原作前日常編
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夢主視点
町外れのボロボロな家が青年の家のようで、シルビ達から逃げた青年は寄り道も遠回りもせずに家へと帰った。シルビ達が追い掛けてくる可能性を考えたりしないのだろうかと、実際追い掛けて自宅を突き止めたシルビは思う。
ランプの明かりが皹の入ったまま修理もされていない窓から零れている。壁に取り付いて中を覗き込めば、破けたカーテンの隙間から中の様子が窺えた。
ローは自宅を突き止めるだけでいいと言っていたが、楽過ぎて張り合いが無いので、もう少し情報を持って帰るつもりでシルビは聞き耳を立てる。薄い壁だが青年の様子からして、シルビに気付く事はないだろう。
「なんだ、まだ起きてたのか?」
「うん、兄さんの帰りが遅いから心配で……」
「そんな心配するなよ。兄さんは平気だから」
なるほど妹がいるのは確からしい。喉に力の入らないか細い少女の声は、青年の声で簡単にかき消されてしまいそうだ。
咳き込む少女に青年が慌てている。身体が冷えたんただの風邪を引くだのと、心配しきっている声で少女を寝かせようとする青年に、妹は身体が弱いのかと思った。
声が遠のき灯りが消されるのにシルビも壁伝いに場所を移動する。中の住民が移動して灯りのついた部屋はそう遠くなく、しかしすぐ消されたことにそれが妹の方の部屋だと判断した。
続いて隣の部屋の明かりが点く。そちらが青年の部屋か。
両親は居ないらしいと確認し、シルビは家から離れて船へと戻った。これ以上は今確認する事ではないだろう。
先程通った道を再び走って船へ戻れば、バンダナとローが起きて待っていた。寝ていたらバンダナはともかくローは叩き起こすつもりだったが、そうならなくて良かったと思う。
「……なんだろうな。命拾いした気がする」
「何をふざけた事を。あの青年の家ですが、町外れのあばら家でした。妹も居ましたね」
「金に困ってる感じ?」
「ええ。あれじゃ船長一人海軍に突き出したところで兄妹揃って島を出られるかどうか」
バンダナの淹れてくれた珈琲を飲みながら報告した。
まだローへ懸かっている賞金は目立つほど高くない。賞金首リストでは中の上くらいか。今のローを狙う賞金稼ぎはまだ経験の浅い者か余程金に困っている者で、あの青年は後者なのだろう。ローは経験を積めば直ぐに高額賞金首になりそうなのだが、まだクルーだってシルビとバンダナの二人しか居ないのだから、舐められても仕方ない。
高額の海賊は高額であるだけ個人ではなく、集団をまとめる技量だって評価されるものだ。
「それで、船長はあの子の何がそんなに気になったんですかい?」
バンダナがシルビも気になっていたことをローへ尋ねると、ローはせめて威厳を出そうとするかの様に重々しく頷いた。こういう場面を見る度コイツはどんな海賊を目指してんだとシルビは内心思っているのだが、言ったことは無い。
「クルーにしたい」
実現すればローだけの問題ではなくなる発言に、シルビはバンダナと顔を見合わせる。
ローを船長として成立しているハートの海賊団のクルーは、先程も記述した通り現在シルビとバンダナの二人だけだ。その理由はローがクルーを集めるに従い、『医療知識もある奴がいい』とわがままを言っているからである。
船長であるローは『死の外科医』という通り名の通り外科医だし、バンダナは麻酔科医だ。シルビは一応薬師として勧誘された。
残る枠は大量にあるが、それとは逆に医療知識のある船乗りは少ない。
「ですが船長、あの子は医学に通じてるとは思えませんでしたよ」
「そんなのオレもだ。だがアイツは是非欲しい」
「理由は?」
「歯並びが凄い綺麗だった」
途端スッパーンと小気味のいい音がしたことを此処に記しておく。叩かれた頭を押さえて机へ突っ伏すローに、シルビは溜息を吐いて手に持つハリセンで肩を叩いた。
いつもなら苦笑してローの言動を許すバンダナさえ、まさかそんな理由で、と呆れている。
「もう一度窺いましょう。バンダナさんや俺に『医療知識がある奴が欲しい』と言っておいて、その自身のわがままを捻じ曲げて条件に合わない青年をクルーへしたがる理由は?」
「歯並びが綺麗なのは健康のあかしっ」
「健康なのは知ってんだよぉ!」
「何が不満なんだ!」
「馬鹿にすんのも大概にしろぉトラファルガー!」
二発三発とローの頭を叩いて、もう一発食らわせてやろうかとさえ思ったのを理性で我慢した。ハリセンを消して、深呼吸してからローを見つめる。
「その理由で彼を乗せるって言うなら、医療知識なんてどうでもいいと見なして俺は降ります。貴方が言っているのは矛盾した発言だと気付いてますか」
「そうだねぇ。医療知識を持ってるクルーが欲しいって言ったのに、肝心の知識を持ってない子を乗せられちゃ、そりゃ反発しますよ船長」
「……悪かった」
やっとシルビとバンダナが怒っている理由を理解したのか、ローは僅かに俯いて謝った。
新しいペットに浮かれて先に飼っていたペットを蔑ろにする飼い主そのものだなと思ったが、そう例えると自分達がペット役になってしまうことに思い至り、シルビはゲンナリする。
町外れのボロボロな家が青年の家のようで、シルビ達から逃げた青年は寄り道も遠回りもせずに家へと帰った。シルビ達が追い掛けてくる可能性を考えたりしないのだろうかと、実際追い掛けて自宅を突き止めたシルビは思う。
ランプの明かりが皹の入ったまま修理もされていない窓から零れている。壁に取り付いて中を覗き込めば、破けたカーテンの隙間から中の様子が窺えた。
ローは自宅を突き止めるだけでいいと言っていたが、楽過ぎて張り合いが無いので、もう少し情報を持って帰るつもりでシルビは聞き耳を立てる。薄い壁だが青年の様子からして、シルビに気付く事はないだろう。
「なんだ、まだ起きてたのか?」
「うん、兄さんの帰りが遅いから心配で……」
「そんな心配するなよ。兄さんは平気だから」
なるほど妹がいるのは確からしい。喉に力の入らないか細い少女の声は、青年の声で簡単にかき消されてしまいそうだ。
咳き込む少女に青年が慌てている。身体が冷えたんただの風邪を引くだのと、心配しきっている声で少女を寝かせようとする青年に、妹は身体が弱いのかと思った。
声が遠のき灯りが消されるのにシルビも壁伝いに場所を移動する。中の住民が移動して灯りのついた部屋はそう遠くなく、しかしすぐ消されたことにそれが妹の方の部屋だと判断した。
続いて隣の部屋の明かりが点く。そちらが青年の部屋か。
両親は居ないらしいと確認し、シルビは家から離れて船へと戻った。これ以上は今確認する事ではないだろう。
先程通った道を再び走って船へ戻れば、バンダナとローが起きて待っていた。寝ていたらバンダナはともかくローは叩き起こすつもりだったが、そうならなくて良かったと思う。
「……なんだろうな。命拾いした気がする」
「何をふざけた事を。あの青年の家ですが、町外れのあばら家でした。妹も居ましたね」
「金に困ってる感じ?」
「ええ。あれじゃ船長一人海軍に突き出したところで兄妹揃って島を出られるかどうか」
バンダナの淹れてくれた珈琲を飲みながら報告した。
まだローへ懸かっている賞金は目立つほど高くない。賞金首リストでは中の上くらいか。今のローを狙う賞金稼ぎはまだ経験の浅い者か余程金に困っている者で、あの青年は後者なのだろう。ローは経験を積めば直ぐに高額賞金首になりそうなのだが、まだクルーだってシルビとバンダナの二人しか居ないのだから、舐められても仕方ない。
高額の海賊は高額であるだけ個人ではなく、集団をまとめる技量だって評価されるものだ。
「それで、船長はあの子の何がそんなに気になったんですかい?」
バンダナがシルビも気になっていたことをローへ尋ねると、ローはせめて威厳を出そうとするかの様に重々しく頷いた。こういう場面を見る度コイツはどんな海賊を目指してんだとシルビは内心思っているのだが、言ったことは無い。
「クルーにしたい」
実現すればローだけの問題ではなくなる発言に、シルビはバンダナと顔を見合わせる。
ローを船長として成立しているハートの海賊団のクルーは、先程も記述した通り現在シルビとバンダナの二人だけだ。その理由はローがクルーを集めるに従い、『医療知識もある奴がいい』とわがままを言っているからである。
船長であるローは『死の外科医』という通り名の通り外科医だし、バンダナは麻酔科医だ。シルビは一応薬師として勧誘された。
残る枠は大量にあるが、それとは逆に医療知識のある船乗りは少ない。
「ですが船長、あの子は医学に通じてるとは思えませんでしたよ」
「そんなのオレもだ。だがアイツは是非欲しい」
「理由は?」
「歯並びが凄い綺麗だった」
途端スッパーンと小気味のいい音がしたことを此処に記しておく。叩かれた頭を押さえて机へ突っ伏すローに、シルビは溜息を吐いて手に持つハリセンで肩を叩いた。
いつもなら苦笑してローの言動を許すバンダナさえ、まさかそんな理由で、と呆れている。
「もう一度窺いましょう。バンダナさんや俺に『医療知識がある奴が欲しい』と言っておいて、その自身のわがままを捻じ曲げて条件に合わない青年をクルーへしたがる理由は?」
「歯並びが綺麗なのは健康のあかしっ」
「健康なのは知ってんだよぉ!」
「何が不満なんだ!」
「馬鹿にすんのも大概にしろぉトラファルガー!」
二発三発とローの頭を叩いて、もう一発食らわせてやろうかとさえ思ったのを理性で我慢した。ハリセンを消して、深呼吸してからローを見つめる。
「その理由で彼を乗せるって言うなら、医療知識なんてどうでもいいと見なして俺は降ります。貴方が言っているのは矛盾した発言だと気付いてますか」
「そうだねぇ。医療知識を持ってるクルーが欲しいって言ったのに、肝心の知識を持ってない子を乗せられちゃ、そりゃ反発しますよ船長」
「……悪かった」
やっとシルビとバンダナが怒っている理由を理解したのか、ローは僅かに俯いて謝った。
新しいペットに浮かれて先に飼っていたペットを蔑ろにする飼い主そのものだなと思ったが、そう例えると自分達がペット役になってしまうことに思い至り、シルビはゲンナリする。