原作前日常編2
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ロー視点
「せんちょぉー! どうにかしてください!」
前の島で買った本を読んでいたらつい徹夜してしまい、数時間前にベポ経由でペンギンに諌められて寝たばかりだったローの元へ、困り果てた様子でシャチとワカメとイルカ他数名のクルーがやって来た。ワカメやイルカはともかく、困るとローよりペンギンに助けを求めがちなシャチまで来るのは珍しい。
「どうしたんだ?」
「ペンギンが歌ってるんですよ」
「はあ?」
内容的にはなんだそんな事か、と思うもののそれが『ペンギンが』となると、ハートの海賊団では多少騒動に近いものが起こる。それというのもペンギンが、通常に輪をかけて歌が下手だからだ。
よく言えば抽象的な表現法だが、悪く言えばただの音痴である。同じ歌をくり返し歌わせてみれば二度と同じ歌に聞こえることはなく、そもそも本当に指定した歌を歌っているのかと信じられなくなる程だ。
発声と声色だけはいいからまだ聞けないものにはならないが、聞いていると自分が知っている歌とは本当に歌だったのかと疑いたくなってくる。何処かの島で降りた元クルーは、そのせいで一曲歌えなくなった筈だ。念の為歌えなくなったのが降りた理由ではない事を記しておく。
幸いというべきか、ペンギン自身自分が音痴である事を自覚しているので滅多に歌うことはない。海賊には歌、というのがまかり通るほど常識となっている昨今で、致命的なある意味ペンギンの弱点だ。蛇足だが、何故か楽器演奏の腕前はそれで飯を食っている音楽家並にある。
閑話休題。そのペンギンが歌っていると聞いてローは寝そべっていた姿勢から身体を起こした。
「何かあったのか」
「その、積んであった食料が一部腐ってたんです」
「ペンギンが原因を調べてたんですけど、そしたら急に釣りの用意を始めて……」
「釣りをしながら歌ってるっていうか、語ってる? 歌ってんのアレ?」
「分かんねーけど、歌ってんだろ、一応」
船に積んである食料が一部腐っていた、という事よりクルーの一人が歌っていることが重要視されるのもどうなのだろう。おそらくペンギンが慌てていないから、他の奴らも悩む必要はないと思っているのだろうが、それにしたってせめて船長であるローへの報告はするべきだった。
ペンギンの歌とは別の意味で頭を痛くしていると、部屋の外から今度はベポがやってくる。
「キャプテーン、起きてる?」
「どうしたベポ」
「あのね、ペンギンが呼んでる。『来ないと船が沈没する』って」
穏やかではない伝言に聞いていたシャチ達が顔を見合わせていた。
「先に行って直ぐ行くって伝えろ。……ところでアイツ、まだ歌ってんのか」
「? 歌ってたかな? 叫んでた? なんか言ってるのは聞いたけどよく分かんない」
「……分かった」
歌っているはずなのに語っていると思われたり叫んでいると思われたり、笑い話を通り越しいっそ哀れである。
直訴に来たクルー達も引き連れてローが甲板へ向かうと、甲板では数匹の巨大魚がビチビチと跳ねていた。
巨大魚というか、全て脂の乗っていそうなマグロだ。
「あ?」
「あ、船長。間に合いましたね」
手摺りから海へ身を乗り出すようにして、水面を覗き込んでいたペンギンとバンダナが振り返る。その足元へは折れた釣竿が転がっており、水しか入っていないバケツが物悲しい。
釣果が無かった訳ではないのに空だというのがこうも違和感のある光景というのも珍しいだろう。これらの転がるマグロが釣ったものなのかどうかは分からないが。
「間に合ったってどういう事だ」
「見れば分かりますよ。落ちねぇように気をつけてください」
おざなりな気遣いを聞きながらローも手摺りから身を乗り出して海面を見下ろせば、水中に巨大な影が蠢いた。マグロではない。おそらく海王類である。
隣から同じく巨大な影を目にしたシャチが『うひっ!?』と妙な悲鳴を上げた。
全長は下手をするとこの船と同じか少し小さいくらいか。しかし襲ってこられたら同じ程度の大きさとは言えひとたまりもない。
ペンギンがベポを使ってローを呼んだのはコレが現れたからかと思ってペンギンを見ればしかし、ペンギンは予想に反して愛用しているナイフを持っていた。
「あの大きさなら五日分は賄えます」
「獲る気かっ!」
思わずと言ったように話を聞いていたワカメが突っ込んでいる。しかしペンギンはそれにムッとした表情で返した。
「獲らねぇと肉が無ぇんだよ。前の島で買った玉葱に腐ったのが混じってたらしくて腐敗が伝播してたし、それに引き寄せられた虫が湧いて肉も大打撃だったぜぇ」
「聞いてねェぞオレは」
「野菜はともかく魚肉は釣ればいいので、目を覚ましたらの報告でも遅くねぇと判断してました」
飄々と言い訳するペンギンへの追及は後にする事にして、ローは再び海面下を遊泳している海王類を見る。
船に付き添うように泳いでいる海王類は今のところ襲ってくる様子は無い。しかしその均衡だっていつ壊れるか分かったものではなかった。次の瞬間には船に体当たりをしてくる可能性だってある。
「マグロにおびき寄せられてきたのかな? つかこのマグロはペンギンが釣ったの?」
「いや、マグロを餌にして海王類を釣ろうと思って……」
「なんでそんな二度手間してんだよ!?」
「だってほらぁ、海王類なら時々牛肉の味がする奴とかいるし、ずっと魚肉だと飽きるだろぉ?」
「そんな気遣い今いらない! マグロも美味しいよ!」
「その前にピンポイントでマグロ釣れることに突っ込まないかい?」
バンダナの言う事ももっともで、思わず全員が無言になってペンギンを見れば、ペンギンは誤魔化すようにニッコリと笑みを浮かべて首を傾けた。
ともあれ今は船を襲う可能性もある海王類で、どうするかと考える。とはいえ捕まえるか逃げるかの選択肢しか無い訳だが。
「せめて一回でも水上に出てくれば牛肉かどうか分かるんだけどねぇ」
「バンダナまで! もう牛肉はいいよ!」
「シャチは牛肉好きじゃねぇの?」
「そういう問題じゃないと思うよペンギン」
「俺鶏肉の方が好きなんだよなぁ。……これどうにかしたら今日の夕食は鉄火丼にしてもらいましょうか」
「米なら文句はねェ」
「鶏肉何処いった!?」
「あ……」
その思わず漏れたとばかりの声が誰の口からだったかは分からない。水面が盛り上がったかと思うと、水中を泳いでいた海王類がロー達の頭上を飛び越えたのである。
牛の顔と上半身に魚の下半身。ご丁寧にも白黒の迷彩模様も入っていた。
ローの隣でペンギンが嬉々とした気配を出している。
「船長?」
防寒帽で殆ど見えないとはいえその口元が期待に笑みを浮かべており、それを見てローに否を唱える事は出来なかった。
「……不味かったら責任取れよ」
「そしたら次は鯨でも釣りましょう」
自信満々にそう言いきったペンギンに、溜息一つ零して能力を展開させる。
次に船の上を飛び越えた時がチャンスだ。そしてそれは思ったよりも早く来た。
「“ROOM”――“メス”」
頭上でバラバラになって降ってくる海王類の肉片。甲板に落下してきた尾びれがビチビチと蠢いて跳ねている。生きたまま分解できる事の利点は鮮度が落ちないことだろうか。
ペンギンが駆け寄ってそれを拾い集めるのに、シャチ達も恐る恐るといった様子で集め始める。原型を留めないくらいに分断したのだから然程怖くは無いだろうが、血液の流れに対して痙攣のような動きをしているのはまだ見慣れないのかもしれない。ローの船に乗っている以上慣れてもらわないと困るが。
ふと旋律の付いた声が聞こえるのに気付いて、その声の主を見た。
相変わらず何を歌っているのかも分からない。歌詞を口ずさんでいるというのにその歌詞が全く意味を成していなかった。
そして何の歌なのか分からないが歌詞の内容が地味に怖い。同じく気付いて聞いていたらしいワカメが青褪めている。
「……おい、ペンギン」
「なんです?」
「歌うの止めろ」
「無理ですねぇ」
無理という事は無いだろうと無言で理由を問えば、ペンギンは拾った肉片を抱えたまま海原へと視線を向けた。それからすっと腕を伸ばし何かを指差す。
「あと二匹は獲りてぇので」
ペンギンが指差した先からは、猛烈な勢いで船へ向かってくる海王類の背ビレ。
「さぁドンドン行きましょう! でなけりゃ船が沈没します!」
「お前後で覚えてろッ!」
そんな特技を今まで隠していた事になのか、八つ当たり気味に海王類を『呼ぶ』ことになのか、呼ぶだけ呼んでおいて獲るのはロー任せであることになのか良く分からないが、とりあえず沈没だけは御免被りたいので必死に獲る。
数時間後、大量に取れた魚肉で宴が始まってしまい、ついペンギンに追及するのを忘れた。
「せんちょぉー! どうにかしてください!」
前の島で買った本を読んでいたらつい徹夜してしまい、数時間前にベポ経由でペンギンに諌められて寝たばかりだったローの元へ、困り果てた様子でシャチとワカメとイルカ他数名のクルーがやって来た。ワカメやイルカはともかく、困るとローよりペンギンに助けを求めがちなシャチまで来るのは珍しい。
「どうしたんだ?」
「ペンギンが歌ってるんですよ」
「はあ?」
内容的にはなんだそんな事か、と思うもののそれが『ペンギンが』となると、ハートの海賊団では多少騒動に近いものが起こる。それというのもペンギンが、通常に輪をかけて歌が下手だからだ。
よく言えば抽象的な表現法だが、悪く言えばただの音痴である。同じ歌をくり返し歌わせてみれば二度と同じ歌に聞こえることはなく、そもそも本当に指定した歌を歌っているのかと信じられなくなる程だ。
発声と声色だけはいいからまだ聞けないものにはならないが、聞いていると自分が知っている歌とは本当に歌だったのかと疑いたくなってくる。何処かの島で降りた元クルーは、そのせいで一曲歌えなくなった筈だ。念の為歌えなくなったのが降りた理由ではない事を記しておく。
幸いというべきか、ペンギン自身自分が音痴である事を自覚しているので滅多に歌うことはない。海賊には歌、というのがまかり通るほど常識となっている昨今で、致命的なある意味ペンギンの弱点だ。蛇足だが、何故か楽器演奏の腕前はそれで飯を食っている音楽家並にある。
閑話休題。そのペンギンが歌っていると聞いてローは寝そべっていた姿勢から身体を起こした。
「何かあったのか」
「その、積んであった食料が一部腐ってたんです」
「ペンギンが原因を調べてたんですけど、そしたら急に釣りの用意を始めて……」
「釣りをしながら歌ってるっていうか、語ってる? 歌ってんのアレ?」
「分かんねーけど、歌ってんだろ、一応」
船に積んである食料が一部腐っていた、という事よりクルーの一人が歌っていることが重要視されるのもどうなのだろう。おそらくペンギンが慌てていないから、他の奴らも悩む必要はないと思っているのだろうが、それにしたってせめて船長であるローへの報告はするべきだった。
ペンギンの歌とは別の意味で頭を痛くしていると、部屋の外から今度はベポがやってくる。
「キャプテーン、起きてる?」
「どうしたベポ」
「あのね、ペンギンが呼んでる。『来ないと船が沈没する』って」
穏やかではない伝言に聞いていたシャチ達が顔を見合わせていた。
「先に行って直ぐ行くって伝えろ。……ところでアイツ、まだ歌ってんのか」
「? 歌ってたかな? 叫んでた? なんか言ってるのは聞いたけどよく分かんない」
「……分かった」
歌っているはずなのに語っていると思われたり叫んでいると思われたり、笑い話を通り越しいっそ哀れである。
直訴に来たクルー達も引き連れてローが甲板へ向かうと、甲板では数匹の巨大魚がビチビチと跳ねていた。
巨大魚というか、全て脂の乗っていそうなマグロだ。
「あ?」
「あ、船長。間に合いましたね」
手摺りから海へ身を乗り出すようにして、水面を覗き込んでいたペンギンとバンダナが振り返る。その足元へは折れた釣竿が転がっており、水しか入っていないバケツが物悲しい。
釣果が無かった訳ではないのに空だというのがこうも違和感のある光景というのも珍しいだろう。これらの転がるマグロが釣ったものなのかどうかは分からないが。
「間に合ったってどういう事だ」
「見れば分かりますよ。落ちねぇように気をつけてください」
おざなりな気遣いを聞きながらローも手摺りから身を乗り出して海面を見下ろせば、水中に巨大な影が蠢いた。マグロではない。おそらく海王類である。
隣から同じく巨大な影を目にしたシャチが『うひっ!?』と妙な悲鳴を上げた。
全長は下手をするとこの船と同じか少し小さいくらいか。しかし襲ってこられたら同じ程度の大きさとは言えひとたまりもない。
ペンギンがベポを使ってローを呼んだのはコレが現れたからかと思ってペンギンを見ればしかし、ペンギンは予想に反して愛用しているナイフを持っていた。
「あの大きさなら五日分は賄えます」
「獲る気かっ!」
思わずと言ったように話を聞いていたワカメが突っ込んでいる。しかしペンギンはそれにムッとした表情で返した。
「獲らねぇと肉が無ぇんだよ。前の島で買った玉葱に腐ったのが混じってたらしくて腐敗が伝播してたし、それに引き寄せられた虫が湧いて肉も大打撃だったぜぇ」
「聞いてねェぞオレは」
「野菜はともかく魚肉は釣ればいいので、目を覚ましたらの報告でも遅くねぇと判断してました」
飄々と言い訳するペンギンへの追及は後にする事にして、ローは再び海面下を遊泳している海王類を見る。
船に付き添うように泳いでいる海王類は今のところ襲ってくる様子は無い。しかしその均衡だっていつ壊れるか分かったものではなかった。次の瞬間には船に体当たりをしてくる可能性だってある。
「マグロにおびき寄せられてきたのかな? つかこのマグロはペンギンが釣ったの?」
「いや、マグロを餌にして海王類を釣ろうと思って……」
「なんでそんな二度手間してんだよ!?」
「だってほらぁ、海王類なら時々牛肉の味がする奴とかいるし、ずっと魚肉だと飽きるだろぉ?」
「そんな気遣い今いらない! マグロも美味しいよ!」
「その前にピンポイントでマグロ釣れることに突っ込まないかい?」
バンダナの言う事ももっともで、思わず全員が無言になってペンギンを見れば、ペンギンは誤魔化すようにニッコリと笑みを浮かべて首を傾けた。
ともあれ今は船を襲う可能性もある海王類で、どうするかと考える。とはいえ捕まえるか逃げるかの選択肢しか無い訳だが。
「せめて一回でも水上に出てくれば牛肉かどうか分かるんだけどねぇ」
「バンダナまで! もう牛肉はいいよ!」
「シャチは牛肉好きじゃねぇの?」
「そういう問題じゃないと思うよペンギン」
「俺鶏肉の方が好きなんだよなぁ。……これどうにかしたら今日の夕食は鉄火丼にしてもらいましょうか」
「米なら文句はねェ」
「鶏肉何処いった!?」
「あ……」
その思わず漏れたとばかりの声が誰の口からだったかは分からない。水面が盛り上がったかと思うと、水中を泳いでいた海王類がロー達の頭上を飛び越えたのである。
牛の顔と上半身に魚の下半身。ご丁寧にも白黒の迷彩模様も入っていた。
ローの隣でペンギンが嬉々とした気配を出している。
「船長?」
防寒帽で殆ど見えないとはいえその口元が期待に笑みを浮かべており、それを見てローに否を唱える事は出来なかった。
「……不味かったら責任取れよ」
「そしたら次は鯨でも釣りましょう」
自信満々にそう言いきったペンギンに、溜息一つ零して能力を展開させる。
次に船の上を飛び越えた時がチャンスだ。そしてそれは思ったよりも早く来た。
「“ROOM”――“メス”」
頭上でバラバラになって降ってくる海王類の肉片。甲板に落下してきた尾びれがビチビチと蠢いて跳ねている。生きたまま分解できる事の利点は鮮度が落ちないことだろうか。
ペンギンが駆け寄ってそれを拾い集めるのに、シャチ達も恐る恐るといった様子で集め始める。原型を留めないくらいに分断したのだから然程怖くは無いだろうが、血液の流れに対して痙攣のような動きをしているのはまだ見慣れないのかもしれない。ローの船に乗っている以上慣れてもらわないと困るが。
ふと旋律の付いた声が聞こえるのに気付いて、その声の主を見た。
相変わらず何を歌っているのかも分からない。歌詞を口ずさんでいるというのにその歌詞が全く意味を成していなかった。
そして何の歌なのか分からないが歌詞の内容が地味に怖い。同じく気付いて聞いていたらしいワカメが青褪めている。
「……おい、ペンギン」
「なんです?」
「歌うの止めろ」
「無理ですねぇ」
無理という事は無いだろうと無言で理由を問えば、ペンギンは拾った肉片を抱えたまま海原へと視線を向けた。それからすっと腕を伸ばし何かを指差す。
「あと二匹は獲りてぇので」
ペンギンが指差した先からは、猛烈な勢いで船へ向かってくる海王類の背ビレ。
「さぁドンドン行きましょう! でなけりゃ船が沈没します!」
「お前後で覚えてろッ!」
そんな特技を今まで隠していた事になのか、八つ当たり気味に海王類を『呼ぶ』ことになのか、呼ぶだけ呼んでおいて獲るのはロー任せであることになのか良く分からないが、とりあえず沈没だけは御免被りたいので必死に獲る。
数時間後、大量に取れた魚肉で宴が始まってしまい、ついペンギンに追及するのを忘れた。