原作前日常編
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
夢主視点
次の日になってシルビがバンダナと一緒に町へ買出しに行くと、野菜を買いまとめていたところで、通りを昨日の青年が歩いていることに気付いた。
「バンダナさん」
「ん? ……昨日の子だね」
青年はシルビとバンダナへ気付く様子は無い。昨夜は本当にローしか目に入っていなかったからなのか、シルビが変装も兼ねて防寒帽を脱いで地毛を降ろしているからかは不明だ。しかし後者だとするとシルビと一緒に居るバンダナの姿で気付いてもいいとは思う。
買おうか悩んでいた野菜を手に持ったまま青年を眺めていると、品出しをしていた八百屋の女将がシルビ達の視線に気付いて青年を見た。
「アンタ等、あの子の知り合いかい?」
「いいえ、昨日も見たなと思っただけです」
「あの子は日がな一日ああして仕事を探してんのさ。どこも雇っちゃあげられないからね。毎日子供の小遣い程度しか稼げないんだろうよ」
「雇ってあげられない?」
「あの子には大層美人な妹がいるんだけど、その子が領主様の息子の求婚を断っちまって、怒った領主があの子を雇うなってお達しが出たのさ。少し前に母親も死んじまって、可哀想だとは思うけどねぇ」
「父親はいないのかい?」
「父親は半年前に事故でさぁ、変な事故だったよ。鳥に襲われて死体も見れたモンじゃ無かったって話だし。……おっと、お客さんに嫌な話聞かせちゃったね」
不快にさせただろうからと持っていた野菜をオマケで付けてくれるという女将に礼をいい、その店での買い物を終えてシルビ達は歩き出す。後は酒や個人の嗜好品や、私的なものだ。
青年の姿はいつの間にかなくなっている。バンダナの煙草を買い溜めし、本屋でこの島特有の薬草についてまとめられている本を買い、船へと戻った。
昨夜も通った森の中の道を歩きながら、おもむろにバンダナが口を開く。
「悪政ってヤツだと思うのはオレだけかねえ?」
仕事を奪った領主。そうすることで貧しくなった家へ、『結婚すれば生活を保障してやる』とでも言えば嫁いで来るとでも思ったのか。金さえあれば全てが思い通りだとでも思っている輩のやりそうな行動そのものである。
他には何もしていないのかどうかは、八百屋の女将の話だけでは分からなかった。だが、確実に一つは理不尽な行いがされている。
だからといって、シルビ達には何も出来やしないのだけれど。
船へ戻り、留守番している筈のローへ聞いた話を一応話しておくかと姿を探す。しかし何処を探しても居ない船長に、バンダナが食堂から置手紙を持ってきた。
『昨日の奴を見に行ってくる』
「……留守番も出来ねぇ船長ってどう思います?」
「あの人も自由だからねえ……」
町外れのあばら家の玄関を叩くと軋んだ音を立てて扉が開かれ、美人に分類されるだろう少女が顔を覗かせる。シルビとバンダナを見て不思議そうにする少女の向こうに、他人様の家だというのにのんびり寛いでいる様子のローを見つけた。
「どちら様ですか?」
「失礼。そこの眼の下隈野郎を引き取りに来ました」
シルビの声に気付いて振り返ったローが、バンダナとシルビが来たことに笑みを浮かべかけ、シルビの手にあるハリセンに気付いて顔を引き攣らせている。少女は状況が分かっていないのか首を傾げるばかりだ。
少女一人で留守番をしている家にいい歳した男がお邪魔するのも、下心があろうが無かろうがどうかと思うし、そもそも他人の家でテーブルへ足を乗せて寛ぐなと言いたい。シルビを見てその足をそっと降ろした辺り、一応の常識は持っていたようだが。
「昨日来た海賊の方ですね? 兄さんを足蹴にした」
「……おいトラファルガー。何処まで話したんだぁ?」
「誤解だ。オレは何も話してねェ」
少女の微笑みに邪気は感じられなかった。昨夜の出来事は、当事者である青年は帰ってきて早々寝ていたのをシルビ自身が確認しているので話していない。今日の朝に話した可能性もあるが、足蹴にされ殺されかけたという話を、青年が妹へ話すとも思えなかった。
そうでなくとも青年はそもそも昨夜、ローという賞金首を倒しに行く事すら妹にいっていた様子は無かったのだ。ならばローが言わなければ妹がそれを知れるはずが無い。
少女を見やれば、少女はシルビの様子から言ってはいけなかったのだと気付いた様子で口を押さえた。
近くに小鳥が降り立って鳴く。その声を号令にするかのように、次々に小鳥が降りてきて鳴きだした。少女とシルビの目がその小鳥の群れへと向けられる。統率も無く好き勝手に鳴いている小鳥も、数がいれば騒音にしかならない。
「――静かにしてくれぇ」
シルビが言った途端ピタリと鳴くのを止めた小鳥の群れの視線がシルビへと向けられる。ついでに少女の視線も。
その驚いたような視線にシルビは片目を細めた。
「あなたは……」
「……とりあえず、オレたちもお邪魔して構いませんかねぇ?」
シルビの後ろに立っていたバンダナが、頭を掻きながら少女の言葉を遮った。そういえばずっと玄関先に立っていたのだと思い出す。
慌てて家の中へと招く少女に家へ入ると、小鳥が一斉に飛び立っていった。それを窓越しに眺めてからローを見れば、ローは強がるように笑う。
「……言い訳があるならどうぞ」
「クルーにするのは諦める、が、もう少し話とかはしてもいいだろ」
「そっちじゃねぇよ。なんでアンタ船での留守番が出来ねぇんだって話だよ」
次の日になってシルビがバンダナと一緒に町へ買出しに行くと、野菜を買いまとめていたところで、通りを昨日の青年が歩いていることに気付いた。
「バンダナさん」
「ん? ……昨日の子だね」
青年はシルビとバンダナへ気付く様子は無い。昨夜は本当にローしか目に入っていなかったからなのか、シルビが変装も兼ねて防寒帽を脱いで地毛を降ろしているからかは不明だ。しかし後者だとするとシルビと一緒に居るバンダナの姿で気付いてもいいとは思う。
買おうか悩んでいた野菜を手に持ったまま青年を眺めていると、品出しをしていた八百屋の女将がシルビ達の視線に気付いて青年を見た。
「アンタ等、あの子の知り合いかい?」
「いいえ、昨日も見たなと思っただけです」
「あの子は日がな一日ああして仕事を探してんのさ。どこも雇っちゃあげられないからね。毎日子供の小遣い程度しか稼げないんだろうよ」
「雇ってあげられない?」
「あの子には大層美人な妹がいるんだけど、その子が領主様の息子の求婚を断っちまって、怒った領主があの子を雇うなってお達しが出たのさ。少し前に母親も死んじまって、可哀想だとは思うけどねぇ」
「父親はいないのかい?」
「父親は半年前に事故でさぁ、変な事故だったよ。鳥に襲われて死体も見れたモンじゃ無かったって話だし。……おっと、お客さんに嫌な話聞かせちゃったね」
不快にさせただろうからと持っていた野菜をオマケで付けてくれるという女将に礼をいい、その店での買い物を終えてシルビ達は歩き出す。後は酒や個人の嗜好品や、私的なものだ。
青年の姿はいつの間にかなくなっている。バンダナの煙草を買い溜めし、本屋でこの島特有の薬草についてまとめられている本を買い、船へと戻った。
昨夜も通った森の中の道を歩きながら、おもむろにバンダナが口を開く。
「悪政ってヤツだと思うのはオレだけかねえ?」
仕事を奪った領主。そうすることで貧しくなった家へ、『結婚すれば生活を保障してやる』とでも言えば嫁いで来るとでも思ったのか。金さえあれば全てが思い通りだとでも思っている輩のやりそうな行動そのものである。
他には何もしていないのかどうかは、八百屋の女将の話だけでは分からなかった。だが、確実に一つは理不尽な行いがされている。
だからといって、シルビ達には何も出来やしないのだけれど。
船へ戻り、留守番している筈のローへ聞いた話を一応話しておくかと姿を探す。しかし何処を探しても居ない船長に、バンダナが食堂から置手紙を持ってきた。
『昨日の奴を見に行ってくる』
「……留守番も出来ねぇ船長ってどう思います?」
「あの人も自由だからねえ……」
町外れのあばら家の玄関を叩くと軋んだ音を立てて扉が開かれ、美人に分類されるだろう少女が顔を覗かせる。シルビとバンダナを見て不思議そうにする少女の向こうに、他人様の家だというのにのんびり寛いでいる様子のローを見つけた。
「どちら様ですか?」
「失礼。そこの眼の下隈野郎を引き取りに来ました」
シルビの声に気付いて振り返ったローが、バンダナとシルビが来たことに笑みを浮かべかけ、シルビの手にあるハリセンに気付いて顔を引き攣らせている。少女は状況が分かっていないのか首を傾げるばかりだ。
少女一人で留守番をしている家にいい歳した男がお邪魔するのも、下心があろうが無かろうがどうかと思うし、そもそも他人の家でテーブルへ足を乗せて寛ぐなと言いたい。シルビを見てその足をそっと降ろした辺り、一応の常識は持っていたようだが。
「昨日来た海賊の方ですね? 兄さんを足蹴にした」
「……おいトラファルガー。何処まで話したんだぁ?」
「誤解だ。オレは何も話してねェ」
少女の微笑みに邪気は感じられなかった。昨夜の出来事は、当事者である青年は帰ってきて早々寝ていたのをシルビ自身が確認しているので話していない。今日の朝に話した可能性もあるが、足蹴にされ殺されかけたという話を、青年が妹へ話すとも思えなかった。
そうでなくとも青年はそもそも昨夜、ローという賞金首を倒しに行く事すら妹にいっていた様子は無かったのだ。ならばローが言わなければ妹がそれを知れるはずが無い。
少女を見やれば、少女はシルビの様子から言ってはいけなかったのだと気付いた様子で口を押さえた。
近くに小鳥が降り立って鳴く。その声を号令にするかのように、次々に小鳥が降りてきて鳴きだした。少女とシルビの目がその小鳥の群れへと向けられる。統率も無く好き勝手に鳴いている小鳥も、数がいれば騒音にしかならない。
「――静かにしてくれぇ」
シルビが言った途端ピタリと鳴くのを止めた小鳥の群れの視線がシルビへと向けられる。ついでに少女の視線も。
その驚いたような視線にシルビは片目を細めた。
「あなたは……」
「……とりあえず、オレたちもお邪魔して構いませんかねぇ?」
シルビの後ろに立っていたバンダナが、頭を掻きながら少女の言葉を遮った。そういえばずっと玄関先に立っていたのだと思い出す。
慌てて家の中へと招く少女に家へ入ると、小鳥が一斉に飛び立っていった。それを窓越しに眺めてからローを見れば、ローは強がるように笑う。
「……言い訳があるならどうぞ」
「クルーにするのは諦める、が、もう少し話とかはしてもいいだろ」
「そっちじゃねぇよ。なんでアンタ船での留守番が出来ねぇんだって話だよ」