バンダナ視点

「ペンギンのばかぁ！ だいっきらい！」

食堂に響いたベポの泣き声交じりの叫びに、バンダナは料理番から受け取るところだった珈琲を零しかけた。何事かと声がした方を見れば、泣きながら何処かへ走り去って行くベポとそれをしゃがんで固まったまま見送るペンギンの姿。
その直ぐ傍には話を聞いていたらしいワカメが困ったような顔をしていた。罵声を聞いた殆どのクルーが動かないでいるペンギンと、事情を知っていそうなワカメへと近付いていくのに、バンダナと料理番も例に洩れずに寄っていく。

「何？ どしたん？」
「ペンギンがベポにそろそろ副船長室じゃなくて船室で寝るかって」
「あー、でかくなったもんな、ベポ」

最初の頃は抱き上げられるほど小さかったシロクマも、今や抱え上げればぎっくり腰の心配をしてしまうほどにまでなった。シロクマの成長としてそれが早いのか遅いのかは分からないが、大きくなる事自体は良い事だろう。
しかしながらそれでは済まない問題も確かにあって、ペンギンが船室で寝ることを提案したのはそれが理由だと思われた。今までベポはペンギンと一緒に、ペンギンの個室扱いになっている薬品庫兼副船長室で寝ていたのだが、あの部屋はクルー達が寝起きしている部屋に比べると随分と狭い。
クルー達の船室は無論個室では無く大部屋だが、ペンギンが寝ている部屋はその三分の二以下の広さで、更に壁の一部が薬品を並べる棚になっていた。ペンギン用のベッドと大きくも無い作業机、それに副船長の特権として私物を多めに置ける小さな棚が置かれているだけで、慣れないと薬品棚のせいで圧迫感さえ覚えるだろう。
そんな部屋では、確かに双方の為にもそろそろ別に寝たほうがいいに違いない。よってペンギンの言葉は第三者であるバンダナ達にも尤もだと思えたのだが、ベポには納得が出来なかったようだ。
ペンギンが世話の殆どをしていたからペンギンに懐くのはいいのだが、一緒に寝られなくなるだけで怒るとは甘えん坊だなと思いつつバンダナがふとペンギンを見ると、ペンギンは少し俯いて口を押さえていた。

「ペンちゃん？」
「……気持ち悪い」
「え？」

いつもとは違う震えた声に、ベポの子供らしさに呆れていたクルーも異変に気付いて振り向く。ベポと視線を合わせる為かしゃがんだままだったペンギンが、よろよろと立ち上がって歩き出す。

「ペンギン？」
「……ちょっと、無理」

そう言ってふらつきながら食堂を出て行く姿に、一体どうしたのだろうかとバンダナ達は顔を見合わせた。