原作前日常編2
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
夢主視点
「女の子だ!」
「シロクマだ!」
「シロクマですいません……」
「打たれ弱っ!」
「スカーフしてる! 可愛い! 可愛いですペンギンさん!」
「触る前にはちゃんと触っていいか聞くんだぞぉ」
「触っていいですかお嬢さん!」
話の流れ的にはノリが良いと評価するべきかもしれないが、触っていいかと聞いたクルーの頭をハリセンで叩く。痛がるクルーには悪いが女の子相手にセクハラ甚だしい発言をしたのが悪い。
別に恋愛は自由だしシルビが口出しする必要も権利も無いとは分かっているのだが、レミにはまともな恋人を作って欲しいのである。決してその辺の若造が駄目だとは言っていないが、シルビの眼鏡にかなう相手を選んでもらいたいものだ。
「レミだよ。こんにちは!」
「こんにちは、ベポだよ」
「モフモフなんだね! ブウサギよりもライガクイーンよりもモフモフだよ!」
「ブ……何?」
「豚でもねぇし兎でもねぇ家畜。レミ少女、そろそろちゃんと紹介するからおいでぇ」
「あ、はい」
ハリセンを消すとレミが傍に戻ってくる。この世界では男でも低めなシルビより、当たり前だが背が低い。
「この子は俺が旅をしてた頃の知り合いで、レミだぁ。いきなり空から降ってきたり迷子になってたりテロリストに捕まったりするけど、それ以外は至って普通の子だと信じてぇから、この船に乗っている間は気安くセクハラをしねぇ程度に優しくしてあげてくれぇ」
「紹介文がおかしい!」
何故か突っ込まれた。これ以上無い立派な説明だと思ったし本当の事しか言っていないつもりだが、何が不満なのか。
「ペンギンさんもうちょっと柔らかく紹介してください!」
「柔らかく? ……お馬鹿な子だけど真面目だから扱いやすい?」
「馬鹿だけど! 確かに馬鹿だけど!」
壁際でバンダナがおかしくて堪らないといった様子で肩を震わせている。レミは気付いていないようだが、イルカは既に声が出ないくらいに爆笑していた。
確かにおかしいだろうが、全て事実だ。ワカメが手を上げるのに授業中の教師よろしく指し示す。
「えーと、ペンギンはその子とどんな関係なんだ?」
「お爺ちゃんと孫、みてぇなぁ?」
数秒後、その言葉を脳へ到達させたクルーから叫びだし、今度こそバンダナが堪えきれずに大笑いしていた。
笑われるのも仕方ないとは思うが、これも真実なのだから仕方が無い。シルビは転生を繰り返して既に合計すれば八桁を超える超高齢だし、可愛い娘も息子もいるものだからレミを娘のように見ることは出来ないのだ。
だがまぁ、口にすると複雑な気分である。
「支障無ぇことなら話して大丈夫だぜぇ。俺は船長とちょっと話してくるから」
一通りの紹介を終えて質問攻めが始まったレミを食堂へ残し、シルビは船長と一緒に船長室へと移動した。
紹介の間ずっと黙ってレミを観察していた船長は、船長室に着くとシルビを振り返り、とても何か言いたげな顔をする。悪口を言いたいという訳でもなさそうなので気にせず言葉を待てば、船長は言いたくて仕方が無いとばかりに口を開いた。
「お前は、アイツの前だと天然に度が増すんだな」
「え、俺の話? つか天然ってヒデェ」
「酷いも何も天然だろうが。ピン呆けしたジジイかお前は」
「そこまで酷かったですか? っていうか普段から天然だと?」
「思ってる」
酷い言われようだ。
「別に天然のつもり無ぇですけど。貴方レミ少女の観察してると思ったのにそんな事考えてたんですか」
「観察もしてた。だがお前の天然さのほうが勝ったんだ。オレが何度突っ込みを入れたかったか分かるか?」
船長はお怒りのようである。そんなに呆けたつもりも無いのだが、天然は自分の事を『天然じゃない』というものらしいし、下手に反論するのも馬鹿らしい。
今気にするところはそもそも『シルビが天然かどうか』ではないのだ。話題を変える為にか船長が息を吐き出す。
「お前がそこまでして守らなけりゃならねェ奴には見えなかったな」
「ごく普通の女の子ですよ。可哀想なくらいに」
そうだ。レミはいきなり何物かによって因果を変えられてしまった哀れな少女である。その因果は『大いなる全知の亜種』であっても今のシルビでは修正も出来やしない。シルビが出来ないのであれば他に出来るものなど存在するかどうかすら分からず、彼女はいつか自分の因果を『改変』出来るまでトリップをし続ける運命だ。
『運命』という言葉はあまり好きではないが、レミのそれを説明するにはきっと相応しい。
レミについて思いを馳せていたシルビの頭を船長が見下ろしている。気付いて見上げれば目が合い、何処か不機嫌そうに逸らされた。
「どうかしましたか?」
「……何でもねェ」
「何か文句があるのでしたら言ってくれねぇと。流石に察するにも限度があります」
「何でもねェって言ってるだろ」
だったら機嫌を直すか不機嫌なのを見せるなと言いたかったが、言ったら言ったでこの船長は『命令するな』と言い出すのだろう。全く面倒臭い男だ。
「なるほど。俺には文句を聞かせる価値も無ぇと」
「そうは言ってねェだろ」
「いえいえ結構です。副船長として俺は船長の不満さえ吐き出させてやれねぇ落ち零れ。どうぞバンダナさんにでもベポにでも船の壁にでも吐き出したら如何です」
「なんでお前が不機嫌になってんだ。ペンギン」
「貴方が不機嫌だからです。レミ少女の面倒も見なけりゃならねぇのに貴方まで面倒臭くなって困ってるって言ったらいいんですか? 言っときますが俺だって出来りゃ船を降りたくねぇんだから、あの子が船を降りるような事はさせたくねぇんですよ。だからあの子の面倒に少しの間集中させてくれって言ってんだよアンタが不機嫌だと気になるって言ってんだぁ!」
船長が目を見開いていたが、シルビは前言撤回するつもりは無いのでそのまま船長を睨む。たまにこの人はもの凄く面倒臭い。
面倒臭いのは別に構わないし、シルビだって面倒臭いと思われているだろう時はあるので、状況によっては怒るつもりは無いが、今はレミ少女が来てその面倒を見なければならないのだ。
そんな時に彼女より大人が不機嫌になって、しかもそれがシルビ以外誰も諌めようとしない船長だと殊更困る。船長としての自覚とかそういう問題ではないにしても。
「……悪い」
「分かっていただければいいです。現在わがままを聞いてもらってるのは俺ですし、余裕の無ぇ俺が悪ぃので」
「そうだな。子供が一人増えたようなもんか」
「イルカもレミ少女と俺のことを母子みてぇだとか言ってましたが、あの子もいい歳だし俺もあの歳の子は流石に」
レミ少女が娘だったら、シャチまで息子でもおかしくなくなってしまう。
子供は嫌いではないがそれもどうなのだろうかと思いつつ言ったつもりだったのだが、船長の笑いの琴線に触れたらしい。喉で笑い目を細めている。
「とりあえず“遊覧屋”が無害なのは分かった」
「はい。……“遊覧屋”?」
「アイツのことだ。Tripするんだろう?」
知らないくせに正鵠を射てきた船長に、否定は出来なかった。船長がクルー以外の相手には『~屋』と付ける事は知っていたので驚かないが、まさか『遊覧』とくるとは。
食堂へ戻るとレミが居なくなっていた。何処へ行ったのかと首を傾げると残っていたクルーに『ペンギンを探しに行った』と言われたが、戻ってくる間にすれ違ってすらいない。
あの子は実は方向音痴なんじゃなかろうかと思いながら、近くに居たシャチへ探してくるように頼んだ。
船長の機嫌はいつの間にか治っている。何が理由で悪くなっていたのかも、何が切っ掛けで戻ったのかもちょっと分からなかった。
「貴方機嫌戻ってません? 本当になんだったんです?」
「……お前本当に天然だな」
呆れたように言われてどうにも釈然としない。レミがシャチと一緒に食堂へ戻ってくる。
案の定迷っていたらしい。
「女の子だ!」
「シロクマだ!」
「シロクマですいません……」
「打たれ弱っ!」
「スカーフしてる! 可愛い! 可愛いですペンギンさん!」
「触る前にはちゃんと触っていいか聞くんだぞぉ」
「触っていいですかお嬢さん!」
話の流れ的にはノリが良いと評価するべきかもしれないが、触っていいかと聞いたクルーの頭をハリセンで叩く。痛がるクルーには悪いが女の子相手にセクハラ甚だしい発言をしたのが悪い。
別に恋愛は自由だしシルビが口出しする必要も権利も無いとは分かっているのだが、レミにはまともな恋人を作って欲しいのである。決してその辺の若造が駄目だとは言っていないが、シルビの眼鏡にかなう相手を選んでもらいたいものだ。
「レミだよ。こんにちは!」
「こんにちは、ベポだよ」
「モフモフなんだね! ブウサギよりもライガクイーンよりもモフモフだよ!」
「ブ……何?」
「豚でもねぇし兎でもねぇ家畜。レミ少女、そろそろちゃんと紹介するからおいでぇ」
「あ、はい」
ハリセンを消すとレミが傍に戻ってくる。この世界では男でも低めなシルビより、当たり前だが背が低い。
「この子は俺が旅をしてた頃の知り合いで、レミだぁ。いきなり空から降ってきたり迷子になってたりテロリストに捕まったりするけど、それ以外は至って普通の子だと信じてぇから、この船に乗っている間は気安くセクハラをしねぇ程度に優しくしてあげてくれぇ」
「紹介文がおかしい!」
何故か突っ込まれた。これ以上無い立派な説明だと思ったし本当の事しか言っていないつもりだが、何が不満なのか。
「ペンギンさんもうちょっと柔らかく紹介してください!」
「柔らかく? ……お馬鹿な子だけど真面目だから扱いやすい?」
「馬鹿だけど! 確かに馬鹿だけど!」
壁際でバンダナがおかしくて堪らないといった様子で肩を震わせている。レミは気付いていないようだが、イルカは既に声が出ないくらいに爆笑していた。
確かにおかしいだろうが、全て事実だ。ワカメが手を上げるのに授業中の教師よろしく指し示す。
「えーと、ペンギンはその子とどんな関係なんだ?」
「お爺ちゃんと孫、みてぇなぁ?」
数秒後、その言葉を脳へ到達させたクルーから叫びだし、今度こそバンダナが堪えきれずに大笑いしていた。
笑われるのも仕方ないとは思うが、これも真実なのだから仕方が無い。シルビは転生を繰り返して既に合計すれば八桁を超える超高齢だし、可愛い娘も息子もいるものだからレミを娘のように見ることは出来ないのだ。
だがまぁ、口にすると複雑な気分である。
「支障無ぇことなら話して大丈夫だぜぇ。俺は船長とちょっと話してくるから」
一通りの紹介を終えて質問攻めが始まったレミを食堂へ残し、シルビは船長と一緒に船長室へと移動した。
紹介の間ずっと黙ってレミを観察していた船長は、船長室に着くとシルビを振り返り、とても何か言いたげな顔をする。悪口を言いたいという訳でもなさそうなので気にせず言葉を待てば、船長は言いたくて仕方が無いとばかりに口を開いた。
「お前は、アイツの前だと天然に度が増すんだな」
「え、俺の話? つか天然ってヒデェ」
「酷いも何も天然だろうが。ピン呆けしたジジイかお前は」
「そこまで酷かったですか? っていうか普段から天然だと?」
「思ってる」
酷い言われようだ。
「別に天然のつもり無ぇですけど。貴方レミ少女の観察してると思ったのにそんな事考えてたんですか」
「観察もしてた。だがお前の天然さのほうが勝ったんだ。オレが何度突っ込みを入れたかったか分かるか?」
船長はお怒りのようである。そんなに呆けたつもりも無いのだが、天然は自分の事を『天然じゃない』というものらしいし、下手に反論するのも馬鹿らしい。
今気にするところはそもそも『シルビが天然かどうか』ではないのだ。話題を変える為にか船長が息を吐き出す。
「お前がそこまでして守らなけりゃならねェ奴には見えなかったな」
「ごく普通の女の子ですよ。可哀想なくらいに」
そうだ。レミはいきなり何物かによって因果を変えられてしまった哀れな少女である。その因果は『大いなる全知の亜種』であっても今のシルビでは修正も出来やしない。シルビが出来ないのであれば他に出来るものなど存在するかどうかすら分からず、彼女はいつか自分の因果を『改変』出来るまでトリップをし続ける運命だ。
『運命』という言葉はあまり好きではないが、レミのそれを説明するにはきっと相応しい。
レミについて思いを馳せていたシルビの頭を船長が見下ろしている。気付いて見上げれば目が合い、何処か不機嫌そうに逸らされた。
「どうかしましたか?」
「……何でもねェ」
「何か文句があるのでしたら言ってくれねぇと。流石に察するにも限度があります」
「何でもねェって言ってるだろ」
だったら機嫌を直すか不機嫌なのを見せるなと言いたかったが、言ったら言ったでこの船長は『命令するな』と言い出すのだろう。全く面倒臭い男だ。
「なるほど。俺には文句を聞かせる価値も無ぇと」
「そうは言ってねェだろ」
「いえいえ結構です。副船長として俺は船長の不満さえ吐き出させてやれねぇ落ち零れ。どうぞバンダナさんにでもベポにでも船の壁にでも吐き出したら如何です」
「なんでお前が不機嫌になってんだ。ペンギン」
「貴方が不機嫌だからです。レミ少女の面倒も見なけりゃならねぇのに貴方まで面倒臭くなって困ってるって言ったらいいんですか? 言っときますが俺だって出来りゃ船を降りたくねぇんだから、あの子が船を降りるような事はさせたくねぇんですよ。だからあの子の面倒に少しの間集中させてくれって言ってんだよアンタが不機嫌だと気になるって言ってんだぁ!」
船長が目を見開いていたが、シルビは前言撤回するつもりは無いのでそのまま船長を睨む。たまにこの人はもの凄く面倒臭い。
面倒臭いのは別に構わないし、シルビだって面倒臭いと思われているだろう時はあるので、状況によっては怒るつもりは無いが、今はレミ少女が来てその面倒を見なければならないのだ。
そんな時に彼女より大人が不機嫌になって、しかもそれがシルビ以外誰も諌めようとしない船長だと殊更困る。船長としての自覚とかそういう問題ではないにしても。
「……悪い」
「分かっていただければいいです。現在わがままを聞いてもらってるのは俺ですし、余裕の無ぇ俺が悪ぃので」
「そうだな。子供が一人増えたようなもんか」
「イルカもレミ少女と俺のことを母子みてぇだとか言ってましたが、あの子もいい歳だし俺もあの歳の子は流石に」
レミ少女が娘だったら、シャチまで息子でもおかしくなくなってしまう。
子供は嫌いではないがそれもどうなのだろうかと思いつつ言ったつもりだったのだが、船長の笑いの琴線に触れたらしい。喉で笑い目を細めている。
「とりあえず“遊覧屋”が無害なのは分かった」
「はい。……“遊覧屋”?」
「アイツのことだ。Tripするんだろう?」
知らないくせに正鵠を射てきた船長に、否定は出来なかった。船長がクルー以外の相手には『~屋』と付ける事は知っていたので驚かないが、まさか『遊覧』とくるとは。
食堂へ戻るとレミが居なくなっていた。何処へ行ったのかと首を傾げると残っていたクルーに『ペンギンを探しに行った』と言われたが、戻ってくる間にすれ違ってすらいない。
あの子は実は方向音痴なんじゃなかろうかと思いながら、近くに居たシャチへ探してくるように頼んだ。
船長の機嫌はいつの間にか治っている。何が理由で悪くなっていたのかも、何が切っ掛けで戻ったのかもちょっと分からなかった。
「貴方機嫌戻ってません? 本当になんだったんです?」
「……お前本当に天然だな」
呆れたように言われてどうにも釈然としない。レミがシャチと一緒に食堂へ戻ってくる。
案の定迷っていたらしい。