原作前日常編2
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ロー視点
「ペンギンが部屋に篭ってる?」
夕食の時間になって、結局あの後そのまま寝てしまったベポと一緒に食堂へ向かうと、待っていたのはイルカとシャチからの『ペンギンが部屋から出てこない』という報告だった。
昼間ベポと言い合ってから体調が悪いのか気分が悪いのか、ドア越しに夕食はいらないという言葉をもらってはいるものの、話しかけても返事が無いらしい。
正直ベポの面倒が済んだと思ったら今度はペンギンか、と呆れてしまう。
「オレのせいかな……?」
「どうだろうねぇ。別にペンちゃんがクルーに怒鳴られる事自体は今までにもあっただろう?」
「……オレが馬鹿って言ったから」
「打たれ弱い! ああほらベポ! お前のせいじゃないって多分!」
「とりあえず船長、ペンちゃんに話聞いてみたらどうです?」
自分のせいだと落ち込んでいるベポはとりあえずワカメに任せ、ローはバンダナへ促されてペンギンの部屋へと向かう。こういう時、というのも変だが、ペンギンより上の立場がローしか居ない以上、ペンギンに何かあると大抵ローへ御鉢が回ってくるのだ。
他のクルーのことであればペンギンが片付けて、後からローへ報告という事もあるのだが。
部屋のドアには鍵が掛かっていた。鍵の掛かるドアではあるが、基本ペンギンは鍵を掛けない。ベポが自由に出入り出来る様にと、薬品がいつ必要になるか分からないからだ。
取り扱いの難しい薬品が並べてある棚には個別に鍵が掛かっているので、ペンギン以外のクルーが盗み出す心配も無い。
ではどんな時に部屋の鍵を掛けるのかというと、あの防寒帽を脱いでいる時か、どうしても一人になりたい時だ。
今回の場合は前者かと思いながらノックをする。帽子を脱いでいようとローとバンダナなら素顔を知っているので開けても問題は無い。
けれどもノックをしても、鍵が開く様子は無かった。
「ペンギン?」
返事は無い。寝ているのかと思ったがそれは無いと考え直す。ペンギンは例え熟睡していようとノックされていれば気付ける奴だ。
となれば残っているのは開けられないか開けたくないのか。
「“ROOM”……“スキャン”」
能力の薄い膜を展開してペンギンの部屋の中を探る。ベッドの上に居るらしい事を確認して、床に置かれていた防寒帽と自身を入れ替えれば、ペンギンは明かりも点いていない部屋のベッドの上で膝を抱えていた。
体調が悪そうには見えず、近付いて手を伸ばすと抱えた膝へ押し付けるように下を向いていた頭が上げられる。
防寒帽が無いので容易く見えるその眼に涙が溢れていた。
「……すいません、タオル取ってもらえますか」
「あ、ああ……」
作業机の上に畳んで置かれていたタオルを、言われるままに取って渡す。ペンギンは顔へそれを押し付けるように涙を拭った。
このいつも泰然自若とした男が涙を流す程に動揺しているという事実に、ローは驚かざるを得ない。時にはハリセンで船長であるローでさえ叩くような男だというのに、幼いシロクマに罵声を浴びせられただけで泣くとは誰一人想像していなかっただろう。
実際、バンダナ達は今も予想すらしていないに違いない。
ペンギンは左手に勧誘前から身に着けていたウォレットチェーンを握り締めていた。反対の手でタオルを顔へ押し付けたまま、深く息を吐きだす。
「何かありましたか」
「それはオレの台詞だ。イルカ達が心配してるぞ」
「ああ……でも今日は無理です。っていうか、貴方と話すのも結構、無理です」
「何があった?」
「ちょっと……トラウマが」
そう言った途端また涙が溢れている。きっと部屋の明かりを点けて見ればペンギンの目元は真っ赤だろう。
「トラウマ?」
「……駄目なんです。嘘でもその場の勢いでも『嫌い』って言われんの」
たったそれだけで。
そう思いもしたがローはそれを口にはせず、視線で話の続きをした。
「生物学上の父親が……いい人じゃなかったんですけど、本当は父親っていうのも結構嫌なんですけど、ソイツが、俺を憎みながら死んでて、その死に際というか、何度も言われてたもんだから、駄目なんだよなぁ……」
ペンギンの過去なんてローは殆ど知らない。それは他のクルー達やロー自身も同じ事だが、船の上であまり自身の過去話をしようとしないからだ。
鼻を鳴らして涙を拭ったペンギンが、それでも申し訳無さそうに笑みを浮かべた。しかしそれはどう見ても無理に浮かべたと分かるもので、ローがそれを指摘する前に自分でも分かったのか再びタオルで顔を隠す。
「これでも、昔よりはだいぶマシになったんです。昔は、親友の兄貴達に会うまで『年上の男』や『金髪』ってだけで嫌悪の対象でしたから」
「極端だな。生き難いだろそれ」
「今はそうでも無ぇです。……船長、甘やかしてください」
「は?」
唐突に変わった話に思わずマヌケにも思える声を出してしまった。しかしそんなローとは逆に真面目そうなペンギンは、ローの間の抜けた顔を一瞥するとタオルに顔を埋めてしまう。
もっと周囲に頼れとか一人でやるなと普段確かに言いはするが、こうして率直に言われても戸惑いしかない。曲がりなりにもいい歳をした男が言う事でも無いだろう。
「とりあえず、いてくれりゃいいです」
妥協案の様に言われてぎこちなく椅子へ腰を降ろす。漠然と、前に自分が風邪を引いた時と正反対な状況だと思った。
「ペンギンが部屋に篭ってる?」
夕食の時間になって、結局あの後そのまま寝てしまったベポと一緒に食堂へ向かうと、待っていたのはイルカとシャチからの『ペンギンが部屋から出てこない』という報告だった。
昼間ベポと言い合ってから体調が悪いのか気分が悪いのか、ドア越しに夕食はいらないという言葉をもらってはいるものの、話しかけても返事が無いらしい。
正直ベポの面倒が済んだと思ったら今度はペンギンか、と呆れてしまう。
「オレのせいかな……?」
「どうだろうねぇ。別にペンちゃんがクルーに怒鳴られる事自体は今までにもあっただろう?」
「……オレが馬鹿って言ったから」
「打たれ弱い! ああほらベポ! お前のせいじゃないって多分!」
「とりあえず船長、ペンちゃんに話聞いてみたらどうです?」
自分のせいだと落ち込んでいるベポはとりあえずワカメに任せ、ローはバンダナへ促されてペンギンの部屋へと向かう。こういう時、というのも変だが、ペンギンより上の立場がローしか居ない以上、ペンギンに何かあると大抵ローへ御鉢が回ってくるのだ。
他のクルーのことであればペンギンが片付けて、後からローへ報告という事もあるのだが。
部屋のドアには鍵が掛かっていた。鍵の掛かるドアではあるが、基本ペンギンは鍵を掛けない。ベポが自由に出入り出来る様にと、薬品がいつ必要になるか分からないからだ。
取り扱いの難しい薬品が並べてある棚には個別に鍵が掛かっているので、ペンギン以外のクルーが盗み出す心配も無い。
ではどんな時に部屋の鍵を掛けるのかというと、あの防寒帽を脱いでいる時か、どうしても一人になりたい時だ。
今回の場合は前者かと思いながらノックをする。帽子を脱いでいようとローとバンダナなら素顔を知っているので開けても問題は無い。
けれどもノックをしても、鍵が開く様子は無かった。
「ペンギン?」
返事は無い。寝ているのかと思ったがそれは無いと考え直す。ペンギンは例え熟睡していようとノックされていれば気付ける奴だ。
となれば残っているのは開けられないか開けたくないのか。
「“ROOM”……“スキャン”」
能力の薄い膜を展開してペンギンの部屋の中を探る。ベッドの上に居るらしい事を確認して、床に置かれていた防寒帽と自身を入れ替えれば、ペンギンは明かりも点いていない部屋のベッドの上で膝を抱えていた。
体調が悪そうには見えず、近付いて手を伸ばすと抱えた膝へ押し付けるように下を向いていた頭が上げられる。
防寒帽が無いので容易く見えるその眼に涙が溢れていた。
「……すいません、タオル取ってもらえますか」
「あ、ああ……」
作業机の上に畳んで置かれていたタオルを、言われるままに取って渡す。ペンギンは顔へそれを押し付けるように涙を拭った。
このいつも泰然自若とした男が涙を流す程に動揺しているという事実に、ローは驚かざるを得ない。時にはハリセンで船長であるローでさえ叩くような男だというのに、幼いシロクマに罵声を浴びせられただけで泣くとは誰一人想像していなかっただろう。
実際、バンダナ達は今も予想すらしていないに違いない。
ペンギンは左手に勧誘前から身に着けていたウォレットチェーンを握り締めていた。反対の手でタオルを顔へ押し付けたまま、深く息を吐きだす。
「何かありましたか」
「それはオレの台詞だ。イルカ達が心配してるぞ」
「ああ……でも今日は無理です。っていうか、貴方と話すのも結構、無理です」
「何があった?」
「ちょっと……トラウマが」
そう言った途端また涙が溢れている。きっと部屋の明かりを点けて見ればペンギンの目元は真っ赤だろう。
「トラウマ?」
「……駄目なんです。嘘でもその場の勢いでも『嫌い』って言われんの」
たったそれだけで。
そう思いもしたがローはそれを口にはせず、視線で話の続きをした。
「生物学上の父親が……いい人じゃなかったんですけど、本当は父親っていうのも結構嫌なんですけど、ソイツが、俺を憎みながら死んでて、その死に際というか、何度も言われてたもんだから、駄目なんだよなぁ……」
ペンギンの過去なんてローは殆ど知らない。それは他のクルー達やロー自身も同じ事だが、船の上であまり自身の過去話をしようとしないからだ。
鼻を鳴らして涙を拭ったペンギンが、それでも申し訳無さそうに笑みを浮かべた。しかしそれはどう見ても無理に浮かべたと分かるもので、ローがそれを指摘する前に自分でも分かったのか再びタオルで顔を隠す。
「これでも、昔よりはだいぶマシになったんです。昔は、親友の兄貴達に会うまで『年上の男』や『金髪』ってだけで嫌悪の対象でしたから」
「極端だな。生き難いだろそれ」
「今はそうでも無ぇです。……船長、甘やかしてください」
「は?」
唐突に変わった話に思わずマヌケにも思える声を出してしまった。しかしそんなローとは逆に真面目そうなペンギンは、ローの間の抜けた顔を一瞥するとタオルに顔を埋めてしまう。
もっと周囲に頼れとか一人でやるなと普段確かに言いはするが、こうして率直に言われても戸惑いしかない。曲がりなりにもいい歳をした男が言う事でも無いだろう。
「とりあえず、いてくれりゃいいです」
妥協案の様に言われてぎこちなく椅子へ腰を降ろす。漠然と、前に自分が風邪を引いた時と正反対な状況だと思った。