原作前日常編2
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夢主視点
雲ひとつ無い晴れた空の下、敵船も海軍の姿も無く平穏で、言い方を変えれば何の面白みも無い航海の最中。
精製した薬品の仕分けをしていたシルビのベッドで、勝手に寝そべって本を読んでいた船長が本を閉じる。
「……暇だな」
「襲撃が無ぇのはいい事でしょう。暇なら自室の掃除でもなさっては如何です?」
「掃除はイルカに任せた」
きっと今頃、捨てていいのか悪いのか分からない私物の山に困り果てているだろうクルーに思いを馳せつつ、シルビは溜息を零した。船長の言う『暇』というのは、『やらねばならないことはあるがやりたい事が無い』という意味であって、決して大々的に暇だという訳ではない。
つまりやる気が起きないのだろう。
「新しい刺青でも入れるか」
「暇潰しで自分の身体に落書きしねぇで……」
ください、と言う言葉はノックも無しに開かれたドアの音にかき消された。何事かとシルビと船長が見ればそこに居たのは慌てた様子のワカメで、手には何故かモップを持ったままである。
「どうした?」
「せ、せせせせ船長! 空から女の子が!」
「そこは親方じゃねぇの?」
何となく聞いた覚えのあるフレーズに思わず昔見た映画を思い出したが、ワカメも船長もその映画を知る由も無いので、シルビの言葉は不思議そうにスルーされる。
詳しく聞けばワカメが当番だった甲板掃除をしていた時、空の彼方から声が聞こえたかと思うと海へ女の子が叫びながら飛び込んだらしい。なるほどだからモップを持っていたのかと変なところへ納得し、それから普通であればありえない現象について考える。
いわゆるファフロッキーズ現象が可能性の一つとして考えられもするが、この近くには確か島は無かった。なので島から飛んできたとは思えない。そもそもあれは吹き飛ばされた対象が生きていたという事例があっただろうか。
代わり映えの無い日常へ降って湧いた非日常に、船長が面白がって部屋を出て行く。シルビも精製途中の薬品の材料のうち危険なものだけを片付けてからその後を追いかけた。
雲ひとつ無い空の下、甲板には先に来ていた船長だけでは無く騒ぎを聞きつけて集まってきたらしいクルー達もいる。その中心には帽子とサングラスを外してびしょ濡れの頭を振って水気を飛ばしているシャチと、シャチが助け上げたらしい気を失った少女。
その少女を見て、シルビは驚いてしまった。
「レミ少女ぉおお!?」
シルビが意識の無い少女の名前を呼んだからか声に驚いてか、船長達が振り返る。それを無視してシルビは騒ぎの中心部へ駆け寄り少女の顔を覗き込んだ。
シルビの体感時間ではもう随分と会ってなかったが、間違う事なき『哀れな少女』である。
「……ぺ、ペンギン? 知り合い?」
ワカメの尋ねてくる声にハッとして周囲を見回す。この子が居るとすればある筈の物が無い。顔を上げると欄干の向こう、海の上で青い蝶が戸惑うようにある一点の上で弧を描くように飛んでいる。
「――シャチ! もう一回飛び込んで木の棒拾ってきてくれぇ。青い蝶の根付けが付いてる奴。頼むぅ!」
「で、え、えと、アイアイ!」
立ち上がったシャチが承知したというより勢いに負けて飛び込んだ。シルビは甲板で横たわっている少女を横抱きに抱え上げ、そこでやっとこの船の主を思い出す。
「船長。詳しい話をする前に、この子の乗船許可をもらえますか」
雲ひとつ無い晴れた空の下、敵船も海軍の姿も無く平穏で、言い方を変えれば何の面白みも無い航海の最中。
精製した薬品の仕分けをしていたシルビのベッドで、勝手に寝そべって本を読んでいた船長が本を閉じる。
「……暇だな」
「襲撃が無ぇのはいい事でしょう。暇なら自室の掃除でもなさっては如何です?」
「掃除はイルカに任せた」
きっと今頃、捨てていいのか悪いのか分からない私物の山に困り果てているだろうクルーに思いを馳せつつ、シルビは溜息を零した。船長の言う『暇』というのは、『やらねばならないことはあるがやりたい事が無い』という意味であって、決して大々的に暇だという訳ではない。
つまりやる気が起きないのだろう。
「新しい刺青でも入れるか」
「暇潰しで自分の身体に落書きしねぇで……」
ください、と言う言葉はノックも無しに開かれたドアの音にかき消された。何事かとシルビと船長が見ればそこに居たのは慌てた様子のワカメで、手には何故かモップを持ったままである。
「どうした?」
「せ、せせせせ船長! 空から女の子が!」
「そこは親方じゃねぇの?」
何となく聞いた覚えのあるフレーズに思わず昔見た映画を思い出したが、ワカメも船長もその映画を知る由も無いので、シルビの言葉は不思議そうにスルーされる。
詳しく聞けばワカメが当番だった甲板掃除をしていた時、空の彼方から声が聞こえたかと思うと海へ女の子が叫びながら飛び込んだらしい。なるほどだからモップを持っていたのかと変なところへ納得し、それから普通であればありえない現象について考える。
いわゆるファフロッキーズ現象が可能性の一つとして考えられもするが、この近くには確か島は無かった。なので島から飛んできたとは思えない。そもそもあれは吹き飛ばされた対象が生きていたという事例があっただろうか。
代わり映えの無い日常へ降って湧いた非日常に、船長が面白がって部屋を出て行く。シルビも精製途中の薬品の材料のうち危険なものだけを片付けてからその後を追いかけた。
雲ひとつ無い空の下、甲板には先に来ていた船長だけでは無く騒ぎを聞きつけて集まってきたらしいクルー達もいる。その中心には帽子とサングラスを外してびしょ濡れの頭を振って水気を飛ばしているシャチと、シャチが助け上げたらしい気を失った少女。
その少女を見て、シルビは驚いてしまった。
「レミ少女ぉおお!?」
シルビが意識の無い少女の名前を呼んだからか声に驚いてか、船長達が振り返る。それを無視してシルビは騒ぎの中心部へ駆け寄り少女の顔を覗き込んだ。
シルビの体感時間ではもう随分と会ってなかったが、間違う事なき『哀れな少女』である。
「……ぺ、ペンギン? 知り合い?」
ワカメの尋ねてくる声にハッとして周囲を見回す。この子が居るとすればある筈の物が無い。顔を上げると欄干の向こう、海の上で青い蝶が戸惑うようにある一点の上で弧を描くように飛んでいる。
「――シャチ! もう一回飛び込んで木の棒拾ってきてくれぇ。青い蝶の根付けが付いてる奴。頼むぅ!」
「で、え、えと、アイアイ!」
立ち上がったシャチが承知したというより勢いに負けて飛び込んだ。シルビは甲板で横たわっている少女を横抱きに抱え上げ、そこでやっとこの船の主を思い出す。
「船長。詳しい話をする前に、この子の乗船許可をもらえますか」