どうやらわざわざ移動させてくれたらしい。
「あれ? ペンギンさん?」
「レミ少女……いや、分かってるつもりなんだけど、君は相変わらず歯に衣を着せねぇというか、自分に正直というかなぁ」
前にもテロリスト相手に正論をぶつけて刺されそうになったというのに、レミはあっけらかんとしている。いっそこの性格がトリップの原因な気がしてきた。
レミがシルビの前に移動した後、船の外では襲撃してきた男達の身体が行き着く間もなくバラバラになっていく。レミの買物袋を盗んだ変態も沈みゆく小船の上でバラバラになっていて、声だけが阿鼻叫喚といった様子で響いていた。
バラバラになってしまっては襲撃どころか逃げる事も出来ない。結果的にゴロツキ達のもくろみは失敗だ。次からはもう少し相手を考えて向かってきて欲しいものである。次があるなら。
後始末をする当番じゃないクルー達が船へ戻ってきてレミに話しかける。シルビはそのレミから少し離れて港のワカメへ声を掛けた。
「全員合体しねぇように山にして放置しとけぇ。んで布でも被せて隠しとこうぜぇ」
「大丈夫なのそれ?」
「一日二日メシを食わなくたって死にはしねぇよ。出航する時にでも見えるようにしときゃいい」
背後でレミ達の会話が聞こえる。
「でもレミちゃんが叫んでくれなかったら、気付けなかったかもね」
「アイツ等船に火薬仕込もうとしてたみたいだし、船が破損してたらやばかったなー」
そんな感想が意識に引っかかって顔をあげ、シルビはレミを振り返った。
レミの『因果』はその言動で『何か』を変える。つまり彼女の言動で常に未来が変わっていくのだ。
『船が破損してたら』、という未来が今、変わってしまったように。
「女の本性垣間見た! みたいな。あ、レミちゃんは別に怖くは無い――んん!?」
クルーの一人が驚く声に、一斉にレミへ視線が集まる。そのレミの身体が、いつも元の世界へ戻る時のように薄くなっていた。
ああ、彼女はこの時の為に来たのかと、シルビはレミへ戻りかけている事を指摘しながら思う。
レミが慌ててシルビを見た。
「ッペンギンさん! シャチは!?」
「シャチならバンダナさんと酒場に宴の予約入れに行ってるけど……」
「皆さん! 船長さんペンギンさん! ここまでありがとうございました!」
頭を下げてお礼を言い、レミが透けている身体でタラップを駆け下りて走り出す。
「え、え!? どういう事!?」
「戻る時間が来たんだろぉ。船長、俺もちょっと行ってきます」
「オレも行く」
帽子を押さえてシルビよりも先に船長がタラップを降りてレミを追いかける。騒然とするクルー達には申し訳ないと思いつつ、説明は後回しにする事にしてシルビも駆け出した。
すぐに追いついた船長よりも前を、段々と薄くなっていくレミが走っている。もう靴なんて無くなってしまっているのに、それでもシャチを捜していた。
夜が近くなって人気のなくなった通りをがむしゃらに走った先で、シャチとバンダナがコチラへ向かって歩いているのを見つける。レミが走りながら手を振って、二人が足を止めた。
切れた息を整えながら顔を上げたレミが、ポケットから『お礼』として買った飴を取り出す。追いついたシルビと船長に、バンダナがどういう事かと視線で訴えてくるが説明は出来なかった。
「はいシャチ。買ったのはペンギンさんのお金だし、リボンぐちゃぐちゃで不恰好だし、割れちゃってヒビ入ってるけど、助けてくれた事とか、慰めてくれた事とか、シュシュのお礼」
「お、……うん」
「アタシ謝ってばかりで、何も出来ない馬鹿だけど、これからも何度もこんな目に合わなくちゃいけなくて、辛いけど……頑張る」
そこまで言ってレミが振り返る。何かを決めたような眼に、何を言おうとしているのか分かったのはシルビだけだ。
「シルビさん、最後に一つ良いですか」
「それを君が言いたいというのなら」
「……シャボンディ諸島で、人間オークションを見に行ってください。原作で貴方達は行ってて、多分アタシが言わなくても問題は無いんでしょうけど、絶対に出会ってあげてほしいから」
これから向かう先の島。ハートの海賊団はレミが知っている『原作』ではそこへ行くのだろう。シャボンディ諸島には当然行くのだが、その島で何所へ行くのかは当然まだ決まっていなかった。
だからコレは、レミのその発言は『原作介入』か『原作補正』か。
「考えておく」
船長の曖昧な返事にレミはそれでも満足そうだった。レミがもう一度シャチへと振り返る。
もうレミの身体は半分以上透けてしまっていて、足の先どころか腹の辺りから下はもう存在していない。
そんな消えていくレミを見て驚くシャチに、レミは笑いかける。
「あのね、助けてくれてありがとう。謝ってばかりでごめんね。でもあと一つ言わせて」
「……なに」
「あのね、アタシ――」
その先は、途切れて最後まで聞こえる事は無かった。
シルビが船長と一緒に甲板へ出ると、船の直ぐ脇の港で乱闘が既に始まっていた。襲撃してきた集団は昼間換金所で絡んできた集団だ。
船を襲いにきたという事はジョリーロジャーを見てコチラが『死の外科医』率いるハートの海賊団とも分かっているだろうに、実は思っていたより小物ではないのかもしれない。だが実力は案の定無いようで、シルビや船長が動かずとも返り討ちは直ぐに済みそうだった。
それより叫んでシルビを呼んだ筈のレミの姿を捜す。よく連れ攫われる子なのでまた誘拐されたなどという事があったら面倒だ。
そのレミの姿はタラップの近くにあり、一応木の棒で身構えつつ、船の上へ逃げてこようとしている。
レミへ声を掛けようとした瞬間、レミが叫んだ。
「あー! 服泥棒!」
「レミ少女っ……何?」
「人の買った服盗んだ泥棒! おっさんの癖に女物の服盗んでどうするつもり!? あの中には下着も入ってたんだけど! まさか着るつもりだったの!? ねぇ!?」
レミの怒鳴り声に乱闘していたはずのゴロツキやクルー達が、思わずといった様子で動きを止めてしまっていた。小船に乗って樽爆弾を潜水艦へ仕掛けようとしていたらしい男は、レミに指差された上に変態扱いされて固まっている。
「若い女の子の服盗んで着るとか変態だよ! 試着した服だって入ってたし下着だって入ってたのに! 可愛いけど一点物で買い直しした時は無かったのに! そんなもの盗んで喜ぶなんて変態! ヒゲのごついオッサンがスカートとか履いてるの想像するだけでも気持ち悪い! 変態泥棒! 返さなくていいから燃やして捨ててよ! 絶対履いたり嗅いだりしないでよこの変態!」
そこまで叫んだところでやっと、レミが周囲の静寂に気付いて辺りをキョロキョロと不思議そうに見回した。
けれども流石にシルビも何も言えず、隣で船長があまりの言い様に必死で笑いを堪えている。
確かに女物の服を盗んだのはその男なのだろう。しかし別に着る為に盗んだ訳ではない筈だ。
そもそも盗んだ袋が女性服の店のロゴが入ったものだったとしても、服以外が入っていると思って盗む場合だってある。可能性は低いが。
そうでなかったとしても古着として服を売れば金になる。買ったばかりの物なら状態もいいだろうし。
だから決して、着る為に盗んだのでは無い筈だ。多分。
「レミ少女……」
「あっ、人を指差したらダメですよね!」
「ブッ……ふ、腹筋痛てえ……」
船長が笑ってしまうのも仕方が無いが、この空気をどうしてくれよう。
とりあえず爆弾を仕掛けるのは阻止するかと、レミによって変態の称号を与えられた男が乗る小船の船底を撃って穴を開ける。火薬を濡らさないようにと慌てて樽爆弾を持ち上げる男に、隣で笑っている船長を小突く。
「“ROOM”」
笑いを堪えながらも船長の手を中心に薄い膜が広がっていった。横目で視線を向けられ次の瞬間にはタラップの下にいたレミが目の前に移動している。どうやらわざわざ移動させてくれたらしい。
「あれ? ペンギンさん?」
「レミ少女……いや、分かってるつもりなんだけど、君は相変わらず歯に衣を着せねぇというか、自分に正直というかなぁ」
前にもテロリスト相手に正論をぶつけて刺されそうになったというのに、レミはあっけらかんとしている。いっそこの性格がトリップの原因な気がしてきた。
レミがシルビの前に移動した後、船の外では襲撃してきた男達の身体が行き着く間もなくバラバラになっていく。レミの買物袋を盗んだ変態も沈みゆく小船の上でバラバラになっていて、声だけが阿鼻叫喚といった様子で響いていた。
バラバラになってしまっては襲撃どころか逃げる事も出来ない。結果的にゴロツキ達のもくろみは失敗だ。次からはもう少し相手を考えて向かってきて欲しいものである。次があるなら。
後始末をする当番じゃないクルー達が船へ戻ってきてレミに話しかける。シルビはそのレミから少し離れて港のワカメへ声を掛けた。
「全員合体しねぇように山にして放置しとけぇ。んで布でも被せて隠しとこうぜぇ」
「大丈夫なのそれ?」
「一日二日メシを食わなくたって死にはしねぇよ。出航する時にでも見えるようにしときゃいい」
背後でレミ達の会話が聞こえる。
「でもレミちゃんが叫んでくれなかったら、気付けなかったかもね」
「アイツ等船に火薬仕込もうとしてたみたいだし、船が破損してたらやばかったなー」
そんな感想が意識に引っかかって顔をあげ、シルビはレミを振り返った。
レミの『因果』はその言動で『何か』を変える。つまり彼女の言動で常に未来が変わっていくのだ。
『船が破損してたら』、という未来が今、変わってしまったように。
「女の本性垣間見た! みたいな。あ、レミちゃんは別に怖くは無い――んん!?」
クルーの一人が驚く声に、一斉にレミへ視線が集まる。そのレミの身体が、いつも元の世界へ戻る時のように薄くなっていた。
ああ、彼女はこの時の為に来たのかと、シルビはレミへ戻りかけている事を指摘しながら思う。
レミが慌ててシルビを見た。
「ッペンギンさん! シャチは!?」
「シャチならバンダナさんと酒場に宴の予約入れに行ってるけど……」
「皆さん! 船長さんペンギンさん! ここまでありがとうございました!」
頭を下げてお礼を言い、レミが透けている身体でタラップを駆け下りて走り出す。
「え、え!? どういう事!?」
「戻る時間が来たんだろぉ。船長、俺もちょっと行ってきます」
「オレも行く」
帽子を押さえてシルビよりも先に船長がタラップを降りてレミを追いかける。騒然とするクルー達には申し訳ないと思いつつ、説明は後回しにする事にしてシルビも駆け出した。
すぐに追いついた船長よりも前を、段々と薄くなっていくレミが走っている。もう靴なんて無くなってしまっているのに、それでもシャチを捜していた。
夜が近くなって人気のなくなった通りをがむしゃらに走った先で、シャチとバンダナがコチラへ向かって歩いているのを見つける。レミが走りながら手を振って、二人が足を止めた。
切れた息を整えながら顔を上げたレミが、ポケットから『お礼』として買った飴を取り出す。追いついたシルビと船長に、バンダナがどういう事かと視線で訴えてくるが説明は出来なかった。
「はいシャチ。買ったのはペンギンさんのお金だし、リボンぐちゃぐちゃで不恰好だし、割れちゃってヒビ入ってるけど、助けてくれた事とか、慰めてくれた事とか、シュシュのお礼」
「お、……うん」
「アタシ謝ってばかりで、何も出来ない馬鹿だけど、これからも何度もこんな目に合わなくちゃいけなくて、辛いけど……頑張る」
そこまで言ってレミが振り返る。何かを決めたような眼に、何を言おうとしているのか分かったのはシルビだけだ。
「シルビさん、最後に一つ良いですか」
「それを君が言いたいというのなら」
「……シャボンディ諸島で、人間オークションを見に行ってください。原作で貴方達は行ってて、多分アタシが言わなくても問題は無いんでしょうけど、絶対に出会ってあげてほしいから」
これから向かう先の島。ハートの海賊団はレミが知っている『原作』ではそこへ行くのだろう。シャボンディ諸島には当然行くのだが、その島で何所へ行くのかは当然まだ決まっていなかった。
だからコレは、レミのその発言は『原作介入』か『原作補正』か。
「考えておく」
船長の曖昧な返事にレミはそれでも満足そうだった。レミがもう一度シャチへと振り返る。
もうレミの身体は半分以上透けてしまっていて、足の先どころか腹の辺りから下はもう存在していない。
そんな消えていくレミを見て驚くシャチに、レミは笑いかける。
「あのね、助けてくれてありがとう。謝ってばかりでごめんね。でもあと一つ言わせて」
「……なに」
「あのね、アタシ――」
その先は、途切れて最後まで聞こえる事は無かった。